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中東系エルフ魔術師編

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「婚約したそうじゃないか、おめでとう」
「あっ、ハイ!婚約者のビョルンです」
 ビョルンが頭を下げて挨拶すると、「知ってる」と言われた。まぁ会ったことはあるよね。私と一緒に行動することが多かったし。
「今日は任務に出てていないんですけど、もう1人います」
「凶狼だね。人に添える性質ではないように思ったが、問題ないか?」
「ええ、随分穏やかになりましたよ。問題は、いろいろあって籍がまだ入れられないことですかねー」
「そうか。まぁ、お前もいろいろしがらみが多いからね。ひとつひとつ解いていくしかない…ああ、イスハークや。そろそろ防音の術を編んでおくれ」
「わかった」
 イスが魔術を紡ぐ。瞳が金色に輝き、紡がれた魔力が私の体をスルリと撫でていく。ん?イスが魔術を紡ぐ場面には何度も立ち会っているけれど、こんな事は初めてだ。不思議に思ってイスを見つめると、ふいと目を逸らされる。うん??
「お前ね、ラフィクに婚約者が既にいるのは、紛れもない事実だろうが。いちいち嫉妬するんじゃないよ」
「していない」
 魔術師ふたりの会話が耳に届く。え、嫉妬?あれってイスのアピールだったってこと?
「バカ言え、露骨にやりおって。まだ婚約者にもしてもらえてないのに、烏滸がましいよ」
「うるさい」
「あーあ、遅咲きの狂い咲きってヤツかねぇ、ババアにゃ目に毒だわえ」
「うるさい」
 ポンポン交わされる二人の会話に、思わず笑ってしまう。この二人はだいたい文句言い合ってるけど、仲はいいよね。
「あ、でも…また診察していただけるそうで。よろしくお願いします」
 このままだと会話が終わりそうもなかったので、タイミングを見て口を挟む。するとフローラさんが紫色の瞳をこちらに向けて頷いた。
「ああ、それだ。お前に言わねばならんことがあった。この馬車内はさっきイスが防音の魔術を編んだ。だから会話が誰かに聞かれる心配はないと思っておくれ」
「あ、はい?」
「その前提で言うけれど、私はお前がホムンクルスである可能性は、元々考えていたのだよ」
「……あっ」
 一瞬、え、なんで?と思ったけれど、考えてみればそうよね。あの屋敷はフローラさんが管理していたんだから、ホムンクルスの顔も知っていたんだものね。
「もちろん、最初は他人の空似だと思っていたよ。だがお前は、『生命を編む術(テクスヴィタ)』に対しての禁忌がなさすぎたんだ。かつてのお前の附術は、狂気の神に魅入られた狂人でなければありえないほど、『生命を編む術(テクスヴィタ)』を使用していた。だが、どう見てもお前は正気だ。そこで考えた末に、神の理の外にある生命体…ホムンクルスだからではないかと、考えたんだよ」
 そうか。かつての戦いの時、私は『生命を編む術(テクスヴィタ)』を附術で使用して、身体能力を上げていた。だからフローラさんには『生命を編む術(テクスヴィタ)』についていろいろ教えてもらったし、禁忌であるということも口を酸っぱくして教えてくれた。それは、私がホムンクルスじゃなくて、人間として生きて行けるように考えて言ってくれてたのかな。
「フローラさんは、私をホムンクルスだと思っていながら、どうして黙っていたんですか?」
「言ってどうするんだ?お前は正気だし、産まれはどうであろうと既にこの世界で生きているんだ。それに対し、他者がとやかくいうものではないよ」
 キッパリと言い放つフローラさん、かっこいい。惚れてしまいそうだ。
 うっとりと美魔女様を見つめていると、ビョルンが手を軽く上げながら発言した。
「失礼、医療の塔長殿。俺から質問してもよろしいか?」
「構わぬよ、北の戦士殿」
「俺たちは平穏に暮らすため、彼女がホムンクルスだということは秘密にしたいと考えている。あの屋敷には、医療の副塔長殿も出入りしていると聞いたが、そちらからも秘密は漏れることはないと、考えてよろしいか」
 さすがビョルン、抜け目ない。ビョルンの言葉に、フローラさんが頷く。
「あの子達は、心配いらないよ。ラフィクとの面識が少ないのもあるが、秘匿の誓約も編んでいる。信頼のおける子たちだしね。問題ない」
「なるほど。貴女の言葉を信用しよう」
「ありがとう。ただ問題は…あの、魔道具の塔の小僧だね」
 ちらりとフローラさんがイスの方を見る。その視線を受けて、イスは頷いて口を開いた。
「ドゥーロはいま、別の所で拘束している。あの男も本来は、誓約が効いて秘匿内容は口にできない。だが徐々に…狂気の神に魅入られ始めているようだ。このまま完全に魅入られてしまえば、誓約が解ける恐れがある」
「…彼の刑は、どうなるの?」
「前も言ったが、現時点では大した罪ではない。今後狂気に陥ったとしても、実際に罪を犯すまでは、刑罰を課すのは難しい」
「うん…」
 狂気に陥るって、どういう感じだろう。理性や知性がない状態になるのかな。でもイスの父親は、狂気に陥った状態でも研究を続けられたんだよね?だったら、知性は残ってるし、理性もある程度残ってるってことよね。イスの父親は人知れず研究を続けていたわけだから、きっと見た目からもわからないだろうし…。
 例えわかったのだとしても、本人は自分の狂気に苦しんでいるはずだ。苦しまずに、狂気に陥るわけがない。罪を犯してないのに、犯しそうだから迫害するっていうのは…やめて欲しい、と思う。
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