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中東系エルフ魔術師編

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 ああ、しまった。ビョルンをまた怒らせてしまった。だけど相手を信じ切って、べったり愛して、それで裏切られたときに自分を保てる自信がない。だからそれが怖くて、どうしても予防線を張ってしまう。
「だ、だって、だって、ビョルンはすごくいい男なんだもの。自分を卑下してるわけじゃないよ?私は私自身でいいと思ってる。でも、あなたの感情は、私がどうこうできることじゃないから。これからもっと素敵な人が現れるかもしれないでしょ?」
 尻つぼみで呟くと、ビョルンがはぁっと大きなため息を吐いた。
「お前だって、いい女だ。そうじゃなきゃ、3人もの男がお前に求婚するはずがない」
「ぎゃー!言わないで恥ずかしい!」
 いやだって、ホントに私、美人とかじゃないから!曲がり間違って3人目の夫まで迎えちゃうかもしれないけど、見た目は平々凡々なんだからイイ女扱いしないでください居たたまれないからお願いします!
「とにかく、俺を独占したいなら、他の女には目をくれるなと言え。自分だけを見ろと、妻として命令すればいい」
「嫌だよ恥ずかしい!」
「ダメだ、言え。俺のことを愛してるから、他の女には一切目をくれるな、一生自分だけを見ろ、と。ホラ言え」
「要求が増えている!」
 文句を言ったけど許してもらえず、もがいても羽交い絞めにされて逃げることもできず、結局ビョルンの目を見ながら言わされた。
「…ビョルンのこと、愛してるの。だから他の女には、一切目を向けないで。私のこと、一生見てくれなきゃ嫌よ」
 深くて美しい青を、じっと覗き込む。ふっと優しく目が細められて、顔が近づいてきたので、目をつぶってキスを受ける。
「…ごめんね、いつも怒らせちゃって」
「いい加減、俺を信用してくれ」
「信用してないわけじゃないけど…複婚を選んだ以上、夫が他の妻を娶ることも許さなきゃいけないんだって思うと、どうしても嫉妬しちゃって」
「ん?あー、あぁ、そうか、そこからか。知らなかったんだな」
「え?」
 ビョルンがようやく怒りを解いて、納得したように頷いている。
「シャーラ、心配するな。この結婚は、お前の夫が増えることはあっても、誰かの妻が増えることはない」
「えっ、そんな私に都合のいいことある?」
「お前にというか、これも法律で決まっていることだ。そもそも、複婚の始まりも昔の皇帝が妃や副王を何人か召し抱えるために作った物だそうだが、その相手がさらに配偶者を持ち、その間に子が産まれたらどうなると思う?」
「えーと、後継者問題が複雑になるね…」
 下手したら、皇帝の血を継がない人間まで、「自分も後継者になる権利がある!」とか主張し始めそうだ。血は繋がってなくても、同じ家庭内で育っているんだものね。
「そうだな。実際、それで過去にひどい内乱が起きたらしい」
「ひえぇぇ~」
 昔は結婚におおらかだったのね…。ちなみにその内乱が起きてすぐに、私たちが経験したのと同じ『脅威の襲来(ボナ・ノクテム)』が起きて、争っていた後継者たちは全員死んでしまったらしいけれど。それで、生き残った1人の後継者が中心となって、大陸全土の人たちが協力しあって、その時の『脅威の襲来(ボナ・ノクテム)』は乗り切ったらしい。
「複婚自体、富裕層に多い傾向があるからな。当主となる人間が単一、その配偶者が複数である複婚なら、認められるんだ。だから俺たちが婚姻手続きをする場合、お前を当主として申請する」
「当主!そんなご立派な家柄じゃないけど…!」
「資産は下手な貴族よりあるじゃないか」
「あぁ、そうだ。そうね…」
 確かに、私が稼いだ資産を、夫の別の妻(ややこしいな!)が産んだ子どもに分けられるかって聞かれたら、多分無理だわ。子どもに罪はないから、少しくらいはいいけど、自分の子どもと平等に分けるとかは無理。でもそうしたら、何で自分だけ!同じ家の子どもなのに!って諍いが起きる可能性があるよね…。
 あー、なんだ。心配して損した。私と結婚している以上、ビョルンが他の妻を迎えるなんてことは起きないんだ…。…ちなみに、ロルフとイスについては心配してません。だってあの人たち、私以外無理だと思うし。消去法みたいなもんだけど。
「なんか申し訳ない気もするなー。私ばっかりイケメン侍らせちゃって」
「はは、いい女だから仕方ない。その代わり、公平に愛してくれよ?お前はそういうバランスを取るのが上手いから、心配していないが」
 そうかな?でも確かに、夫が複数になるんだから、公平に接しないとダメだよね。不公平感は諍いを産む。家庭内では、そんな諍いはできるだけ起こしたくないもの。
「気を付けるね」
「ああ、そうしてくれ」
 そうしてまた、深い青をじっと見つめる。今度は自分から、ビョルンの頬を引き寄せて口づける。
「じゃあ一生愛するから、ビョルンも私を一生愛してね」
 そうオネダリすると、彼は満足したように頷いて、ギュッと抱きしめてくれた。
「…ああ、イスハーク殿に、早く魔法陣を施してもらいたいな」
 ビョルンが思わずといったように吐き出した言葉に、笑ってしまう。
「もう…エッチ」
 そうからかいつつも、実は私も同じ気持ちだった。

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