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中東系エルフ魔術師編
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しおりを挟む「ビョルン、お待たせ」
「ああ、話は済んだか?」
応接室でイスと別れて、店内で商品を見ていたビョルンに声を掛ける。
「うん。何かいいものあった?」
「まぁ、よさそうな物はだいたいお前が持ってくるからな」
まぁねぇ、便利さを買うためなら金は惜しまないよ、私は。
「じゃあ行こうか」
「ああ」
店員さんに見送られて、魔道具屋を後にする。
ポツポツと他愛のない会話をするけど、どことなく気まずい。いつもみたいに、会話が弾まない。イスのことで、ビョルンはどう思ってるんだろう。許可はしたけれど、内心は断って欲しいと思っていたんだろうか。でもこんな風に歩きながらする話でもないし、聞き出せずにいる。
「本部寄ってっていい?ロルフから通信入ってるか聞かなきゃ」
「ああ、そうだな」
途中で傭兵団本部に寄って行くけど、特にロルフからの連絡はなかった。任務に出っぱなしかー。問題が起きてなきゃいいけど。
「仕方ないな、帰ろう」
「うん。晩ごはんの買い物もしたいんだけど、荷物重くない?」
「このくらい、重いうちに入らんぞ。じゃあ、市場に寄っていくか」
うーん、私が背負うと大きいリュックなのに、ビョルンが背負うと小さく見えるわー。
それから市場で買い物もしたけれど、ビョルンがほとんど持ってくれた。私は、軽いものを少し持つだけでよかった。紳士だ。
家について、荷物を片づけて、お湯を沸かして、紅茶を淹れる。
ソファに座ったビョルンの前に紅茶をふたつ置いて、ビョルンの膝によいしょと座る。
「…なんだ?」
甘さを含んだ声でビョルンが問いかけてきて、彼の胸に頬をすりつける。
「…イスとも、結婚することになるかも」
「ああ、聞いたよ」
「ビョルンは、いいの?私を共有する人が増えても」
正直、私は嫌だ。もしビョルンが今後私以外の好きな人を見つけて、その人と結婚したいと言われたら?私自身2人も夫を持つわけだし、これからもう1人増えるかもしれないんだから、他にも妻を迎えたいと言われたら、受け入れるしかないと思う。でも、内心は嫌だ。彼らのように、妻同士仲良く、なんて絶対にできない。いっそのこと私と離婚して、その女と結婚してくれ、って思ってしまう。
じっとビョルンを見つめながら言うと、私の頭を撫でながら彼は、優しくて少し寂しげな目を向けてきた。
「…お前には、言ったことがなかったかな。俺には実は、父親が3人いたんだ」
「…えッ、同時に?」
「ああ、母が1人、父が3人の複婚だ。俺とロルフのいたノルレベクという土地は、国という程大きな集落はなく、部族単位で暮らしている。族長を中心としたいくつかの世帯でまとまって生活しているんだが、雪に囲まれた寒い土地だから、資源は乏しい。だから各家が持つ資産を分散させないよう、兄弟全員で同じ妻を娶るんだ」
「おお、そう言われると合理的…」
「そうだろう?ただ、父同士の仲が悪いと、家庭内の空気は最悪だ。俺の幼馴染の家はそれで、よく俺の家に逃げ出して来てたよ」
「ビョルンの家は、仲が良かったんだ?」
「長父と次父はな。三父はまぁ、色々あって…家を出て行ってしまって、それ以降は会っていない」
「そっか…」
ビョルンの過去を聞いたのは、初めてかも。でもロルフと一緒に中央大陸に来たんだから、その後にもきっと色々あったんだよね。
「だから、俺にとって複婚は当たり前の文化だから、いいかどうかと聞かれると困るな。独占できるのは嬉しいが、それよりも妻を守る手が少ないこと、夫同士の仲が悪くなる方が恐ろしく感じる」
「うん…」
「だからお前を守れて、俺たちと上手くやっていける夫が増えるのは、構わない。イスハーク殿は、どちらも問題ないと思ったからこそ、許可したんだ」
「うん…わかった」
本当、文化の違いだよね。私は一夫一婦の制度の方が馴染みがあるから、どうしても複婚に抵抗を感じてしまうけど。ビョルンは夫が少ない方が抵抗を感じるんだ…。
「でもなー、でもさー。ビョルン、ワガママ言っていい?」
「可愛い妻のワガママなら、いくらでも」
私を抱き込んで、頭をなでなでしながら、甘くて優しい声で答えてくれる。
「私ね、ビョルンが私の他に結婚したい人ができたら、やっぱり耐えられないと思うの」
「シャーラ…」
「私が夫侍らせといてなに言ってんのって感じだけど、私、ビョルンを独占したいの。ビョルンが他の女の人を愛するのは、見たくないの。だからね、ワガママで悪いんだけど、もしビョルンに他に好きな人ができたら、私との結婚はかいしょ…ぐえッ」
グキっと乱暴に上を向かされ、キスで口を塞がれる。容赦なく舌を入れられ、口内をかき回され、息が上がる。
「ん、は、あ…ビョルン…いたッ」
離す寸前に、ガブっと唇を噛まれて痛みが走る。
「まったく、独占したいとか言うから、期待したじゃないか。どうしてお前は、すぐそういうことを言う?」
「だって、ビョルンにもし他に好きな人ができたりしたら…」
「俺はお前を愛していると言っただろう!ありもしない未来を勝手に想像して、俺を疑うな!」
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