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中東系エルフ魔術師編

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「い、イス?」
「なんだ?」
 聞き返しつつ、イスがグッと顔を近づけてくる。
「待って待って、ちょっと何して…んむッ」
 後頭部を押さえられて逃げられず、口を塞がれる。イスの魔力がスルリと伸びて来たけど、全力で拒否する。魔力はイスの方が圧倒的に強いから、やろうと思えば無理に流し込む事もできるんだろうけど、それをせずに唇を離す。
「…なぜ拒否する?」
「え。また気絶するの嫌だから」
「ああ…それならいい」
 何がいいのか。
 反論したくても、再び口を塞がれる。少し開いていた唇から、容易く舌が忍び込んでくる。ギャー!魔術師のくせに物理で攻めてきたぞ!!ヌルリと舌を絡めとられ、弄ばれて、息が上がってしまう。
「ん、は…ッ、ねぇ、やめて!」
 イスの胸を強く押して、何とか唇を離す。
「まだ、わかんないんでしょ?ハッキリするまでは、こういうことはやめて」
 イスはずっと友達だと思っていて、血縁者だっていう感覚はない。そもそも人種が全然違うし。ただ、もし本当に血縁者だったら?やっぱり、こうするのは間違っていると思う。
「ハッキリすれば、いいんだな?」
「揚げ足取らないでちょうだい」
「…すまない。気持ちが、逸ってしまう。フローラ殿には、そのことも連絡した。時間が取れれば近いうちに、一緒にフローラ殿の診察を受けてほしい」
「それで、何がわかるの?」
「フローラ殿は、魔力や身体を診ることで、血縁関係もわかるのだそうだ。血が遠ければわからないそうだが、逆に言えば、わからないほど遠ければ婚姻するにも問題はない」
 イスの口から、婚姻という具体的な言葉が出る。動揺で、声が震える。
「でも…でも、まだ籍は入ってないけど、私には婚約者がいて…」
 婚約者の存在を持ち出して、この行為を拒否しようとする。
「ビョルン殿には、伝えた」
「はい?!」
 何を?!この前の、あの、アレのこと?!
「問題さえ片付けば、お前に求婚したいと」
「なッ!なんで、そんな勝手なこと…!」
「どの道、複婚では既に婚姻・婚約関係にある者たち全員の許可がいる。お前たちの関係を見ていて、婚約者の中ではビョルン殿が代表だと思ったからこそ、まず彼に話したんだ」
「……ビョルンは、なんて…?」
「お前が許可すれば、構わないと」
「……ッ!」
 思わず顔を覆ってしまう。どうして、複婚なんて制度があるんだろう。たったひとりでよければ、ひとりしかダメなら、そのひとりはもう決まっていた。
 でも違う。彼が悪いんじゃない。私が拒めないのが悪いんだ。私が全力で拒否すれば、イスはきっと引いてくれたはず。ロルフだってきっと…いやないわ。無理やり手籠にされる未来しか見えないわ…。ああ、ダメだ思考がぐちゃぐちゃになってきた。
「私なんて、やめといてよ…」
「それは出来ない。お前がいい。お前でなければ、結婚など考えなかった」
「夫になる人が2人もいるんだよ」
「魔術師には、複婚が多い。研究に没頭して、家にほとんど帰らない人間も多いからな。複婚の方が上手く行くんだ」
「あああ、納得…」
 そうだよね、いつ帰るかわからない配偶者を待ち続けるって、キツいよね。他に相手がいれば寂しさも紛らわせるし。私も婚約者が任務に出ている時、もうひとりの婚約者が一緒にいてくれるから安心して生活できる。
 何事にも、メリットデメリットは存在する。選択するっていうのは、その先にあるメリットを受ける代わりに、生じるデメリットも受け入れるって事だ。
 私はもう複婚を選択した。いい男を何人も侍らせるんだから、世間の嫉妬の目くらい、受け入れなければ。
「私、まだ、イスのこと…友達って気持ちが強いと思う」
 友達以上恋人未満、みたいな、微妙な感じ。
「そうか」
「でも、自分で言うのもなんだけど、チョロいから…すぐ、絆されちゃうと思う」
「…ああ」
 ふっと、イスの声に笑いが含まれた気がする。イスの感情が、随分わかるようになって来た。それだけ、心を開いてくれてるって事なのかな。距離が、近くなってきているのかな。
「でも、フローラさんの診察受けて、血縁関係がないってわかってからじゃないと、ダメだよ」
「ああ、わかった」
「…でも、ないってわかったら、その時は…」
 イスの頬に触れる。琥珀色の美しい瞳を見つめる。
「もう逃げられないように、押し切ってくれる?」

『押し切ってしまえば、こっちのもんだよ』

 昨日の晩の、女将さんの言葉が頭をよぎる。ビョルンにも、似たようなこと言われたね。そうなの。自分から求めて、誰かに「欲張りだ」と責められるのが怖いの。だから強引に押し切られたんだって、私のせいじゃないって、逃げ道が欲しいの。卑怯者でごめんね。でもそうしてくれるなら、私を求めてくれるなら、逃げ道を塞いで、押し切って、諦めさせてくれるなら。
 私は、貴方を、受け入れるよ。
「…わかった、そうする」
  イスは頷くと、軽いキスをしてくる。
「だが、これくらいは許してくれ」
「…もうしてるじゃない」
「ああ、押し切った方がいいんだったな。なら、受け入れてくれ」
 今度は許可を求めずに、軽く、そして深く。イスがくれる口づけを、私は目を閉じて受け入れた。
「…あ、ロルフの許可も取ってね」
「……また何か、交渉材料を考えておく」

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