93 / 198
中東系エルフ魔術師編
65
しおりを挟む「い、イス?」
「なんだ?」
聞き返しつつ、イスがグッと顔を近づけてくる。
「待って待って、ちょっと何して…んむッ」
後頭部を押さえられて逃げられず、口を塞がれる。イスの魔力がスルリと伸びて来たけど、全力で拒否する。魔力はイスの方が圧倒的に強いから、やろうと思えば無理に流し込む事もできるんだろうけど、それをせずに唇を離す。
「…なぜ拒否する?」
「え。また気絶するの嫌だから」
「ああ…それならいい」
何がいいのか。
反論したくても、再び口を塞がれる。少し開いていた唇から、容易く舌が忍び込んでくる。ギャー!魔術師のくせに物理で攻めてきたぞ!!ヌルリと舌を絡めとられ、弄ばれて、息が上がってしまう。
「ん、は…ッ、ねぇ、やめて!」
イスの胸を強く押して、何とか唇を離す。
「まだ、わかんないんでしょ?ハッキリするまでは、こういうことはやめて」
イスはずっと友達だと思っていて、血縁者だっていう感覚はない。そもそも人種が全然違うし。ただ、もし本当に血縁者だったら?やっぱり、こうするのは間違っていると思う。
「ハッキリすれば、いいんだな?」
「揚げ足取らないでちょうだい」
「…すまない。気持ちが、逸ってしまう。フローラ殿には、そのことも連絡した。時間が取れれば近いうちに、一緒にフローラ殿の診察を受けてほしい」
「それで、何がわかるの?」
「フローラ殿は、魔力や身体を診ることで、血縁関係もわかるのだそうだ。血が遠ければわからないそうだが、逆に言えば、わからないほど遠ければ婚姻するにも問題はない」
イスの口から、婚姻という具体的な言葉が出る。動揺で、声が震える。
「でも…でも、まだ籍は入ってないけど、私には婚約者がいて…」
婚約者の存在を持ち出して、この行為を拒否しようとする。
「ビョルン殿には、伝えた」
「はい?!」
何を?!この前の、あの、アレのこと?!
「問題さえ片付けば、お前に求婚したいと」
「なッ!なんで、そんな勝手なこと…!」
「どの道、複婚では既に婚姻・婚約関係にある者たち全員の許可がいる。お前たちの関係を見ていて、婚約者の中ではビョルン殿が代表だと思ったからこそ、まず彼に話したんだ」
「……ビョルンは、なんて…?」
「お前が許可すれば、構わないと」
「……ッ!」
思わず顔を覆ってしまう。どうして、複婚なんて制度があるんだろう。たったひとりでよければ、ひとりしかダメなら、そのひとりはもう決まっていた。
でも違う。彼が悪いんじゃない。私が拒めないのが悪いんだ。私が全力で拒否すれば、イスはきっと引いてくれたはず。ロルフだってきっと…いやないわ。無理やり手籠にされる未来しか見えないわ…。ああ、ダメだ思考がぐちゃぐちゃになってきた。
「私なんて、やめといてよ…」
「それは出来ない。お前がいい。お前でなければ、結婚など考えなかった」
「夫になる人が2人もいるんだよ」
「魔術師には、複婚が多い。研究に没頭して、家にほとんど帰らない人間も多いからな。複婚の方が上手く行くんだ」
「あああ、納得…」
そうだよね、いつ帰るかわからない配偶者を待ち続けるって、キツいよね。他に相手がいれば寂しさも紛らわせるし。私も婚約者が任務に出ている時、もうひとりの婚約者が一緒にいてくれるから安心して生活できる。
何事にも、メリットデメリットは存在する。選択するっていうのは、その先にあるメリットを受ける代わりに、生じるデメリットも受け入れるって事だ。
私はもう複婚を選択した。いい男を何人も侍らせるんだから、世間の嫉妬の目くらい、受け入れなければ。
「私、まだ、イスのこと…友達って気持ちが強いと思う」
友達以上恋人未満、みたいな、微妙な感じ。
「そうか」
「でも、自分で言うのもなんだけど、チョロいから…すぐ、絆されちゃうと思う」
「…ああ」
ふっと、イスの声に笑いが含まれた気がする。イスの感情が、随分わかるようになって来た。それだけ、心を開いてくれてるって事なのかな。距離が、近くなってきているのかな。
「でも、フローラさんの診察受けて、血縁関係がないってわかってからじゃないと、ダメだよ」
「ああ、わかった」
「…でも、ないってわかったら、その時は…」
イスの頬に触れる。琥珀色の美しい瞳を見つめる。
「もう逃げられないように、押し切ってくれる?」
『押し切ってしまえば、こっちのもんだよ』
昨日の晩の、女将さんの言葉が頭をよぎる。ビョルンにも、似たようなこと言われたね。そうなの。自分から求めて、誰かに「欲張りだ」と責められるのが怖いの。だから強引に押し切られたんだって、私のせいじゃないって、逃げ道が欲しいの。卑怯者でごめんね。でもそうしてくれるなら、私を求めてくれるなら、逃げ道を塞いで、押し切って、諦めさせてくれるなら。
私は、貴方を、受け入れるよ。
「…わかった、そうする」
イスは頷くと、軽いキスをしてくる。
「だが、これくらいは許してくれ」
「…もうしてるじゃない」
「ああ、押し切った方がいいんだったな。なら、受け入れてくれ」
今度は許可を求めずに、軽く、そして深く。イスがくれる口づけを、私は目を閉じて受け入れた。
「…あ、ロルフの許可も取ってね」
「……また何か、交渉材料を考えておく」
10
お気に入りに追加
1,040
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話
めるの
恋愛
仕事に疲れたアラサー女子ですが、気付いたら超絶美少女であるアナスタシアのからだの中に!
魅了の魔力を持つせいか、わがまま勝手な天才魔術師や犬属性の宰相子息、Sっ気が強い王様に気に入られ愛される毎日。
幸せだけど、いつか醒めるかもしれない夢にどっぷり浸ることは難しい。幸せになりたいけれど何が幸せなのかわからなくなってしまった主人公が、人から愛され大切にされることを身をもって知るお話。
※主人公以外の視点が多いです。※他サイトからの転載です
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる