上 下
92 / 198
中東系エルフ魔術師編

64

しおりを挟む

「ラフィク、大丈夫か?」
「何とか…あの地区から出たら、マシになってきた…」
「普通はそのまま突き進むなんてことはないからな。苦労を掛けた」
 すい、とイスが手を出して、私の髪に指を差し入れて後頭部を包み込むように触れる。じわりと魔力が流されて、沁み込んでくる。
「うわぁ…めっちゃ気持ちいい…」
「魔力の相性がいいからな。このくらいはできる」
 イスが魔力の流れを整えてくれたみたいで、気分がよくなったのでビョルンの背中から降りた。
「ビョルンは大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
 とは言え、まったく影響してないとは思えないので、私の魔力を流してみる。
「ああ、確かに、気持ちいいな」
「私とビョルンも相性がいいってことよね?不思議ね」
「俺は魔力なんてほとんどないが、そうなのかもな」
 そうね、ビョルンさんは誰がどう見ても、パワーファイターでございます。
 2人とも気分がよくなったので、とりあえず雑談しながら歩く。今日はもう引き上げて、ドゥーロ君の犯行の証拠を固めなければ。
「私の魔力も流してみるか?ラフィクとはいいのだから、君とも相性がいいかもしれない」
「おい待て、前に誓約とやらで吐く寸前まで行ったんだが。それなのに相性がいいとかありえるのか?」
「ないな」
「おい!」
 ビョルンがイスにからかわれている。イスって冗談を言っても表情が変わらないから、私もよく騙される。この2人、仲良くなってきたなぁ。
 雑談をしつつ魔道具屋に辿り着いて、また応接室を借りる。さて、今後の計画を決めていかなくちゃね。ちょうどお昼だし、買ってきたサンドイッチを皆で食べながら話し合う。
 とりあえずイスは、キーファインダーの貸し出し記録を通信で確認した。すぐに魔道具の塔の副塔長が調べてくれ、最後に貸し出した記録はドゥーロ君で、返却はされているけどやはり犯行があった期間に借りていたようだ。間違いなく、これが決定打になる。どうして彼は、こんな証拠を残したんだろう?バレない自信でもあったんだろうか。
 首を傾げていると、難しい顔をしたビョルンがポツリと呟いた。
「どうも、意図的なものを感じるな。あの石は、帰りながら回収することもできたはずだ。そのままにしておいた理由はなんだ?」
「焦って帰って、回収まで思いつかなかったか…もう一度来るつもりだったとか?」
「なくはないが…イスハーク殿は、どう思う?ドゥーロという男は、シャーラのようにうっかりミスが多い人間なのか」
 オイ、さりげなく私をディスるんじゃない!
「いや。ラフィクに憧れてはいたが、本人は臆病であるが故に慎重な性格だった。隠そうと思ったなら、徹底的に証拠を隠滅したはずだ。それを残したのであれば、きっと意味があるのだろうな」
「その意味ってのは、やはり…」
 ビョルンが私の顔をじっと見る。…ん?
「恐らく、そうだろうな」
 イスも私の顔をじっと見る。…んん?
「……私?」
 自分の胸を指さしながら聞くと、2人は揃って頷いた。
「動機は間違いなく、お前に関することだろう。フローラ殿に報告しがてら、注意を促しておく」
「ああ、頼むよ。だがシャーラ、お前も覚悟しておいた方がいいぞ。場合に寄っては、呼び出されるぞ」
「えぇ~、マジぃ?とりあえず予定は空けとくわー。呼び出すなら早めにしてねぇ~」
 ホントは呼び出されたくないんだけどー、って感じの嫌そうな声を出すけど、イスはお構いなしで「わかった、早めにする」と頷いた。チッ、来なくていいとかはないのか。
 もうさー、なんなの?前世では結婚しないまま終わったってのに、今世でのこのモテ具合。こりゃ来世怖いな。一生恋愛に縁のないまま…あ、それはそれで気楽でいいわ。今世でもう前世&来世分の恋愛もしといて、来世はひとり気ままってのも悪くない気がするわ。そんぐらい今世は濃ゆいわ…。
「大丈夫か、シャーラ。意識が飛んでいるぞ」
「ああ、うん。大丈夫…。あー、じゃあイス、とりあえず連絡があるまでは、家で防犯システムを設計しつつ自宅で待機してるわ。試算が出たら連絡するわね」
 極秘任務中なので、出勤するわけにもいかないし。家には私が組んだ防犯システムがあるし内から外に音が漏れないような附術も組んであるから、盗聴の心配もないし。しばらくは家に引きこもりかな。
「ビョルンも自宅待機ね。よろしく」
「あぁ、わかった」
 方針が決まったところで、荷物をまとめる。今日はこれで解散だ。家に帰れるの、うれしー。なんだかんだ、家で寝るのが一番リラックスするよね。今週いっぱいはハウスキーパーさんの晩ごはん断っちゃってるから、帰りがてら食材買って、晩ごはんは家で作るかー。
 だいたいの荷物がまとまったところで、ビョルンが重い方の荷物を持って「先に行くぞ」と立ち上がった。え、なんで?待って待って。残りの荷物を慌ててまとめるけど、さっと部屋を出て行ってしまう。えー、いつもの熊紳士ビョルンさんじゃありえないんだけど。
 びっくりしていると、ソファが急に沈み込む。顔を向けると、思っていたよりずいぶん近い位置に、イスが座っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの
恋愛
仕事に疲れたアラサー女子ですが、気付いたら超絶美少女であるアナスタシアのからだの中に! 魅了の魔力を持つせいか、わがまま勝手な天才魔術師や犬属性の宰相子息、Sっ気が強い王様に気に入られ愛される毎日。 幸せだけど、いつか醒めるかもしれない夢にどっぷり浸ることは難しい。幸せになりたいけれど何が幸せなのかわからなくなってしまった主人公が、人から愛され大切にされることを身をもって知るお話。 ※主人公以外の視点が多いです。※他サイトからの転載です

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

処理中です...