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中東系エルフ魔術師編

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 イスが先頭に立って屋敷に続く道を進む。整備されていない道は石畳が劣化して割れたり隙間から雑草が生え放題だけれど、5番街では珍しい光景でもない。石なんかもそこら中に転がっていて、ヘンゼルとグレーテルのように石を落としながら行ったところで、目印にはなりそうもなかった。
「どうやって辿り着いたかが、わからないわねぇ」
「他の証拠が見つかれば、認識阻害と方向混乱を突破した方法がわからなくても構わないが」
「うーん、なかなか、こういうのは決定的な証拠てのが、見つかる方が少ないからな」
「それよねー。とにかく1個1個潰していくしかないっていう」
 元の世界みたいに、科学捜査が発達してれば色々直接証拠も出てくるんだろうけど。この世界だと情況証拠を積み重ねて、容疑者を絞り込んでいくしかない。だから自白が大事で、場合によっては拷問に掛けてまで、自白を引き出すんだよね。
 こういう調査は、本来は衛兵の仕事だけどなー。まぁ魔獣の仕業だと思って受けたら犯人は人だった…とか、公的に記録残されたくないお方から、極秘の依頼が…とかもこれまであったから、受けるの初めてではないんですけどね。…傭兵団とは。
「すまない。今回は私が役立たずで」
「なに言ってんの。以前私たちが受けた調査依頼で、助けてくれたじゃん。えーと、どこだっけ」
「リバーサイド地区じゃないか?」
「そうそこ!魔獣じゃなくて背約者が犯人だってわかったの、イスに協力してもらったからじゃない。お互い様よー」
「そう言ってもらえると助かる」
「どういたしまして。お互い、足りない分を補っていかなきゃね」
 それから屋敷について、とりあえずは外周を調査する。昨日帰る前に、私の附術で簡単な結界を施したけれど、特に破られた様子はない。昨日の今日だし、当たり前っちゃ当たり前なんだけどね。
 本格的にこの屋敷に附術を施していくため、ビョルンと協力して屋敷のだいたいの大きさを採寸する。それをイスに書き留めてもらいながら、雑談をする。
「そういえば、フローラさんってどのくらいの頻度でここに来ているの?」
「フローラ殿と、後は医療の塔の副塔長2人が交代で、だいたい1月毎に来ていたようだな」
「けっこう短いスパンで来ているのね」
「この区画の附術の維持と、ホムンクルスの維持と、資料を整理しつつ自分達の研究にも利用していたようだからな。そのくらいが妥当だろう」
「なるほどー。でも資料は難解でなかなか読み込めないんじゃないの?」
「…だから資料は、私に渡されるんだ。解読し終わったら、遺産として好きにすればいいと」
「OH…」
「今はもう、少なくなったがな」
 イスさんや…苦労して来たんだねぇ…。魔道具の塔で魔道具造りながら医療関係の書類を解読してって…とんだブラック企業ですわ。サークルめ、イスをもうちょっと労われ!
「もうさー、遺産だっていうならこの屋敷ごと引き継いで、スッキリ全部燃やしてやったらどうだい?そうすりゃもう解読もやらなくていいし。あ、でもホムちゃんはキチンと埋葬したいから、燃やす前に教えてよ?」
「ホムちゃん…?」と微妙な顔を向けるビョルンに、「ホムンクルスのホムちゃん」と答えると「だと思った」と苦笑した。何か文句でも?
 一方イスは、ちょっと目を開いて私をじっと見ている。これは、驚いてるか呆れているな?
「なに?」
「いや…時おりお前は、顔に似合わない、過激なことを言うな」
「そう?だってさ、面倒見てもらった覚えもない父親の尻ぬぐいとか、冗談じゃないって思わない?血がつながってるってだけで、子どもが金と手間使って後始末しなきゃいけないのは、理不尽だわー。やらせるんなら、最後どう始末つけても文句は言うなよって思うけど」
「……」
 私がこういう言葉を吐くとき、ビョルンは少し悲しそうな顔になって、黙り込む時がある。ビョルンの過去は詳しく知らないし、向こうから話さない限り聞く気もない。でも、きっと両親に愛されて育った人なんだろうな、とは思う。
 反してイスは、私を見ながら口角を少し上げて、笑った。笑った?!
「…それは、楽しそうだ。今すぐは無理だが、ここに資料的価値がなくなったら、最後は盛大に燃やしてやろう」
 笑顔に見えたのは、見間違いかと思うくらい一瞬だった。でも、昨日の怒りに歪んだ顔を思い出して、見間違いじゃないと思い直す。すごい。なんだろう、上手く言えないけれど、イスがいい方向に変わっていってるのがわかる。
 なんだか私も嬉しくなって、「私も一枚噛ませてよ」と笑って言った。
 いちおう、私も関係者だもんね。イスの父親は私の創造主でもあるわけだし。附術も使って、跡形もなく破壊する方法をイスと協力して考えちゃうのもいいよね。
「よし、でもとりあえずは、採寸を終わらせましょ!私たちが燃やすまでは、形を維持しててもらわなきゃね」
「ああ、そうしよう」
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