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中東系エルフ魔術師編

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「…あの女将は、押し切ればいいと言ったな」
 イスがぐいっと距離を縮めてくる。服越しだけど、体が触れる位置。イスの体温と、私とは違う、男らしい体の硬さを感じる。
「待って、イス」
「待ってどうなる。私はずっと、自分の体質のせいでお前とは触れ合えないと思っていた。それでも万に一つ、相性がいい可能性もあると望みを繋いでいたのに、ホムンクルスのことを知った。ホムンクルスが私の母親の両親を使って作られたというのなら、お前の肉体は母親と姉妹である可能性が高い。そんなことはわかっている。だが認めたくなかった。ただえさえ魔力の問題が立ちはだかっているのに、近しい血縁の可能性まで出てくるなど…なぜ私にばかりこんな運命が降りかかる?お前を諦めろと、そう言われているようで腹が立った。あげくに少しでも否定できる材料を探そうと、お前と話をしたくて通信を繋げたら、あの熊男がお前の通信具を当然のように取って、婚約したと言い放ったんだ。私がどうあがいても手にできないものを、易々と手にした男がいる。それも2人もだ。私の絶望がどれほどだったか、お前にわかるか?」
 真っ直ぐに私を射抜く琥珀色から、首を振ってなんとか逃れようとする。でもイスの方が体が大きい。力も強い。魔術だってある。簡単に追い詰められて、ソファに横たわったところで逃げ場を失う。イスが私を逃がさないように、覆いかぶさって来る。
「なぜ私ばかり、こんな目に遭うんだ?私が何をした?子どもの頃から多くの者に厭われ避けられて来たが、顔に出なければ傷ついてないとでも思ったか?あの男の所業は私のせいではない。私には関係ないのに、なぜ私が責められ責任を取らねばならない!」
 イスが、イスの表情が。怒りに歪んでいる。ずっとずっと、口では「嬉しいと思う」とか「腹が立つ」とか言っても、表情が変わらなかったのに。目の前で怒りを吐露されたことよりもそちらに驚いて、目をぱちくりしてしまう。
 イスは私の間抜けな顔を見て我を取り戻したのか、深く息を吐き出して「すまない」と呟いた。すっとイスの表情が戻ってしまって、何だか残念に感じる。
「…そんな中で、他と変わらないお前は私の希望だった。いつか共に、寄り添って生きていけたらと、どれだけ願ってきたか」
 イスの手が、私の頬に触れる。親指が肌を滑り、唇をなぞる。意図を悟って首を振ろうとするけれど、彼の手が邪魔をして叶わない。
「だめだよ、イス。私たち、甥叔母の関係でしょう?」
 歴史上では、叔姪婚なんていくらでもある。帝国法では、どうだっただろう。イスが腹を立てていたくらいだから、サークルのルールでは許されてないんだろう。それにもし帝国法で許されていたのだとしても、私の常識では近親婚は禁忌だから、心情的に無理だ。
「…そのことだが。今日あの屋敷でお前が言った言葉で、思い出した事がある。私の出生について、もう少し突き詰めてみるつもりだ」
「イスの生まれで、おかしなことがあるの?」
「気になる点はある。そこを調べてみようと思う。何が出るかはわからないが、せっかく魔力の相性についてはクリアしたんだ。もう少し、足掻いてみたい」
 イスがグッと顔を近づけてくる。琥珀色の瞳に、わずかに星が瞬く。
「待って、ダメだよ、イス…」
「ダメじゃない。例え血縁であったとしても…このくらいは、許される」
 イスの唇が、そっと合わされる。逃げられずに、そのまま受け止める。軽く、様子を見るような、優しいキス。フワリと、イスの魔力が心地よく肌をなぞる。
 長いような、短いような時間そうしていて。わずかに離れたけれど、ほとんど唇が触れ合う位置で、イスが艶めいた声で囁く。
「エルフは、お互いの魔力を交わすことで、愛を確かめる。…お前も、魔力を返してくれ」
 その愛って、どのタイプ?親愛や、家族愛でもそうなの?イスの瞳がキラキラと煌めく。私はエルフじゃないから、正解がわからない。でも再び唇を塞がれて、質問することも許されない。
 深く、深く、何度も唇が降ってくる。イスの魔力がスルリと入り込んできて、私に愛を返せと迫ってくる。どうしよう、どうしたらいいの?私は怖い。ビョルンとロルフの2人と婚約した時だって、嫉妬の目がすごいあった。気にしないように自分に言い聞かせてたけど、本当はけっこうキツかった。サークルの塔長で優秀な魔術師で見た目もちょっと濃いけどイケメンで。また1人増えたなんてなったら、きっとたくさん妬まれる。
 でも、じゃあ、この人を拒否する?拒否できる?こんなにも私を求めて、縋りついてくる人を。ずっと辛い人生を耐えて、唯一の希望を見出して伸ばしてきた手を、私は振り払えるの?
 意識したつもりはなかった。それでも、間違いなく私の魔力はイスに向かって差し出された。その隙を逃さないように、イスの魔力が絡めとる。でもこの後、どうしたらいいの?イスはエルフで魔力の扱いに長けているけれど、ヒューマンの私はそこまでじゃない。圧倒的に多くて強いイスの魔力が、私のナカにズルリと入り込む。あの診察の時のように、お腹の奥から快楽が引きずり出される。
「ん、ふ、イスぅ…」
「もっと、私に魔力を流してくれ。あの時、お前の婚約者達にしたように」
 イスの声が、少し苛立っているように感じる。イスが促したくせに。私が他の男に魔力を流したことに、嫉妬しているの?でも上手くできない。あの時と違って、今の私は平静ではない。
「あっ、わか、わかんない、イスの魔力が、んッ、強すぎて、できない…ッ」
「押し返すな、交わすんだ」
 そんなこと言われても、イスの魔力が私の中で動くたびに、快楽が弾けて。全然、集中できない…!
「ムリ…ッ、あッ、イス、助けて、助けて、イッちゃうぅ…!」
 イスが私の魔力を捉えようとしてか、お腹の中をぐちゃぐちゃにかき乱す。強い快感が、私の体を支配する。イスにすがりついて、助けを求める。体が密着して、太ももにイスの硬いモノを感じる。
「…今日は、ここまでか」
 イスが呟き、キスをひとつ落とすと、コツリと額を合わせてくる。涙で滲んだ視界の向こう。開かれた瞳が、金色に輝くのを目にした瞬間。
「ひぃあ、あッ、あああぁぁッ!!」
 突如激しい快感が頭から足先まで突き抜けて。ひどい絶頂を味わいながら、私は意識を手放した。
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