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中東系エルフ魔術師編
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女将さんにもうちょい文句を言いたい気もしたけど、ぐいぐいと押されて席につかされる。席に着くなり「団長さんいつものね!」と、お肉と野菜がゴロゴロ入ったスープ入りの両手鍋が、ドカッとテーブルの真ん中に置かれた。相変わらずすごい量出してくるわー。出し方は豪快だけど、手作りのキルトカバーがついているのが可愛い。
「まだ注文してないじゃん!押しが強いわー」
「何言ってんだい、どうせいつもコレだろ!聞くだけ無駄だよ!」
ビョルンがお金を支払うのを見つつ文句を言うけれど、女将さんに笑い飛ばされてしまう。まぁそうなんだけどね。ここって仕入れた材料によって味付けは日替わりなんだけど、でっかい鍋で長時間コトコト煮込んだ料理はどれも絶品なのよねぇ。
「ここの煮込み、なんでも美味しいからしょうがないでしょー!イス、嫌いなモノないよね?いっぱい食べてよ?じゃないと終わらないから!」
「わかった。すごいな、お前が圧倒されるとは」
「いやぁ、あの年頃のお姉様に勝てる人間はなかなかいないと思うよー」
「聞こえてるよ団長さん!はい、パンとエールね!」
また注文してないのに、ドカッと置かれる。「ヤバイ!」と口を塞いでる間に、ビョルンがお金を支払ってくれた。
「エルフの旦那、団長さんは文句言うわりにゃ押しに弱いからね。押し切っちゃえばこっちのもんだよ!」
「そうか、情報感謝する」
余計な知恵を入れるな感謝すんな!
「感謝ついでに注文どうだね?エールか、ワインも赤白あるけど」
「私は酒はあまり飲まない。茶はないのか?」
「そんなお上品なモンはないよ!」
「そうか。困ったな」
「イス、ジュースにしたら?ベリージュースはできる?」
「さすが団長さん、旬ものがわかってるねぇ。新鮮なのがあるよ!」
「じゃあベリージュースひとつ!イス、いいでしょ?」
「構わない」
「尻に敷かれてるねぇ、結構なことだ!すぐ持ってくるね!」
「一言余計!」
大きな声で笑い飛ばしながら、女将さんが厨房に引っ込んでいく。ホントに、あの勢いすごいわ。嫌いじゃないけど。
それからベリージュースもすぐに届いて、美味しそうだったからちょっと味見させてもらった。甘酸っぱくて爽やかで、気に入ってもう1杯頼んだ。
女将さんがそこかしこで明るくお客さんに声を掛けるのを聞きながら、3人で鍋を堪能する。塊で入っているお肉がトロトロで、相当時間かけて煮込んでるよね、これ。めっちゃ美味しい。ビョルンとイスもちょこちょこ会話してて、案外この2人って会話が続くんだな、なんて思いながらエールをチビチビ飲む。
ここにロルフがいたらどうだろう。ケンカばかりになるかな。それともアンリとするみたいに、憎まれ口を叩きながら案外仲良くできるのかな。
不意に、自宅の居間で4人で食卓を囲む風景が思い浮かぶ。一緒にサンドイッチを食べたときのじゃなく、一緒に暮らしているかのような、そんな日常の風景。想像ではあるけれど、決して不自然には見えなくて、自分で驚く。
以前では絶対に無理だったと思う。ロルフは魔術師が嫌いだったし、イスはほとんどの人間から見てとっつきにくい性格をしていた。
でも、人は変わる。ロルフも随分丸くなったし、イスだって前よりは色んな人と話せるようになった。私も、自分では気づかないだけで、変わっていってるのかも。以前じゃ旦那が複数いるなんて、考えられなかったもんね。
私とイスは近い血縁関係があるから、一緒に住むのもおかしくないかな。でもいい歳の甥と叔母が一緒に住むのって、やっぱり変かな。
取り止めのないことを考えながらも、3人でしっかり鍋を平らげて。「また来てね!」と明るい声で見送ってくれる女将さんに手を振りながら、お店を後にした。
それからまた魔道具屋に向かう途中、ビョルンが自分の隊の連中と遭遇したので、ちょっと話をしてくると言って一旦別れた。イスと2人で、のんびりと並んで歩く。辺りはだいぶ暗くなっていたけど、プレジール(菓子売り)の少年がいたのでウーブリというお菓子を購入した。
「イスがいると、甘いのを一緒に食べられるからいいわー」
そんなたくさん食べたいわけじゃないけど、ちょっと甘いのを口にしたいなーって時に、分け合える相手がいるのはありがたい。
魔道具屋に到着するとすぐに店員さんが応接室にまた案内してくれて、紅茶も淹れてくれたので、さっそくお菓子を広げて2人で食べた。
「イスは、このままここに泊まるの?」
「あぁ、まだ調べたいことがたくさんある。フローラ殿に連絡を取るために通信具も使いたいからな」
私はビョルンが来たら一緒に宿に行く予定だ。過保護ビョルンさんが発動したのでね。1人で宿に行ってはいけないそうです。
「遅くならない内にキリつけて、ちゃんと寝なきゃダメよ」
「………」
返事をしろ、イスさんや。
「まったく、寝かしつけてやらなきゃダメかしら」
「寝かしつけてくれるのか?」
……今度は、私が沈黙する番だ。
どうして、ずっと友達としてやってきたのに。血縁者の可能性が高いって言っていたのに。こんなにあからさまに、ぐいぐい来るんだろう。
「…ごめん、冗談よ。婚約者がいるんだもの、無理よ」
私たちは今、ソファで隣り合って座っている。イスが隣に座って来たからだ。私も拒まなかった。私が婚約する前は、このくらいの距離も当たり前だった。でも今は違う。婚約者がいる身なんだから、許してはいけなかった。許してはいけなかったのに。
「まだ注文してないじゃん!押しが強いわー」
「何言ってんだい、どうせいつもコレだろ!聞くだけ無駄だよ!」
ビョルンがお金を支払うのを見つつ文句を言うけれど、女将さんに笑い飛ばされてしまう。まぁそうなんだけどね。ここって仕入れた材料によって味付けは日替わりなんだけど、でっかい鍋で長時間コトコト煮込んだ料理はどれも絶品なのよねぇ。
「ここの煮込み、なんでも美味しいからしょうがないでしょー!イス、嫌いなモノないよね?いっぱい食べてよ?じゃないと終わらないから!」
「わかった。すごいな、お前が圧倒されるとは」
「いやぁ、あの年頃のお姉様に勝てる人間はなかなかいないと思うよー」
「聞こえてるよ団長さん!はい、パンとエールね!」
また注文してないのに、ドカッと置かれる。「ヤバイ!」と口を塞いでる間に、ビョルンがお金を支払ってくれた。
「エルフの旦那、団長さんは文句言うわりにゃ押しに弱いからね。押し切っちゃえばこっちのもんだよ!」
「そうか、情報感謝する」
余計な知恵を入れるな感謝すんな!
「感謝ついでに注文どうだね?エールか、ワインも赤白あるけど」
「私は酒はあまり飲まない。茶はないのか?」
「そんなお上品なモンはないよ!」
「そうか。困ったな」
「イス、ジュースにしたら?ベリージュースはできる?」
「さすが団長さん、旬ものがわかってるねぇ。新鮮なのがあるよ!」
「じゃあベリージュースひとつ!イス、いいでしょ?」
「構わない」
「尻に敷かれてるねぇ、結構なことだ!すぐ持ってくるね!」
「一言余計!」
大きな声で笑い飛ばしながら、女将さんが厨房に引っ込んでいく。ホントに、あの勢いすごいわ。嫌いじゃないけど。
それからベリージュースもすぐに届いて、美味しそうだったからちょっと味見させてもらった。甘酸っぱくて爽やかで、気に入ってもう1杯頼んだ。
女将さんがそこかしこで明るくお客さんに声を掛けるのを聞きながら、3人で鍋を堪能する。塊で入っているお肉がトロトロで、相当時間かけて煮込んでるよね、これ。めっちゃ美味しい。ビョルンとイスもちょこちょこ会話してて、案外この2人って会話が続くんだな、なんて思いながらエールをチビチビ飲む。
ここにロルフがいたらどうだろう。ケンカばかりになるかな。それともアンリとするみたいに、憎まれ口を叩きながら案外仲良くできるのかな。
不意に、自宅の居間で4人で食卓を囲む風景が思い浮かぶ。一緒にサンドイッチを食べたときのじゃなく、一緒に暮らしているかのような、そんな日常の風景。想像ではあるけれど、決して不自然には見えなくて、自分で驚く。
以前では絶対に無理だったと思う。ロルフは魔術師が嫌いだったし、イスはほとんどの人間から見てとっつきにくい性格をしていた。
でも、人は変わる。ロルフも随分丸くなったし、イスだって前よりは色んな人と話せるようになった。私も、自分では気づかないだけで、変わっていってるのかも。以前じゃ旦那が複数いるなんて、考えられなかったもんね。
私とイスは近い血縁関係があるから、一緒に住むのもおかしくないかな。でもいい歳の甥と叔母が一緒に住むのって、やっぱり変かな。
取り止めのないことを考えながらも、3人でしっかり鍋を平らげて。「また来てね!」と明るい声で見送ってくれる女将さんに手を振りながら、お店を後にした。
それからまた魔道具屋に向かう途中、ビョルンが自分の隊の連中と遭遇したので、ちょっと話をしてくると言って一旦別れた。イスと2人で、のんびりと並んで歩く。辺りはだいぶ暗くなっていたけど、プレジール(菓子売り)の少年がいたのでウーブリというお菓子を購入した。
「イスがいると、甘いのを一緒に食べられるからいいわー」
そんなたくさん食べたいわけじゃないけど、ちょっと甘いのを口にしたいなーって時に、分け合える相手がいるのはありがたい。
魔道具屋に到着するとすぐに店員さんが応接室にまた案内してくれて、紅茶も淹れてくれたので、さっそくお菓子を広げて2人で食べた。
「イスは、このままここに泊まるの?」
「あぁ、まだ調べたいことがたくさんある。フローラ殿に連絡を取るために通信具も使いたいからな」
私はビョルンが来たら一緒に宿に行く予定だ。過保護ビョルンさんが発動したのでね。1人で宿に行ってはいけないそうです。
「遅くならない内にキリつけて、ちゃんと寝なきゃダメよ」
「………」
返事をしろ、イスさんや。
「まったく、寝かしつけてやらなきゃダメかしら」
「寝かしつけてくれるのか?」
……今度は、私が沈黙する番だ。
どうして、ずっと友達としてやってきたのに。血縁者の可能性が高いって言っていたのに。こんなにあからさまに、ぐいぐい来るんだろう。
「…ごめん、冗談よ。婚約者がいるんだもの、無理よ」
私たちは今、ソファで隣り合って座っている。イスが隣に座って来たからだ。私も拒まなかった。私が婚約する前は、このくらいの距離も当たり前だった。でも今は違う。婚約者がいる身なんだから、許してはいけなかった。許してはいけなかったのに。
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