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中東系エルフ魔術師編
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それから3人で探し回って、最終的に明かり取りで屋根付近についている、はめ殺し窓が枠ごと外せるのを見つけた。屋根にはイスが登ってくれた。ビョルンだと重さで屋根踏み抜くかもしれないし、私は落ちるからやめろ!と2人に止められた。失礼な。でもローブを脱ぎ捨てて軽装になったイスが、ビョルンの補助を受けて屋根に飛び乗る姿はカッコよかった。魔術師とは思えないくらい、いい体してるのよね。細マッチョ系というか。ローブの下はピッタリした黒の袖なしハイネックとか、反則だと思うの。侵入経路を確認して、窓を戻してからイスは身軽に屋根から飛び降りてきた。
「完全に、盲点だったな…」
「魔術も附術も使ってないことが?」
「そうだ。そもそも魔術を使えばすぐに成せることを、わざわざ使わずに成そうとすることが理解できない」
「使ったら、魔力の痕跡で犯行がバレるからじゃない?」
「だが、フローラ殿たちが定期的に見回りをしている以上、自分が一番怪しまれることはわかっていたはずだ。現に、黙秘はしているが、否定は一切していない」
「…何か、理由があるのかしらね?」
「どうだろうな」
ため息をつきながらローブを羽織り直すイスに、あら残念、と思っているとビョルンに小突かれた。大丈夫、ビョルンの方がたくましいよ!かっこいいよ!大きな体をギュッとする。
「ともかく、侵入経路はわかった。あまり大きな窓ではないが、侵入するには十分だろう。ロープを結わえたような跡も残っていた」
「ならまず、間違いないだろうな」
侵入経路はとりあえず、目星がついた。ただやはり、それだけでは証拠にならない。
「それじゃあ後は、この屋敷に辿り着く方法?」
「そうだな…とりあえず、屋敷の中に入ってみるか?」
イスの視線が動くのを追って、私も屋敷に目を向ける。
イスの父親の研究所。たくさんの人の命を救い、そして奪った場所。
…私が、作られた場所。
「うん、入る」
何かわかるかもしれない。わからないかもしれない。でも、自分の目で確かめなければ。
イスがドアを開け、屋敷に入る。私とビョルンもそれに続いて、屋敷に入った。
屋敷の中は、案外整理されていた。事件を発見した時は相当荒れていたらしいけど、諸々調査するために当時の魔術師たちががんばって片づけたらしい。資料なんかもあんまりなくて、聞けば少しずつ回収して、新たにわかりやすくまとめた上で処分しているらしい。新しくできた資料からは、イスの父親の痕跡は入念に消されているのだそうだ。そうして、事件を風化させていったんだろうね。
とりあえず、内側からも侵入経路を確認する。窓からロープを垂らして屋内に降り立つのも、問題なくできそうだった。
「保管されていたホムンクルスの部屋までは、鍵はない?」
「ないな。調べ尽くされているから、資料としての価値はそれほど高くない」
イスの言い方にギョッとする。え、ホムンクルスって私と似てるんでしょ?つまり見た目は人と一緒よね?それに対して、資料って言いきっちゃうのはどうなの?
「イス、その資料って言い方、やめてくれる?私と同じ存在なんでしょ?」
「同じ?前にも言ったが、魂は込められていない、ただの空の器だ。見た目は似ているが、それだけだ。お前とは違う」
イスの言いたいことはわかるよ。ホムンクルスだからそう言ったんじゃなくて、魂は入っていないけれど、資料として体が保管されている状態だからそう言ったんだよね。そりゃ私だって、見たことも会ったこともないから、そのホムンクルスに思い入れがあるわけじゃないんだけれど。でもなー、やっぱなー。
「じゃあイスは、私が死んだら体を資料として保管する?」
そう問い返せば、イスが目を見張った。
「私はホムンクルスなんでしょ?なら一緒じゃない。死んだら、魂の込められていない、ただの空の器だよ」
イスの言ったことをそのまま繰り返す。
私は自分が死んだ後、盛大に葬儀を上げてほしいとは思わない。火葬でも土葬でもいいし、その後の管理が大変なら合同墓でも散骨でもなんでもいい。後始末する人ができるだけ負担のないようにやってくれれば、それでいいと思っている。
でも、残されたホムンクルスのように、体だけ保管されて好き勝手触られるのは嫌だなと思う。どうしてもそうしなければならないのなら、せめて人であったものとして、丁重に扱ってもらいたい。
「私の自己満足だけど。できれば、そのホムンクルスのことも丁重に扱ってくれない?」
会ったこともないホムンクルスに、同情しているわけじゃない。ただ、自分と同じ立場のものがぞんざいに扱われているかと思うと、いたたまれないのだ。
「…すまない。以後、気をつける」
思った以上に深刻な声で答えてくれたから、安心させるように笑みを作った。
「いいよ。イスは立場が違うものね。それでも私の我儘に応えてくれて、想いやってくれて、ありがとう」
イスの周囲の人は、きっと同じ考えだったんだよね。魂なきホムンクルスは人じゃなくて、過去の歴史を残すための資料に過ぎないって。でも私のために考えを変えてくれた。それがとても嬉しい。
「…お前に、不快な思いをさせたいわけではないんだ。他にも気に入らないことがあったら言ってくれ」
イスが生真面目な声で言うので、思わず笑ってしまう。
「あは、言ったら直しちゃうの?いいよ、イスにはイスの意見があっていいの。私は思ったこと言っちゃう方だけど、私の言うことがすべて正しいわけじゃない。私の思い通りにしなくたっていいの。意見の相違があったって、イスは変わらず友達だよ」
「……、そうか……」
何か言いたげな沈黙があったけれど。気づかないフリをして、イスの背中をポンポンと叩いた。
「完全に、盲点だったな…」
「魔術も附術も使ってないことが?」
「そうだ。そもそも魔術を使えばすぐに成せることを、わざわざ使わずに成そうとすることが理解できない」
「使ったら、魔力の痕跡で犯行がバレるからじゃない?」
「だが、フローラ殿たちが定期的に見回りをしている以上、自分が一番怪しまれることはわかっていたはずだ。現に、黙秘はしているが、否定は一切していない」
「…何か、理由があるのかしらね?」
「どうだろうな」
ため息をつきながらローブを羽織り直すイスに、あら残念、と思っているとビョルンに小突かれた。大丈夫、ビョルンの方がたくましいよ!かっこいいよ!大きな体をギュッとする。
「ともかく、侵入経路はわかった。あまり大きな窓ではないが、侵入するには十分だろう。ロープを結わえたような跡も残っていた」
「ならまず、間違いないだろうな」
侵入経路はとりあえず、目星がついた。ただやはり、それだけでは証拠にならない。
「それじゃあ後は、この屋敷に辿り着く方法?」
「そうだな…とりあえず、屋敷の中に入ってみるか?」
イスの視線が動くのを追って、私も屋敷に目を向ける。
イスの父親の研究所。たくさんの人の命を救い、そして奪った場所。
…私が、作られた場所。
「うん、入る」
何かわかるかもしれない。わからないかもしれない。でも、自分の目で確かめなければ。
イスがドアを開け、屋敷に入る。私とビョルンもそれに続いて、屋敷に入った。
屋敷の中は、案外整理されていた。事件を発見した時は相当荒れていたらしいけど、諸々調査するために当時の魔術師たちががんばって片づけたらしい。資料なんかもあんまりなくて、聞けば少しずつ回収して、新たにわかりやすくまとめた上で処分しているらしい。新しくできた資料からは、イスの父親の痕跡は入念に消されているのだそうだ。そうして、事件を風化させていったんだろうね。
とりあえず、内側からも侵入経路を確認する。窓からロープを垂らして屋内に降り立つのも、問題なくできそうだった。
「保管されていたホムンクルスの部屋までは、鍵はない?」
「ないな。調べ尽くされているから、資料としての価値はそれほど高くない」
イスの言い方にギョッとする。え、ホムンクルスって私と似てるんでしょ?つまり見た目は人と一緒よね?それに対して、資料って言いきっちゃうのはどうなの?
「イス、その資料って言い方、やめてくれる?私と同じ存在なんでしょ?」
「同じ?前にも言ったが、魂は込められていない、ただの空の器だ。見た目は似ているが、それだけだ。お前とは違う」
イスの言いたいことはわかるよ。ホムンクルスだからそう言ったんじゃなくて、魂は入っていないけれど、資料として体が保管されている状態だからそう言ったんだよね。そりゃ私だって、見たことも会ったこともないから、そのホムンクルスに思い入れがあるわけじゃないんだけれど。でもなー、やっぱなー。
「じゃあイスは、私が死んだら体を資料として保管する?」
そう問い返せば、イスが目を見張った。
「私はホムンクルスなんでしょ?なら一緒じゃない。死んだら、魂の込められていない、ただの空の器だよ」
イスの言ったことをそのまま繰り返す。
私は自分が死んだ後、盛大に葬儀を上げてほしいとは思わない。火葬でも土葬でもいいし、その後の管理が大変なら合同墓でも散骨でもなんでもいい。後始末する人ができるだけ負担のないようにやってくれれば、それでいいと思っている。
でも、残されたホムンクルスのように、体だけ保管されて好き勝手触られるのは嫌だなと思う。どうしてもそうしなければならないのなら、せめて人であったものとして、丁重に扱ってもらいたい。
「私の自己満足だけど。できれば、そのホムンクルスのことも丁重に扱ってくれない?」
会ったこともないホムンクルスに、同情しているわけじゃない。ただ、自分と同じ立場のものがぞんざいに扱われているかと思うと、いたたまれないのだ。
「…すまない。以後、気をつける」
思った以上に深刻な声で答えてくれたから、安心させるように笑みを作った。
「いいよ。イスは立場が違うものね。それでも私の我儘に応えてくれて、想いやってくれて、ありがとう」
イスの周囲の人は、きっと同じ考えだったんだよね。魂なきホムンクルスは人じゃなくて、過去の歴史を残すための資料に過ぎないって。でも私のために考えを変えてくれた。それがとても嬉しい。
「…お前に、不快な思いをさせたいわけではないんだ。他にも気に入らないことがあったら言ってくれ」
イスが生真面目な声で言うので、思わず笑ってしまう。
「あは、言ったら直しちゃうの?いいよ、イスにはイスの意見があっていいの。私は思ったこと言っちゃう方だけど、私の言うことがすべて正しいわけじゃない。私の思い通りにしなくたっていいの。意見の相違があったって、イスは変わらず友達だよ」
「……、そうか……」
何か言いたげな沈黙があったけれど。気づかないフリをして、イスの背中をポンポンと叩いた。
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