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中東系エルフ魔術師編

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 途中で市場に寄って屋台で簡単にお昼を済ませ、4番街にある魔道具屋へ到着した。店に入ると店員さんがすぐに来てくれて、奥の部屋に案内されてイスに出会えた。商談や密談に使用する応接室らしく、防音対策はバッチリだそうだ。
「お待たせ、イス」
「いや。来てくれてありがとう」
 イスの向かい側のソファにビョルンと並んで腰を下ろすと、店員さんがサッと紅茶とお茶菓子を出して、退出する。ドアが閉まるのを確認してから、口を開いた。
「声の調子悪そうだけど。寝れてる?」
「今回の件が発覚したのが一昨日、それからずっとフローラ殿と共に調査していた。お前に連絡を入れた後に、少し仮眠は取った」
「それ2刻くらいじゃない。やれやれ、体に悪いわよ?」
「慣れている」
 落ち着いたら、ちゃんと寝てよね。
「フローラさんは?」
「容疑者を特定するところまではいた。後は『若者に任せた』と帰っていったが」
「マジ何歳なのあの人…」
 若者に…とか言いつつ、一昨日からずっとイスと一緒に調査していたのよね?体力パネェ。ホントに年齢聞いちゃったら、とんでもない目に遭わされそうだから聞かないけれども。
「ちなみに『容疑者』って、誰か聞いてもいい?聞いてもわかんないかもだけど」
「ドゥーロ…名前は知っているはずだ」
 そう言って告げられたのは、前に通信具で少しだけ話した、バイオトイレ開発の責任者の名前だった。
「えッ、彼が?!」
「知っているのか?」
 ビョルンに聞かれて、軽く説明する。そういえばあの時、庭で訓練してたもんね。
「動機はなんて?」
「黙秘している。だが私と共にあの屋敷を見学したのは彼だ。それからホムンクルスが損壊されフローラ殿が発見するまで、誰も立ち入った履歴はない。最も疑わしいのは、私と彼だ」
「イスも容疑者になってる!」
「状況を見ればな。秘匿内容だから詳細は伏せるが、塔長は他の塔長と情報を共有することができる。私の無実は、他の塔長が保証している」
「ああ、そう。よくわかんないけど、とりあえずホッとしたわ」
 そこからもう少し話を聞く。イスと同じくフローラさんも「情報の共有」で容疑者から外れる事。事件から20有余年経った今では、屋敷に入りたいと考える者はほとんどおらず、管理と見回りのためにフローラさんと、医療の塔の副塔長2名が定期的に訪れるくらいだったこと。イスがドゥーロ君を連れて入ったのが、久しぶりの来訪者だったこと。イスがホムンクルスを見て衝撃を受けたように、ドゥーロ君もショックを受けていたこと。
「…ホムンクルスが私に似ていることに、ショックを受けたってこと?」
「そうだな。かなり動揺していた。お前に似ていると、私に確認もしてきた」
「えぇ?会った事あったっけ?他人種の顔なんてそんな見分けつく?それなりに顔は売れてると思うけど、なんと言っても地味顔だからなー」
 だいたいの人がビョルンやロルフとセットで覚えてる気がするのよね。この方達と一緒にいる女性ってことは貴女があの…!って言われたことも一度や二度ではない。私単独で見分けがつくなんて、あんまりないことなんだけどな。
「何言ってるんだ、こんなにチャーミングなのに」
「はいはい」
 ビョルンが私の頬をスルリと撫でて来る。はいはい、貴方の目にはそう見えてるんでしょうね。恋は盲目、あばたも笑くぼってね。ニコニコしているビョルンを肘で小突いてやる。
「お前のファンだと言っていた。事あるごとに口にして、周囲が閉口するほどの熱狂ぶりだった。私もお前について聞かれたことが何度もある」
「えぇ~…何で?」
「わからない。だが、熱心な宗教家に似た目をしていたように思う」
「盲信、か?」
「そうかもしれない」
 ビョルンの言葉に、イスが頷く。通信具で話していた時、確かに声はすごく興奮していた。まぁ一応、英雄に名を連ねているもので、時々はそういう手合いの人に遭遇するんだけれども。
 そういえば、その時の会話の中で、彼の言葉に違和感を覚えた気がする。その時は流しちゃったけど、なんだっけ。
「…イス、私と通信具で会話していたとき、ドゥーロ君が何て言っていたか覚えている?最後あたり」
「ヒューマン種の魔術師の地位向上のためにも、身命を賭して開発に取り組みます。ご期待ください」
 淡々とした声は彼と熱量が違うけれど、そうだ、確かにそう言った。
「ヒューマン種の魔術師は、サークル内では地位が低い…?」
「…エルフの血が強いほど、魔力は強くなる傾向にある。そうなれば必然と、高い地位はエルフ種で占められることになる」
 そう、確かにそうだったわ。今の塔長だって、ほとんどがエルフ種よね。私もイスと出会う前に接したエルフの魔術師は、頭からこちらを見下してくるような人が多くて辟易したもの。
「だけど附術はヒューマン種が生み出したもので、他種族で施せる者は少ない。彼は、附術が使えた?」
「附術は、魔術師からすれば難解な技術なんだ。理屈が全く違うからな。魔術に誇りを持つ年寄りは、認めようとしないが。だが彼は相当量の努力をして、附術を扱えるようになった。附術師と名乗れるほどではないが、それでも扱えるかどうかの差は大きい。新しいプロジェクトの責任者に抜擢したのも、その理由が大きい」
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