70 / 198
中東系エルフ魔術師編
42
しおりを挟む
少しして、これ誰がどう収拾つけるの?ってなったところでビョルンが戻って来て、なんとか場を収めてくれた。神かな?
それから買い出し部隊が到着したので、ロルフと一緒に下拵えやら宴会の準備を任せて、私はビョルンと一緒に地区長のショーンさんを訪ねた。
「いやぁ、英雄殿。この度は11区の者たちがご迷惑お掛けして、申し訳ありませんでした」
豊かな白髭を蓄えたショーンさんは、見れば見るほどサンタのおじさんだ。冬になったら是非とも、赤い服着て子どもたちにプレゼント配って欲しい。
「いえいえ、こちらこそ。お力添えいただきまして、助かりました。それにお風呂も!家でお風呂入れるなんて、サイコーの気分でした!ありがとうございました」
「喜んでいただけて、何よりです」
「それに酒樽まで頂いちゃって。ウチの団員お酒大好きなんで、今日さっそく庭で宴会でも開こうと思うんですけど~…で。まぁ建前マシマシで遠回りに話してもいいんですけど、面倒なんで本音をぶっちゃけてもいいです?」
私のバッサリした言い方に、ビョルンがため息をついてこめかみを揉み込んだ。ビョルンはアレよね、建前を大事にするタイプ。私は相手によるけれど、基本腹割って話したいタイプ。だってもう、面倒なんだもん。さっさと結論から話したい。
ショーンさんはちょっと驚いたような顔をしていたけれど、すぐに目を細めて頷いた。
「私たち、急な引越しでここに住むことにはなったんですけど、家も気に入ってますし、職場も近いし、できれば長く住みたいと思ってます。ただご存知のように私たち、傭兵稼業なんてしているもので。できるだけお行儀よくさせますけど、どうしても荒っぽくなります。今日は傭兵団の連中を呼ぶんで、よかったらこの地区の方々も宴会にご参加頂いて、私たちを受け入れられるか見ていただけません?」
ショーンさんは穏やかな目で、私をじっと見つめている。
「もちろん、私たちも皆さんを見ています。ウチのは荒っぽいけど気のいい連中なんで、それを蔑んだり馬鹿にするような方が多かったら、ここに住むのは難しいんで出て行こうと思っています」
人間いろんな人がいるからね。傭兵団の依頼に来た人でも、自分が2番街住みだからってやたらと3番街を馬鹿にする人がいたし。ここにだって、そういう人がいないとは限らない。ただ地区全体でそんな雰囲気の人が多いんだったら、ここに住むことはできない。前団長から引き継いだ、私の傭兵団を馬鹿にする奴は許さない。
じっとショーンさんの目を見つめながら言うと、彼は髭を撫で付けながら頷いた。
「…では、私も本音をひとつ、話しましょうか」
ショーンさんが言う本音。それはざっくりまとめるとこんな感じだった。
いま私たちが住んでる2番街の端っこの11区は、他の2番街の地区からは『成り上がり地区』なんて呼ばれているそうだ。2番街の土地や家は、1番街に近づくにつれ高くなる。3番街寄りは3番街で成功したいわゆる『小金持ち』が、最初に住むことが多い土地だから。近所の奥さんが、そういえばそんな事言ってたよね。
大人だとお互い関わることも少ないからいいけれど、子供世代には親世代のそうした風潮が影響して、この地区の子が下に見られて馬鹿にされるようなこともあるようだ。
「言い訳するようで申し訳ないんですが、訓練の見学も、最初は他の地区のお嬢さんに強要されて、家を教えてしまったそうですよ」
「あー…、それってこう、ド派手な感じの金髪巻毛の子…」
「恐らく」
金パ娘ね。あれ以来姿は見ないけど。
「ただ見学に行ったら、自分たちもファンになってしまったようで。皆さんの迷惑も考えず、夢中になってしまったと反省しておりましたよ」
「まぁ、ビョルンもロルフもイケメンなんでね。わかります」
頷くと、ビョルンが照れ臭そうに頬をかいて、ショーンさんは「ホッホッ」と高らかに笑った。マジサンタ。
「昔からの風潮というのは、なかなか変え難いもんです。ただあなた方は爵位こそまだありませんが、英雄として帝国に名を刻まれ、皇帝陛下にもお目通りが適うような方々です。だから私は、あなた方にこの11区を気に入って、長く住んでいただきたい。英雄たる方々が住む地区を馬鹿にする者はいないでしょうから」
それが私の本音です、とショーンさんは言った。
これでお互いの本音が出揃ったわけだけど…これ、利害めちゃめちゃ一致してるんじゃない?私たちは長く住みたいし、ショーンさん達も長く住んでもらいたいと思ってくれてるんだし。
「その本音、この地区の方の総意とみていいです?」
「私の知る限りでは。今回の見学禁止をした際に、全世帯に確認しましたがね」
それ全部じゃん。下心込みでだけど、この地区の方々は私たちがここに住むのを、歓迎してくれてるってことよね。
「じゃあショーンさん。英雄が住む地区かつ、英雄と仲良しの地区っての目指してみません?」
ショーンさんがびっくりしたように目を開いたあと、「願ってもないことです」と嬉しそうに頷いた。
「私とビョルンは、皆さんと仲良くしたいと思ってますし、気軽に話しかけてもらいたいです。だから今日、都合のつく方は是非宴会に来てください。そこでお互い気軽に話せるように、交流しましょう。ただ、ロルフはごめんなさい、無理です。今回の宴会では裏方で参加しますが、接触は避けて欲しいです。彼は自分の領域を侵されるのが大嫌いですし、他者に対して許容範囲が狭いので、無理に交流しようとするとトラブルの元になります。彼自身、許容できた特定の人物以外との交流は望んでません。仲良くってのは、相手のそういった希望も尊重することだと思っていただきたいです」
「わかりました」
ショーンさんがしっかりと頷いてくれる。まぁ見学の時にブチ切れた様子は皆さんご存じだろうから、よっぽど話しかけてこないかな。
それから買い出し部隊が到着したので、ロルフと一緒に下拵えやら宴会の準備を任せて、私はビョルンと一緒に地区長のショーンさんを訪ねた。
「いやぁ、英雄殿。この度は11区の者たちがご迷惑お掛けして、申し訳ありませんでした」
豊かな白髭を蓄えたショーンさんは、見れば見るほどサンタのおじさんだ。冬になったら是非とも、赤い服着て子どもたちにプレゼント配って欲しい。
「いえいえ、こちらこそ。お力添えいただきまして、助かりました。それにお風呂も!家でお風呂入れるなんて、サイコーの気分でした!ありがとうございました」
「喜んでいただけて、何よりです」
「それに酒樽まで頂いちゃって。ウチの団員お酒大好きなんで、今日さっそく庭で宴会でも開こうと思うんですけど~…で。まぁ建前マシマシで遠回りに話してもいいんですけど、面倒なんで本音をぶっちゃけてもいいです?」
私のバッサリした言い方に、ビョルンがため息をついてこめかみを揉み込んだ。ビョルンはアレよね、建前を大事にするタイプ。私は相手によるけれど、基本腹割って話したいタイプ。だってもう、面倒なんだもん。さっさと結論から話したい。
ショーンさんはちょっと驚いたような顔をしていたけれど、すぐに目を細めて頷いた。
「私たち、急な引越しでここに住むことにはなったんですけど、家も気に入ってますし、職場も近いし、できれば長く住みたいと思ってます。ただご存知のように私たち、傭兵稼業なんてしているもので。できるだけお行儀よくさせますけど、どうしても荒っぽくなります。今日は傭兵団の連中を呼ぶんで、よかったらこの地区の方々も宴会にご参加頂いて、私たちを受け入れられるか見ていただけません?」
ショーンさんは穏やかな目で、私をじっと見つめている。
「もちろん、私たちも皆さんを見ています。ウチのは荒っぽいけど気のいい連中なんで、それを蔑んだり馬鹿にするような方が多かったら、ここに住むのは難しいんで出て行こうと思っています」
人間いろんな人がいるからね。傭兵団の依頼に来た人でも、自分が2番街住みだからってやたらと3番街を馬鹿にする人がいたし。ここにだって、そういう人がいないとは限らない。ただ地区全体でそんな雰囲気の人が多いんだったら、ここに住むことはできない。前団長から引き継いだ、私の傭兵団を馬鹿にする奴は許さない。
じっとショーンさんの目を見つめながら言うと、彼は髭を撫で付けながら頷いた。
「…では、私も本音をひとつ、話しましょうか」
ショーンさんが言う本音。それはざっくりまとめるとこんな感じだった。
いま私たちが住んでる2番街の端っこの11区は、他の2番街の地区からは『成り上がり地区』なんて呼ばれているそうだ。2番街の土地や家は、1番街に近づくにつれ高くなる。3番街寄りは3番街で成功したいわゆる『小金持ち』が、最初に住むことが多い土地だから。近所の奥さんが、そういえばそんな事言ってたよね。
大人だとお互い関わることも少ないからいいけれど、子供世代には親世代のそうした風潮が影響して、この地区の子が下に見られて馬鹿にされるようなこともあるようだ。
「言い訳するようで申し訳ないんですが、訓練の見学も、最初は他の地区のお嬢さんに強要されて、家を教えてしまったそうですよ」
「あー…、それってこう、ド派手な感じの金髪巻毛の子…」
「恐らく」
金パ娘ね。あれ以来姿は見ないけど。
「ただ見学に行ったら、自分たちもファンになってしまったようで。皆さんの迷惑も考えず、夢中になってしまったと反省しておりましたよ」
「まぁ、ビョルンもロルフもイケメンなんでね。わかります」
頷くと、ビョルンが照れ臭そうに頬をかいて、ショーンさんは「ホッホッ」と高らかに笑った。マジサンタ。
「昔からの風潮というのは、なかなか変え難いもんです。ただあなた方は爵位こそまだありませんが、英雄として帝国に名を刻まれ、皇帝陛下にもお目通りが適うような方々です。だから私は、あなた方にこの11区を気に入って、長く住んでいただきたい。英雄たる方々が住む地区を馬鹿にする者はいないでしょうから」
それが私の本音です、とショーンさんは言った。
これでお互いの本音が出揃ったわけだけど…これ、利害めちゃめちゃ一致してるんじゃない?私たちは長く住みたいし、ショーンさん達も長く住んでもらいたいと思ってくれてるんだし。
「その本音、この地区の方の総意とみていいです?」
「私の知る限りでは。今回の見学禁止をした際に、全世帯に確認しましたがね」
それ全部じゃん。下心込みでだけど、この地区の方々は私たちがここに住むのを、歓迎してくれてるってことよね。
「じゃあショーンさん。英雄が住む地区かつ、英雄と仲良しの地区っての目指してみません?」
ショーンさんがびっくりしたように目を開いたあと、「願ってもないことです」と嬉しそうに頷いた。
「私とビョルンは、皆さんと仲良くしたいと思ってますし、気軽に話しかけてもらいたいです。だから今日、都合のつく方は是非宴会に来てください。そこでお互い気軽に話せるように、交流しましょう。ただ、ロルフはごめんなさい、無理です。今回の宴会では裏方で参加しますが、接触は避けて欲しいです。彼は自分の領域を侵されるのが大嫌いですし、他者に対して許容範囲が狭いので、無理に交流しようとするとトラブルの元になります。彼自身、許容できた特定の人物以外との交流は望んでません。仲良くってのは、相手のそういった希望も尊重することだと思っていただきたいです」
「わかりました」
ショーンさんがしっかりと頷いてくれる。まぁ見学の時にブチ切れた様子は皆さんご存じだろうから、よっぽど話しかけてこないかな。
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる