異世界チートで世界を救った後、待っていたのは逆ハーレムでした。

異文

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中東系エルフ魔術師編

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 ぼたぼたと涙が零れ落ちる。
 怖いの。ずっと怖かった。いつかこの世界からも排除されてしまいそうで。元の世界から、突然弾き飛ばされたみたいに。元の世界でだって、一生懸命生きていたのに。お前なんかいらないって、捨てられたようで怖かった。だからずっと馴染みたかった。この世界に馴染んで、受け入れて欲しかったのに!!
 トン、と肩に重みが乗った。
 自分の中に沈み込んで、荒れ狂っていた思考が浮上する。目を開いて、隣を見る。
 ロルフの頭が肩に乗っている。
「お前はお前だ。気にすんな」
 グリグリ、と頭を押し付けてきて、いつもと変わらない、甘えるような仕草。
 それからポフ、と頭に優しい重み。
「ロルフに先を越されたなぁ」
 ぜんぜん残念そうじゃない声で言いながら、頭を撫でてくれる。ずっとずっと、私を支えてくれた、大好きな手。
「大丈夫だ。出会ってからずっと一緒にやってきた、そのままのお前を愛してるよ」
 ビョルンがギュッと抱きしめてくれる。拒否するわけない、どこにも行かせない、ってくらいに、ギュウッと、苦しいくらいに。するとロルフが「俺も入れろよ」と言って手を滑りこませて、抱きついてきた。左手の目的地は安定のおっぱいだ。こんな時にまで!いつも変わらない彼に、なんだか気が抜けてしまう。
 じわじわと涙を流しながら、二人の温もりに浸る。
 ロルフは、心の底から私を信頼している。すごく純粋で、剥き出しの愛を私に捧げてくれている。だからきっと、本当に私の正体などどうでもいいんだろう。その気持ちがすごく嬉しい。
 ビョルンはきっと、私の正体に驚愕しただろう。キチンと常識のある人だから。自分の妻にと決めた女性が、得体の知れない何かだなんて、色んな葛藤が心の内を駆け巡ったと思う。だけどそれは飲み込むか置いとくかして、彼は私を愛し続けることを選んでくれた。それも、すごく嬉しい。
 私は、私は、すごく幸せな人間だ。
 涙がまた溢れてくる。大丈夫。私は大丈夫。今まで私に起きたこと全部、ちゃんと受け入れてなんとかやって来たじゃない。私はひとりじゃない。愛してくれる人たちがいる。私は大丈夫。乗り越えてみせる。
 婚約者たちから体を離し、ぐいと涙を拭う。俯いたままのイスに向き直る。大丈夫、今度もきっと、何とかなる。何とかする。私なら、なんとかできる。
 自分にそう言い聞かせて、気持ちを奮い立たせる。
「イス…昨日の診察は、私がホムンクルスかどうか確かめるものだったのね?」
 覚悟を決めて問う。琥珀色の目はこちらを向かない。
「イス」
「……すまない」
 目を逸らしたまま、苦し気に声を吐く。
「イス」
「…私は、お前を傷つけたかったわけでは…」
「イスハーク!!」
 怒声に近い声で名を呼ぶと、ようやく琥珀色がこちらを映す。表情が変わりにくいイス。でも眉間には深い皺が刻まれて、瞳が少し揺れていて、彼の苦悩が垣間見える。
「ラフィク…」
「イス、謝るのは、とりあえずいいから。私の質問に答えて。あの診察は、私がホムンクルスかどうかを確かめるためにしたのよね?決め手はなんだった?」
「ああ…」
 イスは曖昧に頷くと、ようやくまともに答えだした。
「保管されていたホムンクルスは、一通り調べてきた。先ほど言ったように、顔も体格も似ているというのがまずひとつ。それから、お前の腹にあった魔法陣だ。屋敷に現存するホムンクルスは1体だけで、魂の入ってないタイプのものだが、あの男が生み出した魔法陣がそこかしこに編み込まれている。魔法陣で強制的に、最低限の生命維持活動が行われることで…肉体は死体のように腐り落ちることなく、長期の保管が可能となっている。その魔法陣も写し取ってきたのだが…お前の腹にあったものと、ホムンクルスの腹にあったものは同じだった」
「…イスの父親に当たる魔術師が編んだものってことよね?魔法陣の効果は?」
「妊娠を防ぐ」
「……最悪」
 イスの父親たる、エルフ魔術師に会った記憶なんてまったくない。そもそも、元の世界で死んだと思ったらこの世界で目覚めたんだし。でも私のお腹に魔法陣がある以上、きっと目覚める前にイスの父親に魔法陣を施されていたんだろう。ああ、クソ。自分の体を、知らないうちに好き勝手されてるって、本当に気分が悪い。
 イライラしながら、質問を続ける。
「魔法陣があるから、妊娠しないってことなのね。ああ、でもホムンクルスって、そもそも妊娠できるの?」
「私が診た限り、お前は普通の人間と変わらない。妊娠可能だからこそ、魔法陣を編み込んだのだと思う」
 ああ、そりゃそうか。じゃあ魔法陣さえ解けば、妊娠可能だってことよね?ちょっと希望が湧いてきた。普通の人間と変わらないっていってくれた、イスの言葉にも安堵する。
「そう…。昨日、イスにちゃんと診てもらってよかった」
「いや…」
 イスがゆるやかに首を振る。まだなんか、ありそうな雰囲気だ。やだな。
「でも、妊娠を防ぐ魔法陣だなんて、人によっては重宝すると思うんだけど。娼婦のお姉さんからそんな話聞いたことないなぁ。何か問題があるの?」
「…それは…」
 イスが言い淀む。ため息が出る。まだ嫌な話があるわけ?本当に、私が何したって言うのよ!
「禁術、だからだ。昨日解析して、凡その効果はわかった。恐らくお前の腹で、別の生命を感知すると、…殺す、ように編まれている」
 一瞬、思考が停止する。
 じゃあ、あの時、生理が遅れてきたのって。生理が来る前に、魔力が抜け落ちたみたいになったのって。編み込まれた魔法陣は、発動時には本人の魔力を使うから。
 ……最悪だ!!
「じゃあなに?!その魔法陣が、私の子を殺したっていうの?!」
「まだ、芽吹いたばかりのものだ。子といえるほどのものでは…」
「それが育てば子どもになるのよ!!」
「…すまない」
 ああ、違う。イスは悪くない。イスも被害者だ。彼に怒鳴ってはいけない。深呼吸して、なんとか怒りを外に追い出す。
「ごめんね、イスが悪いんじゃないのに、怒鳴ったりして…」
「いや。慣れている」
 変わらぬ表情のまま頷いたイスに、胸がギュッとなる。
「慣れないで。自分は関係ないって、否定していいの。…ごめんね。でももし、その男が生きてることがわかったら、私に教えて。…私が、殺してやるから。父親だからって、庇ったりしたら許さないから」
「いや、大丈夫だ。私も出会ったらそのつもりでいた。だが、お前が望むなら譲ろう」
 私は額を押さえ、深くため息を吐く。
 …いちおう、実子であるイスにここまで言わせるとはね。ホント、ろくでもない親って害悪でしかない。いつの時代も、どの世界でもそうだ。人を、子どもを、なんだと思ってるのか。自分の目的さえ果たせれば、他人などどうでもいい?それとも私は自分が作ったホムンクルスだから、何をしてもいいって?私は親の所有物じゃないの。私には私の意思があって、私の人生があるってのに!!
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