異世界チートで世界を救った後、待っていたのは逆ハーレムでした。

中東系エルフ魔術師編

２６

※この回からしばらく、倫理観の欠如した人物が登場します。残酷表現も含みます。ご注意ください。




「お前の魔力を流してやるといい。緩和されるはずだ」
「いいの？」
「誓約は編まれた。問題ない」
「ふぅん…魔力を流すって、附術に魔力込めるみたいな感じ？」
「同じだ。多分」
　多分かい。でもビョルンが相当やばそうなので、さっそく試してみる。大きな体を抱きしめて、…いや無理だ包み込めねーわこの巨体。抱きついて、私の魔力を流す。するとだいぶ良くなったのか、ビョルンから安堵の息が漏れた。
「…ああ、シャーラ。助かった…」
　私も助かった。居間が無事でよかった。
「おいシャーラ！俺も！！」
「はいはい…ぐふぅ」
　ドゴっとロルフが飛び込んでくる。お前もでかいんだからまじやめろ。頭をなでなでしつつ、ロルフにも魔力を流す。
「あー、…ひでぇ気分だった…」
「よしよし」
「……」
　オイ当たり前のようにおっぱいに顔を埋めるな揉むな！なかなか離れないロルフにビシっとチョップを喰らわせ、引き剥がす…のはビョルンにやってもらい、ロルフをなんとかソファに座らせたところで、イスが「続けてもいいか？」と仰った。たいへんお待たせいたしました！
「では、話そう。…かつてサークルの栄誉を穢した、男の話を」
　そう語りだしたイスの目に、影が落ちる。口調もどことなく暗い。それだけ重い話なのだろうか。私は心構えをして耳を澄ませた。

　その男は、子供のころから非常に頭がよかった。サークルに所属するとまずは全員学舎に送られ、そこで魔術の基礎と誓約を学ぶが、そこでも飛びぬけた存在だった。魔力量も申し分なく、複雑な魔術もなんなく紡ぐ。周囲に馴染みにくい性格で変わり者ではあったが、優秀な魔術師にはそうした者が少なくない。将来有望と見なされ、各塔から注目されていた。
　そんな男が最初の挫折を味わったのは、医療の塔に所属した時だ。魔術医の基礎は、患者の体に魔力を通して疾患を探ることにある。しかし男の魔力は特殊なものだったらしく、魔力を通すと、すべての患者が体内の魔力を乱し、体調を崩してしまった。それでは、魔術医として成り立たない。周囲はこの優秀な男を他の塔へ移転させようとした。だが彼は独特な拘りを持つ人間だったようで、医術への妙な執着を見せていた。周囲はさっさと諦めればいいと嘲笑ったが、彼は新たな医術の道を模索した。魔術医の間では「魔術の紡げない種族の野蛮な診療行為」などと言われていた、「問診と触診」を採用したのだ。

「その人、混血？」
「いや。純血のエルフだ」
「だとしたら、なかなかの変わり者ねぇ」
　あの『ボナ・ノクテム』を乗り越えた後はだいぶ変わったんだけど、純血のエルフは魔術を紡げない相手を見下す傾向が強かった。そんな中、自ら「野蛮な診療行為」を採用しに行くんだもの。目的のためには手段は選ばないって感じ？
「ごめんね、遮って」
「いや。続けよう」

　問診と触診で疾患部位を絞り込み、患部に一瞬魔力を通す。それでほとんどの疾患は診ることができたそうだ。帝都の５番街に居を構え、通常であれば魔術医に診察を依頼できないような、貧困層の患者を相手に実績を上げ、通常の魔術医にも引けをとらないほどの診察精度を築き上げた。魔力による治療も、一瞬魔力を当てるだけで済むものなら可能だった。なんなら魔術など使用せずとも、服薬等で症状を和らげ、自分自身の力で治した方が後々同じ病気にかかりにくくなるという論文も発表した。魔術による医療に胡坐をかいていた連中は、冷や汗をかいただろうな。高価な診療費を捻出せずとも、診察し治療してくれる医師が現れたうえ、それまでの治療を否定し始めたのだから。
　そんな彼に、とある奇跡が起きた。診療を依頼され、訪れた娼館にて一人の女性と出会った。彼女は貧しい家の出身で、口減らしに娼館に売られたヒューマン種の女性だった。彼女の診察をした時に気がついた。自分の魔力が嫌がられていない。どころか「心地いい」と言われた。そんなことは初めてだ。彼は夢中になった。彼女なら、診察できる。彼女なら、全て診れる。彼女なら、全て暴ける。
　その時、彼女は客の子を妊娠していたそうだ。まだ本人も気づかないほどの小さな命。だが殺した。その女性は自分のためのものだ。他の男のこどもが、彼女の腹に居座るべきではない、と。

「うわぁ…。ずいぶん…その、具体的にわかるのね？」
「なんでも記録を詳細に残す男だった。読み解くのにも時間がかかったが」
「ふぅん…魔術師ならみんな見れるの？その記録」
「いや。…じきにわかる」

　続けよう。彼は女性に夢中になった。すぐに身請けしようとしたが、資金が足りなかった。彼女に妊娠を防ぐ魔術を紡ぎ、その場は別れた。資金作りは簡単だった。魔術医を脅かす論文をひとつ、封印するだけでよかった。そうして資金を作り、彼女を身請けした。
　そこからは夢のように感じたそうだ。男の体を調べたければ自分を診ればいい。女の体を知りたければ彼女を診ればいい。
　そんなある時、彼は娼館から避妊方法について相談された。妊娠については、それまでは男が女の胎内に射精すると、気まぐれな受胎の女神が女に子を授ける、くらいの認識だった。中に射精することを避ければ、普通は妊娠することはない。だが女神は気まぐれだ、避けていても妊娠する娼婦は一定数いる。なんとか女神の気を逸らせ、妊娠を防ぐことができないか、と。