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中東系エルフ魔術師編

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「まず、手に通してみる」
 イスがベッドの側に立ち、右手で私の左手を取る。左手を上からそっと重ねて、こうして魔力を通すらしい。
「いきなり(魔力)入れないで、お願い。ちょっとずつ、ゆっくりしてよ」
「なんかエロいな」
「ロルフおだまりッ!!」
 こっちは真剣だってのに!
 イスの左手が触れたところから、皮膚がざわつく。何かがじわじわと、入り込んでくる感覚がある。
「どうだ?」
「…違和感が、少し。でも気持ち悪さはないよ」
「そうか。ではもう少し通す」
 そう言った瞬間、イスの琥珀色の瞳が煌めいた。彼の少し開いた口から、私には聞き取れない、不思議な音の言語が紡がれる。魔術の発動だ。
 エルフは髪で魔力を貯め、喉で術を紡ぎ、目で発動するという伝承がある。実際は違うらしいけど、確かにそう思えるほどの光景だ。琥珀色の瞳が金色に煌めいて、ついつい見入ってしまう。
「どうだ?」
「えっ?」
「体に異変は?手はもう骨まで診えている。小指の骨が少し曲がっているな。骨折したことが?」
「ああ、うん。むかし任務に出てた時に、やったことがあるよ。違和感は、ちょっとあるかな?」
 でも最初の皮膚のざわつきが一番違和感あったけど、今は魔力が馴染んだのかホカホカと温かい気がする。
「そうか。このまま進める」
 するり、イスの手が腕をなぞり上げる。服越しになったからか、魔力が遠のく。イスが短い術を紡ぎ、更に琥珀が煌めく。魔力を強くしたのだろう、またするりと腕に入り込んでくる。ほんの少しゾワッとしたけど、それだけだ。すぐに馴染んで、温かさを感じる。
「大丈夫。違和感もほとんどないよ」
「そうか。…驚いたな。こんなにまともな診察ができたのは、初めてだ」
 マジかー。まさかのワンチャンあったとは。
「首に触れる」
「うん…んッ」
 イスがベッドに少し乗り上げ、両手で首に触れる。ドクターが、触診するような感じ。魔力を通して、親指の腹でスリっと撫で上げられて。うわ、何これ。ゾクッてしたんだけど。
「気分が?」
「う、ううん。大丈夫」
 慌てて否定する。気分が悪いっていうか、何ていうか。とりあえず不快ではない。
「なら、続ける。反対の手を貸してくれ」
「うん」
 今度は私の右手を取る。同じように手を診て、ゆっくりと腕を撫で上げる。そういえば子供のころ…もちろん元の世界の話だけど…右手の小指も骨折したことあるんだけどな。気づかなかったのか、今回はスルーしたのかな?
「そういえば、お前の診てほしい箇所を聞いてなかった。どこだ?」
 肩に触れながら聞かれる。私はちらりとビョルンとロルフの方に目を向けた後、頷く。
「えっと、お腹も診るよね?」
「そうだな。時間がかかるから、最後の方になるが」
「じゃあその時に言っていい?お腹の中のことだから」
「わかった、後で聞く」
 イスが頷きながら、「肩が強張っているな。痛くないか?」と聞いてきた。よくぞ聞いてくれました!
「現場に出なくなって、書類仕事ばかりだから。肩こりがひどいんだよねー」
 元の世界では万年肩こりに悩まされて来て、こっちに来てからは肉体が若返ったおかげか体の調子がよかったんだけど。ここ1年、事務仕事に忙殺されてたせいで、またひどくなっちゃったのよね。ビョルンがいると、マッサージしてくれるからだいぶマシなんだけど。ロルフは「肩揉んでー」と言うと違うところを揉んでくるので、頼む事すらできない…。
「書類仕事の合間に、トレーニングでもした方がいい。強張った筋肉がほぐれる」
「わかってるけどさー、疲れてると動くのが億劫になっちゃって。イスはトレーニングしてるの?」
「している。行き詰まった時はいい気分転換になる。それに体が強張ると、パフォーマンスが落ちないか?」
 なるほど、トレーニングを欠かさないから、引き締まった体を維持できてるのね。でもさ。
「普通、食事抜いたり寝なかったりする方がパフォーマンス落ちる気がするんだけど。イス、食事も睡眠もよく疎かにしてるよね?」
 魔道具を開発してる時に、私が塔に泊まり込んで何日も一緒に過ごしたこともあるんだけど。開発が佳境に入ると夢中になっちゃって、ほっとくと碌に食べないし碌に寝なくなるのよね。私はそういうの絶対に無理だから、一緒にいるときは強制的にどちらも取らせるようにしてたけれども。
「そちらはあまり気にならない。だが確かに、お前は空腹になると狂暴化していたな」
「あたしゃ冬眠明けの熊か、…んッ?!」
 文句を言おうとした瞬間、イスが肩を少し強めに押しながら魔力を流してくる。すると肩の強張りがスッと消え、凝っていたのが急に楽になる。
「シャーラ、どうした?」
「え?あ、うん、大丈夫。なんか急に肩こりが楽になったんだけど…」
 イスが手を離したので、自分の肩に触ってみる。いつもより柔らかくなってる!肩がほぐれてる気がする!
「ああ、少し強めに魔力を流して、強張りをほぐしてみた。気分は悪くないか?」
「全然、すごく気持ちよかった!誰よイスの魔力が気持ち悪くなるとか言ったやつ!」
「今まで魔力で触れた者は、全員だな」
 イスがそう言って、今度は下の方に移動する。次は下半身を見るらしい。
「ふーん、不思議。イス、さっき魔力の相性が悪いって言ったよね。逆にいいっていうのもあるの?」
「ある。相性が良ければ、診察で魔力を通しただけでも心地よく感じるらしい」
「へぇー」
 イスの両手が、左足を包み込む。包んで診た後、するりと膝まで撫で上げる。確かに、ふくらはぎを通った時も、イスの魔力が心地よく感じる。なるほど、ってことは。
「イスと私って、魔力の相性いいんだ」
 膝を包み込んでいたイスの手が、ピタリと止まる。うん?
「イス、どうかした?」
「……いや…」
 様子がおかしく感じて見つめるけれど、あからさまに目を逸らされてる気がする。なんだなんだ?
 よくわからないけれど、少ししたらイスの手が再び動き出して。彼の左手が太ももに触れようとしたところで…。
「オイ待てテメェ」
 呼んでないのに番犬がやってきて、イスの肩を掴んだ。
「…なんだ?」
「なんだじゃねぇよ。そこに触るんじゃねぇ」
「それでは診察ができない」
「微妙に手を浮かせろよ。そんなら許してやる」
「無理だ。只でさえ服越しなのに。それでは約束が違う。報酬は渡せない」
 報酬の言葉に、ロルフが「うっ」と口ごもる。餌を前に心が揺らいでいる!
「じゃあ秒で終わらせろ!無駄に触んなよ!」
「秒は無理だが、努力はする」
 ロルフ、餌を前に屈服する。いやほんとなんなの?その報酬の強力な効果は。
 イスが改めて、手を伸ばしてきた。外ももと内ももに触れて、両手で挟むように。膝に近いところは何も感じなかったけど、手が上がるにつれ、ゾワゾワとした感覚が立ち上ってくる。待って、待って、これって。
「ちょっと待…ッ!!」
 イスの左手が、足の付け根に到達した瞬間。
「あん…ッ」
 魔力がピリピリっと股の所に走り、耐えきれず声が漏れた。
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