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中東系エルフ魔術師編

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 居間に案内すると、にこやかに手を挙げるビョルンと、キッチンカウンターにもたれかかってムスッとしたまま、挨拶すらしないロルフが待っていた。ビョルンはもう間に合わないかと思っていたけど、昨日の夜遅くに帰って来たらしい。朝起きたらいたので、「神よ!」と叫んでビョルンにキスをした。神よ感謝します!いいことがあった時だけ、雑に感謝を捧げるだけのテキトーさですみませんけどホントにありがとう!
 ビョルンは今日は髪を結んでいない。くすんだ金髪が緩やかなウェーブを描いて、ラフに流されている。うん、カッコいい。ていうか本人は髪型に無頓着で、今日はヘアセットしてあるなーって時は私かロルフがやったものだったりする。格好も本人は無頓着なので、私好みの服装をじわじわ買い揃えている最中。とはいえセンスがいいわけじゃないので、シンプルイズベストで似たような色違いで揃えちゃったりするんだけど。今日は黒いシャツとベージュのパンツで合わせてるね。ビョルンがテキトーに来ちゃってもおかしくならないような組み合わせを揃えるようにはしている。
 ロルフは今日は後頭部辺りでひとまとめにしたマンバンヘアだ。こうするとアンダーカットが目立って、美形の上に野生味が加わってさらに魅力的になっている。凝り性だけど飽き性だから、髪型はよく変わるけどね。服装はシンプルな白シャツに今日はカーキのパンツ、後はいくつかアクセサリー(私謹製)もごちゃごちゃならない程度につけている。ロルフはほっといてもセンスいいからねー。ホント性格以外は完璧に近いんだよなーコイツ。
「久しぶりだな、調子はどうだ?」
「戦後処理でほとんどの時間を割かれていた。研究を再開できたのは最近だ」
「ウチのシャーラと一緒だな。お疲れさん」
 そう言って握手を交わしている。鋼鉄の表情筋を持つザ・無愛想のイス相手でもしっかりコミュニケーションを取れる安定のビョルン。そしてお互い完無視状態のロルフとイス。気まずいわー。ビョルンがいるんだし、どっか出かけとけばって言ったのに。でも今朝ビョルンの前でそう言ったら「妻になる女が他の男と会うのに、出かけとけはないだろう」と叱られてしまったので黙っとく。確かにね、私もビョルンかロルフが私抜きで女性と会ってたらキレる自信あるわ。
「イス、荷物少ないねぇ」
「昨日到着して、宿にそのまま預けてある」
「あらそうなの?客間に泊まってくれてよかったのに」
 お家大きいから部屋数も無駄にあるのよねー。通いのハウスキーパーさんに頼んで客間も整えてもらったんだけど。
 伝えときゃよかったね、と言うとイスはビョルンとロルフに目をやった後、首を振った。
「夜がうるさそうだから嫌だ。眠れない」
 おー、ハッキリ言うねぇ。ちょっと顔が赤くなってしまう。いや流石のロルフさんでも、来客中は自重…しないわ絶対。なんなら聞かせてやろうぜくらいのこと言われそうだ。空気読んでくれてありがとう。ロルフを軽く睨むと「へッ」と吐き捨てるように笑った。
「そんならいいや。そこに座ってて!いまお茶淹れるからねー」
「わかった」
 いちおう応接間もあるんだけどね、そこまで畏まった仲でもないので、広いリビングに設置してある私たちが普段寛ぎスペースに利用しているソファを使ってもらう。L字型の大きなソファで前に暖炉があって、ゆったり過ごすには最適だ。L字の短い辺の所にイスが座ってビョルンと話し始めたのを見て、居間のミニキッチンに向かった。
 ひとくちコンロには注ぎ口から湯気の上がってるケトルが置いてある。中世っぽい世界だけど魔道具が発達したおかげで、富裕層の家電はだいぶ利便性が向上してきた。主に開発に携わった私とイスの功績ですよ。竈の火力にはどうしても敵わないから、大人数の料理を作る所にはまだまだ浸透していないけれども。
 そんなことを考えながらケトルを右手で取ろうとして、気づく。持ち手が左側を向いている。私とビョルンは右利きだから、ケトルとか水差しとかの持ち手が左を向くのはロルフの仕業だ。
「お湯ありがとね、ロルフ」
「ん」
 自分と違う人間が同じ空間で生活してるんだなぁ、って思えてちょっとほっこりする。
「あれ、紅茶缶どこ置いたっけ?」
「前に買ったやつか?上の棚に入れたぞ」
 ビョルンの言う上の棚は、ストック用の物を収納しているところで私の背では届かない位置にある。
「アレお客さん用に買っといたちょっといいやつだよー。今から使うから取ってくれる?」
「あぁ、すまん、見分けがつかなかったな。ちょっと待ってくれ」
 私じゃ台がないと届かない棚も、ビョルンなら軽々届く。こうやって取って欲しいって甘えられるのも、何かいいのよねぇ。
「ほら、コレだろ?」
「ありがと。見て見て、いつものとちょっと缶の色が違うんだよ」
「俺には同じに見えるなぁ」  
「違う種類なの!飲んでみてよ、味がまた違うから。ロルフも飲むでしょ?ブランデー垂らす?」
「いいねぇ」
 味覚はビョルンが大雑把だから、こういうのはロルフの方がわかってくれるのよね。
 全員分の紅茶を淹れて、それぞれに渡す。そしてビョルンを間に挟んでL字ソファの長い辺側に腰掛けると、彼がこちらをじっと見ていたのに気づいた。
「…仲がいいのだな」
「そりゃあまだ婚約状態だけど、いずれ夫婦になるんだもの。仲良くやってるわよ?」
「………」
 そう答えると、イスが沈黙する。表情が変わらないからわかりにくいけど、まさかこれって言い淀んでる?えぇ、怖い怖い。遠慮もへったくれもなく口に出しちゃうこの男が言いにくいことってなんなの?
 密かに戦慄しつつイスの言葉を待っていると、やがて決断したのか口を開いた。
「婚約者のいるお前に頼むべきではないのだろうが」
 ゴクリ。
「どうかお前の体を隅々まで、調べさせてほしい」
 …ん?
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