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中東系エルフ魔術師編

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「ありがとう、心配してくれたのよね。でもホラ、傷ひとつないわよ?ちゃんと防御の附術が作動したから大丈夫」
 よしよし、頭を撫でる。ロルフが背中に腕を回して来て、少し落ち着いたのがわかる。
「クソ、なんでそんな女のために、お前が…」
「私が庇ったのはロルフだよ。一般のお嬢さんを殺しちゃったら、さすがに衛兵が黙ってないわよ」
 荒くれ者同士の諍いなら、どうとでも揉み消せるんだけどねー。
「クソッ!…おいテメェら」
 ロルフが私から離れて、金パ娘と取り巻きを睨みつける。ワーヨカッタネー、憧れのロルフの視界に入れたヨー。極寒の眼差しだけどネー。怖いよー。
 いちおう死線を潜り抜けてきた私でもビビり散らすロルフの怒りを受けて、お嬢さん方は青ざめてガタガタ震えている。大丈夫か?そこでチビらないでよ?
「よくもウチの嫁に好き放題言いやがったな?ぶっ殺しても足りねぇぐれぇだが、今回だけはコイツに免じて見逃してやる。いいか、二度と俺たちに近づくんじゃねぇぞ?次に俺の視界に入ってみろ、命はねぇと」
「あーわわわ!」
 私は慌てて大きな声を出して、ロルフの言葉を遮る。ロルフ待って、それ脅迫になっちゃうから!
「なんだよ、オイ!」
「えーとね、お嬢さん方!あなたたちまだ未成年よね?ね?!」
 私の必死な様子に、震えていたお嬢さん方がぎこちなく頷く。
「ハイハイ!わかるわかる!未成年だもんちょっと暴走するくらいあるある!でもね、これに懲りたらワルそうな男を好きになるのはやめた方がいいよ!だいたい見た目通りロクでもねーから!」
 ロルフだって相当マシになったけど、元々とんでもねー自己中男だからね!
 バスケットからナイフを引っこ抜いて、取り巻き1に返す。
「壊しちゃったけど、謝らないよ。これは正当防衛だから。そちらから先に『攻撃』して、彼は自分の婚約者を『守る』ためにしたのよ。それは当然の行為だって、未成年でもわかるでしょう?」
 彼女たちは私を見たまま、コクコクと小さく頷く。
「あと、さっき彼が言ったように、迷惑だからもうここには来ないで。あなたたちの安全のためにも。言ってる意味、わかるかな?あなた達のいう『傭兵なんか』は、騎士様のようにお行儀よくはないのよ?」
 彼女たちが身を寄せ合って震え上がる。おっとこれ脅迫になっちゃうかな?なるべく遠回しに言ったつもりだけど。まぁいいや、言っちゃったことは取り消せないし。
「もし抗議があるなら、親御さんと一緒においで。大人同士で話がしたいから。ただし、そん時は大人同士だから容赦はしないよ?」
 彼女たちが親には告げず、大人しくなるならそれで良し。親に告げて、叱られるのもまた良し。娘の言うことを真に受けて、親が抗議に来ても全然良し。こちとら戦後処理で1年間海千山千と渡り合って来た猛者ぞ?皇帝でも引っ張り出して来ねー限り捻り潰してくれるわ!
「さて、状況をご理解いただけましたか?お嬢さん方。お帰りは、あちらですよ」
 手の平を下にして、追い払う仕草をする。
「道中、お気をつけて。『対するもの(コントラ)』が去ったとはいえ、まだまだ物騒な世の中ですからね?」
 なるべく声を低ーくして言ってやると、お嬢さん方は弾かれたように走り出した。おー、元気、元気。金パ娘も腰が抜けたかと思ったけど、真っ先に走って行ってるわ。なかなか健脚だな。
「あ、すみませーんお騒がせしましたー!」
 お嬢さん方の姿が見えなくなったところで、そこそこ集まっていたギャラリーに声をかける。気まずそうに去る人、ピュイっと口笛を吹く人、パチパチと拍手をくれる人、反応は様々だけど、概ね悪くはなさそう。
 その中の1人、中年の女性が「英雄さん!」と声をかけて来た。この人は近所の家の奥さんで、いつも顔を合わせると気さくに挨拶してくれる人だ。
「いやー、カッコよかったよ!さすが若くても傭兵団のトップを張るだけあるねぇ!」
「あはは、ありがとうございますー。ちょっと言い過ぎちゃったかな?って気がするんですけど」
「大丈夫大丈夫!あの子らこの地区が3番街寄りだからって、何かと下に見て来るしょーもないタイプの人間だけど、英雄さんに比べたら全然大したことないから!」
「あー、なるほどー」
 即入居できて職場に近いからって選んだ物件だけど、その土地それぞれのしがらみがあるのねぇ。
「それより見学の子達、迷惑じゃない?あたしから地区長に話しとこうか?」
 声を潜めつつ、奥さんが提案してくれる。地区長さんってのは、いま住んでる地区の顔役のお爺さんだ。入居時に不動産屋さんに紹介してもらって挨拶したきりだけど、そういえば地区長さんに相談するって手もあるのか。賃貸費用には地区内会費も含まれてるしね。
「うーん、でも、ご近所のお嬢さん方もいらっしゃるみたいなんで、あんまり大事にしたくないんですけどねぇ」
「それよねぇ。でも英雄さんたちに我慢させるのも、違うから。まずは軽く注意してもらうよう地区長さんに言っとくね!もし我慢できなかったら、強く言ってやればあの爺さん動くから!ちょっと腰は重いけど、動いたら頼りになる人だから、相談するんだよ!」
 そうやって捲し立てると、奥さんはピュンと走って行ってしまった。さっそく言いに行ってくれたのかな?ありがたや。
 さて、ギャラリーも減ってきたし、ボチボチ洗濯の続きをしないとね。
「ロルフはどうする?訓練続ける?」
「ん。まぁ今日は筋トレにしとく」
 筋トレなら目立たずにできるもんね。明日は私の出勤と一緒に傭兵団の本部に行って、そこの訓練所で思う存分訓練しようね。
「干す時手伝ってね」
「わかった」
 そうして黙々とお互いの作業をこなして、家に戻った。
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