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北欧系戦士兄弟編

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「あー、クソいてぇ」
 自分の首をさすりながら隣を歩くロルフを、私はジロッと睨みつけた。
「自業自得でしょうよ!あんなとこでヤ、ヤろうなんて…」
 周囲に人は少ないけれど、内容が内容だけに声を潜める。
 私たちが向かっている2番街の宿は、帝都の中でもそこそこ高級な店が立ち並ぶ場所にある。1番街はお貴族様のタウンハウス&御用達のお店、2番街は頑張れば庶民でも手が届く程度の高級なお店と高級住宅街って位置付けだ。ちなみに私たちの傭兵団本部がある3番街と、4番街は庶民の味方なお手頃価格帯のお店&住宅地、5番街はちょっとアングラな感じ、でだいたい分けられている。
 2番街は富裕層向けなせいか、3、4番街のような喧騒がないから大きな声を出すと目立っちゃうのよね。気をつけなきゃ。
「だからって雷撃くらわすか?ったく…」
「あれ一発で気絶する威力のはずなんだけどね。耐え切ったアンタが怖いわ」
 そう、私の部屋でおっ始めようとするロルフを止めるために、常につけている護身用指輪(雷魔法付与)を首に食らわせたのだ。死なない程度、でも気絶するかしばらく動けなくなるような威力に調節しておいたはずなのに、首に軽い火傷を負ったくらいでピンピンしている。幸い本気で嫌がってるのがわかったのか「萎えた」とか言って止まってくれたけど。なんなのコイツ。
「なに言ってんだ、こちとら大陸一の附術師が作った腕輪(各種耐性付与)を着けてんだぞ」
 ほれ、と右腕に嵌めたシルバーのブレスを見せられる。それ私が作ったやつ!!
「そうか、盲点だったわ…。次は相手の付与無視で直接効くやつ開発できるかな?でもそうすると諸刃の剣か。ハッ!いっそ強制的に勃たなくなる魔術とかないかな?世の女性のためにも!」
「お前、なんつー凶悪なもん作り出そうとしてんだ…。世の男のためにもやめてくれ」
「いやいや!望まぬ被害を増やさないためにも、必要じゃない?今度イスに聞いてみる」
「チッ、あの男か…」
 ロルフが不機嫌そうに舌打ちする。あー、魔術師全般嫌いだもんね。脳筋だからか致命的に反りが合わないらしい。それでもイスはサークルオブメイジの塔長を務めるくらい実力があるし、何度か共闘したこともあるし、嫌いだけど認めてはいる、という感情のようだ。
「お前よくアイツと連絡取ってんのか?」
「連絡?時々、用があればね。向こうも塔長になって忙しいだろうし、こっちも最近まで忙しかったから」
「ふぅん。ならいい」
 ……なんだ?
 そんな感じでぼちぼち話をしながらゆったりと歩く。わー、やっぱ2番街はオシャレなカフェとかレストランが多いなぁ。オープンテラスの席もあって、身なりのいいお嬢さん方やご婦人がおしゃべりしていたり、紳士が新聞を読みながら寛いだりしている。あ、男性1人と女性2人の組み合わせで食事してる人発見。男性2人と女性1人で腕を組んで歩いてる人も。アレが複婚カップルかな?意外と多いのかも。なんだか安心する。
 ふと、テラス席にいる2人組のお嬢さんが、こちらをチラチラ見ているのに気づく。こちらってか、まぁ、ロルフよね。背が高くて引き締まった体つき、美しく野生味のある顔立ち。見た目(だけ)は抜群だもの。若いうちは、ちょっとワルそうな男に惹かれちゃったりするよね。
 …おかしいな。前はそういうの別に気にならなかったんだけど。「お嬢さんー!コイツ顔はいいけど中身ヤバイよ!惚れるのは勝手だけど命を大事に!」って相手の心配してたんだけどな。
 何も考えずいつもの距離感で歩いてたけど。すいっと一歩、ロルフに近づいてみる。
「?なんだ」
「なんでもー」
 余所からの視線にもちろん気づいていて、不快そうに顔をしかめていたロルフだけど。私が距離を縮めたことで何かを察したのか、ニヤっと笑った。
「抱き上げてやろうか?」
「何でよ腕組むくらいにしてよ。てかアンタに抱き上げられるとか想像つかないんだけど。俵抱き?」
「なに言ってんだ、前にやってやったろ」
「はぁ?そんなことあったっけ?」
「任務中に奇襲受けて、お前敵の目の前ですっ転んだことあったろ。どこだっけな、スプリングバレー地方だったか?」
 スプリングバレー?政敵に狙われてる貴族家のご令嬢の身代わりで囮になった時のかな?なかなか敵さんが出てこなくて、休憩して馬車から出た時に襲われたのよね。
 慣れないドレスで足がもつれて、目の前に敵が迫って来たんだけど、飛び込んできたロルフが抱え上げて助けてくれて…。
「いやあれレンジャーロール!」
 しかもその後安全な方にポイって放り投げられたし!色気もへったくれもない!でもその節はありがとうございました!
 そうツッコむとロルフはくつくつと笑って、「そういやぁ思ったよか乳あったな」とかほざきやがったので、脇腹に肘を喰らわせてやった。全然効いてなかった。ちくしょうめ。
 そこから例の場所(考えたくない!)に到着して、ビョルンと合流。とりあえずどこかでランチを摂ることになった。ホッ。
「なんか食いたいもんあるか?」
「肉」
「肉」
 私とロルフがほぼ同時に答えると「気が合って何よりだ」と笑ってお肉の美味しいレストランを案内してくれた。
「よく2番街のお店知ってるね?だいたい3か4番街で食べてるのに」
「実はさっきの宿に何ヶ所か聞いておいたんだ。スマートに案内できた方がカッコいいだろ?」
 そう言って茶目っ気たっぷりにウィンクするビョルン。何コレ、カッコ可愛い過ぎん?
「うん、カッコいいよ?」
 そう答えながらビョルンの腕を取ると、ロルフが「うへぇ」とか言ったので腕をバシっと叩いておいた。私が甘い声出したら悪いかよ、ふん。
「もーとにかく肉!肉食べよ!いつもより遅いからお腹すいちゃった。ほらロルフ、アンタも!」
「あ?」
「腕。組まないの?」
「…おー」
 ちょっと間をおいて、差し出してきたロルフの腕を取る。セクハラ発言かましまくるくせに、なんでこんなことで照れるのか。…こっちまで照れるでしょーが。
 ニコニコしているビョルンと、照れてるロルフと、腕を組んで歩く。たまにチラッとこちらを見る人はいるけど、奇異の目って感じじゃない。ビョルン見てデカっ!か、ロルフ見てすごいイケメン!とか、あ、真ん中わりと地味…みたいな目線で、3人でのカップルだから変な目で見られるわけじゃない。そっか、別に珍しいことでもないんだ。法律上問題ないなら人目を気にする必要なんてないってわかってるけど。でもやっぱり、大多数の人から『異常』だと思われたりしたら、気分が悪いし不安になるし、なんだか自分が悪いような気がしてきてしまう。違う世界から来たって自覚があるから、ただえさえ自分が特異な存在だと思ってるし。元の世界の感覚も時たまぴょっこり顔を出すから、そっちの常識に引きずられちゃうこともあるのよね。だから複婚って変なことじゃないんだ、ってわかったらすごく安心してきた。

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