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北欧系戦士兄弟編

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 そこからまぁまぁの時間言い争って、ロルフに謝らせることに成功した。
「あーあー、俺が悪かったよ!これでいいんだろ!」
 めっちゃ投げやりな言い方だけど、いちおう謝ってるから許してやろう。
「わーすごい。私、ロルフさんが謝っているところ初めてみました」
「レーデルは粘り強いなぁ」
 褒められてるんだか馬鹿にされてるんだか。まぁ理不尽大王のロルフ相手に謝罪を引き出せたんだから、快挙ではあるかな。
 あー疲れた。ソファに改めて腰を下ろす。
「だいたいねぇ、なんでアンタがそんな怒るわけ?私が誰と結婚しようと、アンタにゃ関係ない話でしょうが」
 ビョルンならわかるけどね。私を好きでいてくれたみたいだし。
「……うるせェ」
 ふてくされてそっぽ向いてら。可愛くないったら。
「…まぁ、いいわ。シウ」
「はい」
「それ、ちょーだい」
 シウが拾い集めた釣り書きを指さす。秘書は自分の手元にあるものを見つめた後、私に目を向けた。
「よろしいので?」
「私のために調べてくれたんでしょ?よろしいに決まってる」
 はい、と手を差し出すと、ロルフが私の手首を掴んだ。
「レーデル、てめェ!」
「なによ」
「そんなもん、見るんじゃねぇ!」
「なんでよ。私と結婚したいって言ってくれてる人たちよ?興味あるじゃない」
「誰でもいいのかよ!このクソビッチが!」
「誰でもいいわけないでしょ?だから釣り書き見ようとしてるんじゃない」
「…ッじゃあ、その中から選ぶ気か…?!」
「さぁね?アンタに関係ないでしょ?」
「…クソッ、……クソッ!」
 私の手首を離さないまま、ロルフは反対の手で顔を覆っていた。うまく出せない言葉が、腹の中で渦巻いているのかもしれない。
「レーデル」
 ビョルンが、私を呼んで首を横に振った。
 …ちょっと、意地悪をし過ぎたか。
 ロルフを謝らせるための口論をしている間に頭が冷静になってきて、彼の言葉を思い返して、さすがに気づいた。多分ロルフも、私のこと好きでいてくれたんだろうなぁ。口を開けば暴言ばかりだからさっぱりわからなかったけど、まぁ、長い付き合いだしね。難儀な性格のせいで身近な女は私くらいしかいないし、そんなこともあるかもしれない。
 でもなー、うーん、ロルフかー。見た目だけで言えばこの辺じゃ群を抜くイケメンなんだけど、いかんせん性格がなー。友達付き合いなら、手がかかるけど憎めないヤツ、って感じなんだけど。中身アラフォー+αの身としては、恋愛相手としてはちょっとキツイかなー。
 さてなんて言おうか、今んとこハッキリと気持ちは言われてないから、このままなぁなぁでいけるかな?とか、わりと酷いことを考えていると。
 ロルフが顔を覆っていた手をグッと握りしめ、こちらを睨みつけてきた。
「…しろ」
「ん?」
「俺と結婚しろ、レーデル!」
「…ッえええぇ?!」
 告白とかすっ飛ばしてプロポーズ来ちゃったよ?!
 え、いきなりプロポーズもこの辺の文化なの?いや違うわビョルンはまず恋人って言ったよね?
 助けを求めて周囲を見渡すと、シウが顔を背けてブルブル震えていて、ビョルンは額を押さえてでっかいため息をついていた。役に立たん!
「結婚したいんだろ?俺としろ!」
「いやいや待って待って、結婚したいなんて言ってないでしょ?!」
「じゃあ結婚しねぇんだな?!これからもずっと!」
「二択しかないの?!いつかはしたいよ!」
「いつかだったら今でもいいだろ!」
「いやだよ突然すぎるよ相手は選ばせてよ!だいたいねーアンタみたいな粗暴なヤツと誰が…んぎゃッ?!」
 みなまで言わせてもらえず、ソファに押し倒される。逃げられないようにか、ロルフは右の前腕を私の胸にぐっと押し付け、左手で腰に佩いたナイフを抜き出す。
 ぎゃー!ナイフ抜いたぞこいつ!
「テメェ、さっき言ったよな?人の真剣な気持ちを踏みにじるヤツはクソだって」
 言ったっけ?!言った気がするねぇ!
 ピタリと喉元にナイフが当てられる。唇を寄せられ、凍えるような温度の低い声が、耳に吹き込まれる。
「俺の気持ちを踏みにじるんじゃねぇよ、シャーラ」
 こ、こ、怖ぁ~~~!!!
 略奪品の場所をペロッと吐いちゃった山賊の気持ちがわかるよ!これだけでチビリそうだもん!てゆうかこれもう逃げ場なし?!Marry or Dieですか?!
 どうしようもない状況に二の句を継げずにいると、ぬっと視界の端に影がかかった。
「待て、ロルフ」
 ビョルン、救いの神よ!
 ちょっとでも動いたらナイフで切れそうだから、目だけを向けて必死に訴える。助けてお願い!
 ビョルンはわかったというように頷くと、ロルフに向けて口を開いた。
「その結婚は、俺も入ってるんだろうな?」
 はぁ?!なに言ってんの?!
「兄貴…!決まってんだろ?兄貴なら夫の一人として文句はない」
「俺もだ。ロルフなら夫の一人として認められる」
 まってまって結婚承諾してないのに夫になってる。てか『夫の一人』ってなに?
 頭に疑問符を浮かべている私に気づいたのか、シウが声を上げた。
「お取込み中に申し訳ありませんが、ビョルンさん、ロルフさん。団長、複婚制度をご存じないのでは?」
「あ?そうなのか?」
 ロルフのナイフがちょっと離れたので、私はこくこくと頷いた。
「ふくこんってなに?」
「お互いが認めれば、複数の相手と結婚できる制度ですよ」
「はぁ?何それ、一夫一婦じゃないの?」
 今まで知り合いや友達が何人か結婚したのを見たり報告を受けたりしたけど、みんな1対1だったはず。
「確かに一般的には1対1が多いですね。公国には一夫一婦が厳密に決められているところもいくつかありますし。でも帝国法では認められているんですよ。前皇帝にも、3人の妃殿下がいらっしゃったでしょう?」
「えー、それは王様だからじゃなくて?」
「王に適応される法なら、国民にも適応されなければおかしくありません?」
 う、確かに。自分だけ特別!な法律じゃあ、国民から反発が起きそうだ。
「特に才ある方は、才能を受け継ぐ子供をたくさんもうけることが推奨されていますからね。団長のような現代の英雄と呼ばれる方ならば、4、5人は夫がいた方が世間体もよいのですよ」
「しっ、4、5人?!」
 まさかの逆ハーレム!!元の世界では逆ハーレム物の小説とか楽しんで読めたけど、いざ自分の身に降りかかってみると…。
「相手が多い方が、多様性のある子供が生まれるでしょうしねぇ」
 身もふたもない言い方!サラブレッド馬の繁殖かよ!
「ムリムリムリムリ!一人でいいわ!一人がいいわ!!」
 青ざめて首を振る私に、再びナイフがピタリと当てられる。ひぃぃ。
「てめぇ、この状況でそんなこと許されると思ってんのか?」
「そうだな。4、5人は無理でも、2人ならいいだろう?」
 いやよくないよ!2人でも多いよ!でも断れるような雰囲気でもないよ…。
 私は涙目で2人の男を交互に見る。
 ビョルンは穏やかな顔でほほ笑んでいる。でも、拒否は許さない目だ。
 ロルフは殺気に翳った目で私を睨めつけている。そしてゆっくりと自分の唇をなめた。興奮してやがる。てか腹になんか硬いの当たってるんですけど!サイテーだこいつ!!
 ここから抜け出す術は、少ないけれど思いつく。だけど、ああ、ちくしょう。
 私は他の可能性を全て遮断して、ゆっくりと、長い長い息を吐いた。

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