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北欧系戦士兄弟編

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 場所は変わらず、私室の居間部分。少し前までビョルンとちょっといい雰囲気になっていた気がするんだけど、今は極寒の空気が流れている。
 ここに存在するのは4人。何故かソファの上で正座させられている私と、仁王立ちのビョルン&ロルフ。そしてロルフの剣幕を見て慌てて駆けつけてくれた秘書シウだ。
 シウがこの空気を作った元凶な気がするんだけど、普通に立つことを許されている。解せぬ。
「…で?テメェの言い分を聞かせてもらおうか」
 口火を切ったのは、ロルフだ。
 彼はビョルンと故郷を同じくする弟分で、海を隔てて北の方にある『ノルレベク』という地から私達が今いる中央大陸へ、幼いころ一緒にやって来たらしい。ロルフの方が何歳か下なのは確からしいけど、正確な年齢は二人ともよくわかってないのだといつか聞いたことがある。ビョルンが30過ぎくらいらしいので、ロルフも30かその手前くらいと思っている。ビョルンより小柄だけど、それは彼がデカすぎなだけでロルフも180cmは越してそう。並ぶと私の身長ロルフの顎くらいまでしかいかないし。ちなみにビョルンに至っては肩にも届くか届かないかくらいですけど何か。体格はビョルンよりは細身だけどムキムキ。まぁ傭兵の実務部隊の連中は軒並みムキムキだけどね。
 顔立ちはビョルンと同じく北欧系だけど、こちらはやや女性的なキレイさのあるイケメンだ。明るい茶髪に灰色の瞳、もみあげ辺りを少し刈り込んだ背中に届くくらいの長髪。最近は三つ編みにハマってるらしく、複雑な編み込みをして後ろにまとめている。この二人に限らず『ノルレベク』出身の人は、元の世界のヴァイキングに似ている部分があって、細かく編み込んだり頭髪の半分を刈り込んでタトゥーと合わせたり、髪型に拘ってる人が多いのよね。ロルフは気分屋で器用だからよく髪型を変えてるけど。
 男性はヒゲを生やす人が多いけど、ロルフは自分のヒゲの生え方が気に入らないらしく、剃っていることが多い。目つきにやたら色気があり、ふとした流し目にハートを撃ち抜かれる女性も多いらしい。が、本人は女嫌いなのか寄ってくる女性はボロクソに罵倒するためモテない。いやでも誰が相手でもたいがい罵倒してるわ。なんなら私上司だけど現在進行形で罵倒されてるわ。タチ悪りぃなコイツ。
「言い分も何も、見合い自体に覚えがないんだけど」
「あぁ?じゃぁなんでテメェのクソ秘書野郎が見合いの釣り書き持ってやがるんだ」
 秘書の呼び名が長くなってる。主に悪い方向に。
「シウ?」
「はい」
 顔を向けると、できる秘書シウはさっと近寄って何枚かずつ綴じられた書類を差し出して来た。
 パラパラとめくると、まさに見合いの釣り書きって感じのものだった。名前から始まり、外見の特徴や経歴、精巧な似顔絵まで載っている。それが5、6人分。
「…なにゆえ?」
「そうですね、順を追って説明してもよろしいですか」
「うん、是非して。でも簡潔に早急に」
 じゃないと二体の猛獣に食い殺されそうよ!
「まず半年ほど前から、団長宛の求婚状が届くようになりました」
 え、求婚状?!私に?!
 人生でモテた試しがない私がそんな話を聞いたら舞い上がっちゃう!…が、ギュインと二人の男の殺気が膨れ上がり気分は墜落する。怖い。
「団長は現代の英雄の一人ですからね。夫の一人に加わりたい方々も多く、かなりの枚数が届いていたのですが…いかんせん、当時は別の案件で手一杯の状況でして。いちおう団長にもお伺いを立てたのですが、『わームリムリムリ!今もうこれ以上の業務は受け付けませーん!シウの裁量でできるものは片付けといてお願い!』と仰られたので勝手ながらこちらでお断りさせていただきました」
「ええっ!全部断ったの?勿体な…あ、イエなんでもないですごめんなさい」
 ロルフの眼光に殺されそう。怖い。
「団長、一度断っただけで諦めるような男は冷やかしみたいなものですよ。私は『戦後処理で多忙なため考えられない』旨を送りましたからね。諦めずに求婚状を再度送ってくる方もいらっしゃいます。そうした方は私の手の者を使って身辺調査をいたしまして、問題のない方をピックアップして団長へ提供できるよう情報をまとめておいたのです」
 わー、うちの秘書すごい優秀だな。正直求婚状の話なんて1ミリも覚えてないけど、半年前なら記憶失うくらい忙しかったからそんなこと言ったとしてもおかしくないよなー。
「で、なんでその情報をいま提供しようとした?」
 低ーい声のままビョルンが問う。
「それはもちろん、団長に結婚の意思がみられたからですよ」
 は?
「んぎゃーーーー!!」
 シウの発言を聞いた瞬間、ロルフが躍りかかって来た。釣り書きが宙を舞う。
 馬乗りになってソファに押し倒される。痛い!さすがに腹が立って体のそこかしこに仕込んだ護身用具(凶悪な効果を付与済)を作動させようとしたけど、勝手知ったるビョルンとロルフが手早く阻止する。味方がいないッ!
「てめェ、オレらを差し置いてどこのどいつと結婚する気だ?吐けェ!」
「いや知らんて!あんただって私に男っ気ないの知ってるでしょ?!」
「むしろ男っ気ばかりでは?ビョルンさんにロルフさんに、サークルオブメイジの塔長さんですとか」
「お前ッ!やっぱりあの男か!!」
「シウーーー!この裏切り者め!てかいつ結婚なんて言いました私?!記憶にございませんけど?!」
「おや、私は聞きましたよ?1週間前に部下の一人から結婚の報告を受けた際に、『結婚…いいなぁ…』と仰いましたよ?」
 ん?
 わちゃわちゃと揉み合っていたビョルンとロルフと私がピタリと止まる。
「正直、団長への求婚状は断るのがめんど…困難なお方からのものもありまして。結婚にご興味が湧いたのならこれ幸いと、まとめておいた情報をお持ちしたのですよ」
 面倒って言おうとしたなお前。まあでも、これでようやく繋がった。
 私から結婚のワードを聞いたシウが、お見合いの釣り書きを準備→ロルフがばったりシウに会い、釣り書きに気づく→私がお見合いを希望していると早とちりして、暴走する。
「ほらぁぁぁわたし悪くないじゃぁぁぁん!」
 ただちょっと、結婚に憧れ抱いちゃっただけじゃん!確かにあの時いろいろ思い描いたけど、途中で『あ、コレ欲しいの夫じゃなくて嫁だわ』って気づいて妄想終了したのよね。そんなのすっかり忘れてたし!わたし悪くないよ!
「あー、すまん。誤解だったようだ」
「チッ、紛らわしいことするんじゃねぇよ」
 ビョルンは素直に謝ってきたけど、勘違いの大元であるロルフはムスッとしてこっちが悪いように言ってくる。
「アンタの悪いとこ、そーゆうとこだぞ!すぐ人のせいにして!だから女の子にモテないんだぞ!ビョルンを見習え!」
 ちなみにビョルンは熊紳士なのでモテモテだ。よく女性…だけじゃなくたまに男性にも言い寄られている。その都度キッチリ断ってるみたいだけど。
「うるせー!どーでもいいヤツに言い寄られたってウゼェだけなんだよ!」
「はー?何様だこのやろー!人の真剣な気持ちを踏みにじるなんてクソだぞ!今まで暴言吐いた女の子や男の子達に謝れ!ついでに私にも謝れ!」
「誰が謝るか!」
 自分が悪くないってわかったから強気に行くぞ!ぜったい謝らせてやる!
「ついでなのか」
「論点がズレていってますねぇ」
 完全に傍観に徹している外野うるさい!

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