【R18】static禁断関係game

あらいん

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第2話 チュートリアル

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 002

 まるで雲の中に迷い込んだような白さだ。
 白い壁に白い床、白い天井は陽の光を透けさせているのか薄ぼんやりと光っている。
 長時間見ていると目が痛くなるような空間は、壁に窓らしき枠があり光が差し込んで影を落としていなければ部屋だと気付かないくらいに異常な造りだ。

 格子状の窓の向こうはまぶしい光で遮られていて確認できない。
 白だけのコントラストで出来上がった3Dレンダリングのような世界。
 俺はいつの間にか、その奇妙な部屋に立っている。

「冗談だろ神様」

 進路希望アンケートには異世界転生と記入はしたけど無記名だ。あえて名前は書かなかった。内容が内容だけに。
 だから法的効力皆無な上に、卒業後の進路希望であって今すぐなんて書いちゃいないぞ? 今すぐにでもあればいいなとは思っていたけど。
 出来ることならやり直しを要求したい。
 クーリングオフはどこに連絡すれば良いんだ?

 ……いや、とにかく落ち着こう。

 ここが異世界だなんて妄想はこれくらいにしよう。
 うん、あれだ。
 俺は多分一華姉から貰ったゲンコツで気絶をしたのだ。
 夢オチなんてくだらない結末で大変申し訳ない。

 ゴツンとゲンコツが落とされた。

「おい、真二」
「真くん?」
「真二くん」

 姉三人が後ろにいた。
 やれやれ神様。内密だけど俺が異世界に行きたい理由というのを察してくれていないのか。
 異世界転移に出来れば顔を合わせたくないと願う姉三人同伴とはまたやりにくいことこの上ないな。というかここが何処なのか不明だけど場所が変わっただけで状況に変化がないぞ?

 変えたいのはその状況だというのに。

 これじゃあ例えこの場所が異世界でも美女や美少女とエロエロ三昧なんて実現するとはとても思えないんだけど!

「何をたわけたことを口走っている?」
「真くん、そういう事は結婚してからじゃないとダメなんだよ?」
「ひくわー」

 うん、あれだ。
 見知った顔に再会できて擦り切れそうだった精神状態がリバウンドを起こしただけです。だからそんな物騒で心配そうで呆れたような目で見ないでください。泣いちゃいそうです。

 だが上手く反応を返せない。
 残念ながら俺の視界も心も想像以上に不可思議な白い世界に飲まれている。

 一華姉は俺の態度の怪訝さに首を傾げる。
 芹香さんは周囲の異常さに気付いたのか両手で口を押さえて呆然としていた。
 詩はストレッチを始めていた。なんでだよ。

「……おい、真二。ここは何処だ?」
「真くん……」
「ねぇ……服がないんだけど。どうして私だけ下着なの?」

 それはお前が恥という言葉を知らないからだ詩。

 顔にかかっていた黒い艶やかな髪を気怠げにかき上げた一華姉は、切れ長の瞳で俺を睨み付けた。
 ここが何処か。俺の方こそ先に生まれたあなたに教えてもらいたいよ。
 一華姉は力なく首を振る俺を見て眉を寄せ、全男子生徒と一部の女子生徒が憧れる魅惑の赤い唇を噛む。

「一華先輩、私たち家にいましたよね……」
「ふむ。まあ慌てるな芹香。いま状況を確認中だ」
「は、はい」

 芹香さんは不安を隠せないのか俺と一華姉に身体を寄せてそのままステイだ。
 本当に二人の関係は昔から変わらないな。

 白い世界で唯一外界に繋がっている窓に顔を向ける。
 一華姉が手を顔にかざし、全く迷いのない動きで眩い光を乱反射させる窓に近づこうとした時に、ジジっという音が聞こえた。

 テンプレートなら召喚した異世界の住人との邂逅だ。
 様々なパターンを想定して不測の事態に備える。
 まずは定番通りに何故か言葉が通じると良いな。
 庶民的な願望で申し訳ないけど。

「110番かな、119番かな? あ、でもスマホはリビングにおいたままだったよ」

 オロオロしているかと思えば妙なところで冷静だな。
 芹香さんの言葉を聞いてポケットを確認する。

 スマホどころかか財布もない。鞄もない。
 どうやらチートはお預けらしい。
 半裸の詩には何も期待はしない。

 真っ先に調べていたのだろうか、一華姉は耳を澄ませて足を止めたまま悠然と腕を組んで何やら思考中だった。

 しばらく待っても何も起きず誰も来ない。

「目が痛い」

 詩が目を押さえて呻く。
 白い世界というのは目に刺さるな。

 どうやら経緯は特殊で分かりづらいが、贔屓目に見て俺たち四名は、場所はともかく拉致監禁されたらしい。

≪ゲーム会場にメンバーが揃ったことを確認いたしました≫

 突然、部屋に声が響き渡る。
 抑揚がどこか独特の合成音声だ。ボカロか? なんとなくしましま柄の詩を見てしまったのはご愛敬だ。

≪ただいまよりチュートリアルを開始します≫

 それが始まりの合図だった。

≪尚、この放送はライブではないため、ご質問等はお受けできませんことをあらかじめご了承ください≫

 何か声を上げようとする詩を一華姉は手で制する。

≪また、チュートリアルは今回のみとなります。聞き逃しのないようにご注意ください≫

 危ないところだった。
 お互いが息を殺して目配せしあう。
 気心の知れた集まりで何よりだ。こういう場合往々にしてヒステリックに悪態をついたり泣き出したりして事態をややこしくする奴が現れる。
 そして最初に命を落とす。

 この意味不明の拉致監禁劇がどんな展開を望んでいるのか不明だが、初めの一歩でつまずくことは回避できた。

≪それでは、改めましてチュートリアルを開始します。まずはお手元のタブレットをご覧ください≫

 白い床に誰も気付かない内にB5サイズのタブレットが鎮座していた。
 一華姉が眉をひそめて拾い上げる。

≪現在あなた方は約100キロの広さのある森に建てられた建物の中にいます≫

 タブレットに映された緑色の地図上で白い光が点滅する。
 画面一杯が緑色なので地図としては役に立たなさそうだな。

 タブレットには、日頃見慣れた電波を示すマークもバッテリー表示もない。
 今回のために作られた特別製らしい。それだけで金がかかっていると言うことが分かる。感心より呆れが強い。
 手間のかかることを。

 だが、時間だけは表示されていた。
 午後を示す13:38。

≪建物の広さは80平米。少しゆったりとした3LDKクラスです≫

 ただの四角の箱の中だから表現としてはワンルームだ。キッチンもない。

≪今後はこの場所を家と呼称します≫

 一区切りずつ。声は説明を続ける。
 さすがに不安になったのか耳を澄ませている詩がいつの間にか近付いていて、俺の服をつまんでいる。下着姿だからこの良い匂いは素肌からなのか。女子の七不思議だな。
 ま、これくらいは許してくれよ、友也。
 一華姉が責任を持って元の世界に帰してくれるから。
 隣では眉をしかめた一華姉に眉尻を下げた芹香さんがくっついている。

≪家を中心に10キロ離れた場所に出口を用意しています。ただし、方角は不明です≫

 点滅する光りを中心に赤い円が描かれる。
 10キロか。徒歩で3時間強。

≪出口を見付け触れることでゲーム攻略となります。その時点で元の生活に戻ることが可能です≫

 再三聞こえてはいたが、この拉致監禁劇がゲームと認識できた。
 少なくともゴールが有り、終わりがある。元の世界に帰還することも可能なのだ。ほっとする。いわゆるひとつの脱出ゲームという奴だ。

 なるほど。この赤い線上を歩けば脱出が叶うと言うわけか。

 だけど、だとすれば疑問が残る。

 最大で約60キロの探索だが歩きづめで20時間。
 いや、常識的に計算すれば、夜は身動きを取れないし、何かと明言されていない目標物を見逃す危険性があるから、日の出ている時間を使用して2日。
 同様のタブレットが各自に手に入りGPSが搭載されていれば、四人で手分けをすれば半日もかからず見付けることが可能で、それほど難しいミッションではない。

 簡単すぎる。それが疑問だ。

 もちろん、これだけ摩訶不思議で大がかりな舞台を設えて、そんな簡単な試練を用意するわけはないだろうな。

≪ただし、森には凶暴なモンスターが放たれていますのでお気をつけください≫

 森に赤い点が無数に表示された。
 ほらな。
 半日どころか数分も森の中にはいられない数だ。

 だけど、なんだろう。刀の一本もあれば野生の動物くらいなら一華姉が屠りそうな雰囲気がある。
 だからだろうか、それほど悲壮な雰囲気には陥らなかった。

 過大な期待を背負わせて申し訳ない限りだが、責任は無駄にオーラを放っている一華姉に帰結している。

≪また、ご希望の方のために救済措置を設けさせていただきました≫

 徒手空拳で特攻をさせるつもりはないらしい。

≪お手元のタブレットをご覧ください≫

 タブレットの画面が切り替わり現在のポイントという文字が白く浮かび上がる。

≪ポイントを使用して商品を購入することで、このゲームを有利に進めることが可能となります≫

 ネットショッピングだ。様々な役に立ちそうなアイテムが表示され、武器や防具の他にスキルだなんて物まである。
 きましたテンプレート。

≪現在のポイントは0ポイントです≫

 ぬか喜びをさせるところまでテンプレートか。
 最初はお試しに何点か付与しておく物じゃないか?
 まあ、初っぱなからチャージが必要ということか。

 これはRPG風に言うならモンスターと戦ったりクエストをクリアすることで経験値かポイントが得られるという仕組みだな。

 こんな時になんだけど冒険活劇に夢が広がりワクワクと胸が躍る。
 ただし同時に嫌な予感もする。

 こんな性悪な企画を思い付くやつの考えるポイントチャージなんて碌な物じゃないとしか思えない。
 お互いの疑心暗鬼を煽るような悪辣な無理難題を吹っ掛けて、モニター越しに高笑いでもしている、そんなくそったれな場面しか思い浮かばない。

 同様のことを想像しているに違いない一華姉は剣呑な目付きでタブレットを睨み付けていた。

≪ポイントチャージの方法は――≫

 息を飲む。

≪セックスとなります≫

 ほらな。
 ……、……、……。

 え? ちょっと待って。ホント、待ってくれ。何て言った? いま何て言った? 俺の聞き間違いか?
 日常会話では聞き慣れない、だけど、良く目にする言葉だった気がするが。

 周囲を確認するとポカンと皆が同じような顔で口を開けていた。

≪セックスはしっかりと膣内に射精するまでをセックスとします≫

 なんだその家に帰るまでが遠足ですみたいな決まり事は。
 あまりセックスセックス言わないでくれ。
 性教育はあまりすすんでいないお国柄なんだよ。

 一時停止機能なんてない。最初に宣言されたようにリピート機能もない。
 だが、聞き間違いでないトンデモなチャージ方法が宣言された。

 ピー音で消されても困るが、卑猥な言葉に顔を赤くしたりいずれ訪れる事態を想像して青くしたり、三人の反応は様々だ。

≪他の部位を使用した射精につきましては、別途のポイントとなりますのでご注意ください≫

 タブレットに卑猥な内容の白い文字が浮かぶ。

 セックス(膣内射精) → 10ポイント。
 口内射精、アナル内射精、乳房内射精 → 2ポイント。
 その他部位射精 → 1ポイント。

 これはもう本番以外はおまけですみたいな適当さを感じる配点表だな。
 アレだ、男の射精=ポイントと言うことだ。
 倍率が違うのはそれを何処で出すかの違いだけ。

≪また、日を跨いで連日の同じ相手とのセックス及びポイントチャージは無効とさせていただきます≫

 一人を生け贄にすることを防ぐためか?
 同じ相手って、男は俺しかいないんだが?
 いやいや。
 つまりこの救済措置とやらに頼るということは、最低でも二人とのセックスが確約されることになる。

 ここで俺はどんな顔をすればいい?
 こんな場面でゲスにニヤつけるだけの厚顔さを持ち合わせていない俺は。
 だれか模範解答をカンニングさせてくれ。

 だって考えてもみてくれ。ここに集まったメンバーの顔ぶれを。
 副担任で人妻の実の姉に、兄嫁という立場の義理の姉、その妹だけど義姉で親友の彼女だぞ?
 これなら赤の他人がいた方が何百倍もマシだ。

 希望通りに美女や美少女とエロエロ三昧が用意されているけど何かが違う。
 神様、チェンジは可能ですか?

 二度と現世には帰還できないというなら割り切りもできるだろう。
 だけど帰還前提。関係は継続して変わらないんだ。出来るか! そんな不埒なこと。

 だれと関係を持ってもハズレじゃないか!

 ほらみろ。皆、一斉に俺から目を逸らしたよ。
 詩もさりげなく体を離して距離を取っている。

 救済措置とやらは使わない方向でお願いします。
 使わなくてもなんとかなる難易度であることを祈るしかない。
 主に一華姉の頑張りに期待をかけます。

≪最後となりましたが、召喚されたプレイヤーの元世界での社会復帰を円滑に進めるために、ゲーム会場での時間経過は約1000分の1に短縮されます≫

 いやいや、円滑に進めたいならチャージ方法の方こそ見直すべきだろうが!
 ここで誰かを抱いて以前と同じ生活に円滑に戻れるか!

≪おおよその計算では、ゲーム会場での3年が元の世界の1日となります≫

 3年過ごして1日とか、なにその特殊相対性理論。あ、逆か。
 問題は時間じゃない。
 いや、もちろん、社会復帰するためには必要な措置だろうけど、そうじゃない。

≪以上でチュートリアルを終了します。この時をもちましてゲームスタートとなります。皆様の健闘を祈ります≫

 終わるな! 祈るな! 待てコラ!

 張りつめた雰囲気を残して声はあっさりと消えた。
 責任者がいるなら呼んで欲しい。
 あとこの空気を攪拌できるクリーンキーパーもな!

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