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第34話 ??日目 エピローグ後半
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その後のことを少しだけ話そうと思う。
「狭間様、この度は誠にありがとうございます」
王城にある最早見慣れた客室で優雅に高そうなティーカップを傾けていた王女殿下は、呼び出しに応じて馳せ参じた僕を見て開口一番にそう言った。
はて? なにかお礼を言われることなんてあったかな?
覚えもないし思い出せない。
随分と慌ただしく日々を過ごしていたから、王女殿下と顔を合わせるのも久しぶりだし。
お座りくださいとお許しを得て、ソファーに腰掛けてから問うように王女殿下を眺めてしまう。
少しカットされた栗毛色の髪は編み込まれずに下ろされているから、雰囲気が違って大人びている。
王女殿下は僕の視線に気付いたのか、はしばみ色の大きな瞳を細めると淑女らしく穏やかな笑みを浮かべた。
なんてドキドキする魅惑の微笑み!
漢なんて女性の微笑みひとつで誑かされるかわいそうな生き物だと実感させられる。
基本真面目な性格だけど茶目っ気が多いのが玉に瑕。娼館都市の至宝は本日も美しい。
華奢な身体に羽織られた色彩控えめなカーディガンがとても良くお似合いです。
出会った頃に比べると身体の線がより一層女らしく成長している。
女子って本当に成長が早い。
顕著に大人感が表れているのは、たっぷりと育った豊かなバスト! 清楚な服装なので肌の裸出は少なめだけど自己主張の激しい巨乳はまったく隠しきれていない。
大きくなったのは身体の成長だけが原因じゃないから余計に滾る。
「……ジロジロと不躾に殿下を眺めるな、痴れ者が!」
途端に舌打ちが飛んできた。
王女殿下の背後には、仏頂面の白い軽鎧が凛々しい護衛役のユリさんが仁王立ちだ。
2人の醸し出す雰囲気の違いが、コントラスト対比になっていて喜劇っぽいな。
「……本日狭間殿を呼び出したのは他でもない。この度、王女殿下のご懐妊が確認された」
ジロリと青い瞳で睨まれる。
ユリさんの苦々しい口調で語られた不意打ちに少しだけびっくりした。
王女殿下に目を向けると唇の端だけ微かに上げて澄まし顔だ。
いつも不機嫌なユリさんが、輪をかけて不機嫌なオーラをまとっている理由が分かってしまった。
「それは……おめでとうございます」
「お見事です、狭間様。何度でもお礼を言わせてください」
だからお礼を言われたのか。納得納得。
王女殿下はにっこりと笑う。随分と大人のお顔になったというのに、悪戯が成功した時の子供みたいに無垢な表情に癒やされます。
「な、なにが、おめでとうだ! 2年前にオークの呪いを解くために、殿下が仕方がなくお前の子供を身籠もった事は責めはしない――」
そんな事もありましたね。とっても懐かしい。
僕たちが異世界に転移してから既に2年の時が流れたんだな。時が経つのは早いものです。
「だが! どうして殿下がお二人目を懐妊するのだ?」
それは、まあ、二人目が出来てしまうような事をしたからです。
「1人目もお見事でしたよ、狭間様」
いや、お見事なのは一撃必中のオークの催淫効果だと思う。
たった1回のエッチで見事に妊娠を果たした王女殿下から、喜びの訪問を受けた時は色々な方々の視線がとっても痛くて針のむしろでした。
特にエリーさんの目が痛かった。
連日イチャイチャしていたからね!
「貴様、王女殿下に対する狼藉、もちろん覚悟は出来ているのだろうな?」
「覚悟なんて悟りを開く勢いで、現在進行形で毎日していますけど?」
だって、今回の王女殿下の2人目の希望は「オークに惑わされた女の私を仕方なく慰めた結果にできた子供なんて将来虐められては可哀想です」という理由で所望されたし。
王女殿下がオークに一時的に攫われた事については箝口令を敷いているのだから、口さがない噂なんて口にする不敬な人はいないと思うんだけどね?
まあ、つまり王女殿下の意思の下に2人目が生まれることで、1人目も愛し合って生まれたんですよとアピールしたいという思惑だった。
本音を聞くと、「女として生まれたのですからもっとエッチな事を体験してみたいのです」という好奇心が旺盛な思春期の少女みたいな理由だったので、墓まで持って行く類の話だ。
娼館都市の王女だけあって、性に対する渇望は大きいのです。
生涯でセックスしたのは1回です。というのは王女殿下からしてみたら生殺しに近い拷問だったらしい。
「狭間! そこになおれ!」
「えー、だったら同意の下だから王女殿下も同罪になりますけど」
今にも抜剣して斬り捨て御免にされそう。
「殿下を愚弄するつもりか? 貴様が王女殿下の弱みにつけ込んで無理矢理関係を迫ったのだろうが!」
「どちらかというと弱みにつけ込まれて無理矢理迫られたのは僕の方ですけど!?」
王女殿下はじゃれ合う僕とユリさんに堪えきれずにくすくすと笑う。
ユリさんの目を盗み、こっそりと逢瀬を繰り返して出し抜いたことが楽しくて仕方がないご様子だった。
相変わらずのお転婆ぶりに溜息が漏れる。
オーク事件で外出もままならなくなった王女殿下と、ユリさんの隙を突いて王城内部で何度も愛し合ったスリリングな体験は思い出すだけでも興奮モノでした。
いやまあ、ユリさん以外にはきっとバレていたと思うけどね。
そもそも、子供まで作ったのに中々2人の仲を認めないユリさんの頑固さが発端なんだけど、そろそろ自覚をして欲しいよ。
未婚の王女殿下が妊娠でスキャンダル! とはならないのが娼館都市だ。
1人目の妊娠が発覚したときに王女殿下から聞かされた話はこうだった。
「娼館都市は代々女が統治してきた街ですので、たとえ私の子供の父親だとしても狭間様には何も権限は与えられません。また、内緒にしていましたが王家の女は結婚をいたしません」
色気たっぷりの女王様にはお会いしたけど、王様と顔を合わす機会がなかったのは特殊な制度なせいだった。
元々未婚で子供を産むことが当たり前。
僕としても、お務めが終了すれば元の世界に戻る予定ですので好都合でした。
それだけを聞くとヤリ逃げする漢の風上にもおけない奴だと思われそう。
「ユリ、そろそろ狭間様に失礼ですよ?」
罵詈雑言が炸裂して国外追放の話が出た所で、やれやれと溜息をついた王女殿下はユリさんを止めてくれた。
「それに、ユリも2人目が出来たのでしょ? おあいこだと思うのだけど?」
「そ、それは! それはこの男が城に来る度に私を弄んだ結果です、殿下!」
娼館都市式王族風のおもてなしをこちらから要望したことは一度もないけどね?
王女殿下と同時期に僕の子供を妊娠したユリさんだけど、その後も僕専用のご奉仕係として役目を立派に果たしていた。大きいお腹で僕を睨み付けながらご奉仕する姿は感動モノでした。
そうかー。ユリさんもご懐妊なのかー。
お城に来る度にもてなされてセックスしていたから、できちゃうよね、うん。
もちろん、ユリさんが嫌なら「おもてなし」をしなくていいと説得はした。
始まりが誤解だったからね。
「……来客にもてなしをしない王家と吹聴して恥をかかせるつもりなのか?」
なんて凄まれて拒否された。
じゃあ別の人に代わって貰ってもいいですよと要望を伝えてみる。
「……他の女性がお前の毒牙にかかるのを見逃せと? 騎士としての矜持が許さぬ!」
決して譲ろうとしない良く出来た頑固者なのだ。
「嫌がっている素振りですけど、ユリは結構狭間様のことを気に入っています。……目の前で見せつけられて癪ですから、私も狭間様に愛されたいのです」
以前そんな風に王女殿下からこっそりと教えられた。
献身なのかツンデレなのか本人に問い質しても素直に吐くとは思えないけど、王女殿下と密会をする理由のひとつになっていたのだから本末転倒も甚だしいです。
護衛としては如何なものなの?
「ユリさんも、おめでとうございます」
「ひ、他人事のような口ぶりを! もはや堪忍袋の――」
「ユーリー?」
「……はっ。申し訳ございません殿下」
僕の子供を妊娠した女性が現れても、もう驚かない。
毎日覚悟を決めて噛み締めている内に麻痺してしまったから。
「ユリさんとの子供がまた出来て、僕はとっても嬉しいですよ?」
「――! ――! そ、そのような事で……懐柔されたり……しない」
「さあさあ、狭間様がいらしたのですから、いつものようにおもてなをしなさいな?」
「くっ、かしこまりました」
お顔を真っ赤にしてスカートを脱ぐユリさんは、文句なく可愛らしい。
いつも以上に情熱的で丁寧なおもてなしは、とても気持ちの良いものでした。
「……まったく、どれだけ出すのだ……もう妊娠の心配がないからといって」
2人共、元気な赤ちゃんを産んでくださいね。
*
武器と防具のお店の若妻店員さんとの不義? の関係は続いている。
2年前にお店に行った時に、僕の子供を産んでくれませんか? とお願いしたのが発端だ。
「あらあらまあまあ、それってもしかして托卵というやつなのかしら? 主人の目をごまかして新人さんの赤ちゃんをこっそり仕込んで育てさせるつもりなのね?」
僕の申し出が琴線に触れたのか、若妻店員さんのノリは最高潮だった。
その日の内に早速カウンターの陰で子作りエッチ。
うねるような腰使いに翻弄されて中でたっぷり出してから、急展開についていけなかった頭の中で浮かんだ疑問を口にする。
「避妊の加護を解除しないと、妊娠しないんじゃないですか?」
「うふふ、加護なんてないから大丈夫よ?」
え? あれれ?
あ、そうでした。
若妻店員さんは人妻だから加護がなくてもおかしくない。
今でも若妻店員さんの旦那さんが、本物なのか演出なのか分からないけどね。
だけど、享楽と商売と豊穣の女神様の避妊の加護もないのに来店するとエッチなサービスを受けていたんだけど?
本番行為はなかったけど、きわどい場面は幾度かあった。
もしかして年季は開けて引退してるの?
性的な接待は趣味の領域で、単に好きでやっているだけなのかも。
怖くて聞いてはいけないことのような気がしたからつっこまない。
思い返せば、綾小路と佐藤を連れてきた時に若妻店員さんのエッチなサービスはなかった気がする。
人目を忍んでお店の中でスリル満点な子作り行為を繰り返し僕の子供を身籠もった若妻店員さんの行いは、趣味とかお仕事の域を超えていた。
なんにしても、不倫や裏切り行為という背徳感に燃える困った性癖なんだと思う。
*
魔物との戦いで何度もお世話になったスケスケシスターズにも治療中にお願いしてみた。
「は? 怪我ばっかりのあんたなんかの子供なんて生むわけ無いでしょ!」
にべもない。ちっこい方のシスターには鼻で笑われて歯牙にもかけられなかった。
ちょっぴり期待したナイチンゲール症候群はなかったか。
「私は、年季も開けていますし大丈夫ですよ?」
意外にも長身シスターさんは快諾してくれた。
ぬるぬるする液体をたっぷりと塗り込まれて、治療か性的マッサージなのか不明な行いの合体中に、あなたの子供を産んで差し上げますとニチャニチャ音を立てて腰を振られただけであっという間に昇天させられました。
魔物討伐で僕たちの名が売れ始めていたこともあったのだと思う。
英雄の子供を身籠るのは神に仕えるものとしての責務なのかも。
さすが、丸出しの女神様の元に集うシスターは貫禄が違う。
「ちょ、あんた年季開けてたの!?」
「ええ」
「じゃあ、どうして仕事を続けてるのよ!?」
「だって、あなたとお仕事をしていると楽しいから」
「バ、バカじゃないの!?」
照れてる照れてる。
その後、なんやかんやがあってちっこいシスターさんも巻き込まれ、2人は僕の子供を身籠もってくれた。
小さい穴を広げられたちっこい方のシスターは、加護のない膣内で精液を受け止めると悦びに似たような身体の痙攣を返してきた。
うん、感無量。
放心状態で僕と目が合うと途端に口元を拭いながら慌て始めた。
「仕方なしよ! 勇者の血を残すのも神の僕としての義務よ! こ、これはあれよ、神託がおりたのよ!」
《……おかしいですね? そのような制度はありませんが》
まあまあ、恥ずかしがり屋のシスターさんの心情をご理解してあげてください。
*
「ニャー。ニャーに子供を生ませたいニャら発情期まで待つニャ」
師匠は拒否じゃなくて保留だった。
躊躇がないけど、昼間になったら小さくなるから身体に負担じゃないのかな?
いやいやその前に、小学生くらいの女子がハラボテとか倫理的に許されるのかな?
「ニャーを発情させるようニャ漢にニャるニャ! 特訓ニャ!」
後で知った事だけど、師匠の種族には発情期が定期的に起こるご都合設定じゃなかったみたい。
だから未だに特訓は続いています。くすん。
*
「私、狭間くんの赤ちゃん生む……」
「……なお、本当にそれでいいの?」
そんなにお金に困っていない暮らしだと思うけど、立花は生活費を借りるという名目で毎週のように、すっかり僕が居付いてしまった宿屋を訪れた。
その度に僕に身体を買って欲しいとエッチに誘われる。
何故か、決まって各務も参加をするから3Pが基本。
友情の発露だとしても行きすぎてる感は否めない。
たまにお嬢も参加するし。宿屋と言うよりヤリ部屋だった。
挙げ句の果てに子供を作る僕に同情したのか、そんなことを言い出した。
僕に恋しているという各務の言葉に真実味が滲み出る。恋は盲目。
一生懸命に各務は説得を繰り返していたけれど、どこで仕入れてくるのか次々と僕の子供のご懐妊話を聞きつけて、悲しそうな顔をする親友に心が折れてしまったらしい。
「もう! もう! わかったわよ! だったら私も狭間の子供を産むわよ!」
何故、各務まで分かっちゃうの!? あと、どうして各務まで子作りしちゃうの?
「し、仕方ないでしょ! 幸人は私だと勃たないし……キモオタなんて死んでも嫌だし! 私だってノルマがあるんだから!」
せっかく女子は免除したのに。
「別に子供を無理に産む必要はないんだよ?」
「あんたしかいないのは消去法だからよ! どうかと思うけど、なおに付き合うわよ!」
子供は生まれても、置き去りにしちゃうわけだし。
僕たちは元の世界に戻ってやり直せても残された子供は母親を無くしてしまう。
帰りづらくなる。
「……ハル、私が狭間くんの赤ちゃん二人でもいいよ?」
「いいから、なおは黙ってて!」
各務の瞳は燃えていた。
「やり直せるんだから、私が他の男の子供を妊娠して幸人を追い込むの! 私の大きくなったお腹を見せて、逃した魚の大きさを思い知らせてやるんだから!」
完全に当て馬だった。
当て馬相手に妊娠までするのだから本気の度合いが明後日の方向を向いていた。
結局2人も僕の子供を妊娠した。若いって素晴らしい。
同級生を妊娠させるというシチュエーションに実は結構萌えました。
しかも親友関係の2人。片方は頑なに破局を認めないけど彼氏持ちだ。
燃えないほうが男としてどうかと思う。
ベッドの上で下になった各務は「出した……本当に出来ちゃうのに、中で出した……信じられない……」と、女神様の配慮で手にしていた避妊の加護を解除した無防備な身体で僕を受け入れた時に躊躇しまくりだった。
立花は僕が中で放つ間、強く身体に抱きついてずっと潤ませた大きな瞳で僕をみつめていた。
無口な彼女の目は人より物を言うから、多分「……いっぱい出してくれて嬉しい。きっと受精する」なんて語っていたんだと思う。はい妄想妄想。
その後、妊娠を告げられた綾小路がどういう反応をしたのか聞いてはいないけど、最近になって立花が2人目を妊娠した結果、各務も2人目にチャレンジする気になっているから効果は薄かったのだと思う。
2年目で元の世界の帰還条件を果たすことが適ったけど、結局みんなで話し合って僕たちの子供が成人して独り立ちするまでは異世界に残ろうという結論に達した。
まさに酒池肉林の波乱万丈な異世界生活はまだまだ続く。
今なら自信を持って言える。
娼館都市で、僕は漢になれたと思う。
*
おまけ
「……お姉ちゃん、僕くんが子供をたくさん作ってるって聞いたんだけど」
宿屋に生息する享楽と商売と豊穣の女神様は恨めしそうに僕に愚痴る。
「……どうして、その中にお姉ちゃんが入っていないのかな?」
子供みたいに分かりやすく頬をぷうと膨らませた、女神様が変なことを言い出したぞ!?
「というか神様って、子供作れるの?」
《……理解不能です》
……いや、そうじゃなくて。
物理的なお話です。
《……できるんじゃないですか?》
なんか投げやりだなぁ。
「……じゃあ、世界の声を担当する声の人は赤ちゃん産めるの?」
《埋めますよ?》
文字にしないと伝わらない回答だった。
びぃー!
けたたましい音が頭の中で鳴り響く。
どうして防犯ベルなんて常備してるの!?
ちょっとした小粋なジョークなんだから、本気にしないで!
やっぱり僕はまだまだ子供なのかもしれない。
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