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第24話 12日目 朝 切り替えて参りましょう
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半裸で寝相悪く隣で爆睡していた師匠にそっと布団をかけると、昨日、王女殿下に請われた件を反芻しながら道場を出る。
「……さて!」
朝日がとても眩しくて爽やかな空気で体も軽い。
結局昨晩は、宿屋に潜伏していることが発覚した享楽と商売と豊穣の女神様に聞きたいこともあったけど、そのまま師匠の道場に泊まらせてもらった。
無断で稽古をサボってしまったので一度顔を出しておかないと、気まずくなってずるずるとフェードアウトしてしまいそうというのが理由だったけど、師匠の拗ねたみたいな態度に絆された形。
昨日、お城からの帰り道に恐る恐る道場を覗き見ると、広い板間の上で三角座りをしたちんまい師匠の姿があった。
その小さくまとまった雰囲気はまるで見たまんまの捨てられた猫みたいで、胸が締め付けられるような思いだった。
「……師匠、稽古をさぼってごめんね?」
そっと声をかけると、ピンと耳と尻尾を立てた師匠は元々丸い瞳を更に丸くして僕を見ると、すぐにフンと鼻を鳴らした。
「……ニャーの修行をサボるニャんて度胸があるニャ!」
しまった。言葉のチョイスを間違えた。師匠に攻撃される燃料を投下してしまったよ?
夕日を受けて朱色に染まるちんまい師匠の猫パンチを甘んじて受けながら、仕方なく素直にもう一度ごめんなさいと頭を下げる。
「聞くニャ少年、修行は1日サボると取り返すのに1年かかるニャ!」
どこかで聞いた有名な言葉だけど、師匠、それもう取り返しがつかなくないですか?
心配をかけたのか、寂しかったのか真偽は不明だけど、立ち上がって腰に手を当てたポーズは元気溌剌だったからホッと胸をなでおろす。
紹介してくれたエリーさんの顔に泥を塗ってしまう訳にはいかないから機嫌が直って何よりだ。
散々絞られてから、夜も師匠にたっぷり絞られた。
「……少年、こっちの方はニャカニャカ進歩を見せないニャ……」
数秒前に僕を悦楽の底に叩き落とした赤い舌で唇をペロペロと舐める師匠に言われて凹んでしまう。
あれから新たな女性と接しているけど効果があまり現れていない不甲斐なさに泣いちゃいそう。
でも、気持ちいいから良しとしよう!
*
世界を危機から救うなんて荷が重い以外の何物でもないけれど、冒険者ギルドに向けた足は軽い。
曖昧な理由で転移させられた時と比べたら雲泥の差なのは、やるべき事がはっきりとしたからだよなぁ。
王女殿下からの要請に「はい」とも「いいえ」ともとれない玉虫色の回答で場を濁したけれど、困ったお顔の王女殿下の雰囲気を素早く察知した忠誠心過多な女騎士に脅しを入れられた。
「ふん! 我が子の父親がそのような情けない事を口にしないでもらおう」
そっとお腹を撫でながら女騎士が思わせぶりなことを口にした!?
由緒正しき貴き血筋の女騎士にとっては下賤な道ばたの骨が父親とか屈辱に違いないのに、己の身を堕としても主人の意に役立てようとする見上げた家臣だ!
途端に女騎士の乱れた姿を思い出しちゃった。
白い肌と中に大量に放った時の開放感と征服感に酔いしれちゃう。
確かに妊娠してしまうような事を致してしまった漢の方に責任はあるんだけど!
各務や立花に続く孕ませ疑惑に心の臓が凍り付きそう。
この世界では英雄扱いでも一皮むいたら資産もない高校生です。
享楽と商売と豊穣の女神様のお力に縋り付きたくなる。
「アフターピルみたいな御利益とかご加護はないの?」
《……まったく呆れてしまいます。神の加護を経口避妊薬扱いとは、神罰が下されますよ?》
神罰の結果がご懐妊というのは、色々矛盾していていると思う。
世界の言葉を担当する声の人にも呆れられたから、そんな都合の良い加護は存在しないのかもしれない。よく考えてみたら罰当たりな加護でした。猛省します。
案外神様も万能じゃないんだな。
「狭間様、魔物出現の確認が取れましたので、隣国の冒険者に淀み討伐依頼を要請済みです。どうか彼らが到着するまでの間だけでもご協力いただけないでしょうか?」
腹黒王女殿下のあざとい可憐な上目遣いにノックアウト。
半分以上は女騎士の機嫌を損ねない為なんだけど!
この忠実さだと、今回子供が出来ていなくとも誰かとこっそり交わって托卵してでも事実をでっち上げそうだし!
聞けば、一週間ほどで掃討役の冒険者は集まるらしい。
そんなに急に? とは驚かない。
何しろここは娼館都市。入国税の免除という条件だけで誘蛾灯に群がる漢は多数いるそうです。
気持ちは痛いほど分かります。
色々とあったけど、行動が明確化された。
到達点と締め切りが設定されれば、仕方無しでもやる気は沸く。
元々、世界を危機から救うことが帰還条件だったから、メリットとデメリットの天秤の傾きを操作して、心を割り切るのも難しくはなかった。
と言うわけで、まずは2日ぶりに冒険者ギルドに顔を出した。
コソコソと茶羽Gみたいに壁伝いに。
「冒険者ギルドにようこそっ、あーっ、狭間様! 朝早くからエリーお姉様に会いに来たんですか?」
いつぞやの赤毛のギルドスタッフ嬢にぎゅっと手を握られて歓迎されつつ嫌みの挨拶をされた。
そのまま壁に押し付けるようにして身を隠す。
「あれ? 浮気ですか?」
目をパチクリさせて赤毛の女子は耳的で囁いてくる。さすが娼館都市の女子。この程度でドギマギしたりしないで離した手で喉元を誘うようにくすぐってくる余裕まである。
目の前に白いムッチリとした胸の谷間が尊くて目を奪われてしまいます。
赤毛の女子は元気なお声だったけど喧噪に紛れて他の人たちには気付かれなかった。危ない危ない。
英雄を称える大合唱が始まる前に事を済ませよう。
コミュニケーションがあまり得意とは言えないボッチ高校生には荷が重いんです。
誤解から生じた英雄扱いだけど、正真正銘の本物に進化していているのはなんの皮肉なんだろうね。
「エリーさんを呼んでもらえる?」
「ご指名はいりまーす!」
赤毛の女子がスキップ混じりで奥に向かう。
ここ、形骸化しているとはいえ冒険者ギルドだよね?
壁に顔を向けて存在感を消しながら待機する。
それにしても酒場は朝だというのに人が多い。それっぽい格好をしたおっさん連中が美女を侍らせ酒を掲げて乾杯のオンパレードだ。これもしかして、朝早いのではなくて昨日から酒宴が続いている?
本当に、仕事しろと叫びたい。
娼館都市の正体を知ったので冒険者ギルドというのが極めて特殊な場所だという事が分かる。
考えてみれば、冒険者ギルドの利用に際して飲食代は別として料金は発生しない。
アトラクション扱いとはいえ、僕が知る限り唯一お金を稼げる施設だ。
冒険者の真似事が出来て、任務はひ弱とはいえ魔物であるスライムの討伐。
過剰に喧伝して怖がらせたゴブリン他、魔物を発見させる装置としても機能している。
なるほど良く出来たシステムだった。
世間知らずの異世界転移者がしゃしゃり出たから混乱さてしまって申し訳ない。
「狭間様、お待たせいたしました」
たっぷり実ったおっぱいを白いセパレートタイプのビキニで覆った扇情的で色気抜群のエリーさんは、下半身を足首まで隠す薄紫のパレオのスリットから長い脚をチラつかせながら近付いてくる。
ああ、もう漂う芳しい香水の匂いだけで幸せの絶頂。
そのまま歩調を緩めず身体が当たるまで前進したエリーさんは僕の肩に柔らかいおっぱいを押し当ててから歩みを止めた。
エリーさんは急に止まれない。
両腕が自然に僕の腕を取り、更にマシュマロみたいなすべすべの肌をしっかり押し付けてくる。
「本日はどのようなご用向でしょうか?」
耳元にパールピンクの唇を近づけて愛を囁くみたいに脳をくすぐってくる。
ブルネットの髪が首筋をくすぐるのも計算なの!?
分かりきったことを聞くなんてエリーさんらしくない。
あなたに会いに来たんです! 半分は事実だから嘘じゃない。
「……専属の子のご指名でしょうか?」
少しだけ唇を尖らせたエリーさんが可愛すぎる!
すっかり忘れていたけど、そんな話もありました。
早く決め欲しいと懇願していたのに、いざ決めると「ずるい人」みたいな応対をして心を台風並みの風速でかき乱してくるから絡み取られる。
はて? 冒険者ギルドの実体を知ったから、眷属スタッフという制度に疑問が湧いちゃったんだけど?
好成績の冒険者の専属としてつくギルドスタッフの話って、つまりお馴染みさんがお嬢を囲うって意味なのかな? または身請け?
「エリーさん、それって愛人契約みたいなものなの?」
「まぁ……狭間様、確かに私達ギルド職員は年季明けの前に強い殿方のお種を頂く決まりでございますが――」
なにその羨ましくてけしからん因習。
次世代を担うジュニアも娼館都市の中で生まれる仕組みなんだ!
唐突に冒険者ギルドの入会時に精子の元気チェックがあったことを思い出す。
なるほど。種有りが入会条件なのは世代交代が関係していたからなのか。
鼻血出そう。
「専属スタッフは、高貴な血を引く方々なのです。お妾さんというよりは娼館都市での現地妻……いえ、第2夫人という待遇です。とはいえ」
うふふと笑うと安心させるようにエリーさんは微笑んで、「もちろん、殿方にご迷惑をおかけするようなことはございませんのでご安心くださいね?」と、付け加えた。
娼館都市内での現地妻って、背徳的にも程がある。しかも相手はお貴族様。まるで血を絶やさぬように受け継いで……あれ? エリーさんの言葉ってどこかで聞いたような話じゃない?
「可愛らしいお顔で考え込んでいますね、うふふ。あら、では……それとも」
エリーさんは僕を壁に押し付けておっぱいを押し付けると、パレオを割った隙間からスラリとしたふとももを露出させると僕の足の間に割り込ませて股間を心地よく刺激してくれる。
「昇級試験の再挑戦でしょうか?」
エリーさんはとても嬉しそうに笑った。
瞬時に欲上ゲージがマックスまで振り切れる蜜みたいな誘惑だけど、場合が場合だし時期尚早なので首を振る。
「実は、王女殿下から依頼があり――うぐっ」
感極まったのか潤んだ瞳のエリーさんに唇を奪われた!
甘くてやわらかな舌が僕の舌を捕まえて痺れるような快感を伝播してくる。
「ちょ――エリーしゃん?」
「狭間様、大変申し訳ございませんが、お話はこのまま続けていただきますでしょうか?」
舌をちゅうと吸われて脱力してしまいそう。
レロレロと舌が追い回されてにゅるりとした感触が口内を舐め回す。
唇をすぼめて舌に吸い付いたかと思えば、両手で顔を固定されて唇がひしゃげるくらいの深い接吻。
「冒険者様にも……んちゅっ……他の職員にも、聞かれたくないお話ですので……」
垂れた唾液が伝う感触がしたと思ったら、赤い舌が伸びてエリーさんに舐めとられる。
「……もう……狭間様、機密事項ですよ? ちゅっ……」
避難するように唇で上唇を挟み込まれてすりすりされると、えもいわれぬ気持ちよさで全身が震えてしまった。
特に口止めはされなかったけど、ここは娼館都市が経営する世を忍ぶ仮の姿の冒険者ギルドだ。漏れては不味い情報だったのかもしれない。
それはつまり、偉くなったエリーさんも冒険者ギルドの裏の顔に携わっているということですか?
聞きたいけど、舌の愛撫が気持ちよくて強烈すぎて思考が中々定まらない。
ぢゅるっという唾液を吸う卑猥な音が喧噪の中に紛れていく。
エリーさんは唇だけで僕を絶頂に導く勢いで愛撫を続けて、たまに股間に当てるふとももを擦ってくる。
我慢できずにエリーさんのセパレートのビキニの下から手を滑り込ませて生乳を揉む。
ああ、張りがあるのに溶けそうなほどやわらかい。なにこの矛盾したふくらみ。
「んっ……もう、エッチです、狭間様」
メッ大きな瞳を細めて睨み付けるけど、エリーさんは舌もふとももの動きを止めず、さあ、話してくださいと舌に吸い付きながら訴えてくる。
「……昨日、王女殿下に――」
冒険者ギルドの片隅でエリーさんといやらしく舌をからませて甘い唾液を味わいながら、王女殿下からの依頼の話と、ゴブリンの目撃情報が欲しい旨を説明した。
「うわ! エリーお姉様、こんな所で始めちゃわないでくださいね?」
赤毛の女子が発情したとしか思えない僕とエリーさんの行き過ぎた絡み合いに苦言を呈してきた。
応援ありがとうございます!
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