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第14話 10日目午後 不意のネタバレ

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 長々と語ってしまったけれど、僕の置かれている状況は概ね伝わったと思うので、そろそろ時間を戻すとしよう。

 冒険者ギルドの客室で、ローテーブルに両手を置いて身を乗り出したまま返答を待つ、各務は桜色の唇を噛み締めていた。

 さて、困ったぞ。
 いきなり私を買えと迫られても即答できるほど肝の座った漢になりたいのは山々だけど、生憎僕は修行中。

 メリットとデメリットの両天秤がグラクラ揺れる。

 お金を貸すのは吝かではない。問題はその代償。
 身体を差し出されて我を忘れるほど、女日照りというわけじゃない。
 寧ろ毎日二重の意味で、しごかれて絞られています。猫の手とか猫の舌で。

 だからと言って聖人君子のように興味がないとは言いきれない。
 健康な年頃男子だから衝動もあれば欲望もある。
 彼氏持ちのクラスメイトと合意の上で、イケナイ関係の据え膳なんてラッキーイベントを見逃のは漢として如何なものなの?

 各務の整ったお顔とその制服の下に隠されている裸体を想像する。
 背徳感でワンダフルだった。

 いや、生唾を飲み込むのを我慢して冷静に考えよう。

 このまま異世界で一生を終えるなら「あり」の展開だけど、約定を果たして前の世界に戻る前提なら、顔見知りのクラスメイトとエッチな関係なんて復帰後の心配の種になる。

 何しろ2人はクラスカーストで表すと雲の上のお貴族様。
 天下のイケメン綾小路を彼氏に持つ危険種だし。

 あいつ、異世界で弱みにつけ込んで綾小路の女にちょっかい出したらしいぜ、なんてクラスの噂になったら不登校待ったなし!

 というか、綾小路が了解済みってどの程度了解してるの?
 後で修羅場に巻き込まれて間男として吊るし上げられたりするのは嫌過ぎる。

 答を出す度胸は行方不明。
 助けを求めるように藁を探して客室を見回したけど何もない。よく片付けられた部屋だった。

「……ここでも、いいわよ? どうせ幸人以外に見られるんだったら誰に見られたって同じなんだから」

 大胆でしおらしく強がる態度は可愛らしいけど、場所を気にしたわけじゃないよ!?

 各務は乗り出していた身体を戻してスラリとした身体で胸を張る。
 見たければどうぞ? そんな顔だ。
 うん、とっても綺麗。華のある美貌に見惚れてしまう。

「ふん、ようやく男の目になったわね」

 各務はそっと手を腰に当てるとホックを外してスカートを床に落とした。

「ちょ……」

 一瞬の出来事だったので脳が処理に追いつけず、言葉を失って目を見開いてしまった。
 制服の裾からくびれのある細い腰が現れて、女子高生クラスメイトのピンク色のローライズショーツに目が釘付け。

 エロい下着は生地が少なめのセクシーさで、サイド部分なんて紐だけだった。

 下着の校則があるのか知らないけど、勉学に勤しむ学校に履いてくるような代物じゃない!

 下着だけじゃない。
 成長を終える寸前の肉感的なふとももは張りがあって淑やかなのに、吸い付くような淫らさが同居していた。

 目に突き刺さってくる肌の白さに現実感が曖昧になる。
 女子の生足って、それだけで罪だと思う。

 しかも上半身は清楚な制服で、下半身は下着というアンバランスな艶姿。何度も言って申し訳ないけど彼氏待ち。
 やむを得ない事情で顔見知り程度の僕にスカートの奥の乙女の秘密を見せるシチュエーションに興奮はとどまることを知らなかった。

「ハル、待って――」

 立花は親友の勇み足に慌てて立ち上がった。
 さすが、佐藤にビッチ呼ばわりされる女子は思い切りがピカイチですね……なんて考えて各務の顔を確認して後悔した。

 僅かに強張った表情は恥じらいの限界なのか真っ赤で、瞳は潤んで今にも泣きそうだった。

 男の扱いなんて慣れているような各務だけれど中身は17歳の女子高生。
 お金のために好きでもない男子に肌を晒すなんて、突然の異世界転移以上のストレスだよね。

 すっと落ち着きが戻ってくる。

 義理はないけど人情のある漢を目指す僕だから、クラスメイトの窮地に付け込んで「じゃあ遠慮なくいただくでござる」なんて佐藤みたいにグヘヘと笑えない。

 お金は貸す。漢は見返りなんて求めない生き様なのです。
 まずは落ち着かせて話ができる状態に持っていきたい。
 僕のギフトが説得力だったら良かったのに。
 エロ方面にしかフィットしていない能力に苦言を呈したい。

 身体を添わせる立花を見る。
 将を欲するならば先ず馬から。格言って結構役に立つ。

「ねぇ、立花……」
「な、なおは、駄目よ! なおの分も私が相手をするから!」
「そんな……駄目だよハル」

 違うよ? 女子高生2人をワンセットでお持ち帰りとか考えてないよ!?
 暴走している各務を止めてほしいだけだから!

 友達思いの心優しい一面を垣間見て、ますます協力を惜しめなくなる。

「心配しないで、なお。狭間が相手なら女の子とじゃれ合ってるみたいなものだし」

 は? 犯すぞこのアマ!
 いや、失敬。人が気にしている部分を指摘されたから錯乱しただけです。

「……見たとこ童貞ぽいし、そんなに時間かかんないから」

 ぐはっ。色々あって童貞は喪失しているけれど、その話題は勘弁してほしい。
 頭の中ではニャハハと笑う師匠の幻聴が木霊するから。

「ちょ、待つにゃ!」

 直前に頭の中で鳴り響いた師匠の影響で、変な語尾になる噛み方をしちゃった!

 腰に貼り付いた下着を下ろそうと前屈みの状態で各務が「は?」と手を止めてこちらを見る。
 立花も故障したスマホを見るみたいな目で僕を見ていた。

 一連の喜劇に不意をつくいい噛み方だった。歴史に残る名言だった。

「……あー、結論を急がないで、まずは状況を整理するところから始めない?」
「……狭間はあれ? 自分で脱がしたい派ってこと?」

 どれだけ遠回しに言っても、そんな意味には訳せないよ!?
 超訳にも限度があるわ!

 誤解だから、屈辱だけどリクエストなら仕方がないわね! みたいな諦め方はやめてください。
 やれやれと各務はパンツから手を離す。少しだけ脱ぎかけのままだから薄い陰毛がチラチラ見えてふしだらだった。

 それにしても、制服を見た時も感じたけど下着も新品みたいな清潔感が漂っていて不思議だ。
 この異世界でその謎のクオリティは女子力の表れなのかな?

 エロ濃度は増しているけど心の中で深呼吸してなんとか耐える。

「滞在期間のタイムリミットは?」

 変な意味に変換されそうなので、各務を避けて立花に問いかけると、「あと4時間くらい」と控えめに返してきた。

 話す時間は十分ある。
 勝手に覚悟を決めてしまった雰囲気を作る各務だけれど、相談くらい乗らせてもらおう。

 この異世界での生活の立て直しの立案を話し合おう。

「まだ時間は大丈夫だから、もう少し解決策を話し合わない?」
「まぁ……あと2時間くらいは大丈夫だけど、急ぎなさいよね?」

 そのご休憩的なリアルな時間の区切りに、立花と僕は気不味そうに顔を熱くしてしまった。
 残った2時間は何に使うのか問い質したい気持ちを抑える。墓穴だからね。

「それで、何の話し合い? コスプレとか変な要望を出されても用意できないわよ?」

 プレイ内容の詳細を詰めるつもりはないってば!

 各務は開き直ったのか、脱ぎかけ下着のままソファーに座って大胆に足を組む。
 股間を隠すクロッチ部分がチラリと見える。ありがたく海馬に焼き付けておきます。

「……結局、見てるじゃん」

 各務はため息に似た息を吐いて眉間にしわを作ったけれど、照れたり隠したりはしなかった。

 貸すくらいのお金はある。
 あれから益々増えている街の中の淀みから、たまにゴブリンが発見される度に派遣されていたから残金に余裕がある。
 詐欺を続けているみたいで胃は痛む一方だけどね。

 冒険者たちに戦い方を教えるからと説明しても、「俺に緑の悪魔と戦えってのか? 勘弁してくれよ」と腰が引け怖がって近付きさえしない。

「足を引っ掛けて転がすだけだよ?」
「英雄狭間にしてみれば、ゴブリンすら転がす程度とは……」
「素敵……次の昇級試験は私を指名してほしい!」

 必勝法すら英雄譚の比喩表現として捉えられ、話を聞いてもらえなかった。くすん。

 ここの冒険者たちは、見回りをしてスライムをやっつけて、あとは女を侍らせてお酒を嗜むだけ。冒険者ごっこを楽しむのに忙しい、こんな大人になってはいけないという反面教師の集まりだった。

 滞在費を何日分か都合をしても収入を確保しなければ焼け石に水だ。
 生活基盤を整える方法の模索は必須。

 緊張感がいい意味で途切れた反動なのか、各務は可愛らしく欠伸をしていた。

「落ち着いてもらえて良かったよ」

 気の抜けた所を見られてバツが悪いのか、各務は少しだけ恥ずかしそうに睨んでくる。

「落ち着いてる場合じゃないけど落ち着いたわよ。というか開き直った感じ? どうせ私達の運命は狭間が握ってるんだから好きにして」

 捨て鉢だなぁ。
 話を聞くだけマシになったから良しとしよう。

「はぁ……私達はね狭間、こんな不潔な街からとっとと出たいの、帰りたいのよ!」

 わかるでしょ? 上目遣いで睨まれる。意思の強そうな瞳だ。

 確かに文化の発達的に非衛生的な部分はあるけれど、熱くなるほどでもないというのが本音だけどね。
 女子的には許せないレベルなのかな?

「でも街の外ってすっごい治安が悪いって話なの、帰りたいけど街から追い出されても困るの。だから、お金がいるのよ……」

 1日10万円の滞在費。2人分を合わせると20万。
 聞く限りの推測だけど、就職もアルバイトもしていないみたいだな。呑気な事です。
 この何かと物価の高い街で、初期金額から10日持った事は驚きだけどね。

 どうしてお金が早々に足らなくなると分かっていたのに、何も対策を講じなかったのか疑問は残る。

「僕が言うのも烏滸がましいけど、まっとうに働いてお金を稼げば良かったのに」

 魔物退治以外にもお金を手にする道はきっとあると思う。噂で聞いた佐藤がいい例だ。

「は?」

 ぽかんと各務は可愛らしく口を開けた。すぐに顔を真っ赤にする。

「は、働けるわけ無いでしょ、こんなところで! しかもまっとうにって喧嘩売ってんの!?」

 突然キレだした各務の形相に驚いてしまった。えー。今の会話でどこに地雷があったの?
 働いたら死ぬという呪いのギフトでも貰ったの?

 僕が選択した冒険者なんて所詮定職とは言い難いアウトローな立ち位置かもしれないけれど、無職よりは遥かにいいよ?

 街の淀みを潰していくなら女子でも出来る。あのスライムが相手だし。
 ゴブリンだって最初の恐怖さえ乗り切ればなんとかなる……ああ、綾小路は何とかできなかったって言ってたな。

 最大の難関は冒険者登録する時のアレだけだ。女子でも同じような内容なのかな?
 エリーさんに聞いてもセクハラに当たらないよね?

「可愛らしい顔してるのに、狭間も男だってことね……」
「はい?」

 各務が俺を見る瞳の色は軽蔑色だった。

「ごめん、意味が……」

 会話がなんだか噛み合っていない。

「え?」
「……え?」

 間抜けな沈黙にギルドの酒場の方から笑い声がかすかに聞こえてきた。

「……ちょっと待って、狭間。マジで言ってんの? この街の変な理由を知らないの!?」

 失敬な。変だということくらい理解してるよ? 異世界だし。女性がすごく積極的な文化だし。

「多少は変だなって思ってるけど」
「た、多少って……」

 各務は頭を抱えてそう呟く。
 頭大丈夫? みたいな瞳を向けられて居心地が悪くなったのでお尻の位置を変える。

「……ハル、狭間くん、もしかすると知らないのかも」
「知らないって……は! 信じられない! は? あんた知らずに10日も過ごしてきたっての?」

 何を言われているのか分からない時点で分かってないとは思う。
 そう言えば、前に武器と防具のお店の若妻店員さんに街の話を聞こうとしたことを思い出す。
 バタバタしていたからすっかり忘れていた。

「天然記念物でも、もう少し進化するわよ? マジで知らないの?」

 進化するなら天然記念物じゃない気がするけど、「揚げ足とんな!」って怒られそうだから不承不承に頷いておく。

「はぁ……どんだけなのよ」

 各務はぐったりとソファに深く身体を沈める。下着の見える範囲が広がるから女子としてもう少し慎みを持ってほしい。

 立花も可憐に口を手で押さえて驚きを隠していた。

 それから、この街の中にはびこる違和感の原因を聞かされた。
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