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第12話 4日目夕方 再会の猥褻事案

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 緑の生け垣が現れたと思ったら、和風建築の建物が目に飛び込んできた。
 教えられた訓練場所は、お寺みたいな神社みたいな、はたまた古びた道場を彷彿とさせる建物だった。

 ジャパニーズ侘び寂びがこの異世界にもあるみたい。きっと僕達みたいな前任者が伝え広めた結果なんだろう。

 座禅でも組まされるのかな?

「たのもう!」

 そんな言葉がよく似合いそうなので道場破りみたいに威勢よく声をかけたけど、反応は返ってこず我に返って羞恥心だけいただきました!

《……、……》

 もしもし? 世界の言葉を担当する声の人、笑いを噛み殺していないで何か言ってよ。
 無視される。

 いつか教会にある全裸の像に真名を記した名札を掲げてやろうと誓う。

 しばらく待てども誰も来ない。
 紹介されたし勝手知ったる訪問だから気にせず中に入ってみることにする。

 不用心に開け放たれた扉の向こうは板張りの廊下。
 靴を脱いでお邪魔します。

 突き当りから嗅ぎ慣れたい草の匂い。
 武道教室かな?
 少しだけ、ワクワクして扉をくぐる。

「……は?」

 だけど、すぐに足は固まった。
 呼吸が止まる。血の気が引く。

 畳が敷き詰められた土足厳禁な道場には、デブい巨体を震わせた佐藤とあられもない格好のちっこい猫耳少女がいた。

 これは、ヤバイ。

 なんという犯罪臭しかしない組み合わせなんだ?
 名探偵じゃなくても犯人が最初から誰か分かってしまう、分かり易すぎる現場だった。

 そう、猥褻事案!

 クラスメイトを疑いたくはないけれど、通報するにはどういう手続きが必要なんだろう?
 異世界にも警察ってあるのかな?

「おお! 狭間きゅんではござらぬか!」

 僕に気付いた犯罪者佐藤の態度はあまりに落ち着いていた。
 そこはもっと慌てふためいて「違うでごござる、これはあれでござる」と言い訳にもならない言い訳を羅列するところだよね?

 というか、狭間きゅん?
 聞き捨てならない言葉に意識は逸れる。
 語尾につけたきゅんってなに?

「ますます美少女ぶりに磨きがかかったでござるな!」

 いいからその口閉じろオタク。

 メガネを怪しく光らせて佐藤が巨体を震わせる。元気そうで何よりだけど、ぶん殴るぞこの野郎。

「どうでござるか? そろそろ男の娘デビューをされたござるか?」

 よし、殺そう。
 理由は少女に対するイタズラの現行犯。死体を埋めてしまえば誰にもバレずに街の一角を清潔にできる。
 心配なんてしなければよかったよ。

「……佐藤、バカにしてるの?」
「こ、これは、失礼仕ったでござる……」

 佐藤は派手なリアクションで戦いていた。僕の激しい怒りが伝わったみたい。

「よもや狭間キュンが、すでにTSの扉を開いていたとは露知らず」

 知らない面白ワードだった。

「えーと、TSってなに? エロい人」

《……エロくはありませんが、TSとは……トランスセクシュアルのことです。性転換という表現が分かりやすいでしょうか》

 解説は、世界の声を担当する声の人だった。
 言葉遣いが少しだけ丁寧になっているから仕事中かな? 

《佐藤様の趣味を考察しますと、TS物、つまり男女の性が入れ替わることで生じるエロい娯楽目的の……いえ、失礼しました》

 流石に言葉を操ることが職業だから詳しいなぁ。

 というか、なんだって!?
 性転換……僕が女の子になったっていう意味なの!?

「そんな扉は開いてないよ!」

 ぞわぞわするわ!

「な、何でござるか、今の声は? もしや世界の言葉でござるか?」

 キョロキョロと周囲を窺う佐藤に言いたい。僕の言葉を聞けよ!
 魂をかけた漢の主張なのに。

 あ、でも良かった。世界の言葉を担当する声の人の声は、佐藤にも聞こえているんだ。
 初めてみたいな反応だから、前の言葉は届いていないのかな?

 なんとなくだけど、佐藤に聞かれる前提だったから言葉遣いが丁寧になったのかも。体裁を気にするあたりが可愛い。

「……おい」

 隣で退屈そうにしていた少女が、後頭部に両手を回した姿勢でジロリと睨めつけてくる。

 あ、ごめん。忘れていた。そうだよね、その格好だと辛いよね?
 こんな時、そっと上着を掛けてあげるのが正しい漢の行動だと思うけど、貸す上着が手元にない。

 衣服の予備は……。

『若妻店員の脱ぎたての下着 ✕ 1 』
『エリーさんの脱ぎたての下着 ✕ 1 』
『若妻店員の唾液でべとつくシャツ ✕ 1 』

 出せるか、こんなもの!

「佐藤、脱がした服を返してあげて。あと、自首しろ」
「拙者、少女の服など脱がせておらぬでござるよ?」

 じゃあ、誰が犯人なんだよ!?

 小学生高学年くらいの少女を改めて見ると見間違いじゃなくて下着姿だった。
 オヘソもあらわな裾の短いキャミソールは身体にあっていなくて、肩紐は落ちそうだし、平らな胸元も大胆に見えている。
 ほんの少しだけ盛り上がった可愛いおっぱいがチラチラ見えて初々しい。
 パンツは少女らしからぬ逆三角のビキニタイプ。

 これは、アウトだと思う。

 もしかしたら、下着を模した水着かもとジロジロと観察を続けたけれど、どう見てもインナーだった。

 全体的にツルペタな身体。ツルかどうかは見てないけど、これでフサフサだったら詐欺に近い。
 短い髪は三毛ネコみたいな三色メッシュで、ちょっぴりツリ目で愛らしい。

 褐色の肌にユラユラ揺れる尻尾。
 獣人というジャンルの種族なのかな?
 初めて見る異種族がとってもファンタジーだった。
 オタクの佐藤が我慢できずに無茶をしてしまうのも頷ける。

 ロリコン、ダメ! 絶対!

 頭には昨日のメイドさんと同じ猫耳が乗っている。ピクピク動いているから、本物なのか、はたまた高性能のカチューシャなのか。

 それ以外は人間と同じ。

 いや、猫と決めつけるのは早計だ。犬や狼という可能性があって、安易に呼びかけて気分を害してしまうのはよくあるパターン。

「おい、デブ、客が来るまでという約束だったニャ」

 歳の割に口が悪いなぁ。凄いギャップに佐藤も頬を緩めてプルプル震えていて気持ち悪い。

 でも良かった。分かりやすい自己紹介をしてくれて。猫の人みたい。これで先祖が狼だったら語尾を矯正してもらわないとね。

 よく見ると猫みたいな瞳がとってもキュートだ。

「そうでござったな、いや、これは申し訳ない。また後日にするでござるよ」
「もう来なくていいニャ」

 佐藤はあっさりと帰ろうとする。

 なんだか佐藤らしくない。猫耳ロリを半裸にまでさせておいて、もっと大興奮して漫画みたいに鼻血を垂らすリアクションだと思っていたのに。

 犯罪ではなかったのか、それとも逃亡?
 少女は別に怯えてる様子もない。
 この街の女性の貞操観念を思い出すと、普段着だと言われても納得してしまえるけど。

 さておき、帰る前に情報収集だ。

「佐藤、ちょっといい?」
「何でござるか、狭間きゅん」

「きゅん言うな。綾小路たちのことだけど、知ってたら教えてよ。元気でやってるか気になってる」

 佐藤は視線を上下左右に動かしてからポンと手を打った。

「ふうむ。なにやら冒険者ギルドに超絶イケメンが、現れたと噂だったでござるから、あのリア充なのかもしれないでござるな。ビッチどもの消息は知らんでござるよ」

 なるほど。綾小路の可能性があるか。
 同じ道を歩むのか。冒険者ギルドの作法が同じなら、さぞかしお連れの二人はヤキモキしているだろうな。

「あと、世界を救う情報は?」
「さっぱりでござる」

 両掌を上に向けてお手上げというリアクション。
 こっちは手がかりなしか。

「では、ご武運を!」

 佐藤はドタドタと足音を残して帰っていった。

「さっきの人はお知り合いなの?」
「それは、ニャーの方が聞きたいセリフニャ」
「クラスメイ……いや、同郷だよ」

 わかるかな? 難しい言い回しだったかな?

「そうニャのか。あのデブは商売のヒントにしたいから話を聞かせてほしいと押しかけてきたニャ」

 商売か。なるほど、戦わずに知識チートで攻略という手もあったのか。さすが頼れるオタクは目の付け所が違う。

 ということは、綾小路なら……ホスト? 奴なら最適だけど、両手の華が認めるわけ無いか。

「一応聞くけど、あいつに変なことをされたんじゃないんだよね?」
「ニャ? ニャーがあんなデブに負けるはずがニャいニャ」

 未遂で良かった。

「お前がエリーから聞かされた、狭間だニャ?」
「うん。なにか訓練をしてくれると聞かされたんだよ。えーと、猫の人? 師範代の方を呼んでくれる?」
「ニャ?」

 取次をお願いしたけど首を傾げられた。とても可愛らしい。
 言葉が難しかったのかな?

「師範代という役職はニャいニャ、ここは、ニャーしかいニャいニャ」

 ニャーさんだけ?
 じゃあ、僕の訓練は?

「お前は、ニャにか勘違いしてるニャ」
「何だろう?」
「ニャーは立派な成人ニャ、今年25ニャ」

 ドン! と効果音が聞こえるように腰に手を当ててない胸を張る。
 ……。
 合法ロリだった。しかもかなり年上。ちっこいお姉さんだった。

「おみそれしました、ニャーさん」
「ニャーのことは師匠と呼ぶニャ!」

 ビシッと鋭い口調で自己紹介をされて
た。

「イエス! 師匠!」
「素直な男の子は好みニャ」

 男の子扱いに泣けてしまう。でも、見た目はこれでもお姉さんだし。
 お姉さんぶる少女が可愛い。

「確かエリーからは耐久力がニャいから、持続力を伸ばして欲しいという依頼ニャ」

 少女の口から言われると無茶苦茶恥ずかしいんだけど!
 本気のエリーさんの前では僕なんて漢に憧れるただの早漏野郎だと痛感させられました。
 赤裸々に報告したエリーさんが恨めしい。

「まずは腕前を見せてもらうにゃ、おちん○んをだすニャ」
「はい……はい?」

 見るのは腕前なんだよね!?

 畳張りの道場みたいな雰囲気なのに、似合わぬエロエロ施設なの?

 ちんまい師匠を前に丸出しなんて、通報されそうで躊躇してしまう。
 僕にはロリ属性はないみたい。
 業の深い趣味がなくて何よりだった。

「何を恥ずかしがっているのニャ? とっとと出すニャ」

 はい、命令なので出しますね。
 びっくりしないでね?
 全部脱げと指摘されて下半身を丸出しに。
 なんというか、いたいけな少女に見せる背徳感に酔いそう。

「……見てもわからニャいニャ」

 だったらなんで丸出しにさせたんだよ!

 無垢な少女に局部を晒す、情けなくも恥ずかしい決意が踏みにじられた。

 こんな場面を佐藤はまだしも各務や立花に見られたら、蘇生術でも復活できない完全な死を迎えちゃう危険までおかしたのに。

「耐久度を上げたいニャら、たくさんの女とまぐわうニャ」

 習うより慣れろという格言ですね。
 だったら最初からそう言ってほしかったです。

「それはそうと、そろそろ特訓を開始するニャ」

 もう一度だけ言いたい。

「どうして、おちん○んを見たがったの?」
「ニャーの趣味ニャ」

 この合法ロリ痴女め!

「他に質問がニャいニャらはじめるニャ!」

 丸出しのままで!?

「あ、じゃあ、ひとつだけ」
「ニャんだ?」

「どうして服着てないの?」
「ニャーたち猫人族キャットピープルは基本裸ニャ! 服ニャんて来ていると動きにくいニャ」

 まさかのロリ痴女裸族だった。

「けどニャ、この街を裸で歩いていると男どもが声をかけてきてうざいニャ!」

 歩いたんだ。というか、どの場所でも裸だとあらゆる意味で声はかけられると思う。

「でも、下着だとあまり変わらない気がするけど」
「そうニャ、良く気づいたのニャ。ニャにが問題ニャのかわからないニャ!」

「いや、服着ろよ」
「動きにくいニャ!」

 わがままな子供の相手をしている気分だった。

「もう、そろそろはじめるニャ!」

 というか、特訓って何?

「ニャーのしっぽを捕まえたら免許皆伝ニャ」

 えー。絵面的に丸出しで、半裸の少女を追いかけ回して通報される案件では?

「服を脱がす方がよかったかニャ? 助平な奴ニャ」

 流し目だけど、圧倒的に色気が足りてていないからほっこりした。

 いやそれ、もっと不味いから……。

「スタートニャ!」

 結論から言うと、日が暮れるまで頑張ったけど、尻尾を掴むことはできなかった。
 もちろん服を脱がすこともできなかった。

 漢の道も一歩から。漢は1日にしてならず。

「お前は弟子ニャ、好きニャだけ泊まるがいいニャ」

 日が暮れて今日も宿屋に行こうかと迷っていると、ニャーさんが提言してくれる。それは助かります。宿屋ってかなり危険な場所だしお高いので。
 ここは素直に甘えておこう。

 というか、特訓の料金は後払いなのかな? 今の所請求されていないけど?

「でも、お風呂は入りたいなあ」
「風呂は敵ニャ」

 猫だもんね。

 結局その日は道場に泊まることになった。
 声を大にして言いたい。
 エリーさん、これなんの特訓なの?
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