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第2部
第41話 ちょっとしたどんでん返しのエピローグ
しおりを挟む041
夜の王妃様が覚醒した夜から、僕は毎晩王妃様を抱き続けて種付けを繰り返した。
夜になると王妃様の寝室で過ごすのが日課になって、もう、同棲しているみたいにイチャイチャ、ズブズブの生活だった。
そのまま朝まで乱れて寝落ちをして、アンたちが王妃様の部屋にやってくる日もあった。
王妃様の前で朝の一番搾りを処理するのは躊躇いがあるのか、アンはちょっぴり不満そうだったけど。
というより、朝まで王妃様にたっぷり注いでいるから、欲求も溜まっていないから出番がない。
何日か前に、夜の僕を独占するのは横暴だと、朱華姉様とララ姉さまが一緒になって、王妃様に抗議をしていた。
ただ、昼間の王妃様はそんな事実は記憶から消し去っているから、節度を守るなら好きにしろと鷹揚に許可を出す始末。
だけど夜の王妃様は、「他の女に注ぐのは、私を孕ませてからにして」と潤んだ目で懇願してくるので、朱華姉様たちの願いは聞き入れられなかった。ごめんなさい。
今朝のことだ。
全裸の王妃様とベッドの上で絡まりながら目を覚ますと、にこにこと王妃様は細めた目で僕を嬉しそうに眺めていた。
「起きたか。ふ、ふふ……聞け、クロ」
「おはようございます王妃様、何の話?」
「私の生理が予定を過ぎても来ぬのだ」
態度と言葉遣いは昼の王妃様、だけど口にした内容は夜の王妃様。
朝目が覚めたときに良くある新しい混ぜ混ぜの王妃様だ。
「昨日の夜に伝えようと思ったが、失念していた」
それは、あれです。夜になると淫乱になってしまうから日常的な記憶が飛んでしまったせいです。
年頃の少年だったら聞いただけではにかんでしまう「生理」という言葉。
それが予定を過ぎても来ないと言うことは、つまり、王妃様が念願の妊娠をしたということ。
「まあ、生理が遅れることなど良くあることなのだが、今回は事情が事情だからな」
毎晩の妊活を恥ずかしがることなく口にするあたりは昼の王妃様ですね。
そもそも生理は生理現象だから、誰に憚ることもない。
聞かされている方は男の娘でも男性の部類なのでちょっと恥ずかしいですけど。
「私が、小娘やあの下品な女に遅れをとるなどなかったのだ!」
負けず嫌いの王妃様は、勝ち誇ったように声を上げて嬉しそうに笑って可愛い。
あーはい、おめでとうございます、王妃様。
感慨は大変深くて感動的です。
また1人女性を妊娠させてしまって驚いたり喜んだりする場面だけど、王妃様が無邪気に喜ぶ姿を目の当たりにするとほんわかしてしまって、自分の感想は後回しになってしまう。
「良かったね、ジュリーナ母様」
「馬鹿者、ここでその名を口にするな」
だって、呼び捨てにしたら手刀が落ちてきそうだったから。
まあ、この先の困難は今は見て見ぬ振りで流してしまおう。
「あ……なんだ、クロ、朝から甘えおって」
そのまま朝から昼とも夜とも判断の付かない混じり物の王妃様とイチャイチャしてしまったので、朝の着替えの時間が大幅に削られました。
朝から艶声を聞かされながら待機を命じられていた側付メイドズ、本当にごめんなさい。
*
朝も早くから邸宅を訪れた、中途半端な金髪をキラキラと輝かせた男装の麗人は、突然の訪問に慌てふためくこともないプロフェッショナルな当家のメイドが用意した朝食の席でご満悦だった。
「この、スープは素晴らしいですね、今までにない香りが見事です」
それはお味噌汁です、大使様。
試作品の味噌をカバーするのは昆布を漬けた水。ちょっとしたコツで美味しく頂ける仕様です。
けんちん汁だと重いので、具はあっさりとわかめだけにしておくように指示しました。
これでお米があれば最高だけど、パンとの相性も意外にいい。
ツバァイ母様にも好評なのでちょっぴり嬉しい。
「ふむ。朝から当家の食事を褒められて悪い気はしないな」
いつもは突然の来訪に嫌味のひとつも毒づく王妃様も、とある事情でにこにこと笑っている。
「本日は、本国より届いた書簡を届けに来ただけなのですけど、ご相伴にあずかることができて僥倖でした」
大使もにこにこと笑っていた。
嘘つけ。朝食時を狙ってやってきたくせにいけしゃあしゃあと言いやがります。
もちろん、愛想の良さで評判の第3王子は、素振りすら見せずに「恐縮です」と笑顔で返答。
隣国から視察に出向いた大使様の滞在期間は明日で終了。
いったい何をしに来たのか意味不明のお客様だったけど、何をやらかすわけでもなく王妃様と仲良く舌戦とか睨みあいをしただけで帰国しそう。
成果は口止め料代わりの食材を確保しただけ。
これで大使とか務まるのだから隣国は本当に豊かな大国です。
「今日は、ラフな格好だね。とても素敵ですよ」
「おそれいります、大使様」
来客情報がなかったことと、朝の準備が遅れ気味だったので、シャツに短パンという簡素な子供みたいな男の娘です。
食事に興味津々でも、僕に対する賛美は忘れない。
最初は暴走もした僕だけど、この国の男を漁りたいならご随意に。
女性を所望されてしまうと困るけど、男性なら問題ないから。
男嫌いの女好きというわけではなくて、可愛いものが大好きだけど、自分が可愛がられるのはお断りのため、男よけの男装じゃないかと推測します。
たまにメイドたちとの距離を詰めているけど、不適切な関係に発展したという話はなかったので、男の格好は趣味の分野なのかも知れない。
男の娘として分かり合えてしまえそう。
ムキムキ男性が苦手なのか兄王子ズとの交流は最低限だった。
僕にしょっちゅう絡んできたから、姉様ズと王妃様との関係は最悪だけどね。
「ふむ。書簡は後で確認させていただくとしよう、それより――」
ドヤ顔で王妃様は晴れやかな笑顔で言葉を続ける。
「朱華、ララ、それに、アン、お前たちはあれから順調なのであろうな?」
経緯や立場はともかくお腹の中には王族の血を持つ者が育っているから、正式に王族の子供を生むことを許可された妊娠中の女性は、それはそれは大事に守られる。これも王族クオリティ。
遂にその一員として名乗りを上げようと画策した王妃様は、寛大なお言葉を先人たちに余裕たっぷりにおかけになった。
王族関係者が続けて妊娠という結構スキャンダルな内容だというのに、大使様の目と耳は気にしていない所に危うさを感じてしまう。秘密の共有で大使様との絆でも生まれたのかな?
「うむ。そのことだが……」
「ジュリーナ母様、あのね……」
「王妃様、口にするのも畏れ多いのですが……」
朱華姉様とララ姉様は、気まずそうなお顔になって、名指しのアンも一歩前に出てから深々と頭を下げた。
「実はな……」
「それがねぇ」
「実を申しますと」
ちょっとだけ衝撃的なカミングアウトがなされました。
「なん……だと……」
王妃様は顔面蒼白。
簡潔に結論から言うと、あれから3人にしっかり生理が来たらしい。
「ちょっと体調が悪かっただけみたいなのジュリーナ母様。年頃の女性にはぁ、良くあることかな。てへっ」
ララ姉様は可愛く小首を傾げて頭をコツンとたたく。
「慣れない暮らしで少し疲れが溜まっていたみたいだ。なに、問題ない。今日の酒は美味で妾も体調万全だ」
赤い杯をくいっと傾けて朱華姉様は呵々大笑。
「色々とご迷惑をおかけして、御温情まで賜りましたのに、不甲斐ない女で申し訳ございません。この失態に対しての罰はいかようなものでもお受けいたします」
アンは精一杯無表情で詫びていた。
あらら。妊娠というのは勘違いでしたか。ちょっとがっかり。
いや、待てよ?
これ、結構マズくない?
つまり、今日の報告が確かなことだと、王妃様だけが妊娠したということになる。
ベビーラッシュで迷彩という完璧な作戦が吹っ飛んじゃう、強烈な報告だった。
王妃様は、確認をするようにツバァイ母様に言葉をかける。
「……ツバァイ、お前あれほど自信たっぷりに私に報告して、色々と……」
「間違いというのは、あるとこですこと」
発端となったツバァイ母様はしれっと口にする。この辺はさすが王族。心臓に毛が生えている。
つまり取り越し苦労で勇み足。
あらあらまあまあとアストレア母様も困惑しているけど特に気には病んでいない。
「お、お前が、そのような報告を私にしたから……お前のせいで、私は……」
「なにか問題がありますこと?」
訝しげな表情で、意地悪くツバァイ母様が王妃様の口を封じる。
メイドネットワークを駆使できる立場みたいなツバァイ母様なら、ここ最近の夜の王妃様の行いはきっと把握しているはず。
夜に息子を寝室に引きずり込んでの淫蕩三昧。子作りに励んでいるなんて、メイドネットワークが聞き逃すはずがないからね。
「ぐぬぬ……」
だけど言えない。
近しい女性が、可愛がる息子同然の男の娘に先を越して妊娠させられたから、慌てて後を追いかけて、やっとの思いで追いつきました、とは言えない。絶対言えない。
というか、今になってようやく自分が今までしでかしてきたことの現実に直面したみたい。
夜の王妃様と昼の王妃様が一部リンクをしている。
これは小さな第一歩だけど大きな前進。
いつか昼でも羞恥で赤くなって甘えてくる王妃様を見てみたい。
このまま王妃様のお腹が大きくなったら起こることが必至の事態に、どんな言い訳を並べようとも納得してもらえない緊急事態に、頭を抱えて座り込んでしまいたいくらいの動揺だろう。
「ああ、鬼の一族との繋がりは時期尚早だったのですね。あ、これも美味しいですね、塩辛いのに酸っぱくて」
それは沢庵です。米ぬかが手に入らないので正確ではありませんけど。
「うむ。だが、妾はクロと一生を共にする覚悟であるから、遺憾ながら鬼の一族との関係も強化されることに間違いはないぞ?」
「なるほど、一安心です」
なんのことか分からないけど、大使様も安心していた。
「というか、姉君もご懐妊だったのですか?」
つーんとララ姉様は顔を逸らせて無視をする。
大使様は苦笑していた。
「い、一体、一体……なんなのだー!」
王妃様、ご乱心!
「クロよ、これは命令だ! その3人を一刻も速く孕ませよ!」
一国の王妃様がお客様とか家族の前で口にする言葉とは到底思えない勅命だった。
さすがに大使様もぎょっと目を丸くしている。
ツバァイ母様は、ためいき混じりで額を指で押さえていた。
「はい、よろこんでー!」
ここで王妃様に恥をかかせるわけには行かないので、滅茶苦茶吹き出しそうになるのを我慢して、僕は元気よく返答した。
王妃様の勅命だから、太鼓判。
今夜から、さっそく王妃様と朱華姉様とララ姉様、それにアンをベッドに並べよう!
それ、なんていう酒池肉林?
「……姫が女を孕ませる……あの、その場に私も混ぜてもらっても?」
大使がおずおずと手を上げる。
少しだけ頬が赤くてとってもチャーミング。
え、いやいや。どういうこと!?
混ざるってなにに混ざるの? 何かと勘違いしているの?
「……大使よ、あなたには関係がないことだと思うが?」
さっきまでのにこやかな王妃様はもう居ない。目が完全に据わっていた。
「詳しくは、お届けした書簡をご覧になって頂ければ分かると思いますよ、王妃」
しれっと大使様が口にする。
執事に命じて持たせた書簡を王妃様が乱暴に開く。
読み終えると、ブルブルと震える手でそのまま力強く握りつぶした。
「……婚約、だと……どういうことなのだ、大使よ!」
え? 婚約?
にっこりと、テーブルに肘を突いて綺麗なあごをその上に乗せた大使様が笑う。
「美味しい料理の知識があって、こんなに可愛らしい男の娘なんて、この先鉦や太鼓で探しても見つかりませんからね、当然のことだと思います」
つまり、大使様と僕の婚約のお誘い!?
いや、大国からだと命令に近い。
「最初は鬼の一族とこの国の関係の調査で派遣されたのですが、鬼の一族と関わりが深くなったのなら、我が国もこの国と仲良くして決して損はないですからね。王妃にとってもこれは朗報だと思いますよ?」
たしかに、大国である隣国と繋がりが出来るのは喜ばしい。
「私の家は国の政にも参加する大貴族です。後ろ盾として十分でしょう」
「ぐぬぬ……」
王妃様は苦悩する。
話としてはこれ以上にない良縁ですね。
だけど、相手が僕というのが大問題。何しろ、まだ確定していないとは言えお腹の中には婚約者にしようという男の娘の子供ができちゃっている。
後々どうしようもない問題に発展すること間違いなし。
前途多難の四面楚歌。
ベッドに女体が更に追加。うわー。大使様って身体の線が分からない服装だから想像が難しいけど、どんな身体をしているのか興味津々。
あ、ララ姉様がとっても不満そう。
こんな女が弟と婚約とか認めませんというお顔だった。
その横のパティ姉様は拗ねたみたいに唇を尖らせている。
自分の名前が呼ばれなかったからかな? その内参加してきそう。ウエルカムです。
恐縮しているアンの後方に控えるビビィも目を静かに光らせている。
お世話にかこつけて参加は必須。
シーラは両手を前で合わせて目を輝かせて僕を祝福してくれていた。
朱華姉様は王妃様が困る姿を酒の肴にニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。
はいはい、僕は前向き第3王子。これは、お国のためにもなって一石多女。
新しい諺を生み出すくらいに、大変気分がいい!
僕の存在が、家族や国を幸せにするなんて本望です。
よござんす、お任せ下さい。しっかりみんなを孕ませましょう。
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