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第2部

第31話 まさかの卒業取り消し

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 031

 視線というか吐息を感じて目を開けると、半目でジト目のパティ姉様が僕の顔を覗き込んでいた。

 朝の爽やかな清々しさに、香木の匂いが混じって心地いい。

 母親譲りの艶やかな前髪をきれいな眉のラインに合わせて切り揃えた、可愛らしいパティ姉様は19歳とは思えない幼い顔立ちで僕を見ている。

 身長もちっちゃくて僕と同じ位で非常に好感が持てちゃいます。
 何故か僕の周りの女性陣は高身長ばかりだから。

 はて? その愛らしいパティ姉様が、どうして朝からメイドの真似事をしているの?

「愚弟、お目覚め」

 セリフまでパクってる。
 事前にアンが教えたのかな?

 これは新しいパターンの起床だ。
 ゴスロリミリタリー風で朝から不吉な黒装束。
 朝からしっかり身支度を整えているパティ姉様に迎えられるのもとっても新鮮。

 その後ろには、僕のお世話係のそば付きメイドが従うように控えている。
 メイドズは、3人揃って無表情ですまし顔。
 たとえ王家の第3王子がお相手でも、殿方に無闇に笑顔を晒さないのが、当家のメイドのしきたりだから。

 これはパティ姉様のいたずらかな?

「おはよう、パティ姉様。寝起きに可愛らしい姉様のお顔を拝見できて、僕は朝から幸せ者です」

 びっくりしたから、にっこり笑って意地悪にそう返す。
 ぶぼんと音がするくらいの勢いで、パティ姉様は赤面した。襟から少しだけ覗いている首まで赤い。作戦成功。

「べ、別に愚弟の顔を見に来たわけじゃない」

 弟の寝起きの顔を見に来たの?
 パティ姉様は、しどろもどろできゅっと僕のパジャマの裾を握る。はい、萌えちゃいます。
 それから伏し目がちで睨みつけて、愚弟のくせに生意気と呟いた。

「用は別だけど、聞きたいことがある」

 ごまかすようにパティ姉様は言う。
 あ、単に顔を見に来たというわけではないんだな。
 体を起こすと顔をふきふき。それから自動的に着替えが始まる。
 パティ姉様の前でも躊躇なく流れ作業で支度が進む。

「一番搾りというのは、何?」
「はい?」

 朝からとんでもない話題が来ちゃった!
 子供にサンタクロースの正体はお父さんだったの? って聞かれたみたいな衝撃です。

「メイドが話していた」

 なるほど納得。その言葉を別の意味で使用するのは当家のメイドの中でも一握りだけ。
 つまり、僕のそば付きメイド。
 朝の性欲処理おつとめの話を何か用事があって訪れたパティ姉様に聞かれたらしい。

 パティ姉様の衝撃の一言に目を丸くしているアンにバトンタッチ!

「かしこまりました。パティお嬢様、お聞き下さい」

 ぼくの視線を受け取ったアンが代表して言葉を繋げる。
 とてもじゃないけど、本当の意味は王家の年頃王女が結婚前に口にしていい話じゃない。
 だけど、まだ今なら間に合う。
 上手くごまかして! ほら、この世界にもビールみたいな飲み物もあるんだよね?

「一番搾りと言いますのは、若様の滾る性的な欲求をしっかりと解消して、日常業務に差し障りがないよう、私どもがお鎮めさせて頂く際に放出される、朝一番の子種汁のことでございます」

 余計な解説をどうもありがとう!

 無表情で朝から卑猥な話題を真面目に口にするメイドに萌えちゃいます。
 なるほど、今更ながら、ビバ! しきたり。
 これで恥ずかしそうに赤面したメイドが歯切れの悪い辿々しい説明をしたりすると、そういうプレイになっちゃって欲情して暴走した主に犯されちゃいそう。

 というか、さも当然みたいなドヤ顔だけど、一般的に使用される言葉じゃないからね?

「愚弟の精液……興味津々」

 しかもパティ姉様は、食いついてきた!

 どうしていつもは、自分では認めないけど病的な恥ずかしがり屋のパティ姉様なのに、こんな時に限って興味津々なの!?

 そこは赤面したお顔を見られるのが恥ずかしくなって、無言で「一番でも二番でも搾ればいい」って捨て台詞を視線に乗せて退室する場面だよ?

 だけど思い出してみて納得。
 お山に入るお清め騒動の時もパティ姉様はいつものもじもじが消えていた。
 性に対してだけ弱気も忘れる貪欲な好奇心。不思議な姉様に敬礼したい。ミリタリーなファッションだし。

「実際、ご覧になられますか?」

 アンのとんでもない提案にパティ姉様がこくこく頷く。
 ご覧にならなくていいと思う!

「……後学のため」

 パティ姉様はニヤリと笑う。

 弟がメイドにいい声で鳴かされる場面で何の勉強!? イジメですか!

 朝の支度は時間との戦争だから、話の途中でもお着替えは止まっていない。
 タイミング良く、朝から元気なペニスがドン!
 はうっ、とパティ姉様が可愛らしい声で鳴く。

「……愚弟のくせに、やっぱり大きい」

 あ、でもこの反応はちょっと嬉しい。
 周りにいる女性ズは、僕の愚息を見て欲情か無表情の二択だもんね。
 これで頬を赤く染めて、未経験女子特有の興味半分羞恥半分だったらもっと萌えた。

 だけど、パティ姉様は素面で観察。
 初めて見たわけじゃないし、すでにその可愛らしい手で感触も経験済みだった。
 おまけに腹違いの姉であるララ姉様とのドッキングも見られてました。

「はい。ご立派でございます」

 アンが、ペニスを手で優しく撫でながら無表情で同意する。

 逆に恥ずかしいのは僕の方で、朝からメイドに抜いてもらっていますとか思春期男子としては是非とも友人に自慢したいエピソードだけど、親しい女子にはバレてほしくないというアンビバレンス。

 だけど僕は前向き第3王子!
 恥ずかしがったり無意味に反発なんて選択はない。

「今日は、パティ姉様も手伝ってくれるの? 嬉しいです!」

 いいです、せっかくだからよく見てください。
 ふてぶてしく無邪気に姉様に甘えます。

「……愚弟、甘えるな」

 パティ姉様は、毒舌だけど前のめりだ。

 いつまでもメイドに鳴かされるだけの王子じゃないよ?
 いつかのように絞り出すのに時間をかけさせて、アンを代わりに鳴かせてあげよう。
 パティ姉様に、男の娘を卒業した新第3王子の男らしい姿をお見せします!

 アンの純潔は成り行きとはいえ食べちゃったから、罪悪感は少しだけ。
 跪いてペニスを前にしたアンを見下ろし鼻をならす。

 だというのに。
 どういうこと!?

 元令嬢のビビィは、僕の口添えでこの間お取り潰しになった家が再興して子爵令嬢にクラスチェンジ。
 念願が叶ったというのに、僕のそば付きメイドを継続したいと申し出た変わり者。
 助けてもらったという恩義半分、さらに上の身分をめざす野望半分。

「爵位のある家の娘として、若様に必要とされる可能性が上がりましたので、こんないい話を棒に振るのはもったいないと判断しました」

 無表情でそう言われてちょっと怖かった。
 下級貴族のご令嬢が玉の輿を期待して、花嫁修業も兼ねて上級貴族のメイドをするのはよくある話。

 でも元々、僕の子供を妊娠して貴族として返り咲きたいという念願を、ビビィにその気があるなら手伝おうと思っていたからノープロブレム。

 その令嬢の美しいお顔が僕の股下からこんにちわ。
 床に行儀悪く座り込んで背を逸らし、両手を突いた状態で背後から僕の脚の間に顔を入れて、睾丸を舌でペロペロ。果てはアナルまでぬるりと舐める!
 気持ちいいけど申し訳なくて恥ずかしい!

 ふぐりを口の中に含んで転がされてゾクゾクと身体が震える。
 ビビィの目はうっとりと潤んでいた。

 シーラは元々小さな食堂の看板娘さんだったけど、親父さんが割といい大きさの料理店のコック長に就任したので、扱いはホールの女給に降格した。

 無理に店員に復帰をする必要もなくなったので、このまま僕の側付メイドを継続したいと申し出た変わり者。

「クロ様に2度も助けていただいたご恩はとても返しきれません!」

 だから好きにお使い下さいと身体を張る健気な女子。
 シーラは親父さんの食堂再建のために高給取りのメイドに誘った。
 異世界でも最後に頼りになるのはお金ですので。

 最悪、僕の子供を妊娠したら規約に則って王族から大金をせしめることで解決という荒業があったんだけどね。

 シーラの夢は親父さんの食堂をしっかりと継続させるということだったから、旦那さんをお迎えする必要があったので、子供が出来ちゃうのはまずかった。

「クロ様……僭越ですけど、とっても可愛らしいです」

 シーラは赤面を隠せずに、無表情で舌で乳首をチロチロ、指でサワサワ。
 僕を気持ちよくさせようと、つるつるしたホッペを擦り付けながら舌でご奉仕を続けている。

 お店を継ぐ道から外れたからか、前よりもっと積極的な絡み方になった。

 2人はチラチラと互いを意識しあっている。父親同士は和解したけど、娘さんたちの和解はなかなか難しいみたい。
 張り合うように性欲処理に従事する。
 側付きメイドを続けるのももしかすると女の意地なのかもと邪推します。

「若様……いつもより、ちゅぱっ、硬度が……んっ、我慢汁の……量も、んちゅ、多いです……」

 跪いたアンがじゅぼじゅぼと音を鳴らしてペニスをあったかいお口で擦る。
 ペニスを口にしながら不明瞭に喋って大変行儀が悪い。

「はぅ……ズルいよ、3人同時とか……」
「朝は……じゅるっ、時間がないものですので……んぐっ、ご容赦ください」

 時間がないのは余計なことを組み込んでいるからだし!
 そんなに朝から僕の一番搾りを飲みたいのかな?

 身体の中に出しちゃうと呑むことが出来ないもんね。
 無表情で主の精液をお口におねだりするメイドとか萌えちゃいます。

 卑猥な音を響かせながら、アンの執念が伝わってくる朝のご奉仕が続く。
 アンの直ぐ側に顔を寄せて観察しているパティ姉様に見られながら。

 快感の三重奏、いや四重奏。
 メイドズの清浄な唇や舌が僕の身体に絡みつく。

 無表情でも頬は上気して女の子の甘い匂いが充満する。
 というかよく見ると3人ともさりげなくおっぱいを触ったりスカートの上から股間をさすったりしていますよ!?

 視覚効果も相乗効果で、それほど時間が掛かることなく呆気なく撃沈。

「出ちゃうぅぅぅ」

 男の娘みたいに鳴かされちゃう。

「かしこまりました、パティお嬢様、ご覧下さい」

 良く見えるように最後はアンの手コキ。
 くちゅくちゅと音がしてビリビリした気持ちよさがペニスを震わす。
 アンがお口を開けて、赤い舌で精液のお出迎え。

 なんていやらしい光景。

 びゅーっと精液が発射される。アンの舌上に射精。

 ドクドクと出るねばっ濃い粘液がアンの赤い舌を白く汚す。
 しぶく精液をこぼさず器用にお口で受け止めていく。

 最後の一滴まで舌で拭い取ると「もう全部出ましたか?」と上目使いで確認されて、アンはゴクリと喉を鳴らした。

「……なるほど、一番搾り、理解した」

 パティ姉様は知りたかった知識を手に入れたという、別の意味で興奮していた。
 口元を上品にハンカチで拭うアンの表情は満足そう。

「メイド、愚弟の味は?」
「はい……苦いといいますか……癖になると言いますか」

 アンが少しだけ躊躇った後に味の寸評。
 癖になる!?
 身体を密着したままのビビィとシーラと一緒になってパティ姉様は目を丸くする。
 やめてやめて! 賢者タイムにこれは辛い。でも誇らしく思ってしまうのは男の性。

「のどごしは? 夜に比べてみると?」
「ご容赦ください、パティお嬢様」

 のどごしなんて、聞いてどうするの!?
 さすがにアンも目を白黒させていた。精液ののどごしを聞かれる機会なんて滅多に無い経験だよね。

「……では、お嬢様、時間も差し迫っておりますので、若様のお召し物を変えたいと思います」
「あ。待って、メイド。愚弟、これ」

 パティ姉様から布の包みを渡される。
 もしかするとこれがパティ姉様の用事だったのかも。

「母様から」

 ツバァイ母様からだと聞いて、はっきり言って嫌な予感しかなかった。

 おそるおそる布包みを開く。
 中のものを広げる。
 アンが絶望に染まった顔色をして、ビビィとシーラは首を傾げていた。

「これは……朱華姉様とおそろいだね……」

 そう。それは浴衣でした。
 ツバァイ母様が衣装を用意したって口にしていた覚えがある。

 僕が趣味で演っていた男の娘から卒業を果たしたというのに、せっかく仕立てたのだからというツバァイ母様からの贈りもの。厄介なことに無下にはできない。

 黒い生地に控えめな赤矢絣に白い縞柄。
 前世ではレトロなイメージな柄の浴衣です。
 柄だけ見れば、男女兼用と言えなくない。

 だというのに、スソが明らかに短いミニ浴衣。
 柄はギリギリでもサイズは男女兼用からは程遠い。

 前世で言う、勘違いした外国の女子が好みそうな一品でした。

「若様……本日のお召し物は」
「……うん、お願い」

 わざわざ朝からパティ姉様に届けさせたのだから、着ろよ? というツバァイ母様からのメッセージ。
 より良い男子になることを切望するアンは頬を引くつかせていた。

 朝から暗くなるのは前向き第3王子として失格だ!
 どすこい! 来やがれ浴衣。

「若様、キレイなおみ足でございます」

 アン、それ、男子を褒める言葉じゃないよね?
 丸出しの脚が見えて恥ずかしいと思うのはここがまだまだ男の娘だから?

「愚弟、お似合い」

 パティ姉様もぱちばちと手を叩く。
 オリエンタルなミニ浴衣が似合う王子というのはどうなんだろう。

 普通の格好をしていても女子にみえてしまうのが男の娘。
 せっかく雄々しくなろうと思った矢先にこの仕打ち?
 異世界は厳しいです。

 ツバァイ母様は、しっかり下駄まで用意してくれていた。

 よござんす!
 矢絣りの赤は、国のシンボルである王妃のイメージカラー。
 浴衣は朱華姉様とペアルック。

 堂々と胸を張っていざ朝食の場へ行かん!

 *
 
「クロよ……今日は来客があると申したであろう……」

 食堂で僕を見た、朝から深いため息を吐く、王妃様の眉間のシワは深かった。
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