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第1部

第16話 まさかのファーストキス

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 016

「その細い身体で妾とやり合うつもりか?」

 朱華姉様は、表情を無くしたお顔で冷たい目を僕に向ける。

 おっと、想定外。
 この世界には変なしきたりがあるみたいだから、なにか地雷的な禁忌に触れちゃった?

 えーと、男女の立場が逆転しているらしい鬼の一族視点で今のやり取りを考えると、少女が中年手前の男性に、子供が作れるか私が証明してあげましょうか? と提案したということか。

 逆にしても萌えるシチュエーションでした!

 違うみたい。生意気なことを言ったから気分を害した系かも。
 種族の違うわけも知らない男の娘おとこおんなが、神聖なる子作りを愚弄するつもりか、と怒られちゃう?

「そ、そこでシュンとするな、まったく……自信があるのかないのか、はっきりせん奴め!」

 考えが顔に出ちゃってごめんなさい。
 この慌て様だと、年端もいかない子供がとんでもないことを言い出して戸惑ったという感じかな。

 朱華姉様は、調子が狂った場面を立て直そうと一つ咳払いを挟む。
 怒ってはないみたい。危なかった。言葉の使い方は気をつけないとね。

「角なしが妾を孕ませるなど笑止千万。いいだろう、強い子を産むことが妾の務めだ。お前が妾を孕ませるにたる男か見極めてやろう」

 カッコいい啖呵を切っているけど、お顔が少し赤いままだから可愛らしい。
 でも、異種間で異種姦でも子供はできるんだ。このまま始めたら、更に青姦。姦だらけ。
 すんなりと許可をいただいちゃいました。

 いつまでも川に浸かっているわけにも行かないので、少しだけ川から離れた木陰に移動する。
 僕の手を引く朱華姉様は、本当の姉様のようだった。

 長い髪に着いた水を絞りながら、朱華姉様はそこで柳眉をしかめる。

「しかし、いいのか? お前の性別は男の娘というややこしいアレなんだろう? 女が相手でも大丈夫なのか?」

 やばい所にツッコミが!

「それは議論の分かれるところだよ、朱華姉様!」
「む、そうなのか? というより、なにを慌てている」

 しまった。つい世間の批判が怖くなって動揺してしまった。
 この世界に男の娘が流行するのは、まだまだ先だというのに。

「しかし、女装までしているではないか」
「え? 女装じゃないよ?」

 どちらととも取れる中性的な格好を心掛けているだけです。
 女装に抵抗がある訳じゃない。新しいことにチャレンジする前向き第3王子の異名を将来王妃様から頂戴するつもりだ。
 悔しいことに女装いらずの点が、僕を男の娘にするんです。色々と都合がいいという特典があるから後悔することは無いけどね。

「いやしかし、見慣れぬ神職のようなその衣はどうみても女物だろう?」

 そうだった! 着ている千早は女物でした!
 でもこれは神事に参加するためのものだから仕方がないんです。
 それに愛するツバァイ母様からの贈り物だから無碍にするなんてとんでもない。

 女物の千早をまとって下半身を丸出しにしてペニスを勃起させている、アブノーマルさに我に返って失神しそう。

「たしかに広い世界には、外見も内面も女性にしか見えない男の娘もいるけど、僕が男の娘を自称するのはこの中性的な容姿を開き直っているからだよ?」
「まあ、見た目だけなら女だな。しかし、否定をせんと言うことは、やはり神職の類いの衣か、クロは神職者なのか?」

 一瞬だけ考える。だけどここで身分を偽っても後でバレる。
 なら言っちゃえ。悪い人には見えないし。

「ただの王家の使い走りだよ?」
「王家か、なるほど。どことなく気品がある気がしていた。……その元気な下半身以外はな」

 いえいえ気品のある王族でも、メイド労働組合に変なしきたりを作らせる元気な下半身の持ちが過去に多数存在しました。

「年増で石女うまずめの妾を憐れんでいるわけではないのだな?」
「年増じゃないよ? 僕の元いた世界基準だと、朱華姉様はお姉さんだよ?」

 ただのお姉さんじゃなくて、きれいなお姉さんという種族だ。
 子供はまあ、天の授かり物ですから。

「別に疑っているのではない、その……誤解を解いておきたかっただけだ」

 言い淀んだ内容はなんとなく察することが出来た。
 鬼の一族の種族繁栄のための行為に対する出来事を、僕の世界での常識に変換してしまえば、謂われのない屈辱や憐れみを与えてしまうかも知れない。

 文化の差異を軽々しく批判するのも烏滸がましい。
 だから、素直に思ったことを伝えよう。

「朱華姉様は、匂いが気になるみたいだったから、僕の匂いしかしないようにしてあげたくなっただけだよ?」
「なっ……生意気な」

 朱華姉様は半目で僕を睨みつけた。
 でもどこか嬉しそうに緩む口元を必死に我慢しているみたいだった。

「やはり誤解をしているようだな。鬼の一族の女は強い。男を従える一族だ。男に抱かれることなど歯牙にもかけん。妾が気に食わないのは、妾よりも脆弱で意気地のない男ばかりが子作りの相手だったという一点だ。ま、いまは見向きもされんがな」

 強い子を残すことが信条なら、たしかに納得いかない部分なのかも。
 傷を負ったのはプライドで、心に負っていないようでなによりです。

 これも鬼の一族風味で考えると、経験豊富さというのは自慢になるのか。
 女尊男卑の常識だと。

 慰み者になっているのは男子の方とか、なにそのうらやまけしからん状態。
 男の娘でも、半分くらい羨ましがっても大丈夫だよね?

 虐げられているとは言え、もう少し男を見せて欲しいものです。
 鬼の一族の男子にエールを。
 え? あれ? ちょっと待って。

「え゛?」

 というか、さっきなんて言った、朱華姉様は?

「どうした? 素っ頓狂な声を出して」
「……妾よりも脆弱で意気地のない男ばかりが子作りの相手だったという一点だ……」

 ゆっくりとセリフを繰り返してから、色っぽい朱華姉様を見る。
 身長は180センチくらい。とっても強そう。敵いません。
 それに猪に追いかけられて逃げ出して川に落ちちゃう不甲斐なさ。
 つまり僕には、朱華姉様のプライドを傷つけない資格がない。

「お、お前はいいのだ! そ、その、か、可愛いから。それに、そのふてぶてしさは逆に好感が持てる類いのものだ……だから、そのような我慢できなくなるような顔を――」

 なんだかラブコメめいてきた。

「ええい、御託はいい!」

 朱華姉様は僕に大股で近付くとぎゅっと抱きしめ「妾を孕ませたいのだろう?」と囁いた。

「角なしの分際で、鬼の一族の族長である妾に種付をしてやると、威勢のいいことを言える奴は、意気地無しなどでは決してない」

 いい匂い。
 いい感触。

「たから、あとは妾を見事孕ませ、妾よりも強いと証明してみせよ」

 鮮やかな朱色の唇が、僕の唇を塞いだ。

「!」
「ん……ちゅる、……んん」

 ファーストキスだった。
 唇ってこんなにやわらかくて温かくて気持ちいい。ヌメッとした舌が中に入り込んでくる。

 メイド達に散々性欲処理を施されたけど、恐れ多いと感じているのか、口付けなんて求められたことはなかったから。

 口の中が気持ちよくて身体がとろけちゃいそう。

 唾液が唇を引いて顔が離れる。
 間近で見ると美貌が際立つ。
 長いまつ毛に潤んだ群青色の瞳。
 大人の女を強く感じさせる唇と舌を使った接吻。
 吐息が甘い。なにを食べたらこんな香りになるの?

 湿った髪が熱くなった頬を冷やす。
 濡らしただけだというのに、花のような香りがする。

 朱華姉様は、僕の顔に張り付いた髪を指で摘んで取ると、両手で優しく頬を挟んで笑う。

「……なにか背徳的なものを感じるな……まるで、年端も行かぬ少女の唇を貪っているようだ。……なんだ? ふふ、もっとか? うい奴め…ん、ちゅ、」

 寂しくなった唇の感触にもっとと甘えてみると、嬉しそうに朱華姉様は熱い唇を押し付けてきた。
 欲望が漲ったペニスが朱華姉様の柔らかい体を突く。場所がどこかはわからないけど、やわらかくて気持ちがいい。

「威勢が良かった割には、震えているではないか、ん、ふふ、舌をもっと伸ばせ」

 まるで扱いは女子だ。
 男の娘だから問題ないか。

「んっ……」
「ふふ……」

 朱華姉様の手がペニスを握る。前後にくねらせた手で扱く。
 たまに敏感な先端を手で包み込むように柔らかい手で撫でられる。
 ビリビリとした刺激。

「いい顔だぞ、クロ」
「朱華姉様、すごく気持ちいい」

 無意識に腰が動いてペニスを朱華姉様に突き立てる。
 弾力のある素肌の感触が先端を妖しく擦る。ここはふとももかな?

 熱いペニスの先端がふとももに擦り付けられて、だらしなく吐き出した先走りを塗りつけられて、洗ったばかりの肌を汚され、朱華姉様は驚いたように目を見開いた。
 僕の匂いをつけてあげるね。
 鬼頭部分の粘膜で、さっき知り合ったばかりの朱華姉様の肌に染み込ませる。

「痴れ者め」

 嬉しそうに朱華姉様は言った。
 それから深く口付けを繰り返す。唾液が溢れて口の周りをベトベトにした。
 キスって凄い。身体が昂ぶるカンフル剤だ。次のお清めの時にメイドズにも実践してみよう。

 きゅっと強めにペニスが握られる。
 途端に背筋に電気が走る。

「もう、出そうなくらいに固くなっているな。ここで出しても妾を孕ませることは叶わぬぞ? それでも出したいのか? 出すのか?」

 あまりに気持ちのいいお誘いに、こくこくと頷いてしまう。
 不甲斐ない、脆弱な意思でごめんなさい。

「意気地無しめ」

 手でしごかれて、表面は朱華姉様の柔らかい肌で擦られ、あっという間に昂ぶった。

「子作り以外で子種を出すというのもまた一興よな、ん? 出るか? びくびくとしてきたぞ?」

 主導権は完全に朱華姉様だ。身を任せるほうが性に合っているから平気。
 というか、何かスキルでもお持ちですか?
 メイドズよりも卓越した手淫の技にタジタジです。

 膨れ上がった射精感は、すぐに限界を突破した。
 外だというのに。もう、我慢できない。

「あうっ、出ちゃう」
「いいぞ、出すがいい」

 とびきり速度が上がった朱華姉様の手で導かれ、腰ががくんと震えた。
 ぴゅっと出す。朱華姉様のふとももにしっかりと押し付けるように突き出して。
 どくどくと出る。自分が出した精液が表面をヌルヌルにした。

「ふふ、妾の脚がそんなに気持ちいいのか?」

 全部出る。まだ扱く手は止まらない。
 なにこれ。すごい。
 腰が全部持って行かれそうな感触。
 寒気がするほどの快感が中にあるものをすべて噴き出すような射精感。

「……凄いな、こんなに出るものなのか……この濃さで、中に出されたら本当に孕まされるやもしれん」

 下を向くと朱華姉様の剥き出しの白いふとももに大量の精液がこびりついていた。
 白くて透明なゼリーみたいに濃い粘液が、女性のふとももを汚している。
 ゆっくりと垂れていく。
 出しおえたペニスの先に残る汚液を朱華姉様は自分のふとももの肌を使って拭い落とす。
 その刺激で、最後の精液が力なくだらしなくぷくりと吹き出た。

「まだ、出るのか……」

 ペニスの奥がきゅっといたくなる様な射精だった。

 突っ張っていた身体から力が抜ける。半分意識を失いかけて、朱華姉様に支えられる。
 妖艶な野外での出来事に緊張したのか疲れたのか、汗ばんだ朱華姉様の匂いに包まれる。
 至福のときを過ごしていたとき、その音は聞こえた。

 ぶるる。
 ああ。聞き覚えのあるバイクのような唸り声。

 あの猪だ。追いついてきたのか、しぶといな。
 ふらつく頭で慌てて体勢を整えようとして足に力が入らず転んでしまう。
 尻餅をついてしまった。痛いです。

「クロ! 大丈夫か!?」

 すぐに朱華姉様に介抱された。
 危ないよ、猪が、朱華姉様、逃げないと。

「……猪風情が」

 朱華姉様は、立ち上がると、ぎりっと歯ぎしりをした。

「山のモノである妾に楯突くか、獣畜生!」

 朱華姉様の恫喝一閃。
 山中に響き渡るようなビリビリとした振動だった。

 猪はたじろいで、その突進しかけていた足を止める。なにが起こったのか分からないようなきょとんとしたつぶらな瞳が印象的だった。

 それからブルブルと震え始めて、一声鳴くと逃げていった。
 怒鳴っただけで、追い払った? 信じられない強さなんですけど!

「……まったく、いい所を邪魔しおって」

 いい所って、本音が漏れてるけど突発性難聴主人公スキルを使用して回避する。

「クロ、猪程度で何というざまなのだ、それでも女の端くれか?」
「男の娘だし」
「そういえば、男だったな」

 都合がいいように男女を分けられるフレキシブルさが自慢です。
 朱華姉様に、ジトッとした目で見られる。
 美女に蔑まれた目を向けられると気持ちいいな!

 頭の中がフワフワしている。
 これは、あれだ、物凄い緊張の連続から解放されて気が緩んだという状態。不可抗力。

「その状態では、続きというわけにはいかんな……」

 朱華姉様が、なんかしょんぼりしちゃった!
 視線を下げると猪襲来の衝撃で、僕のペニスもしょんぼりしていた。
 というか、もう出すものもないくらいに絞られただけです。

 雄々しさのない丸出しペニスが、途端に恥ずかしくなってきた!
 でも、隠すだけの気力もない。

「クロ? おい、疲れたのか? 情けのない奴め。しかし……この身体でこんな量を出したのだから仕方がないというものか」

 朱華姉様は不思議そうにふとももにこびりついた精液を指で拭っている。
 それから指で伸ばしはじめる。汚れた範囲が広がっていく。
 それは、僕の匂いを脚につけようとしているみたいで嬉しくて、微笑ましい光景だった。

「……ああ、そういえば、連れとはぐれたと言っていたな」

 朱華姉様の声が遠い。
 暗転。
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