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第38話 U字ローターとストライキ おまけ

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 予想通り、ツギハギ屋が開店してすぐに元気娘は来店した。
 さあ、リベンジマッチの開幕だ。

「ご主人、これは……」
「まだ試作段階だが、名前はU字ローターと名付ける予定だ」
「はわわ」

 元気娘に差し出された、ピンク色のU字型のエロアイテムを見て、ユリスは耳まで赤くした顔を隠すようにさっと俯いてしまう。
 昨晩の痴態を思い返したのだろう。

「今までとは違うフォルム……これは、未来を感じる形です!」

 ふふふ。そうだろう、そうだろう。
 大変に気分がいい。

「よし、まずは機能説明だ」
「え? あっくん!?」

「まず、こちらを中に挿入して、こっちはクリトリスに――」
「待ってあっくん!? 商品説明は、私のお仕事です!」

 ユリスは真っ赤な顔のまま俺の手からU字ローターを奪い取ると、背中をぐいぐいと押しはじめカウンターまで退避させられた。

「ユリス、恥ずかしいのだろう? 無理をしなくてもいいぞ?」
「……あっくんが、女の子とエッチなお話をする方が無理です」

 職務に忠実な人妻だと感心していたら、ただの嫉妬だった。
 若干頬がふくらんで唇が尖っている。かわいい人妻の拗ねた態度は感動物だ。

「それに、殿方が説明する内容ではないと思います。いいからあなたはここで、大人しく座っていて下さいね?」

 目が笑っていない笑顔で、カウンター側の椅子に無理やり座らされる。

「すいません、お待たせしました」

 ユリスは元気娘にボソボソと小声で説明をはじめた。

「おお! こちらがかの有名なGスポットという、女の覚醒器官に当たるわけですね!」
「……うう、はい、もう少し小声で話そうね?」

「そして、こちらは……な、なんと、指に吸い付いてくるだけではなく、まるで舌で舐め回されるような感触です……これがクリトリスという女のレベルを上げる場所に――」
「もう、いいから黙って!?」

 ユリス、敬語が取れているぞ。
 そんなのでも一応客だ。

 元気娘は頬を紅潮させて大はしゃぎをはじめる。
 気に入ってもらえて何よりだ。
 だが、それだけではないぞ?

 U字ローターは自由に可動可能で、千差万別の女の身体にピタリとフィットする形に変化をさせられる。
 流石に完全固定とはいかないが、足をしっかりと閉じることで、すっぽ抜けは回避ができることも確認した。尊いユリスの犠牲に敬意を捧げよう。

 絶え間なく中の弱いところを振動で攻められ、敏感なクリに吸い付き、ゼリー状の部品が回転して刺激を与え続ける。

「ユリスさんは、既に使用済みだと推察いたしますが……」
「ええ、まぁ……」

「やはり! 是非、所感をお聞かせ願います!」
「あっくん……やっぱり代わって下さい」

 早い泣き言だった。

「ユリス、話してやれ。どうせ後で根掘り葉掘り聞かれる。早いか遅いかだ」
「うう……そんな気がします……分かりました」

 その破壊力は、ユリスが身を昨晩身を以て証明した。

 ベッドでU字ローターを震える身体にセットしてから5分ほどで、ユリスは仰向け状態から膝を曲げて腰を浮かすブリッジ寸前の卑猥な格好になり、激しく身体を痙攣させた。

 男を激しく欲情させる表情のまま、絶頂の膣圧でU字ローターを飛ばしたあと、大量の潮を吹いてガクガク身体を揺らし続ける姿は未だに忘れられない。

 多少パワーを落とし、足を閉じて抜けない体勢で実験を継続。
 大量の汗をかきながら、ユリスは軽い絶頂の連続で言葉を失い、気付けばベッドのシーツはぐしょぐしょだった。

 もちろん、その後、滅茶苦茶セックスしたのは当然の流れだろう。

 ハードな刺激からまったりとしたソフトな刺激まで、調節可能な優れものだ。
 お一人様でも十分に満足できる一品。

 何よりも手が2本も自由になる。
 もう元気娘に物足りないとは言わせない。

 さあ、しっかりと元気娘に聞かせて戦かせるがいい!

「……凄かったです」

 一言に要約されていた。

「なるほど、行間から溢れ出るユリスさんの情熱ですべてを察しました。これこそ私が――いえ! 全女性が求めていたアーティファクトです!」

 一言でも、行間というのは存在するらしい。
 また出たアーティファクト扱いに苦笑が漏れる。

 ウインウインとマッサージチェアに揺られながら、元気娘はU字ローターを神から下賜された如く、両手で掲げている。
 ユリスはもう諦めの境地で見守るだけだ。

「ユリスさん! ここで試してみても宜しいでしょうか?」
「はい……え? 試す……って……だ、だめです! 絶対だめです!」

 ユリスは帰還した。

「あ、脚を上げないで!? 開くのもだめ!」

 元気娘の短いスカートの奥に見えたのは、黄色と白のしましまぱんつだ。

 ユリスが必死になって止めている。
 さすが元気娘。この健全なアダルトショップで、U字ローター相手の生板ショーとは畏れ入る。
 というか、ツギハギ屋を潰すつもりか?

「何故でしょうか……これは拷問ですか? 真の女の道を目の前にしてお預けとは……後生です! あ……」

 元気娘は時間切れで止まったマッサージチェアに、いそいそと銅貨を入れて再稼働させる。
 間が悪いというか間抜けな図に、なんとか場の空気は霧散した。
 危なかった。ツギハギ屋始まって以来の大醜聞になる所だったな。
 マッサージチェア、お前は今日から救世主と呼ばせてもらおう。

「家に帰ればすむ話だろう?」
「ストライキ中ですので!」

 打てば響く返答だった。
 まだ続いていたのか。

 あまり関わりたくはないが、このまま毎日店に居座られてはユリスの神経が参ってしまう。
 この店は、ユリスを淫らにして楽をさせるためにある場所だ。
 そろそろ異分子には帰ってもらうべきだろう。

「何を求めてのストライキなんだ?」
「心の自由を求めてです、ご主人!」

「いや、そういうのはいいから、具体的に教えてくれ」
「は! ありていに言うと、防具の自由化です!」

 ユリスと顔を見合わせる。
 なんだ? 防具の自由化とは?

 前世の知識にある、学生が制服から私服への変更を陳情する類のものなのか?
 防具など、好きに選んで装備すれば良いと思うのだが?

「頭の固いおえらいさんや男性冒険者は、こぞってヤレ防御力がどうの、ヤレ怪我がどうのと……」

 ぐちぐちと愚痴を並べて元気娘は、はーやれやれ首とを振る。
 その細い首も風前の灯火だろう。

「挙句の果てには、はしたない、破廉恥、慎みがないと、感情論でまともに話ができないのであります!」

 この異世界には、そこまで男に言わしめるエロ防具が存在していたのか。
 どんな防具なのか、ツギハギ屋としては興味が湧く。

「あの……つまり、お好きな防具を装備したいのに認められないから、さぼ……いえ、ストライキをしてるのかな?」
「はい! そうであります!」

 元気娘は最高調の盛り上がりを見せる。

「やはり女性は着飾りたいものです、ユリスさんも味気ない服よりも可愛いが正義ですよね?」
「え、ええ、まあ……限度はありますけど」

 胸元をそっと押さえて俺を見る。
 これ以上、変な改造は禁止です! そんな瞳の色だった。

「防具というのは、冒険者を怪我から守り命を守る大切な物だと、重々理解しております! しかし!」

 ついに立ち上がった。

「だからといって無骨な防具より、かわいい防具のほうがいいじゃないですか!」

 びしっとどこかに向けて指を差す。

「女冒険者の皆様も、お洒落がしたいのです! 身体を守るためにお洒落を諦める必要はないのです!」

 想像以上にどうでもいい議題だった。
 いや、年頃の女子にとっては死活問題なのかもしれないが、別の意味でも死活問題になる話だ。

 お洒落な服を着たいなら、プライベートで着たいだけ着るがいい。
 魔物を相手にする仕事は命がけだ。お洒落とやらで命を落としては無念だろう。

「あの……それで、女性の方が望んでいる防具というのは?」

 元気娘は我が意を得たりと瞳を輝かせる。そして、自信満々に宣言する。

「ビキニアーマーです!」

「え?」
「は?」

 くらっとユリスが、目眩に襲われた様子でよろける。
 何故ストライキ中に元気娘が、ツギハギ屋に引きこもるのかという疑問が解消された瞬間だった。

 すべてが繋がっていたらしい。

 元気娘のカミングアウトのあと、すぐに冒険者ギルドに顔を出した。

 *

 後日のことだ。
 
「あのな、ツギハギ屋。そもそもお前ぇがあんな防具を作ったりするから悪ぃんだぜ?」
「知らん」

「ギルドまで巻き込みやがってよぉ」
「だから、知らん。あれは元気娘の暴走だ」

 ダンガは呆れた様子で深いため息を返してくる。
 ツギハギ屋がビキニアーマー推奨しているのは、夜のベッドの上だけだ。

「おまたせ致しました!」

 居住区から、恥ずかしげに身体を縮こまらせたユリスが、元気娘に手を引かれて登場する。

 思わず息をのんでしまう。

 深紅の甲冑をモチーフにしたビキニトップ。
 紐のように細いローライズなビキニボトム。
 ガントレット型の手袋に、足元はロングブーツ。
 ふとももの大半をストッキングで隠しても、まだ肌色の部分が半分はある。

 元気娘が愛してやまない、ツギハギ屋が仕立てたビキニアーマーだ。

 ただし、その上にはシースルーなワンピース型のセーラー服が着用されていた。
 シースルーで透けているので、肌は丸見え。
 独特の形状をした大きな襟。
 袖の先とスカートの裾にユリス好みのピンクのラインをいれた。
 スカート丈は短く、ビキニボトムがぎりぎり隠れるくらいで、絶対領域を確保している。
 動くだけで、もともと見えているビキニボトムがチラリと見える。

 悩殺。そんな言葉しか出てこない語彙に不自由な自分が憎い。

「あの……もう着替えても良いでしょうか?」
「まだ着たばかりですよ!」

 ユリスは納得いかない表情で、前屈みになっている。
 背筋を伸ばして下さいと、元気娘に背中を伸ばされると、突き出たおっぱいが強調された。
 実に、素晴らしい。人妻の透けたセーラー服だけでも噴飯物だというのに、服の下に見えるのは下着に近いビキニアーマーだ。
 ツギハギ屋の制服として正式に採用を検討したい。

「うう……どうして私がこんな破廉恥な恰好を……」
「それはあれですユリスさん、ダンガさんのその格好を見たいですか?」
「それは、お断りですけど……」

「おい! いい加減にしねぇと、泣くぞこら!」

 ダンガはばりばりと頭をかいている。

「おい、ツギハギ屋……ここまで透けさす必要があんのかよ……」

 くっ。下着ではないし直接見える部分は少ないとはいえ、やはりユリスの肌をさらす前にダンガの目は潰しておくべきだったな。

「元気娘の――いや、女冒険者の総意だ。それにここは、ツギハギ屋だからな」
「あっくん! うちはそんな名前じゃありません!」

「はん! エロアイテム専門店の矜持という奴かよ、痺れるなぁ!」
「そんな変な専門店じゃないよ!?」

 元気娘のカミングアウトのあと、冒険者ギルドに向かいツギハギ屋の無実を訴えた。

「ご主人の計らいで、示談に持ち込めたことをいつまでも感謝します!」

 その日の内に、冒険者ギルドを騒がせたストライキは解除された。

「別にお前たちの為にしたことではない」

 ユリスと俺の店を守るためにしたことだ。ただ、少しだけ、ダンガがいうアーティファクト級の防具の提案をしたがな。

 薄物と見紛う透けた、エロ衣装を侮るなかれ。
 このワンピース型セーラー服はなんと防刃仕様だ。その辺にたむろする冒険者風情が装備する防具よりも、よほど防御力に長けている。

 冒険者ギルドの男どもも、これを認めないわけにはいかなかった。
 つまり、安全は確保された。

 結局のところ、誰もが女性のお洒落を咎めていたのではなく、怪我をしたり命を落としたりしてほしくなかっただけの、善人だったわけだ。

 透けた服の下に何を着るかは本人の自由。
 ファッションの問題は、議論があるなら大いに闘わせるがいい。
 ツギハギ屋には、関係のないことだからな。

「それにしても似合いますね! ユリスさん、最高です!」
 
 直視が難しいエロい気持ちになる格好は、今後男性冒険者の目をさぞ泳がすことになるだろう。

「ユリスさんも、冒険者としてデビューしてみてはいかがです?」
「こんな恥ずかしい格好で外を歩く勇気はないから遠慮します」

 ユリスは眉尻を下げて、身体をなんとか隠そうともじもじさせていた。

「ドシドシ宣伝しますよ!」

「ああ……」
「ええ……」

 冒険者ギルドの受付嬢を続ける傍ら、元気娘はツギハギ屋の広報担当として活動するらしい。

 ダンガと同様、勝手に宣言した。
 タダで働かせるわけにはいかないので、特定のアイテムが口利きで売れたらキックバックを用意する予定だ。

 ツギハギ屋がその気もないのに、勝手に拡大されていく第一歩だった。
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