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第35話 U字ローターとストライキ その1

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「個々の商品の完成度は目を見張るものがあるのですが、いまひとつという感じが拭えないであります!」

 朝からウィンウィンとマッサージチェアを鳴らし、リラクゼーション中の元気娘は、手にしたバイブを眺めながら、辛辣な意見を吐き出した。

「あの、お嬢さん……せめて手に握った物を置きませんか?」

 ユリスはまるで自分がエロいグッズを持たされたように、顔を赤らめあわあわしている。

 下着が見えそうな危うい短さのスカートの奥に、今にもどぎついバイブを突っこみそうなキャラだからな。心配する気持ちはよく分かる。

 以前の寂れていた時代はいざ知らず、エロアイテムで繁盛するツギハギ屋は閑古鳥が鳴いているわけではない。
 客は次々と入ってきては、元気娘を見てびっくりした顔になり、二度見してから「あぁ」という顔になる。

 傍若無人で天真爛漫。
 ツギハギ屋の名物になりつつある、元気娘を咎めるものは少ないが、嫁の貰い手がなくなる懸念は拭いきれない。

 姉属性のユリスにしてみれば、妹的太客が自分が経営するお店のせいで、婚期を逃しては責任を感じるのだろう。

 処女だが潮吹きをマスター済みの破天荒な性歴を持つ、バイブが初めての相手の娘だ。
 手遅れだろう。

「理由を聞こう」
 
 リニューアルしたツギハギ屋が、はじまって以来のマイナス評価だ。
 アンチが湧いてこそ本物。
 そんな言葉を飲み込むほどには、悔しいという気持ちがあった。

「はい、ご主人。このお店に並んでいる女を磨く聖遺物ですが――」
「あっくん、そんな神々しいものだったの!?」
「いいから聞いてやれ、ユリス」

「使用していると、男の影が見え隠れするのです!」

 なに言ってんだ、こいつ。
 ダンガが口にしそうな台詞が危うく漏れそうになる。
 そもそもお前が手にしているバイブは男の一物の模造品だ。

「ふむ。男の影とやらがなにの暗喩なのな不明だが、取り立てておかしいことではないぞ?」

 ユリスにも同意を求めるが、ポカンと口を開いていた。
 おそらく既知の外にある言葉だったのだろう。
 なに言ってんだこいつ、という顔だった。

 ユリスはいつもの制服姿で、清楚に前で手を揃えている。
 伸びた背筋が美しい。
 豊満に盛り上がる胸部が腕で寄せられて、更に柔らかさを強調している。
 天然に男を誘う人妻だ。

 異世界転生という部分は曖昧にして、正体を告白したあとも特に態度が変わることはない。
 無論、俺がユリスを昔の男であるアレクから寝取る計画も続行中だ。

 元気娘は思案顔のあと、マッサージチェアで脚を組む。際どくふとももがギリギリまで見えてしまう。

「女を磨いている途中なのですが――」

 ユリスが途端に気まずそうな顔になる。
 つまりオナニー中ということだ。

「物足りなさを感じてしまうのであります!」

 元気娘はやれやれと首を振る。
 中々性欲の強い娘らしい。
 前世の叡智の結晶を物足りないと一蹴するとはな。

「たとえば、中をかき混ぜながら、口に咥えた時などですが……あと一歩足りないといいますか、手が1本足りない感じなのです!」

 中々ハードな自慰行為のカミングアウトだな。

「うう……もう……やだ」

 手がどこに伸ばされるのか興味が尽きない。
 だが、ユリスの下がった眉は「いいから余計なことを言わないでください!」と訴えていた。

 仕方がない。
 顧客満足を高めるのも仕事のうちだ。

 棚に所狭しと並べられたアダルとグッズの数々に目を向ける。
 女に物足りなさを与えてしまう、ヒントがどこかあるかも知れない。
 だが、マジックハンドや手の生える薬は見当たらない。

「あの……お嬢さん、今日は随分とゆっくりですけど、お仕事はお休みなのですか?」

 ユリスは会話の切れ目を好機到来と、話題を変える。

 まあ、心配にもなる。
 開店から銅貨を入れ続けて一時間だ。
 若いのだから、そこまで身体は凝ってないだろうに。
 まるで時間を潰しているようにしか見えない上に、何かを買い求める素振りもない。
 家に帰りたくない子供のような態度だった。

「実は、絶賛ストライキ中です!」
「え? は、はぁ」

 ユリスは愛想笑いでごまかしてから、助けを求めるようにこちらを見た。
 目はSOSを発信していた。
 会社に戻りたくないOLだったか……。

 まさか異世界転生でストライキに出くわすとはな。
 中世モデルの世の中で、労働者の権利がしっかりと守られていることに驚きを隠せない。

「賃金交渉か?」
「いいえ! ご主人!」

 元気娘は目を輝かせる。

「我々冒険者ギルド女子部は、断固として、頭の硬い幹部と男性冒険者に異議を唱えたいのです!」

 労働条件か環境の改善らしい。
 女子限定とは更に進んだ職場なのだな。

「私達は、自由を取り戻すのです!」

 シュプレヒコールは結構だが、バイブを掲げるのは止めてくれ。
 なにかいかがわしい集会と思われては店の迷惑だ。

「いいから落ち着こうね!」

 ユリスは赤面して元気娘の手を押さえていた。

 まあ、迷惑のかからない範囲で、何でも自由にやってくれ。
 所詮、ツギハギ屋には縁の遠い話だ。

 その時は、どうして元気娘がツギハギ屋に留まっているのか、分かっていなかった。

 *

 閉店間際のことだ。

「ユリス、元気娘のご意見で思い当たることはないか?」
「ありません」

「バイブを使用して、物足りなさを感じたことは?」
「……あっくん、わざと恥ずかしいことを言わせたい魂胆が見え見えです! 2本も使ったことないので分かりません!」

 ユリスは眉を寄せると、本気で迷惑ですからその話題は止めてくださいという顔になった。
 だが、分かっていても恥ずかしい回答をして、気付かないのがエロい人妻の所以だな。

 ユリスに2本のバイブか。試してみる価値がある。
 男なら狭いアソコと可憐なアナルに突き刺ささった、Wバイブに悶絶するユリスの艶姿を想像してしまうだろう。
 
 前世では割と理解があったアナルプレイだが、異世界は勝手が違う。
 かなり改善されたとはいえ、衛生事情を考慮すると非常識の誹りは免れまい。
 元気娘も2本目は口だと言っていたな。
 天然でハードエロの道を究めようとしている元気娘が、アナルプレイ用のアイテムが必要になる日も近いだろう。

 ユリスのアナル開発は興味深いので、心のメモ帳に書き記しておく。

「しかし、ツギハギ屋の沽券に関わる問題だからな」
「体面を気にする商品じゃないよ!?」

 ツギハギ屋の稼ぎ頭に対してひどい仕打ちだ。

「それに……あなたが……使う色々なエッチなおもちゃに……物足りないなんて一度も思ったことはありません。だから、元気を出してくださいな」

 辿々しく言い終えてから、ユリスは顔を真っ赤にする。
 厳しい意見にいつの間にか、落ちこんだ空気をまとっていたのかもしれないな。
 己の羞恥心よりも、旦那の心配を優先する妻の心根に絆される。
 なんという、かわいい人妻なのだ。間男冥利につきる幸せだ。

「お店、閉めちゃいますから……あっ……」

 我慢が出来ず、背中から抱きついてしまう。

「あっくん、ダメです……んっ……」

 顔を後ろに向けさせて、唇を塞いで舌を絡め始めると、徐々に抵抗が削がれていく。

「んっ……あっくん……そんなに吸ったら……舌が……とけちゃうよぉ……」

 身体を細かく愛おしく揺らし甘く囁く。うっとりとした瞳で甘く睨まれる。
 甘い柑橘系のユリスの匂いを堪能しながら、卑猥な音を店に響かせて唾液を交換する。

「はぁ……ん……あっくん……だめだよぉ……あっくん……ここ、お店……」
 
 ユリスは正面に向き合う体勢に変わると、抱きついて唇を強く押しつけてきた。
 まったく、キスだけで発情するとは、エロ耐性の弱すぎる淫乱な人妻だな。
 
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