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第31話 ビキニアーマーとコスプレ その1

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 ユリスの家事の合間に店番をしていると、若い女冒険者達の来店があった。

 複数人でバイブやピンクロターを、俺の目を気にしながら選んでいるのでとても気不味い。
 どれも性的満足を得るためだけのエロアイテムだ。
 男性店員だと、さぞかし買いづらいだろう。

 狭い店内だ。黄色い声を上げている女の動きについ目がいく。
 懐かしさがある冒険者らしい装備を見て、ふと思った。
 長袖のシャツ、革の胸当て、両足はしっかりと保護されている厚手のパンツスタイル。

 色気はどこからも伝わってこない。
 もう少し派手目の防具は存在しないのか?

「あなた、ありがとうございます。終わりましたので代わりますね」

 ユリスがいつもの制服姿で戻ってきたので、暇つぶしの考察を中断する。
 女達はユリスの出現に、どこかホッとした雰囲気だった。
 俺も同様だがな。

 エログッズを買って姦しく退店する後ろ姿を、ユリスが苦笑いで送り出している。
 ようやく静かになったと息をついたら、入れ替わりにダンガが入ってきた。

「おう、ツギハギ屋」

 片手を上げて挨拶をしてきたダンガは、うっとおしいくらいの満面の笑みだ。
 以前の考察が功を奏して、魔石の素材である石の確保が順調なのだろう。
 最近のダンガは、成金のように羽振りがいい。

 1日に良くて5個程度の採取だが、副業としては破格の儲けになっている筈だ。
 同業者にやっかまれないように、上手く立ち回れよ?

 同業者か。そうだな。
 ツギハギ屋の仕入担当の座にちゃっかり居座っているが、ダンガも冒険者の端くれだったな?
 アレクは冒険者を引退して十数年。当時の記憶は曖昧だ。変化にも疎い。
 現役に先程女冒険者達を見て浮かんだ疑問をぶつけてみるか。

「ダンガ、これは真面目な相談なのだが」
「おう、なんだ、言ってみろ」

「この世界に、ビキニアーマーは存在していないのか?」
「……なんだその、びきにあーまーとかいうのは? アーティファクトか?」

 お前のアーティファクト好きは病気だな。

 しかし、そうだったな。
 そこからなのか……。

 この世界の服飾関係の進歩はまさに牛歩の如く。存在は不明だが、エロを司る神に対する冒涜に近い。

「女性用の防具のことだ」

 サクッと作った3角ビキニのトップを見せる。色はピンクで縁取りを白に指定。肩紐類も同じくピンク色だ。

「なんだこりゃ?」

 ダンガは三角形が2つ繋がったビキニトップを、珍しそうに手にとって眺めていた。

 ブラもビキニスタイルの水着も存在しない乾いた異世界だから、おっさんが手にしていても犯罪臭はしない。ギリギリだがな。

「ユリス、少しいいか?」
「はい、あなた。あら、かわいいですね、それは何でしょうか?」

「女性用の防具だ」
「防具……ですか」

 エロアイテムショップを営む人妻には防具など縁遠いのか、ユリスはこてんと首を傾げた。

「こう使う」

 ユリスの後ろに回ってビキニトップを胸に当てると、後ろの紐を軽く縛る。
 首は輪になっていて引っかけるタイプだが、調整できる工夫が必要だな。

 豊満な胸で盛り上がっている制服の胸部に、三角のビキニトップが装着される。
 む。これはこれで良いものだな。

「……そもそも防具とは呼べねぇ代物じゃねぇか?」
「あの……あなた、なんと言いますか、その、少し恥ずかしいのですが」

 ユリスは頬を赤くして俯いてしまう。さりげなく胸を手で覆って隠す仕草が胸に刺さって痛いくらいだ。
 服を脱いだわけでもなく、逆に防御力は増したというのに、ユリスの防御力は見事に下がっていた。

 三角布がおっぱいを包みこむ扇情的な姿に惚れ惚れする。
 魅力とエロさは上がったから、想定通りだ。
 新たなファッションとして十分にバズる代物だった。

「こんなものを着けたところで意味はねえだろ?」

 ダンガは眉をひそめる。
 馬鹿なことを。

「ダンガ、想像の翼をもっと大きく拡げてみろ」
「また、はじまりやがった……」

「このビキニトップは素肌に装備する、その他には何も着けない」
「あ?」

 ダンガにビキニトップだけのユリスを見せるなど、言語道断なので実演はしない。

「余計に役に立たねぇよ」
「ビキニという名前からとって、ビキニアーマースタイルというわけだ」
「あのな……そんな素っ裸と変わらねえ格好で冒険者が務まるかっての!」

 コスプレを理解できないとは。

「ダンガ、戦場というのは魔物を相手にすると時だけでとは限らないのだぞ?」
「はあ? 何いってんだこいつ」

「お前が昨日購入したストッキングも防具の一つだ」
「なんで、知ってんだよ!」

 ダンガは顔を赤くして慌てている。
 俺の目は誤魔化せない。

 愛妻にしっかりと履かせたようだな。ストッキングの魔力に囚われて大満足だ。

 そうだ。俺の戦場はダンジョンではなく、人妻が侍る夜のベッド。
 いい加減佳境に突入した人妻を寝取るプロジェクトも、マンネリという悪魔の囁きが、いつ立ちはだかるかわからないのだ。

 備えあれば憂い無し。
 コスチュームとは、倦怠期の恋人共に手軽に刺激あるプレイを提供する、エロアイテムの親戚だろう。

 ブラは断固反対だが、常時使用しない水着やビキニアーマーなら、ユリスに試着させられるという神の啓示を頂いた。

「ひっ……」

 ぞわぞわっと、ユリスが身体を震わせた。読心術まで身につけた人妻だった。

「ダンガさん、主人の仕事の邪魔です。帰ってください」
「なんだ、藪から棒に!? というか俺が悪いのか!? 話をふってきたのはツギハギ屋の方だろ!?」

 ユリスはむうっと頬をふくらませ、問答無用と両手を胸の前で組む。
 ビキニトップがよじれて、いい具合にセクシーだ。

「これ以上、変なものを作るお話は禁止します!」

 気づかないうちに新商品のプレゼンになっていたらしい。
 新商品が開発されると、基本被害を被るのはユリスだからな。見事な先制攻撃だ。
 ダンガ程度では太刀打ちは難しいだろう。

「ほら! あなたも仕事にもどってください、あそこの棚が空ですよ?」
「お、おい、ツギハギ屋」

 プレゼンは不十分だが致し方ない。
 今後は話をスムーズに進めるためにも、服飾用のボディを用意するべきだな。

「おい、ツギハギ屋ー! 聞けって! おい、やめてくれ!」

 ユリスはハタキでダンガを追い払っている。不憫なやつだな。
 ツギハギ屋と連呼するダンガは外に追いやられた。

 そこに少しだけ違和感を覚える。
 ダンガが俺のことをツギハギ屋と呼んでも、ユリスは眉間にシワを寄せなくなったな。

「ツギハギ屋なんて人はいません!」

 などと、最初の頃は巷に流れる店の屋号でもない俗称で、俺が呼ばれることをよしとしていなかった。
 ダンガを厄介者扱いするが、ユリスが名前について口を挟む素振りはない。

「わわ! あっくん!?」

 流石に哀れなので、ユリスをひょいと持ち上げて、後ろに下がらせる。

「許してやれ、ダンガに悪気はなかったんだ」
「オイコラ! なんで俺がなんかやったみてぇな扱いなんだよ、泣くぞ!」

「ダンガ、残念だがビキニアーマーについては後日話そう」
「いや、そんなもんに興味はねぇよ! 変なことに巻きこむなっての……ったく、酷い女店主だぜ……」

 アレクの嫁が失礼をしてすまない。
 ユリスは無条件で俺の味方だから諦めてくれ。

「ところでダンガ、お前はどうして俺の名前を呼ばないんだ?」
「はあ? お前が、名前で呼んだら微妙に不機嫌になるからだよ」

 肩をすくめてダンガは去っていった。
 
 なるほど。アレクという名前は、俺にとっては恋敵のユリスの旦那の事だ。
 気にしていないつもりだったが、知らぬ間に顔に表れていたらしい。
 いや、あんな粗忽者の言うことをいちいち真に受けても仕方がないな。

 ユリスの方はどうだ?
 いつまで経っても改めない、頭の悪いダンガに言っても無駄だと諦めたのかもしれないな。
 気にするほどでもない。

「ユリス、少し頼みがある」
「はい、なんですか、あなた。あの……変なお願いは嫌ですよ?」

 アレクの頼み事には無条件で応えてあげたいが、本能が拒絶しているような顔の引きつり具合だ。

「いや、至極まじめな仕事の話だ」
「うう……やっぱり……」

「なにも問題はない」
「あっくんのまじめなお仕事って、エッチなおもちゃを作ることだよね!?」

 ジト目で睨まれる。
 数多くのエロい経験が人妻を成長させたらしい。
 いいからその振りあげたハタキを収めてくれ。

 まったく、甚だしい誤解だ。

「服を飾るディスプレイを作りたい」
「……え? はい。なにのことやらさっぱりですけど、ホントにお仕事だったんですね、ごめんなさい」

 ようやくハタキが降ろされる。
 ユリスは俺のことを疑ってしまったと、反省してしゅんと項垂れてしまう。
 アレクの信用のなさは底知らずだな。後のことをもう少し考えて人生を歩んでほしいものだ。

「では、ユリスの身体のサイズを測らせてくれ」
「……あっくん? どうして身体のサイズが必要なのかな? 本当に仕事なんだよね!?」

「無論だ。そうだな、ユリスに誓おう」

 膝をつきユリスの手をとって、軽く甲にキスをする。
 見上げるとユリスの顔は真っ赤で、はわわと恥ずかしそうに身体を震わせていた。
 こういった砂糖を蜂蜜で割った如くのシチュエーションが、大好きなのがユリスだ。

「うう……ズルいです、あっくんに騙されちゃいます」

 ユリスは拗ねたように、はにかむ。
 俺の意図をしっかりと見抜いた上で、だが抗えずに胸をキュンキュンとさせている表情が大変滾る。

 キスされた手を大事そうに胸に抱く。
 甘めのイチャイチャに弱い人妻は、実にキュートだった。

「こんにちわー」

 幕間の終了を告げるように、次の客が訪れる。

「測るのは、仕事が終わってからですよ?」

 爽やかに微笑んだユリスは踵を返す。
 
「待て、ユリス」
「だめです、あとで、です!」

 ウインクまで飛ばして、止める暇もなく、弾む足どりでユリスは客に近づくと「いらっしゃいませ」と声をかけた。

 そのアバンギャルドな格好で接客をするつもりなのか!?

「わあ! ユリスさん、なんだかエッチな格好ですね! もしかして御主人の趣味ですか?」

 真っ赤な顔で戻ってきたユリスにハタキで叩かれた。
 止めたというのに、理不尽な仕打ちだった。
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