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第19話 電動バイブとオナホール その1

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 朝食の準備を終えて席についた途端、ユリスはため息混じりに言った。

「……あなた、手にしているものが何なのか大体分かりますから、説明するのはやめてくださいね?」

 今から朝食ですよと空気で語り、悪戯好きの弟を叱るような目で見ると額に手のひらを当てて俯いてしまう。

 呆れ果てた時に使うボディランゲージだ。

 さすがエロアイテムショップの販売員。
 初めて目にする新商品を説明なしで理解するとは侮れない。
 今までの用途不明のアイテムとは違い、形が露骨だからだろう。
 つまりこの異世界にも同様のアイテムが存在しているという証左だ。

「型取りは自前のものを使用した」
「え? 自前って……え? つまりそれって」

 誇らしげに隆起した立派なそれは、少し反り返る形、先の雁部分の出っ張りも見事な再現度だ。
 もう少し幹の部分にウエーブなどを入れて刺激を強くするべきか悩む。

 あまりリアルに寄せると猥褻物陳列罪を適用されそうなので、単色でデフォルメをしている。法が整備されているか知らないが。

 シリコンめいたソフトな手触り。
 そうこれは、満を持して作成した――。

「あわわ……それ、あっくんのおち○ちん!? 見せてください、見せてください!」

 そう、バイブレーター。張型とでもいうべきか。

 赤面してそんなもの見せないで下さいと目を泳がす態度を期待していたが、随分想像と違う反応が返ってきた。

 泳ぐどころか輝いている。
 予想以上の食いつきだった。

 男性のシンボルに熱狂する人妻に覚醒して素晴らしい!
 調教はつつがなく進行している。

「ふあああ、これが私の中に入ったのですね……ふあああ、立派です、あなた!」

 誇らしげな表情のユリスに手放しで褒められた。
 バイブを手にしてユリスは興味津々にはしゃぐ。頬擦りして今にも口に咥えそうな勢いだ。
 ピンクローターも気に入っていたし、もしかするとユリスはエロアイテムマニアなのだろうか?

 まあ、いい。
 忌避感を持たないのなら、スムーズに実験が出来るからノープロブレム。

 ツギハギ屋が世間では密かにエロアイテムショップと囁かれているのに、鉄板であるバイブの一本も置いていないのは職務怠慢だと負い目を感じていた。

 夜にでもユリスを調教がてら改善点を洗い出して店頭デビューをさせるとしよう。

「気に入ってもらって嬉しい」
「でも……あなたにはついていない枝が二本もあるのですけど?」

 根本から枝分かれしている突起に首を傾げている。口で説明するのは容易いが、やはりここは百聞は一見に如かずの精神で行こう。

「今日の閉店後に実験すれば分かる事だ」
「え? 実験ってなにを実験するのでしょうか?」

 はて?
 ユリスはおかしなことを言う。

「今まで通り新商品はユリスに実践をしてもらう予定なのだが?」
「……あっくん?」

 途端にユリスは眉を釣り上げた。

「この子は、あっくんの分身のようなものだよね?」

 ある意味そうだろう。比喩的な表現も含めて理に適っている。

「あっくんの息子でもあります」

 バイブを胸にいだきユリスはふんすと鼻息を荒くする。
 それも……あっているな。愚息のコピーだ。
 もどかしいな、何が言いたい?

「つまり、私の息子同然です、それを……売るんですか!? あっくんのおち○ちんを!?」

 三段論法にもなっていない間の抜けた理屈だった。
 まるで身体を売ることを咎められる台詞のようだ。

「いや、切り売りはやっていない。売るのは俺の愚息ではなく、あくまでもバイブだ」
「駄目です、あなた。わかっているのですか? それは浮気ですよ?」

 浮気だと? 話の流れがいまいちつかめない。
 だが、ユリスの目がつり上がっているのは分かる。

「いや、型取りをしただけで俺が体を売るわけではないぞ?」
「いいえ、浮気です!」

 なにかユリスにしてみれば譲れない一線があるらしい。

「売るとこの子は女性とエッチなことをするのですよ?」

 バイブだからな。
 目を閉じて自慰シーンを想像したのか、ユリスは鼻の頭にシワをつくるほど顔を顰める。

「やっぱり、浮気です! あっくんのバカ!」

 まさか型取りをした愚息バイブが女性の自慰行為に使用されるだけで、浮気認定とは素直に驚きだった。

 この世界の貞操観念は、それほどまでに強固なのか……。久しぶりに受けるカルチャーシャックだ。
 一部地方で、遠く離れる者同士が大事なものを形見として交換し合う風習があると聞いたことがあるが、その変形なのだろうか?

 アレクの記憶を覗いてもそんなものは見当たらないから、女性だけの文化なのかもしれない。

 たが、ひとつ疑問を抱く。
 男性側がその扱いなら、女性側は?

 うーうーとユリスが唸っているので後回しだな。

「分かった分かった。頭が着いて来ていないが、ユリスがそこまで言うなら仕方がない」
「分かってくれて嬉しいよ、あっくん」

 ユリスに楽をしてもらうために始めたツギハギ屋の商売繁盛計画だ。
 ユリスを悲しませては本末転倒。

「デザインを変更するから、実験にはつきあってほしい」
「あ、あっくん!? 私にあっくん以外の男の人のおち○ちんでエッチな実験をさせるつもりですか!?」

 ユリスは泣きそうな顔になって睨んでくる。
 なるほど、理屈は通っている気はするが、もう、頭がこんがらがりそうだ。

 後にして飯をくおう。
 朝や爽やかな朝食が台無しだった。

 *

「どうも……」

 開店してすぐに、冒険者ギルドで受付をしている元気娘が来店した。
 お疲れ気味の顔色で、ため息を付きながら扉をくぐる。

「あら、いらっしゃいませ、お嬢さん……随分とお疲れですね」
「ええまあ……少しお仕事が忙しくて」

 等とやり取りしている所を見ると、詳細は不明だがトラブルはまだ解決していないらしい。
 ユリスが心配そうに元気娘の背中を撫でている。

「今日は半休を頂きましたので、参上しました。なにやら疲労を回復する良い健康器具があると噂に聞きましたので」
「健康器具……ですか?」

 ユリスが俺に視線を投げてきたので首を振る。
 ツギハギ屋では、その手の物は取り扱いしていない。

「そうです! ですので疲れてばかりではいられません!」

 腕まくりをしている。元気そうだった。
 若いから大丈夫だろう。

「ユリスさん! その健康器具……ええと、ピンクローターという物を見さていただきたいのですが!」

 ユリスは元気娘の元気が良すぎる台詞に一瞬ぽかんと呆けてから、慌ててデリカシーのない口を塞いだ。

「あわわわ、お嬢さん。その、もう少し声を抑えて! ね?」
「あ! す、すいません。騒がしくして」

 元気娘はペコペコと頭を下げて、店内にいる俺の視線を大変気にしていた。少し目の縁が赤くなっているので正体は知っている様子だった。
 買うということは、それで自慰行為を行うと宣伝するようなものだからな。

 ユリスが元気娘に見えない位置で、シッシッと手を振っている。
 デリケートな問題らしい。

 しかし、ピンクローターが健康器具だと? どこからそんな口コミが広がった?
 少し前世の記憶を紐解いていく。
 確かに、自慰行為には血行をよくする作用があるし、なにより気持ち良さはストレス解消にもなる。
 健康器具と言えなくない。オナニー用の玩具だと自慢は難しいが、健康器具と呼べば話しやすいか。

 意外なことだがピンクローターの売れ行きは抜群だ。しかも購入は口コミで広がったのか女性ばかり。裏で興味深い設定話が出来上がっていたのが原因か。
 こんな若い娘まで興味を持つとはな。

 ユリスの視線が痛いので早々に退散しようと肩を竦めた所で元気娘の声が被って足を止める。

「ユリスさんもご使用されたんですよね?」

 真剣な顔で案内された場所に飾られたローターを眺めていた元気娘の声に興味が沸いたからだ。

「ええ、まぁ……使ったと言いますか……」

 自分の手で使ったことはないからな。オナニーしましたというカミングアウトにユリスは頬を真っ赤にして慌ただしく目を泳がせている。

「良かった! 是非、ユリスさんに使用感をお聞きしたいです!」
「わ、私のですか!? いえ、それは――」

 よし、気になっていた商品の並べ替えをするとしよう。

 俺が家に引っ込まないことに気付いたユリスが口パクで「あっくん、あっち行って、早く!」と慌てふためいている。
 聞こえないふりで耳を澄ます。

「今冒険者ギルドの女性の中で話題沸騰なのですが、使うとどんな感じですか?」

 ぐいぐいくる。是非とも感想を聞いてみたいから、いい質問だ。

「……と、殿方の前でお話するのは、はしたないと言いますか」

 ユリスは分かるでしょ? 分かるよね? という想いを込めた視線を元気娘に浴びせている。
 しかし、元気娘は店内を見回す。
 開店直後で客はいない。

「でも今居るのはアレクさんだけですよ? アレクさんがピンクローターの開発者ですよね? 問題ありません」
「私の方に問題があるんです!」
「またまた! ご夫婦なんですから!」

 いいぞ、元気娘。購入するなら少し勉強してやろう!

「私のような小娘だと30秒保たないってバカにされたのですが、本当でしょうか?」

 すべてを諦めて開き直ったユリスが真っ赤になって辿々しく使用感を説明する姿に興奮する。

「30秒というのはいささか誇張と言いますか……」
「あの……使用する時は下に布を敷いておくことをお勧めします……」
「まだお嬢さんには早いと思いますけど……」

 制服をそっと手で掴み、もじもじと腰を揺らす人妻は匂い立つような色気を醸し出す。
 同性である元気娘すら虜にしそうなピンク色の頬と潤んだ青い瞳。
 なんという可憐でいやらしい人妻だ。

「その……使用感は……凄いです。気を抜いたら気絶しちゃいます」
「はわわわわわ……」

 元気娘も次第にユリスの生々しい体験談に感化されて顔は火照り始めメスの顔になってくる。
 ユリスという人妻以外の女に関心は薄いが、少女のような女子が性的玩具に興味を持って性の階段を今にも駆け上ろうとしている姿は興奮ものだ。

 公開羞恥プレイにユリスはもう茹で蛸状態。
 人妻がエロアイテムのレクチャーをする優良店だ。
 さすがの仕事ぶりに感心して頷いていると、ユリスは困ったような顔で目を逸らした。

 俺の匂いだけで濡れてしまうと敏感な身体に出来上がっている。旦那の前で大人の玩具の使用感を告白させられて下着をたっぷり汚しているに違いない。
 今ならぬるっとバイブも飲み込むだろう。

「お? そのアーティファクトを買うのか?」

 いつの間にか店内に入ってきた男が発した野太い声に、女性2人は飛び上がった。
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