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第9話 媚薬チョコと精力剤 その3

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「あなた、先にお風呂頂きましたよ?」

 風呂上がりでホカホカになった、ピンク色に染まる肌も麗しいユリスが、にこにこ笑いながら声をかけてきた。

 ぬるぬる石鹸が仄かに香るただの人妻ではない。

 透け透け浴衣が封印されたので、仕方なく妥協して作成した、ナイトウエアに袖を通してくれたエロ可愛い人妻だ。目を奪われる。

 細い肩紐がセクシーな白いキャミソールタイプの寝間着の胸部はたっぷりと盛り上がって男を誘う。

 U字ネックの胸元はしっとりと湿った白い胸の谷間が目のやり場に困るくらいに覗いている。

 間近で凝視しても咎められない夫という立場は素晴らしい。

 膝丈の裾から覗く膝小僧がとてもキュートだ。
 もう少しだけ身体にフィットさせる方が腰の細さを強調して、おしりの張りを目立たせて、セクシー度合いを上げるられるだろう。

「あっくん? いくら旦那さんでも、そんなに色んな所を解説するみたいに見られたら恥ずかしいんだよ?」

 視線どころか読心までやってのけられた。恐るべし女の洞察力だ。

 ユリスは恥ずかしがりながらも身体を隠すような無粋な真似はせず苦笑する。
 より恥ずかしい格好を強いられた結果、この程度なら問題ないという耐性を獲得したらしい。
 調教様々だ。

 アイテム作成作業に没頭しているうちに結構な時間が経過していた。

「ところで、それはなんですか、あなた」

 机の上に並べられた黄土色の土でも固めたような小さなタブレット状の塊を見て、ユリスは目を細める。

 俺の作るものが碌でもないものだとすっかり疑心暗鬼に陥っている。
 心外な。

「とても、その、禍々しい雰囲気を感じます」
「ユリスご希望の精力剤だ」

 市場で買いそろえた素材で作った錠剤を机の上に並べる。

「えーと……そんな怪しいものをお願いした覚えはありませんけど?」

 ユリスは困惑して目を丸くする。

 覚えていないのか?

 喘ぎ声の合間に交わした閨の睦言は現実世界に出してはいけないらしい。
 まあ、いい。ユリスの記憶は重要ではない。

「定期的に食することで精力が増すサプリ――いや、薬だ」
「そんな小さな粒で元気が出るんですか?」
「食べ続ければな」

 精がつく食べ物を摂取したからといって、いきなり精力抜群になるわけではない。

 ファンタジーな異世界だから、幻想級の素材でも使用すれば可能かも知れないが、安価な材料だけでは魔法じみた奇跡の秘薬など夢のまた夢だ。

 ご要望に添えない遅効性の滋養強壮剤が出来上がった。
 だが、これはブラフだ。

「疲れているなら食べてみるか? 10日程度で効果が表れるはずだ」
「……私が疲れているように見えるなら、それはあっくんが次々と怪しい物を作るからです!」

 ユリスはぷんすか怒る。可愛らしい。
 連日の新商品開発という名目の調教にお冠だった。
 確かに昼間も確認できたが、ユリスは疲れ知らずな健康体だ。

「最近は特に身体の調子がいいんです。腰が軽くなったみたいです」

 それは長年の性的欲求不満が解消されてホルモンの分泌が増したからだろう。

「あなたこそ、お疲れではないですか?」

 ユリスは青い大きな瞳でのぞき込んでくる。
 特に疲れていると自覚はしていないが、外出をして精神的なダメージを受けていないかと心配しているらしい。

 どこまでもアレクファーストな人妻だ。

 呆気ない程杞憂だったがな。
 冒険者ギルドでの出来事は、あえて話すことではないと判断して報告はしていない。

「あら……でも、お客さんに精力剤を探している人が……いた……気がします?」

 ようやく思い出したか。
 ついでに昼間の痴態も思い出したらしく、ユリスははわわと奇妙な声を上げて顔を真っ赤にする。
 絞れば愛液が滴るほどに湿らせた下着を思い出したのだろう。

「もしかして、聞いてたの? ……あっくん」

 下ネタチックなガールズトークの暴露の事を言っているのなら聞いていた。

 頷くとユリスの顔は益々赤くなった。
 夜に元気がない旦那の愚痴などを話題にしていたと知られて恐縮している。

「それを食べると……男の人は元気になるのかな?」
「絶対とは言えないが、俺が飲んで試してみるか?」
「だめです! 絶対だめです! これ以上あっくんが元気になったら困ります!」

 必死の主張だった。
 食べないから机の上の錠剤を払おうとするな。
 
「そこまで即効性のあるものではない」 

 残念ながら見込み違いだ。
 常連の客を満足させる出来ではない。

 だが、今回は別の解決策がある。
 ユリスの話を聞く限りでは、女の悩みは欲求不満だ。

 男の方の精力を回復させるには時間がかかるが、女をその気にさせるのは時間はかからない。

 そこで、媚薬の登場となる。

 精力剤と媚薬はワンセットで用いるべきだろう。
 だから、本命は次になる。

「ユリスにはこれを試してほしい」

 黒に近い茶色のタブレットを机に転がす。見た目は前世のチョコベビーだ。

「……嫌です。寝る前だしお行儀が悪いです」

 あからさまに警戒された。
 騙し討ちで食べさせるのもいいが、嫌々でも自ら口に含む人妻のほうが状況的には萌える案件だ。

「勘違いをしないでほしいが、これは商品開発だ」
「もう騙されません! 絶対エッチな食べ物です!」

 抵抗するユリスは大変可愛い。
 だが、次の一手に抗えられるかな?

「そうか……無理強いはしない」
「わかってくれて嬉しいよ、あっくん」

「これは、甘味だ。ユリスが嫌なら仕方がないので俺が試そう」
「待ってあっくん!」

 一粒つまんで口に入れようとする腕を掴まれる。

「それ、甘いものなのですか?」

 ユリスは途端に目を輝かせた。

「遠い国の菓子でチョコと言う」
「チョコ……でも甘いものだなんて、そんな高価なものを……」
「ユリス、手を放してもらえないと食べられないのだが」

「あっくんは、私に食べて欲しいんだよね? だったら仕方がないです……」

 欲しいと素直に言えないユリスの健気さが胸にキュンキュンくる。
 これ以上お預けをして拗ねてしまうのも申し訳ないな。

「いつも済まないな」

 摘んだチョコをユリスの口元に持っていく。

「しょうがないよ、あっくんのこと大好きなんだから」

 食べさせられるアーンの行為に照れながら、こちらを照れさせるカウンターを放ってくるやり手の人妻だ。

「飲み込まずに舌の上でとかしてくれ」

 ユリスは舌の上に乗せたチョコの甘さに顔を綻ばせる。

「ふわ……甘いです、あなた」

 ユリスも立派な女子らしく、甘いものに目がないらしい。
 食文化が発展していない世界の構造上、甘味はやはり高価で贅沢品の一種だ。
 庶民には高嶺の花だと言える。

 成分を吸収したわけでもないのにユリスはすでに、蕩けるような顔をしていた。

 チョコの成分だけでも免疫のないユリスにとっては充分に媚薬として効能がある。

 だが、更に体温を上昇させ発汗を促す成分を織り交ぜた媚薬チョコだ。
 少し悪戯をして後押しをしよう。

「ユリス、少しわけてくれ」
「はい、あなた」

 お返しに食べさせようと机の上のチョコに手を伸ばすユリスを捕まえると、唇を重ねて舌で口をこじ開ける。

「ん……どうし……た……の?」

 口の中で溶けているチョコを舌で奪う。

「……もう、そんなことしなくてもまだ、沢山残ってますよ?」

 注意するけどキスはやめない。幸せそうにうっとりと吸い付いてくる。

「ユリスの口で溶けた方が美味いだろう?」
「それ変だよ……あっくん……んっ……あっくんの舌も甘いよ……」

 舌を絡めてチョコとユリスの甘さを味わう。

 甘みがなくなるまで互いの唾液を交換すると、もう一粒口に含む。
 待っているともじもじしながらユリスが唇を押し付けて舌を口に入れてきた。

 人妻自らのデイープキスだ。
 素晴らしい。 

 3度繰り返すと、甘味の味にユリスの目の焦点が合わないほど没頭していた。

「うふふ、あなた、なんだか体が熱く……なってきました」

 身体が熱くなる媚薬だからな。

「湯冷めする前にベッドに入ろう」
「はい……あなた。高価な甘いものをありがとうございました」

 もう一度長いキスをすると寝室に向かった。

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