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「いつものこと。」は揺らぎ。
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まるで赤ん坊の表情のようにコロコロと天候が変わる日が続く季節。
前日まで寒い日が続いていたが、その日は快晴のうえ例年に比べずいぶんと暖かく、散歩にはうってつけの日だった。
青葉が優也のマンション前に到着すると、5歳ぐらいの男の子とその子の両親と思われる家族連れがマンションから出てきた。今から公園にでも行くかのようなラフなスタイルで、男の子の一挙一動にみんなで笑いあっている。見ているだけで青葉の頬も緩む。
マンションエントランスに入ると、慣れた手つきでエントランスの自動ドアを解除し、優也の部屋へと向かった。
主催する落語二人会への出演との交換条件で、青葉が優也と肉体関係を持ってからずいぶん日が経つ。本来なら数日前にも会う予定だったが、優也が熱を出し、中止となっていた。ただ、優也の性格上、延期日程を早々に決めたがるはずなのに、それ以来、全く連絡がなかった。電話しても「また連絡する」の一点張り。
もしかしたら病気が重症で寝込んでいるのではないかと心配になり、青葉は優也のマンションに来ていた。
そして、状況次第だが、青葉は優也に話したいこともあった。今回の予定中止に際し、「少しでも会う機会を減らせて良かった」と安堵しつつも、優也と触れ合えないことで体には空虚感があった。その相反する感情が混在していることに戸惑いつつも、青葉は理性で押さえつけていた。
しかし、交換条件となっている落語二人会は残り数回。落語二人会と同時にこの関係も終わるのだから、その時にこんな矛盾した感情で苦しまないよう、できれば少しでも距離を置きたかった。
マンションの合鍵を渡されていた青葉は、エントランス同様、迷うことなくドアを開錠し、部屋に入る。薄暗い廊下の先、寝室から僅かな光が漏れていた。
「優也…」
寝室のドアを静かに押し開けた青葉は驚いた。上半身裸の優也が寝ているベッドの横に若い女性がいた。ベッドに顔を伏せて寝ている。
驚き、動揺した青葉は手に持っていたスーパーマーケットの袋を落としてしまい、大きな音を立てた。その音は寝室にも響き、反射的に起き上がった優也と青葉は視線が合ってしまう。
「っ!…すまないっ!」
スーパーマーケットの袋を慌てて手に取ると、青葉は急いで玄関に向かった。
青葉は自分が恥ずかしかった。優也に彼女がいないと思い込んでいたこと。事前に連絡せずに訪問しても問題ないと思い込んでいたこと。一人で寝込んでいるのだろうと看病する気になっていたこと。優也と付き合っているわけでもないのに、勝手な思い違いをしている自分が恥ずかしかった。
同時に、優也が若い女優と密会している週刊誌記事が最近また出たことを青葉は今さら思い出していた。その女優と優也が交際しているかどうかは知らなかったが、交友関係が広く、有名人である優也を看病する女性がいることなど、少し考えれば分かることだった。それなのに、そこまで思いが至らなかった自分自身に青葉は落ち込んだ。
そして、ベッドに付き添っていた若い女性と自分を比べ、チリチリと胸の奥が焼かれることにも目を背けたかった。
早くこの空間から逃げ出したかったが、慌てていて指がもたつき、すぐに靴を履くことができない。
その時、ドアを開く大きな音が青葉の背後から響いてきた。
「青葉さん、待って!!!」
上半身裸で下着一枚の優也が寝室から飛び出してきた。青葉を背中から覆うように抱きつく。
「風邪うつすの…嫌だったから…連絡しなかったのに…。
青葉さんが…自発的に…俺の家に来てくれるの…初めてだから、…すごく嬉しい。
…帰らないで…くださいよ」
「いや、邪魔してすまなかった。日を改めるよ。」
恥ずかしさのあまり、青葉は優也の顔を見ることが出来ない。悟られないよう、靴紐を結び直しをしているかのように視線を落とし、出来る限り冷静に話す。
対称的に、青葉の耳元で感じる優也の呼吸は早く、熱く、荒い。優也の声もかすれ気味で、息苦しそうに話し続ける。
「…邪魔?…あぁ、あの女はすぐに…帰らせますから。」
「突然来た私が悪いんだ。帰る。離しなさい。」
少しでも早く逃げ出したくて堪らず、青葉は優也の手を解こうとするが、青葉の服に優也の指はきつく食い込んでいた。
「嫌だ。」
優也は強引に青葉の体を引きずり戻す。しかし、青葉の体は僅かに動く程度で、優也の腕の中に青葉が倒れこんでしまった。突然のことに青葉は驚き、優也を見上げる。
しばらくぶりに見る優也は、いつもの優也とはまるで違っていた。熱に浮かされた顔は赤く、目は潤んで瞼も重そうにし、荒く呼吸を繰り返していた 。衝動的に青葉は優也の首を触り、体温を確認していた。
「病院には行ったのか!?薬はあるのか!?」
青葉は優也のことをつい子供扱いしてしまうが、優也は楽しそうに笑い、頷く。青葉はやや落ち着きを取り戻すが、不安な表情は隠せない。
「早くベッドに戻りなさい」
「青葉さんが…一緒じゃないと…嫌です」
熱で苦しいはずなのに、抱きしめる腕の力はどんどん力強くなる。それは、優也の意志の強さの表れでもあった。ここまで頑なになった優也に青葉がどんな言葉を並べても首を縦に振る可能性は低かったし、確実に首を縦に振らせる言葉も思いつかなかった。青葉はため息をつくと、優也の腕に触れる。
「…分かったから。まず服を着なさい。体調が悪化する。」
「…あぁ、そうですね」
青葉は優也に腕をひかれて立ち上がると、リビングに移動しソファーに座った。優也は青葉の顔を覗き込む。
「ちょっと…待っててください。絶対に…帰らないで…くださいよ?」
「…あぁ。」
青葉は小さく首を縦に振る。
優也が寝室に戻りドアを閉めた途端、男女の言い争うような声がリビングに響いてきた。
…こんなことをさせるつもりはなかったのに。
優也に対しても、見知らぬ女性に対しても、青葉は罪悪感で胸が痛む。そして、思い違いしていた自分に苛立つ。青葉は自然と俯き、ソファーに指を立てていた。重苦しい空気の中、青葉は時間の流れを長く感じる。
ふとリビングテーブルに置いてある雑誌が青葉の視界に入る。優也のインタビュー記事が載っている雑誌で、青葉も既に読んでいた。
ここ数ヶ月で優也のメディアへの露出はさらに増え、知名度とともに人気も高くなっていた。比例するように、真打ち昇進したばかりの頃に比べ、立ち居振る舞いにも堂々とした華やかさや貫禄を併せ持つようになっていた。青葉でさえ、時折、気後れするほどに。
華々しい芸能活動に、青葉は師匠として嬉しかったが、落語二人会以外での落語が疎かになっていることや、女性との交際関係がずっと落ち着かず派手なことも残念だった。そして、人気で引く手数多だろうに、どうしていつまでも自分と肉体関係を持ち続けたがるのか青葉には不思議だった。
そんなことを考えていると、寝室のドアが派手な音を立てて開く。続いて小走りする足音、そして、僅かな間をおいて玄関ドアを乱暴に開閉する音がした。青葉は動くことが出来ない。
やがて青葉に近づいてくる足音が聞こえてきた。
「青葉さん、…俺、…すごく嬉しい」
青葉が顔を上げると、ほぼ同時に優也が抱きついてきた。風邪をひいているせいか、優也の体温を高く感じる。
「たかが風邪なのに、…なかなか治らなくて。でも…たまには…病気になって…みるもんですね」
優也は青葉の首に顔を埋める。優也は大きめのパーカーを着用し、そしてマスクをつけていた。パーカーは洗いたてなのか、柔軟剤の良い匂いが青葉の鼻腔を刺激する。
マスクをつけていたが、優也の上機嫌さは青葉に伝わっていた。やや掠れた声も高調子で、青葉を抱きしめる腕の力は先ほどと変わらず強い。
しかし、そんな優也とは対照的に青葉の表情は沈んでいた。
「突然、押しかけてしまって、すまなかった。…帰った女性は大丈夫なのか?」
おそらく怒って帰ってしまったであろう女性が青葉にとって気掛かりだった。しかし、優也は気にも留めない。
「そんなこと…どうでもいです。…それより、…何を買ってきて…くれたんですか?」
優也は咳き込みながらも、嬉しそうにスーパーマーケットの袋を覗き込んだ。そんな優也を見ながら、青葉はため息をつく。女性をぞんざいに扱う優也は今に始まったことではないが、どうしても説教じみたことを言ってしまう。
「女性をちゃんと大事にしないと。いつか本当に付き合たい女性が現れた時に…」
「今日はそういう話したくないです」
優也は露骨に不機嫌そうな声を上げ、青葉の言葉を遮る。青葉は圧倒され口を噤んでしまう。"余計なお世話"と言われれば、それまでだ。何も話せない。
優也は再び上機嫌になり、スーパーマーケットの袋の中を物色すると、リンゴを取り出す。
「これ、食べたいです。…皮を剥いて…ください」
「…えっ」
「俺、病人だから。…甘えていいですよね?」
優也は目を細める。しかし青葉は視線を逸らす。
「…すまないが、…その、今まで一度もまともに包丁を握ったことがないんだ。」
優也は目を見開き驚いた様子を見せるが、すぐに目を細める。
「じゃあ、…俺が教えますよ」
優也は嬉しそうに青葉の手を引き、キッチンに向かった。しかし青葉は戸惑う。
「もう横になった方がいい。一人でやってみるから。」
「これくらい…大丈夫ですよ」
優也はこともなげにそう言うと、青葉に包丁とリンゴを手渡し、背中から抱くように立つ。青葉は自然と緊張し、唾を飲み込む。
青葉の両手に優也は両手を重ね、耳元に顔を寄せる。
「親指は…ずっと皮と刃を押さえる感じで…刃は斜めにキープして…ゆっくり押すように…」
青葉は優也の言うよう、辿々しくリンゴを剥き始まる。剥かれていくリンゴの皮はだいぶ波を打ち、何度も途切れてしまうが、それでも少しずつ進めていく。
しばらく青葉の手つきを優也は眺めていたが、問題ないと思ったのか、青葉の体を抱きしめ、肩に頭を乗せた。優也の荒い呼吸が青葉の耳に入ってくる。青葉は心配になり優也を見ると、視線がかち合った。優也は笑顔を見せる。
「…料理するの…初めてなんですよね。青葉さんの…初体験をもらえて…嬉しいなあ」
「そんな子供みたいなことを…。大体、リンゴの皮剥きは料理に入らないだろう」
「たしかに、…そうですね」
優也は嬉しそうに笑う。
青葉もつられて笑ってしまう。
初めて包丁を扱う経験も新鮮だが、久しぶりに優也と触れ合う居心地の良さは否定できなかった。しかし、青葉の理性は、この関係は歪なものだと、そしてこれ以上進めば肉体関係だけだと割り切れなくなると、警告を出し続けていた。
青葉は意識的に視線を戻し、リンゴの皮むきを続ける。
「優也は料理を頻繁にするのか?」
「…今はあんまり。…でも、小さい頃、…嫌でも料理していましたから」
「…小さい頃、か。」
ほとんど過去を語ることがない優也に、過去のことを聞いて良いのか青葉は躊躇う。それでも意を決して話そうとしたが、先に口を開いたのは優也だった。
「青葉さんは…今まで一度も料理したこと無いなんて…"食"にあまり興味ないんですか?」
「…そうなのかも、しれないな。」
唐突に優也は青葉の唇を優しく撫で始め、そして耳元で囁いた。
「俺の唇や舌を食べそうなぐらい、…いっつもキスは大好きなのに。」
青葉は慌てて顔を背け、優也の指から逃れる。反論できなかった。無意識に唇を噛む。
優也はクスクスと笑う。
「…青葉さん、…キスしましょうよ」
青葉は首を横に振る。
「今日は看病しにきたんだ」
まるで自分にも言い聞かせるような口ぶり。青葉は視線を落とし、皮剥きを続けようとした。
しかし、優也は青葉の顎を持ち、強引に振り向かせる。
「そうですよねぇ。…キスしたら…風邪うつるかもしれないし。」
優也はマスクをしたまま、青葉と唇を重ねた。唇を甘噛みする感触はマスクの布越しでも青葉に伝わる。
青葉は慌てて顔を背けた。
「やめないか!」
優也は笑いながら引き下がると、再び青葉の肩に頭を乗せる。青葉はため息をつき、まるで何もなかったかのように皮剥きを再開した。
しかし、青葉の顔はうっすらと赤く、指は震えている。そして、マスク越しに甘噛みされた下唇を無意識に噛んでいた。優也は一瞬驚き、咳き込みながらもクスクスと声に出して笑ってしまう。
青葉は優也に視線を送る。
「剥き方が何か間違っているのか?」
気づきそうにもない青葉が愛おしく、優也は声に出さないように笑い続ける。
「…いえ、何も。…続けてくださいよ」
戸惑った表情のまま、青葉はリンゴへと視線を落とす。
優也はより力を込めて青葉を抱きしめ、青葉の下唇を優しく撫で続けた。青葉は拒否することが出来なかった。
「できたぞ」
時間はかかったものの、リンゴの皮剥きが終わり、青葉は嬉しそうに声を上げる。見た目は歪だったが、リンゴの果肉が露わになっていた。
優也は再び青葉の両手に自分の手を重ねると、リンゴを切り分ける。青葉は自分の意思で両手を動かしていなかったが、優也に手を握りしめられている感触や体温が気持ち良く、つい身を委ねてしまっていた。気づかれないよう、横目で優也の横顔を見てしまう。
やがて優也は器用にリンゴを8等分に切り分けた。
「…あとは…こうやって…芯の硬い部分を切り落とせば…終わりです」
優也は青葉の手に重ねたまま、一切れだけ包丁を入れ、芯の部分を切り落とした。
青葉は頷く。
「あとはもう大丈夫だから。もうベッドで寝ていた方がいい。持っていくよ。」
「…嫌だ」
優也は再び青葉を力強く抱きしめる。
「…このまま…一緒にいたいです」
優也の気持ちに青葉は心が締め付けられるが、ずっと荒い息を吐き続ける優也に同意できなかった。
「随分と苦しいんだろう?寝ている間に勝手に帰ったりしないから。」
優也は何も答えない。
青葉は言葉を続ける。
「…もう薬は飲んだのか?」
「…んー、…昨日」
青葉は深いため息をつく。
「人のことは心配するのに、どうして自分の体は大切にしないんだ。…薬はどこにあるんだ」
「…ベッド」
「だったら、なおさらベッドに戻って薬を飲みなさい」
問い質すように青葉はきつく言う。しかし、優也は青葉を強く抱きしめ笑う。
「青葉さんが…俺のこと心配してくれるの、…すごく嬉しい」
青葉はさらに心を締め付けられるが、自分の気持ちに気づかないふりをするしかなかった。
「別に今始まったことではないだろう。昔から弟子の健康には気を遣っているつもりだ。」
優也の腕を青葉は軽く叩くと、手を重ねた。
「…すぐに行くから」
「…ん」
ようやく納得した優也は腕を解く。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと寝室に向かった。
青葉は安堵の表情を見せると、残り7切れの芯を切り落とした。
青葉が寝室に入ると、薄暗く、そして香水の匂いがする。先ほどまでいた女性がつけていたであろう香水の匂いは甘ったるく、まとわりつくようだった。罪悪感が青葉の中で再び込み上げてくる。しかし、もうどうしようもないと、深呼吸して振り払う。
ベッドサイドのテーブルを見ると、缶ビールや栄養ドリンク、お菓子の空き袋などを押しやるようにして、空になった薬の個包装と、飲みかけのペットボトルやマスクがある。青葉は一安心とばかりに一息つくと、ベッドサイドテーブルにリンゴをのせた皿を置き、ベッド脇に腰掛けた。
「起きられるか?」
「…ん」
毛布にくるまっていた優也は、青葉に視線を投げると、ゆっくりと上半身を起こし始める。その動きが辛そうに見えた青葉は、優也を支え、ヘッドボードを背もたれにするよう起き上がらせた。
「他の果物も持ってこよう」
青葉はベッドから降りようとした。しかし、今まで緩慢な動きを見せていたとは思えないほどの力強さで優也は青葉は強引に自分の腕の中に引き寄せる。突然のことに驚き、そして抵抗する暇もなく、青葉は優也の腕の中にいた。青葉の髪に、優也の熱い吐息がかかる。
「優也!」
「…リンゴ、…食べさせてくださいよ」
「子どもみたいなことを言うんじゃない。…離しなさい。」
「嫌だ」
青葉は優也の腕の中から逃れようともがき、優也の体を押しやるが動じる気配はない。むしろ強く抱きしめられ、2人の間に腕を入れてわずかな隙間を作るだけで精一杯だった。
「優也!」
青葉がきつい視線を送っても優也は無言のまま。荒い息を吐きながら、ずっと薄く笑っている。そして、瞳からは揺るぎない意思を感じさせていた。
いつものように、青葉が折れるしかなかった。
「…分かった。」
青葉の了承する言葉を合図に優也の腕は緩む。
青葉はベッドサイドに手を伸ばすとリンゴ一切れを取り、優也の口元に運ぶ。その青葉の手は微かに震えていた。気づいているのか気づいていないのか、優也は嬉しそうに一口食べる。
「…美味しい」
優也が笑顔を見せると、青葉も安心し、つい笑顔になってしまう。やはり嬉しいものだった。
少しずつ食べ進め、リンゴは最後の一口分だけとなる。青葉は優也の口元にリンゴを差し出した。しかし優也は食べようとしない。不思議そうに青葉が優也に視線と送ると、優也は舌舐めずりすると同時に青葉の手を握りしめた。そしてリンゴと共に青葉の指を口に含んだ。
「優也!」
青葉は反射的に手を引こうとするが、優也の力が強く逃れられない。優也は含み笑いをすると、青葉の諌める声をものともせず、青葉の指に舌を絡ませ、ゆっくりと舐める。舐めながらも優也の視線は青葉の目を捉えて離さない。
青葉は優也の口内を傷つけたくないので指を動かすことができなかった。そして、優也の行為に戸惑いながらも、優也の舌遣いに今まで何度も重ねてきた深い口づけを思い出し、体の芯が熱くなりそうだった。青葉は慌てて目を背ける。
優也はイタズラっぽく笑うと、ようやく青葉の手を解放した。青葉は慌てて手を隠すが、顔を背けたまま、優也の顔を見ることが出来ない。
「もういいだろう!?」
青葉はベッドから降りようとするが、優也は青葉を逃すつもりはなかった。再び強く抱きしめ、青葉の耳元に口を寄せる。
「キッチンで気づいたけど…青葉さん、…シャワー浴びてきてますよね?…なんとなく…良い匂いがする」
図星だった。見透かされた青葉は恥ずかしくなり俯く。何か言い訳しようと思うものの、全てが恥の上塗りになりそうで言葉が続かない。優也は含み笑いをする。
「…本当は…青葉さんが期待していたように…セックスしたいけど。
…今日は風邪で体が重くって…ごめんなさい」
「期待しているわけじゃっ!」
青葉は反射的に顔を上げるが、言葉が見つからず、また俯いてしまう。
優也は荒い息を吐きながらも口元が緩む。
「ただ、…困ったことに…青葉さんがいるから…俺、興奮していて。」
優也は青葉の右手を取ると、優也自身の股間に押し付ける。優也の陰茎はすでに硬く、外に出たいと布を押し上げていた。青葉は反射的に手は引こうとするが、優也は押さえつけ逃さない。指を絡ませ、何度か強引に握りしめさせて感触を覚えさせると、もう逃げようとはしなくなった。青葉は俯いたまま、小刻みに震えている。
優也はさらに口元が緩む。
「俺の性欲…処理…してくれませんか?」
優也は青葉と指を絡ませたまま、形や大きさを嫌でも分からせるようにゆっくりと手を上下させた。青葉は抵抗しない。むしろ、俯いたまま、呼吸が荒くさせ、唾を飲みこんでは喉仏を上下させている。
優也は青葉の左手を取る。
「…ほら。青葉さんがやってくれないなら、女の子呼ばなきゃいけなくなる。」
青葉の左手を優也の陰茎に導く。一瞬の躊躇いの後、青葉自らの意思で、右手の動きの隙間を縫うように、辿々しく布ごしに優也の陰茎をなぞり始めた。優也は目を細める。
優也はゆっくりと青葉の右手を自由にした。すると、まるで"待て"を許されたかのように、青葉は辿々しくも躊躇もせず優也の下着を引き下ろし、股間に顔を埋め舌を這わせた。
優也の背筋はゾクゾクと震え、興奮のあまり笑ってしまう。
「俺、病人だから。今日は丁寧に…お願いしますね」
優也は青葉の髪を優しく撫でると、僅かに青葉の頭が上下に動いた。
陰茎の裏筋をやわやわと指で刺激しつつ、陰嚢を口に含み舌の上で転がす。根元から先端に向かって唇と舌で交互に刺激を与え、舐め上げる。先端を口に含み、舌先で刺激を与えると、また根元からゆっくり舐め上げる。青葉の唾液にまみれて優也の陰茎はそそり立ち、いやらしく光っていた。
優也に教え込まれたことを思い出し、青葉はフェラチオをしていたが、同時に体を重ねてきた様々な過去も思い出し、青葉の体は否応なく熱くなり興奮していた。顔を紅潮させ、物欲しげに腰が自然と揺らめく。
そんな青葉の痴態を見て、優也は満足げな笑みを浮かべると、青葉の背中を優しく撫でる。
「…悪い虫がつかないように…体につけていた"印"を…やめて欲しいと言われた時、…悩んだけど。
…問題なかったみたいですね。」
優也は突然、青葉の背中にきつく爪を立てる。青葉の体が一瞬、震える。
「…これからも俺だけのものってこと…忘れないでくださいね。…そろそろ…咥えてください」
優也に言われるがまま、青葉は陰茎を一気に根本まで咥えるとゆっくりピストンし始めた。青葉の口端から荒い息が漏れ出す。しかし、もっとスピードを上げないと優也が満足しないことは理解していた。少しずつピストンのスピードを早くする。
元々、風邪が原因で呼吸は荒かったが、優也の呼吸はさらに熱を帯び、吐息は荒くなっていった。
「…もう…このまま出しますね」
唐突に優也は青葉の後頭部を掴んで押さえると、腰を小刻みに前後させ、そして達した。
青葉の口内では、喉奥を精液が直撃する。息苦しさで青葉の目に涙が浮かぶ。しばらく我慢していたが、息苦しさのあまり歯を立てそうになり、堪らず顔を上げてしまった。涙を流し、咽せながらも吐き戻さないよう必死に飲み込む。
そんな青葉に対し優也は淡々と言い放つ。
「もう少し、でしたね。…ほら、まだ残っている」
優也は青葉の顎をもつと、強引に優也自身の股間に顔を向けさせる。青葉の視界に精液がダラダラと溢れる陰茎が入った。青葉は覚悟を決めるように唾を飲み込むと、再び股間に顔を埋め、精液を舐め上げる。そして、亀頭に唇をつけると、尿道に残った精液を吸い上げた。
優也は顔を綻ばせ、荒い息がまだ収まらない青葉の髪や頬を優しく撫でた。
「…風邪うつっちゃうかも…しれませんけど…キスします?」
優也は不敵な笑顔を見せ、口を半開きにして舌を出す。青葉が一瞬、身構えた。しかし、その誘惑に抗えるわけがない。優也の肩に手を置くと、物欲しげに口をわずかに開き、自ら近く。
しかし、あと少しで唇が重なるという時、優也は人差し指を青葉の唇に押し当て、動きを止めた。突然のことに意味が分からず、青葉は不満げな顔で優也を見てしまう。
優也は口を開く。
「今日、セックスはできないけど、…気持ち良いこと、…少しでも欲しいですよね。
…青葉さん、…服、脱いじゃいましょうか」
優也は自ら青葉と唇を重ねた。途端、青葉の体は喜びに震え、貪欲に優也の唇を甘噛みし、舌を舐め、優也が望むように舌を絡ませる。頭の芯は快感で蕩け、身体中は甘く痺れるかのように青葉は心地良かった。
青葉は優也との深い口付けで悦楽を貪りながらも、シャツのボタンを一つずつ外していく。しかし、手元が見えず、そして慌てているためか、なかなかうまくいかない。快感の中にも焦燥感が青葉を襲い始めるが、唇を離す気にはなれなかった。1秒でも長く優也と繋がっていたかった。
そんな青葉を追い詰めて楽しむかのように、優也は青葉と舌を絡ませつつも、シャツをたくし上げ、青葉の肌の上を縦横無尽に両手が滑っていた。肌を優しく撫で上げ、時には乳首を刺激する。早く服を脱ぐように、と急かすかのように。青葉の体は細かく震え続けている。
青葉がどうにかボタンを全て外し、シャツの襟元を開き、大きくはだけさせた時。優也は待っていたと言わんばかりに手を出した。青葉のシャツを力任せに肩から下へと一気に下げて脱がせると床に投げ捨てる。
「…次、…下も脱ぎましょうか。」
僅かに唇を離して、優也はそう囁くと、青葉の後頭部に片手を回し、さらに深く舌を差し入れ始めた。まるで喉奥まで舐められているかのようで、青葉の快感はさらに増し、下半身の疼きはより強くなる。もう片方の優也の手は、変わらず青葉の肌を滑り、時に指の腹で乳首を転がし、刺激を与え続けていた。
青葉は快楽に全身を侵されながらも、ガチャガチャと乱暴にベルトを外し、床に投げる。チノパンと下着は共に下ろし、足を前後させながら脱ぐと、床に蹴り落とした。
「ゆう…や…」
深い口付けの息を継ぐ合間、青葉は言いつけを守ったことを伝えようと、優也の名を呼ぶ。青葉の両手は優也の胸に縋り付いていた。
優也は呼応し、青葉の腰を抱き寄せた。臀部をわざと音が立つように叩き、乱暴に揉みしだくとその度にビクビクと腰が震える。いつも通り敏感な体に優也は満足げに含み笑いをする。
優也は青葉の顎を持つとゆっくり引き離した。青葉の口は名残惜しそうにだらしなく開き、呼吸は荒く、顔は紅潮している。優也もまた荒い呼吸が止まらない。ゆっくり青葉の頬を撫でる。
「指、…舐めてください」
優也が右手の人差し指を青葉の口内に差し込むと、青葉は従順に舌を絡ませた。間をおくことなく、優也は中指も差し入れる。青葉は、口端から唾液も零しながらも、指の根元まで咥えて丁寧に舐める。
ふと青葉が視線を上げると、優也と一瞬視線が絡む。2人きりの時にしか見せない、冷たくて、全てを見透かしているかのような優也の瞳。青葉の体は震え、そしてなぜか興奮してしまう。優也の胸に縋り付く指の手に力が入る。
指を舐める青葉を優也は眺めながらも、左手は青葉の臀部を時に優しく撫で、時にきつめに叩くことを繰り返していた。やがて臀部の割れ目に沿うように指を上下させる。そのまま少しずつ指を深く押し入れ、青葉の肛門をゆっくりなぞり始める。青葉の腰の小刻みに震えて止まらない。
優也は面白がるように、時々軽く指で叩いては刺激を与えると、もっと欲しがるように青葉は小さく喉を鳴らす。
青葉はこれから行われることを想像し興奮せずにはいられなかった。ただ、何度、体を重ねても、優也に痴態を見られる羞恥心になかなか慣れることも出来ず、捨てきれもしなかった。優也と視線を合わせたくないため、青葉は瞼をきつく閉じる。
優也はそんな青葉を弄ぶように、青葉の口内で指をピストンさせて反応を楽しむ。青葉は、喉奥を指で刺激され涙ぐむが、必死に舌を絡ませ舐め続ける。
「もう、いいですよ…」
やがて青葉の口内から指を引き抜くと、優也は中指だけをゆっくりと肛門に押し入れた。青葉の体が微かに震える。
そのまま、ゆっくりと何度かピストンさせる。
「だいぶ緩いですね…自分でほぐしました?…あぁ、そうじゃなくて、オナニー?」
青葉は一瞬の間を置いて、首を小さく横に振る。優也は軽く笑いながら、すぐに人差し指も差し込む。ゆっくりピストンさせ、時に内部で指を折り不規則に前立腺を刺激し、快感を与える。
青葉の臀部や足は震え続け、息も荒くなる。気持ち良さで腰を落としてしまいそうだった。たまらず青葉は優也の首に抱きつく。優也が望むまま、全てを受け入れられるよう体勢を維持することで、少しでもより多くの快感を得ようとしていた。
すでに青葉の陰茎はそそり立ち、微かに揺らめいていた。
優也は青葉の臀部を引き上げるように広げると、指を追加した。青葉の肛門は抵抗なく飲み込む。そのまま優也は再び指をピストンさせ始めた。
「今、…何本入っているか…分かります?」
青葉は小さく首を縦に振る。優也は意地悪く青葉の耳元で囁く。
「声に…出してください」
「…3本」
声に出すことで自分の淫乱さを自覚せざるを得ない。無意識に青葉は両手を握りしめた。
優也は指のピストンを早める。
「そう。…すごく緩い。…まだ入りそうですよ」
「…んっ…もぅっ…無理…」
青葉は首を何度も横に振るが、優也は咳き込みながら笑う。
「そうですか?」
優也は指3本を深くピストンし始めた。指を大きく回転させたり、スピードに緩急をつけながらピストンをし、指の根元まで押し入れる。ただ、前立腺を意図的に刺激することがなくなった。快感を感じながらも決定打がないため、青葉はもどかしい。
「ゆう…や!…もう…イキたい!」
羞恥心を押し殺し懇願するが、優也は取り合わない。
「…まだ…楽しみましょうよ」
「…そ…んな…」
青葉は捌け口が見つからないまま快感に悶え続けるしかなかった。優也は追い討ちをかける。
「青葉さんの乳首、舐めたいなぁ」
青葉は驚いて優也を見ると、意地悪く笑い、舌を差し出していた。青葉は優也の意図をすぐに把握し、恥ずかしさのあまり反射的に目をそらす。しかし拒否は出来なかった。
青葉は下半身の快感に腰を震わせながらも、優也の肩に手を置くと膝立ちし、優也の舌に合わせるように自分の胸を差し出す。優也の舌まであと僅か数センチ。これからされることを想像し、緊張し興奮していた。そしてそんな自分が恥ずかしく、青葉は目を伏せた。自然と呼吸が早くなる。
優也はそんな青葉に笑ってしまう。
「青葉さんの乳首、…ほんと、…感じやすいですよね」
優也は青葉の肛門を指で犯しつつも、乳輪を舌先でゆっくりなぞり、唇で乳首を甘噛みする。その度に青葉の体は小さく震える。青葉の反応を楽しみつつ、優也はふいに乳首に歯を立てた。青葉の体は驚き、反射的に体を引いてしまう。青葉は慌てて再び胸を差し出すが、強い刺激があるたびに青葉は反射的に体を引いてしまっていた。
優也は軽くため息をつく。
「仕方ないなあ」
優也は空いている手を青葉の背中に回す。そのまま、青葉の乳首に軽く歯を立て、そして、きつく吸い上げた。体を引くことが出来ないため、強い刺激が青葉を襲い、上擦った声が上がる。
「んぅ…ゆう…やぁ…もぅっ…ゆっ…くり…」
青葉は小刻みに震え続ける。上半身と下半身、それぞれの快感に気持ち良さを感じながらも、自分の体勢が崩れないように青葉は必死だった。優也の肩を掴む手に力が入る。
優也は執拗に乳首を吸い上げ、細かく舌先で刺激を与え、舐め上げる。やがて、乳首は唾液にまみれ、勃起した。その間、青葉はずっと小刻みに体を震えさせながらも、声を押し殺し、刺激に耐えていた。優也は指先で何度か刺激を与えたあとに乳首を摘む。
「青葉さん、…俺が何するか…分かりますよね?」
青葉は荒く息を吐きながら、薄く目を開ける。
「…それ…い…や…」
青葉が言葉を言い終わらないうちに、優也はわざと乱暴に乳首を力強く捻り上げた。途端、青葉は大きく体を震えさせる。
「んあぁっっっ!!!」
青葉はとうとう体勢を崩し、優也の首に抱きついた。青葉は荒い息を吐き、腰がビクビクと震える。
優也の右手は変わらず青葉を執拗に犯しつつも、左手で優しく背筋をなぞる。
「…あぁ、…軽くイッちゃいました?青葉さん、…いやらしいなあ」
優也の笑い声が青葉の耳に届く。羞恥心を感じながらも、優也に縋り続ける以外、もう何も思いつかなかった。理性もどんどん薄れていく。優也は反対側の乳首を弄び始める。
「青葉さん、…反対も…同じことをしてあげますよ。気持ち良いこと…好きでしょ?」
優也の言葉に反応し、青葉は唾を飲み込む。もっと刺激と快楽が欲しくて堪らなかった。ゆっくり体勢を戻すと、優也に反対の胸を差し出す。
しかし、すぐに優也は触れようとしない。優也は笑顔で青葉の手を取ると、既に勃起している青葉の乳首を触らせた。
「こっちは自分で弄ってください…もちろん甘やかしちゃダメですよ」
青葉は一瞬躊躇するが、震える指で自分の乳首を指の腹で転がし、指先で強く摘む。気持ち良さで声が漏れそうになるが俯いて耐える。
優也はそんな青葉の姿にクスクスと笑うと、もう一方の乳首をゆっくりと指先で嬲る。刺激を与えるたびに青葉は小さく喉を鳴らし、反応する。やがて頃合いを見計らい、乳首を口に含む。先ほどと同じように優也が刺激を与えると、青葉の体は再び小刻みに震え続けた。
青葉の指も止まることなく、むしろもっと快感が欲し、無意識に優也の舌先の動きと少しでも似た動きを指先で再現するようになっていた。下半身の刺激も止まらず、青葉の体は快感でどんどん満ちていく。
やがて、優也から優しく、そして乱暴に愛撫された青葉の乳首がそそり立つ。唾液で光る乳首を優也はそっと触れると指で摘む。
「青葉さん、…さっき、…嫌って言っていたけど、…本当は好きでしょ?」
優也は摘む指の力を強弱させながら刺激を与える。青葉は優也が何を考えているか分かった。覚悟を決めるように深呼吸する。
「…好き…だ」
「ですよねぇ」
優也は先ほどとは比べものにならないほど力を込めて捻りあげた。
「っっっ!やあああっっっ!!!」
青葉は体を大きく震わせると再び体勢を崩す。優也の首に抱きつき、口を大きく開いて呼吸を繰り返す。優也はクスクスと笑いながら、押しつぶすように何度も捻りあげた。そのたびに青葉は反射的に上半身を引こうとするが、優也が乳首を強く摘んでいるので逃げられないうえに、乳首を引かれるという新たな刺激が追加されてしまう。
「ゆ…うやっ!だ…めだ…もぅ…やめっ…」
「えー、好きなんでしょ?」
「っ!…好き…だ…が…もぅっ!ダメ…だっ!」
青葉は嫌がる言葉を口にするが、逃げる素振りも反抗する素振りはなかった。優也に抱きつき、大きく開けた口の端からは唾液が漏れ、むしろもっと欲しいと縋っているように見えた。実際、青葉は痛みの先にある快感が気持ち良く、顔を紅潮させていた。優也は咳き込みながらも笑いが止まらない。
「…青葉さん、…ちゃんと言わないと。…ダメっていうのは、…気持ち良すぎるんでしょ?」
「…あっ…んっ…気持ち…良い…」
「だったら、自分の気持ちに…嘘ついちゃダメですよ。
"気持ち良い"は…"ダメ"じゃなくて…"欲しい"んでしょ?」
優也は爪を立てて何度も青葉の乳首を捻りあげる。与え続けられる刺激で、青葉の体はより敏感になり、そして快楽を受け入れることに素直になっていった。青葉は、声を押し殺すことをやめ、甘く上擦った声を上げ始める。
「…っんぅ…もっと…んぁ…欲し…い…」
「そう。…やっと…良い声、…出し始めましたね」
優也は反対の乳首も潰すようにきつく捻りあげ始める。そして青葉の肛門を犯し続けている優也の指の動きはより激しくなっていく。青葉は全身を震わせ快楽に酔いしれていた。
ただ、快楽が蓄積されていく青葉の「吐き出したい」と思いも強くなるばかりだった。無意識に青葉の手は下半身に向かっていた。あと少しで陰茎に触れられそうになった時。
「青葉さん、…手」
優也が見落とすわけがなかった。青葉の手が止まり、自分が何をしようとしていたか自覚する。
「もうっ!んっ…たの…むっ…から!」
「勝手に触っちゃダメですよ。…俺、風邪で辛いのに。…油断も隙もない。
…んー、…ペナルティ、…どうしようかな」
優也は青葉の願いを受け入れるつもりは毛頭なかった。ため息をつき、しばし考えると、青葉の両手を取り、青葉自身の臀部に移動させた。
「青葉さん、…俺が指を入れやすいように…広げてください」
「…っ!」
入れやすさもあったが、青葉の両手を封じることもでき、一石二鳥だった。
「…ほら」
優也は青葉の両手に自分の手を重ねると、力任せに臀部を引き上げるように広げる。青葉自身は直視することは出来ないが、肛門に空気が触れ、嫌でも曝け出していることは分かった。羞恥心が青葉の中に溢れるが、優也の言葉がそう簡単に翻らないことは身を以て知っていた。震える指で力をこめる。
優也は薄く笑うと、再び指をまとめて入れるとピストンし始めた。深く大きく早く抉るように。青葉の肛門は容易く優也の指を根元まで飲み込み、さし抜く時はまるで名残惜しいかのように内壁は優也の指にまとわりつく。
もう一方の優也の手は、先ほどと変わらず、青葉の乳首を弄び、優しく爪で刺激したり、力まかせに捻り上げている。青葉の上擦った声は止まらず、足もガクガクと震え続けていた。
「やぁ…ゆう…っや…もう…あぁ…ゆるし…」
青葉は涙を浮かべ何度も懇願する。優也は軽くため息をつく。
「もう…いいかな」
優也が指を引き抜くと、肛門括約筋は機能を麻痺していた。完全に閉じることはなく、だらしなく口を開けている。青葉の肛門をゆっくり指でなぞって、そのことを確認すると優也は笑う。
「このままだとオムツが必要になっちゃいますね」
優也はそう言い終わらないうちに、再び指を差し入れた。しかも今度は左手の指も追加されていた。肛門は皺がなくなるほど広がりながらも優也の指を飲み込む。
「青葉さん、今、…何本入っているか…分かります?」
「っ…やぁっ…だっ!」
青葉は首を横に振る。優也は意地悪く笑うと、さらに広がるように指を入れたまま左右に開き、指を軽く曲げる。
「それじゃあ、…分かりやすく、…もう1本、…増やしましょうか」
「…っ!い…っやぁ…だ!…4本っ!…入って…いるっ!」
青葉は必死に声を上げる。
優也は指を思いつくまま不規則に動かしながら、含み笑いをする。
「残念。…5本ですよ。…言った通り、まだ入ったでしょ。…あぁでも、…まだまだ広がって入りそう」
「ゆう…やっ!」
青葉は余裕がなかった。優也の言いつけを破り、臀部から両手を離すと、優也の後頭部に両手を回す。そして、口付けをした。"おねだり"だった。
「…これっ…以上…はっ…壊れ…るっ…頼む…か…ら…」
青葉は必死に優也の唇を甘噛みし、舌を舐め、解放を請い続けた。
優也は一瞬驚く。"おねだり"のルールは存在していたが、優也に誘導されない限り、青葉が今まで自ら求めることはなかった。その日初めて青葉自ら行動したことに優也はつい頬が緩む。
「…いいですよ。…俺も風邪でしんどいし。」
優也は内部で指を不規則に動かしつつも、ようやく前立腺を直接、強く刺激する。撫でたり、叩いたり、押したり。途端、青葉は体を反らし、腰はガタガタと震え出す。今まで溜まっていたものが一気に押し寄せてきていた。
「あああっ!!!もうっっっ!!!」
青葉は慌ててベッドサイドテーブルに手を伸ばす。テーブルに置かれていた様々なものに青葉の手は派手にぶつかり、床に落ちる。その中には青葉が皮を剥いたリンゴもあった。しかし余裕がない青葉は気づくこともなく、目的のティッシュペーパーを何枚もまとめて急いで引き抜くと、自分の股間に押し当てる。途端、青葉の体は小刻みに震え、達した。
優也が指を引き抜くと同時に、青葉は荒い息のまま腰を落とし、優也の胸へと倒れこむ。優也は咳き込みながらも笑う。
「…本当はもっと…いじめてあげたかったなぁ。
青葉さんも…まだまだ物足りない…でしょうけど、…次のお楽しみ、ですね。
…代わり、じゃないですけど、…もう一回、キスします?」
青葉はまだ荒い息のまま、ゆっくり上半身を起こす。もっと欲しいと言うように、口を開き、舌を差し出した。
深く長い口付けを楽しみ、青葉の熱情が落ち着いた頃を見計らい、優也は青葉を仰向けに押し倒す。
「…今日、まだ時間ありますよね?」
青葉は伏し目がちに頷く。優也は笑顔を見せると、青葉の胸に寄り添うように横になった。そのまま布団を手繰り寄せ、瞼を閉じる。
今まで寝る時は優也に抱きしめられることばかりだった青葉は、いつもと違うことに戸惑う。見渡すと枕が視界に入り、慌てて手元に引き寄せた。
「優也…寝る前に、頭を上げて欲しい」
「…どうしてです?」
青葉は優也の頭を持ち上げ、枕を押し入れようとする。
「…顔に骨があたって痛いだろう?」
「なんだ、そんなことですか」
優也は枕を取り上げると床に投げ捨てる。
「青葉さんのこと好きだから、…関係ないですよ。
…それに…今日は寒くて…青葉さんの体温が…すごく温かい…」
優也は言い終わらないうちに再び瞼を閉じた。大した間も無く、規則正しい寝息を立て始めた。
反対に青葉は寝ることは出来なかった。まだ昼間ということもあるが、優也の首にそっと触れると、まだ体温は高い。改めてサイドテーブルを見ても、やはり菓子の空袋や栄養ドリンク、缶ビールの空き缶が散乱していることから、まともな食事をとっているとも思えなかった。
…私の身の回りに関しては小言が多いのに。
青葉はため息をつくと、泥のように眠る優也をベッドに残して起きる。ベッドサイドのテーブルに置かれた薬を手に取ると、まだ数日分は残っていた。青葉は安堵の表情を見せる。
青葉は自分の服を拾い集めながら、部屋中に散乱するゴミも簡単に拾い始めた。その中には青葉が皮を剥いたリンゴもある。寂しげに拾うと他のゴミとまとめる。
集めたゴミを見る限り、やはり食生活が偏っていることは青葉にでもすぐに分かった。一度買い物に出かけたかったが、優也の好みがよく分からない。青葉はベッド脇に座り、優也を一度起こすかどうか悩む。
そんな中、サイドテーブルを何気に見ると、まだ残っていたリンゴが目に入った。青葉は思わず手に取る。久しぶりに食べるリンゴは思っている以上に美味しくて青葉の顔が綻ぶ。
そんな時、優也がモゾモゾと体を動かし始めた。青葉は優也にそっと触れる。
「ちょうど良かった。何か栄養のある食べ物を買ってくる。好みとか苦手なものはあるか?」
優也は布団の中から顔を出し青葉を見上げる。質問に答えないまま青葉の手首を掴んだ。
「勝手に帰らないって…言ったじゃないですか」
低く落ち着いているが、強い意志を感じる声。優也は眉間に皺を寄せながら起き上がると、青葉を強引にベッドに引きずりこむ。慌てて青葉は優也の腕を押さえる。
「買い物に行くだけだ。また戻ってくる」
「何も要りません、…どこにも行かないでください」
優也は青葉の手を振り払い、背後から抱きしめる。
「…んー、…でも、喉は乾きました」
青葉はため息をつくとサイドテーブルに置いてあった、飲みかけのペットボトルを手に取り、優也に渡す。優也は一気に飲み干すと床に投げ捨て、青葉の首に顔を埋めた。そのまま優也は動こうとはしない。優也の荒い息遣いだけが室内に静かに流れる。
優也は思い悩むが、このタイミングで切り出した。
「こんな時に悪いが…頼みがあるんだ……こうやって会う回数を減らして欲しい」
優也の体が僅かに震え、抱きしめる力が強くなる。
「嫌です。無理です。ダメです。」
完全拒否、それは想像していたことだった。青葉は意を決して、言葉を続ける。
「ここのところずっと落語の調子がおかしいんだ。
何度高座に上がっても、ボタンを掛け違えているような違和感がとれないし、日増しに膨らむ。
しばらく落語に集中して、次の二人会までにどうにか間に合わせたい。…頼む」
嘘ではない。事実であった。手を抜いているつもりはなかったが、気の緩みからか、精彩を欠いていた。以前、優也を叱り飛ばした手前、不甲斐ない姿を見せることはしたくなった。
青葉を抱きしめる優也の腕の力が強くなる。
「青葉さん、ずるい。」
優也は"落語なんて"と言いたかったが、青葉が落語を大切にし、真摯に取り組んでいることをよく知っていた。だから落語をぞんざいに扱うことは青葉をぞんざいに扱うことと同意義であることは嫌というほど分かっていた。そう簡単には拒否できない。
「…次の二人会まで、だったら。」
「…ありがとう」
青葉は安堵の表情を浮かべる。が、突然、優也は青葉を仰向けにベッドに押し付けた。
「…もしかして、…今日はその話をしに来たんですか?俺の心配しているんじゃなくて」
眉間に深い皺を寄せ、明らかに不安そうな表情を優也は浮かべていた。
青葉は慌てる。
「違う!」
青葉は言葉を続けようとしたが、優也は再び青葉の胸に抱きつき、布団に包まる。
「もういいです」
優也の顔が見えるよう、布団を少し捲ると、まるで拗ねた子供のように、何も聞きたくないと言わんばかりに丸くなっていた。青葉は心苦しく、何か声をかけようと思うが、全てが空々しくなりそうで言葉が出ない。
青葉は戸惑いながらも、辿々しく優也の髪を撫でると、優也の表情が少し和らぐ。
「…ん、…それ、いい。…俺が寝ても…ずっと…続けて…」
やがて優也は眠りに落ちる。優也をベッドに残して買い物に出かけることも出来たが、優也の傷ついた顔が忘れられなかった。
結局、優也が寝付いたあとも、青葉は起き上がることも出来ず、優也の髪に触れ続けていた。
青葉が優也を看病してから約二週間ほど経った。
その日は例年になく激しい雨の日だった。傘を差していたとしても、この雨の中を歩けば、ずぶ濡れになりそうな勢いだった。雲は低く、しばらくは雨が上がる様子もない。雨音は強く、いつまでも自己主張し続ける。
雨で見通しが悪い中、青葉は車を走らせ帰途に着いていた。フロントガラスを強く打ち付ける雨で数メートル先も視界が悪い。そんな雨を見ながら、青葉は優也のことを思い出していた。
10年以上前、雨の中、ずぶ濡れで弟子入りにやってきた優也の若さに一度は断ったが、何も恐れないような、意思の強い目に青葉は気圧された。
今も、あの目は変わらない。いつだって真っ直ぐに見つめてくる。
そして、はっきりと答えを出さないまま、青葉は流され続けていた。
…私は卑怯だな。
優也との関係に思いを巡らせ、青葉は深くため息つく。
家に帰り着き玄関を開けると、台所から夕食を準備する音と美味しそうな匂いが漂ってきた。青葉の頬がつい緩む。
そこに弟子の吉伍が不思議そうな顔をして近寄ってきた。「さっき…」と吉伍が話し始めると、その内容に青葉は驚き、焦る。しかし、そのことを吉伍に気づかれるわけにはいかなかった。平静を装い、稽古場の人払いを言いつけると、足早に真っ直ぐ稽古場へ向かった。
稽古場のドアを開けると、湿気を帯びた空気と雨音だけが外から流れ込む部屋に一人、優也がいた。優也は青葉に微笑みかける。
「おかえりなさい」
青葉は動揺を隠せないまま、稽古場のドアを閉める。
「…どう…して?稽古をつける予定は入れていない。…帰りなさい。」
「"どうして?"その言葉、そのまま青葉さんに返しますよ」
優也は笑顔のままゆっくり立ち上がる。
「会う機会を減らすことには同意しましたけど、"一切会わない"つもりはありませんよ?
どうして全ての予定を白紙にするんですか?」
優也の顔には笑顔が張り付き、声は落ち着いているが、それとは裏腹に立ち振る舞いに威圧感があった。歩み寄る優也に怖気付き、青葉は後ずさりしてしまう。
「…落語に…集中したかったんだ」
青葉は取り繕う。しかし、優也の表情はなんら変わりなく、歩みを止めることはない。後ずさる青葉はやがて壁際に追い詰められていた。
「4時間…いや、3時間でいいです。ホテルに行きましょう。それで我慢します」
優也は青葉の手首を掴み、引く。が、青葉は反発した。優也の手を振りほどくと、首を横に振る。
…このまま優也に流されたら何も変わらない。
青葉は拳を握り、唾を飲み込む。意を決して優也をきつく見る。
「…本来、"約束"は二人会に関わりがある日だけだったはずだ!
それなのに、いつも打ち合わせなどと言って、結局、何も二人会のことは話さないじゃないか。
…今日もそうなんだろう?ホテルに行く義務はないはずだ!」
優也は笑顔を解き、深いため息をつく。しかし、再び笑顔を作ると壁に手をつき、青葉の瞳を覗き込むように顔を寄せる。
「気づいていると思うんですけど、今の俺、だいぶ怒っているんですよね。
全ての予定をキャンセルされるし、我慢して妥協してホテルで良いって言うのに拒否されるし。」
優也は笑顔のまま淡々と話すが、目は全く笑っていない。そして少しずつ優也の顔から笑顔が消えていく。
「確かに最初はそう言いました。
でも、最初から分かっていると思いますけど、俺が二人会に出ているのは青葉さん目当てなんですよ。」
優也の言葉遣いはあくまでも丁寧だったが、激しい憤りを含んでいた。終いにはとうとう苛立たしく声を荒げる。
「今まで適当に理由つけていましたけど。
…そんなに理由が欲しいなら、自分で勝手に考えて、自分で勝手に納得してくださいよ!!!」
青葉の顔に触れそうなほどの近さで優也は壁を力任せに激しく叩く。いつもの明るい表情とは全く違う、怒りに満ちた優也に青葉は驚き、動けずもせず、言葉も出ない。
優也は全身を使って青葉を壁に押し付けると、両手で青葉の顔を持ち上げた。
「とにかく今日は俺の相手してください」
親指を強引に青葉の口内に差し込み口を閉じられないようにすると、優也は自らの舌を差し込む。
「…んぅっ!…ゆうっ…や!」
青葉は顔を背けようと抵抗するが、優也の力は強く、逃げることが出来ない。優也の体を押し退けようにもやはり動じる気配もない。優也の指や舌に歯を立てて傷つける勇気は青葉になく、侵入を許してしまっていた。
しかし、優也が強引に何度も舌を絡ませようとしても、青葉は拒否し、口内で逃げ続けた。青葉は優也との関係性を変えたかった。それに、抵抗を続けれは優也が諦めたことがあったので、可能性はあると信じていた。
が、その日の優也は違った。どんなに青葉が逃げても執拗に追いかけ続けた。口内に差し込んでいる親指の関節を曲げて、さらに青葉の口を無理やり開かせると、舌をさらに深く押入れ、青葉の舌や歯を何度も舐め回しては搦め捕ろうとする。青葉は焦りを感じていた。
…このままだといつものように快楽に流されてしまう
舌を舐められる感触、優也の唾液が流れ込む感触、口内を蹂躙される感触、全てが青葉の快感に直結し響き続けていた。頭の奥が痺れる。
青葉はとうとう堪らず、罪悪感を感じつつも、優也の親指に歯を立てる。これで優也が引き下がると信じて。しかしそれは叶わなかった。
優也は歯を立てられたことを物ともせずに、むしろ親指をさらに深く押し入れた。爪と歯が擦れ合う鈍い音が青葉の口内で響いたかと思うと、親指は奥歯まで到達し、青葉はさらに口を開ける形になっていた。
青葉は驚き、目を見開くと、すぐ目の前の優也と視線が絡む。優也の瞳は青葉を捉えて決して離さない強い眼差しだった。
自分が何者なのか、自分が誰のものなのか、冷徹に教え込む絶対的な支配者のような鋭い瞳。
そんな優也に青葉は鳥肌がたつほど震え、そして青葉の体は昂ぶっていた。優也に魅入られたかのように、青葉は目を逸らすことが出来ない。
抵抗する気力がなくなり、青葉は壁を背にしたまま、ずるずるとへたり込んだ。優也は青葉を一旦解放し、舌舐めずりしながら、へたり込む青葉を見下ろす。
「今日はここでやるしかないですね」
いつもの、明るく人懐っこい優也の声が青葉の頭上から響くと同時にジャケットを脱ぐような布が擦れる音も聞こえる。
青葉は小さく何度も首を横に振ると、這うようにして逃げる。結局は無駄な行為だと分かっていても、それでも青葉に残された理性が突き動かす。
案の定、優也は青葉の身体を捉えると、仰向けにして馬乗りになる。青葉は声をふり絞る。
「もういい加減、私の体なんて飽きただろう!?」
責任転嫁なんて卑怯だとは分かっていたが、青葉は思いつくままにぶつけた。
一瞬、優也の眉間に皺が寄る。
「…まだ、そんなこと言うんですね。」
「…っ!…事実を言っているだけだ!
女性の方が抱き心地がいいだろうし、この前だって、また女優の子と雑誌に…」
優也はわざと大きな音を立てながら床に手をつき、青葉に顔を近づける。優也の顔には笑顔が張り付いていたが、瞳には怒りが灯っていた。
「こんなに何度も"おあずけ"食らって飽きるわけないでしょう。
あの女だって、いつものように、青葉さんの代わりということは分かっているくせに。」
青葉はつい視線を逸らしてしまう。優也は青葉の両手を無理やり引き寄せると、自分の指と絡ませながら床に押し付けた。
「そんなに俺に飽きて欲しいんだったら、毎日、俺のところに来て抱かせてくださいよ。
…まぁそれでも飽きない自信ありますけど。」
優也は意地悪く笑うと、優也自身の股間を青葉の股間に押し付け腰を動かし始める。すでに優也の陰茎は固くなり始めていた。
「俺、もうスイッチ入っちゃったんですよね」
互いにボトムスを穿いていたが、布ごしでも感触は分かる。青葉は顔を赤くし、逃げようともがくが、両手と腰を押さえつけられ逃げようがない。
「…っ!離して…くれっ!」
優也は聞く耳を持たない。青葉の反応を面白がるように、左右に腰を振りながら擦り合わせたり、早く入れたいと言わんばかりに、腰をピストンさせながら擦り合わせる。擦れ合うたびに青葉の全身は快感で小刻みに震え、熱い吐息が漏れ始めた。
優也は薄く笑い、青葉の耳元で囁く。
「やっぱり青葉さんのこと飽きないなぁ。
だって抱けば抱くほど、どんどんエロくなるし、底が見えない。
もっともっといやらしい青葉さんが見たくなるし、俺好みにしたくなりますよ?」
青葉は顔を背ける。何も反論できない。実際、今も優也の陰茎の感触を味わうたびに、今まで体を重ねてきた数々のことを思い出し、興奮していた。
…早く優也が欲しい。繋がりたい。
理性が働く前に、そう本能的に思ってしまうほどだった。体は優也を求めていると嫌でも自覚させられ、青葉の目には涙が滲む。それでも理性を動かし、無駄な足掻きを続ける。
「…来週っ!…にしてくれ!…頼む…から!」
「えー、俺は今、青葉さんが欲しいなあ。…それに青葉さんももう無理でしょ?」
優也はボトムスの上から青葉の陰茎を掴む。刺激され続けた結果、青葉の陰茎も硬くなり、外に出たいと主張していた。わざと乱暴に上下に擦ると、直接的な刺激に青葉の全身が震える。
「…いっ!やだっ!…あぁ!…やめっ…てくれ!」
青葉はたまらず優也の手を解こうとするが、優也の手は力強く、解くことができない。優也の手から逃れることが出来なかった。
優也の手が動くたびに強い快感が青葉を蝕み、嬌声を上げそうになる。青葉は必死に唇を噛んで耐えるが、それだけでもう精一杯だった。青葉の中で快感がどんどん膨れ上がり、もう思考回路が上手く回らなくなっていた。
優也は含み笑いをすると、青葉の陰茎から手を離す。そして、再び優也自身の股間を青葉の股間に押し当て上下に動き始めた。青葉はもう抵抗しなかった。顔を紅潮させ、目を潤ませ、口は薄く開いて熱い吐息を漏らし続ける。
「…青葉さん、…もう少し、ですね」
青葉が堕ちるまで、あともう少し。優也は青葉の頬をそっと撫でると、両手を添えゆっくりと口付けをした。今度は優しく丁寧に。食むように唇を啄ばみ、舌先で唇をなぞる。
優也から与えられる刺激は、先ほどとはまた違う、甘美さがあった。気持ち良さのあまり、青葉の全身が震える。無意識に両手は優也の両腕に縋り付き、もっと欲しいと本能が叫ぶ。もう青葉には優也を受け入れる道しか見えなかった。
…"今日"を早く終わらせるしかない。
そう自分で自分に言い訳しながら、青葉は口を開き、舌を差し出した。同時に青葉の上擦った声も室内に薄く響く。
ようやく従順になった青葉を見て、優也の頬が自然と緩んだ。優しく囁く。
「今日は青葉さんの大好きなキスをたくさんしますから。それで、いいでしょ?」
優也は青葉の髪を優しく撫でると、舌を差し入れ、ゆっくりとねっとりと絡ませて青葉の舌を味わう。青葉も進んで舌を絡ませる。青葉の両手は自然と優也の背中に回り、縋り付いていた。そして、優也の腰の動きに合わせるように、青葉も腰を振り、快楽をより欲し始めた。
この瞬間が優也は好きだった。青葉が身も心も全てを差し出してくるような瞬間。独り占めできる興奮で体が熱くなる。もっとずっと欲しくなる。飽きるわけがない。
「…青葉さん、あっちに行きましょう」
優也は青葉の手を引き、座布団が積まれている窓際に向かう。座布団の山の適当に崩すと、その上で2人は抱き合うように再び口付けをする。舌を舐め合い、舌を絡ませ合う。
優也は優しく口付けをしながらも、シャツをたくし上げ、青葉の肌の上で両手を滑らせていた。背筋を指先でなぞり、脇腹や腹部、胸部を手のひら全体で優しく撫で上げる。再び青葉の中に快感が蓄積されていく。青葉の口端からは甘い吐息が漏れる。
優也の手はゆっくりと青葉の下半身へと降りてくる。ベルトとホックを優也が外し始めると、青葉は躊躇うことなく優也の首に両手を回し、優也から唇を離さないまま進んで膝立ちした。優也は優しく青葉の臀部や大腿部を一度撫でると、ボトムスと下着をまとめて引き下ろす。解放された青葉の陰茎はそそり立ち、揺らめいていた。優也がそっと先端に触れると、青葉は上擦った声を上げる。優也は自然と笑みがこぼれる。
「青葉さん、服脱いで待っててください」
優也がカバンからコンドームを手に戻ってくると、青葉は全裸で仰向けになり、早く一つになりたいと言っているかのように、自ら両膝を抱えていた。
その姿が浅ましく卑猥で、優也は興奮するとともに、加虐心に火がついてしまう。
「青葉さん、淫乱ですね。こんないやらしい体、他の人が見たらなんて言うか」
青葉の体が僅かに揺れるが、体勢を崩さない。羞恥心に慣れることは出来なかったが、それでも青葉の中では快楽が優っていた。青葉は室外の気配を伺いながら声を出す。
「…優也、…早く」
優也は腰を下ろし、青葉の腰を引き寄せると、自身の大腿部にのせるように抱える。青葉の腰はせがむように僅かに揺れ続けていた。
しかし、優也は青葉の臀部や大腿部をくすぐる様に撫で、肝心なところには一切触れない。ただ、撫で心地を楽しみ続ける。
青葉は堪らず声を上げる。
「優也…頼むから…早く入れて…欲しい」
「…んー、まだ慣らしてないしなー。」
「…もうっ…入れても…大丈夫だから…早く…」
焦燥感に駆り立てられている青葉は懇願し続ける。
優也は薄く笑うと、自らコンドームをつけ、待ち望むように蠢く肛門に先をあてる。青葉も優也に合わせるかのように大きく息を吐き、唾を飲み込み、力を抜く。しかし、優也は自らの陰茎を入れることなく、ゆっくりとピストンし始めた。
すぐに終わるだろうと青葉は信じていたが、終わる兆しは見えない。入り口だけを刺激され、入るようで入らないもどかしさで気が狂いそうになる。
「…優也…どうして…」
「これも気持ち良いでしょ?」
「…頼むから…早く…」
青葉は優也に哀願するが、優也ははぐらかし、焦らし続ける。声が外に漏れないよう青葉は小声で話していたが、余裕がなくなり、声量は段々と大きくなっていった。
「なんでも…するからっ!早くっ!欲しい!」
目を潤ませ、そそり立つ陰茎と腰を揺らしながら男を誘う様は、卑猥さを際立たせていた。
優也は含み笑いながら、青葉の臀部を左右に押し広げる。
「青葉さん、本当、淫乱。俺だけの秘密にしなきゃいけないですね。
誰にもこの体は触らせちゃダメですよ」
「分かったから!早く!」
青葉は何度も首を縦に振る。優也は満足げな笑みを浮かべると、ようやく、ゆっくりと挿入した。青葉は大きく背を反らし、全身を震わせ、上擦った声を上げる。
青葉を覆うような体勢でゆっくり優也が腰を動かし始めると、もっと欲しがるかのように、両手は青葉の腕に縋りつき、両足は青葉の腰にしがみつく。
「優也ぁ…いい…はぁ…気持ち…んぅっ…良い…」
青葉の口端からは唾液が漏れ、嬌声が薄く響き始める。
早々に痴態を見せる青葉に優也は呆れつつも、愛おしくて仕方ない。青葉の肌を撫で上げると、優也の体は小刻みに震える。
「この前は指だけだったから、物足りなかったですよね。
俺のことが待ち遠しいのに無理に我慢して、こんなに敏感になっちゃって…。」
快楽に溺れる青葉は喘ぐばかりで返答することはない。青葉の唇を優也は優しく撫で、そして口付けを落とした。青葉の体が震えて喜ぶ。青葉は恍惚な表情を浮かべ、抱きつく両手の指にはさらに力が入り、両足の指は何かを求めるかのようにもがいていた。
その時、廊下を歩く足音が響いてきた。足音の軽さから、おそらく青葉の妻。途端、一気に現実に引き戻された青葉は表情を固くし、視線が泳ぎ始める。すかさず優也は優しく抱きしめた。
「大丈夫ですよ。女将さん、この部屋に入ってきたことないでしょ。」
青葉は小さく頷く。
優也は青葉が安心するよう、腰をつきながらも深く口付けをすると、青葉は喉を鳴らし呼応した。
しかし、優也にとって想定外のことが起きた。足音は通り過ぎるかと思っていたが、隣の部屋へと入っていく。そのまま、電話をしているような話し声が薄く響いてくる。
「…青葉さん。…隣の部屋は物置でしたよね?女将さんの部屋にでも変わりました?」
青葉は優也に抱きしめられたまま小さく頷く。優也は一瞬、眉間にしわを寄せる。
「そう、ですか」
隣の部屋が物置ではなくなったことも、思いのほか隣室の音が響くことも優也は知らなかった。一瞬思い悩むが、だからといって途中で止めるつもりは毛頭ない。
ゆっくり優也が腰を動かし続けると、青葉は声が出ないように自分の指を噛み締めながら薄く喘ぎ続ける。優也が首筋や胸を舐め、口付けを落とすたびに青葉の体は敏感に震える。少しずつ青葉は再び高みに向かっていた。
ただ、優也は違った。優也の耳に薄く響く、青葉の妻の声に苛立ちを募らせていた。苛立ちを飲み込むこともできず、捌け口を探す。優也は青葉の耳元で囁いた。
「女将さん、…さっき肉じゃがを作っていましたよ」
突然のことに青葉は驚く。快楽に浸りたいのに、再び現実に引き戻され、困惑する。青葉は頭の芯が冷えていくようだった。
「ゆう…や…何…」
「肉じゃがは、青葉さんの好物でしたよね。女将さんに愛されてますねぇ。」
優也は腰の動きを強く、そして速くする。青葉の体を強烈な快感を襲うが、同時に背徳感も溢れ出した。薄く響いてくる妻の声も青葉の心を痛める。
「っやだ!…もうっ、それ以上!…言わないで…くれっ!」
優也との関係が、妻に対して裏切り行為であることは青葉は十分分かっていた。しかも一回り以上歳下の弟子、しかも男に、夫が抱かれているという事実は妻を残酷に傷つける以外の何物でもないということも分かっていた。しかし、青葉は今まで考えることから逃げ、自分で自分を誤魔化し続けていた。
その現実を嫌でも思い知らされ、心が掻き乱され、青葉の瞳には涙が滲む。
そして、そのことを分かっているのに、優也は言葉を続けることをやめない。
「青葉さんの好きな、ナスの煮浸しも今日あるのかなぁ。
女将さん、青葉さんのために料理の練習したんですよね」
「優也ぁ!…た…のむ!…頼むから!…もう…もう聞きたく…ない!」
青葉はボロボロに泣いていた。下半身から生まれる快感で顔は高揚し、口は半開きだったが、罪悪感で思考はまとまらず、目の焦点はあっていなかった。
優也は青葉の顔を撫で、涙を拭き取り、耳元で優しく囁く。
「ごめんなさい。
俺は今日やっと久しぶりに会えたのに、女将さんは毎日青葉さんと会えるでしょう。
…嫉妬しました。」
優也は腰の動きを止めることなく、青葉の髪や頬を撫で、許しを請うように優也は唇を重ねる。
「もっとたくさんキスするから。許してください、青葉さん」
快感に抗えない青葉は抵抗せず受け入れる。むしろ進んで求めてしまっていた。青葉はもう何も考えたくなかった。
再び少しずつ喘ぎ始めた青葉の瞳を優也は真っ直ぐ捉える。笑顔は消えていた。
「でも、誰よりも青葉さんのことを考えて分かって愛しているのは俺ですから。覚えていてくださいよ?」
ごまかしを許さない優也の瞳に、青葉は喘ぎながらも頷くしかなかった。優也は再び笑顔になる。
「良かった。そのこと、身をもって分かってくださいね」
優也は上半身を起こすと、青葉の両足をさらに広げ、腰を引き寄せる。そのままより深くピストンし始めた。深く抉るように。優也の激しく打ち付ける音、2人の押し殺した荒い息遣いが室内に静かに響く。
脳天まで重く響くような快楽に青葉を再びどんどん追い詰められる。背を反らし、クッションになっている座布団を握りしめながら喘ぎ出す。
そのまま快楽の波に飲み込まれたかったが、隣の部屋には妻がいることを忘れることは出来なかった。羞恥心と背徳心が入り乱れ、自分の指を噛み、声を必死に押し殺す。
優也は、いつものように、そんな青葉を愛おしく思いながらも、加虐心は煽られてしまう。青葉の耳元で意地悪く囁く。
「指を噛んでたら、青葉さんの大好きなキスできませんよ?」
「ゆう…や…」
青葉は顔を紅潮させながらも眉間に皺を寄せる。指を噛むことなく声をおし殺せる自信がなかった。しかし、それでも優也と口付けをしたかった。
そんな、どこまでも快楽を求めてしまう自分に絶望し、青葉の瞳には涙が滲む。
青葉は一度深呼吸をした。指を噛むことをやめ、必死に声を押し殺しながらも口を開き、優也に縋りつく。唇も指も震えている。
「ゆ…うや…キス…したい…」
優也は笑顔を見せた。唇を重ね、青葉の舌を舐めると、青葉の全身は震え、より一層きつく優也に抱きついた。口端から絶え間なく嬌声が漏れ、部屋に響く。
そのまま、隣室からの音が耳に入らなくなるほど、夢中で互いの体を求め、快楽を貪り合う。互いの鼓動や呼吸、五感、何もかも一つになっているのではないかと錯覚するような、甘美な時が流れる。
しかし突然、隣室のドアが開く音が響き、再度現実に引き戻される。青葉は狼狽えた表情を見せるが、優也は変わらず、むしろ意地悪な笑顔を見せた。前立腺に当たるように意識ながら、優也は腰の動きを加速させる。青葉は焦り、声を抑えて懇願する
「ゆう…やぁ…ゆっ…くり…動い…て…」
「っ…バレ…ませんよっ」
優也は荒い息のまま、強引に青葉と唇を重ねると、舌を絡めとる。そのまま青葉を快楽で追い詰めていく。青葉は室外に声が漏れないよう、眉間に皺を寄せ、声を抑えようとするが、あえなく嬌声が絶え間なく漏れ始めた。
やがて廊下を歩く足音がどんどん大きくなり、足音が稽古場の前にさしかかろうとした時。優也は青葉の陰茎の先端を意図的に強く刺激した。
「んっっっーーー!!!」
突然の強い快感に、青葉は体を刎ねあげるかのように優也の腕の中で体を大きく反らした。腰はガクガクと大きく震え、足はつま先まで震える。それでも優也の背中に爪を立て、優也から唇を離すことはなかった。舌を絡ませたまま果てた。
優也は目を細めて笑う。
「いつもに比べて興奮して、そして気持ち良かったでしょ?」
青葉は涙を流しながら、小さく頷いた。
稽古場内のことは気づかれることなく、足音が遠ざかっていく。
優也の腰の動きは止まらず、優也自身の絶頂へと向かっていた。
優也は青葉の手をとると軽く口づけし、微笑みながら青葉に視線を送る。そのまま、掌を重ね、指を絡め、押さえつけた。優也の息は変わらず熱を帯び、荒い。
その中、青葉は優也の指に気づいた。
「…優也…指は…大丈夫か?」
歯を立て、噛んでしまったことを青葉は気にしていた。優也は荒い息を吐きながら笑う。
「飼い犬に…噛まれたって…本気で怒る…飼い主います?」
青葉は戸惑いながらも、優也から目を離すことも、その言葉を否定することもできない。
優也は青葉の頬を撫でる。
「冗談…ですよ。…じゃあ、…舐めてもらおうかな」
優也の親指が再び、青葉の口内に差し込まれた。青葉は丁寧に、労わるように舌を絡める。優也は笑った。
やがて青葉の手を握りしめる力も強くなってくる。優也の荒い息も大きくなる。唐突に青葉の口内から親指を抜くと、優也は青葉を強く抱きしめた。青葉の首に顔を埋める。
「青葉さん、ずっと愛してますから」
優也も青葉の中で絶頂を迎えた。
互いの熱情が収まるまで、余韻を楽しむかのように2人は唇を重ねる。言葉はいらなかった。ただ離れがたかった。
熱情が収まる頃、ようやく優也は顔を上げる。唇が離れ、物足りなさそうな表情を見せる青葉のことを笑いつつも優しく頬を撫でる。
「今度、もっと気持ち良いことをしますから。」
どんなことをされるか分からなかったが、青葉は無意識に期待していた。唾を飲み込み、そして頷いた。
結局、2人の距離も関係も何も変わらない。いつものままだった。
青葉は身支度を整えると、壁を背もたれにぼんやりと外を眺める。雨の降る音、水たまりで遊ぶ子供たちの声が響いてくる。
気配がして見上げると、優也が立っていた。
「もう少し時間あります?」
青葉は小さく頷く。優也は笑顔を見せる。
「少し、ここで寝ていってもですか?最近寝られなくて」
優也は腰を下ろすと、ゆっくりと青葉に抱きついた。
青葉も躊躇いがちに優也の背中に手を回す。
「…青葉さん、頭を撫でてくださいよ。この前の、すごく気持ちよくて、忘れられないんです」
満面の笑顔を見せる優也に青葉は嫌だと言えなかった。青葉の肩に頭を預ける優也の髪を辿々しいながらも優しく撫でる。嬉しいのか、優也の抱きしめる力が強くなった。
優也の規則的な呼吸が聞こえ始め、そのまま眠りに入るかと思った、その時。
「あ!そうだ!」
優也は突然声を上げ、頭を起こす。ギリギリまで顔を近寄せ、青葉の瞳を捉える。変わらず優也は笑顔のままだ。
「青葉さんが何考えているから分からないですけど、俺は青葉さんから離れませんからね」
青葉の返答も聞かず、優也は再び青葉の肩に頭を預けた。
青葉は息が止まるほど驚く。自分の考えが見透かされ、とどめを刺されたようだった。そして、出口が見えないような、陰鬱とした気分になる。
青葉は震える手で再び優也の髪を撫でる。
やがて優也の規則的な寝息と雨音だけが室内に満たされる。青葉は再び優也の弟子入りの日を思い出していた。
…あの日、弟子入りを認めなければ、また違ったのだろうか。
後戻りもできないのに、そんな"たられば"なことが頭に浮かび、そして答えも出ないまま消えていった。
前日まで寒い日が続いていたが、その日は快晴のうえ例年に比べずいぶんと暖かく、散歩にはうってつけの日だった。
青葉が優也のマンション前に到着すると、5歳ぐらいの男の子とその子の両親と思われる家族連れがマンションから出てきた。今から公園にでも行くかのようなラフなスタイルで、男の子の一挙一動にみんなで笑いあっている。見ているだけで青葉の頬も緩む。
マンションエントランスに入ると、慣れた手つきでエントランスの自動ドアを解除し、優也の部屋へと向かった。
主催する落語二人会への出演との交換条件で、青葉が優也と肉体関係を持ってからずいぶん日が経つ。本来なら数日前にも会う予定だったが、優也が熱を出し、中止となっていた。ただ、優也の性格上、延期日程を早々に決めたがるはずなのに、それ以来、全く連絡がなかった。電話しても「また連絡する」の一点張り。
もしかしたら病気が重症で寝込んでいるのではないかと心配になり、青葉は優也のマンションに来ていた。
そして、状況次第だが、青葉は優也に話したいこともあった。今回の予定中止に際し、「少しでも会う機会を減らせて良かった」と安堵しつつも、優也と触れ合えないことで体には空虚感があった。その相反する感情が混在していることに戸惑いつつも、青葉は理性で押さえつけていた。
しかし、交換条件となっている落語二人会は残り数回。落語二人会と同時にこの関係も終わるのだから、その時にこんな矛盾した感情で苦しまないよう、できれば少しでも距離を置きたかった。
マンションの合鍵を渡されていた青葉は、エントランス同様、迷うことなくドアを開錠し、部屋に入る。薄暗い廊下の先、寝室から僅かな光が漏れていた。
「優也…」
寝室のドアを静かに押し開けた青葉は驚いた。上半身裸の優也が寝ているベッドの横に若い女性がいた。ベッドに顔を伏せて寝ている。
驚き、動揺した青葉は手に持っていたスーパーマーケットの袋を落としてしまい、大きな音を立てた。その音は寝室にも響き、反射的に起き上がった優也と青葉は視線が合ってしまう。
「っ!…すまないっ!」
スーパーマーケットの袋を慌てて手に取ると、青葉は急いで玄関に向かった。
青葉は自分が恥ずかしかった。優也に彼女がいないと思い込んでいたこと。事前に連絡せずに訪問しても問題ないと思い込んでいたこと。一人で寝込んでいるのだろうと看病する気になっていたこと。優也と付き合っているわけでもないのに、勝手な思い違いをしている自分が恥ずかしかった。
同時に、優也が若い女優と密会している週刊誌記事が最近また出たことを青葉は今さら思い出していた。その女優と優也が交際しているかどうかは知らなかったが、交友関係が広く、有名人である優也を看病する女性がいることなど、少し考えれば分かることだった。それなのに、そこまで思いが至らなかった自分自身に青葉は落ち込んだ。
そして、ベッドに付き添っていた若い女性と自分を比べ、チリチリと胸の奥が焼かれることにも目を背けたかった。
早くこの空間から逃げ出したかったが、慌てていて指がもたつき、すぐに靴を履くことができない。
その時、ドアを開く大きな音が青葉の背後から響いてきた。
「青葉さん、待って!!!」
上半身裸で下着一枚の優也が寝室から飛び出してきた。青葉を背中から覆うように抱きつく。
「風邪うつすの…嫌だったから…連絡しなかったのに…。
青葉さんが…自発的に…俺の家に来てくれるの…初めてだから、…すごく嬉しい。
…帰らないで…くださいよ」
「いや、邪魔してすまなかった。日を改めるよ。」
恥ずかしさのあまり、青葉は優也の顔を見ることが出来ない。悟られないよう、靴紐を結び直しをしているかのように視線を落とし、出来る限り冷静に話す。
対称的に、青葉の耳元で感じる優也の呼吸は早く、熱く、荒い。優也の声もかすれ気味で、息苦しそうに話し続ける。
「…邪魔?…あぁ、あの女はすぐに…帰らせますから。」
「突然来た私が悪いんだ。帰る。離しなさい。」
少しでも早く逃げ出したくて堪らず、青葉は優也の手を解こうとするが、青葉の服に優也の指はきつく食い込んでいた。
「嫌だ。」
優也は強引に青葉の体を引きずり戻す。しかし、青葉の体は僅かに動く程度で、優也の腕の中に青葉が倒れこんでしまった。突然のことに青葉は驚き、優也を見上げる。
しばらくぶりに見る優也は、いつもの優也とはまるで違っていた。熱に浮かされた顔は赤く、目は潤んで瞼も重そうにし、荒く呼吸を繰り返していた 。衝動的に青葉は優也の首を触り、体温を確認していた。
「病院には行ったのか!?薬はあるのか!?」
青葉は優也のことをつい子供扱いしてしまうが、優也は楽しそうに笑い、頷く。青葉はやや落ち着きを取り戻すが、不安な表情は隠せない。
「早くベッドに戻りなさい」
「青葉さんが…一緒じゃないと…嫌です」
熱で苦しいはずなのに、抱きしめる腕の力はどんどん力強くなる。それは、優也の意志の強さの表れでもあった。ここまで頑なになった優也に青葉がどんな言葉を並べても首を縦に振る可能性は低かったし、確実に首を縦に振らせる言葉も思いつかなかった。青葉はため息をつくと、優也の腕に触れる。
「…分かったから。まず服を着なさい。体調が悪化する。」
「…あぁ、そうですね」
青葉は優也に腕をひかれて立ち上がると、リビングに移動しソファーに座った。優也は青葉の顔を覗き込む。
「ちょっと…待っててください。絶対に…帰らないで…くださいよ?」
「…あぁ。」
青葉は小さく首を縦に振る。
優也が寝室に戻りドアを閉めた途端、男女の言い争うような声がリビングに響いてきた。
…こんなことをさせるつもりはなかったのに。
優也に対しても、見知らぬ女性に対しても、青葉は罪悪感で胸が痛む。そして、思い違いしていた自分に苛立つ。青葉は自然と俯き、ソファーに指を立てていた。重苦しい空気の中、青葉は時間の流れを長く感じる。
ふとリビングテーブルに置いてある雑誌が青葉の視界に入る。優也のインタビュー記事が載っている雑誌で、青葉も既に読んでいた。
ここ数ヶ月で優也のメディアへの露出はさらに増え、知名度とともに人気も高くなっていた。比例するように、真打ち昇進したばかりの頃に比べ、立ち居振る舞いにも堂々とした華やかさや貫禄を併せ持つようになっていた。青葉でさえ、時折、気後れするほどに。
華々しい芸能活動に、青葉は師匠として嬉しかったが、落語二人会以外での落語が疎かになっていることや、女性との交際関係がずっと落ち着かず派手なことも残念だった。そして、人気で引く手数多だろうに、どうしていつまでも自分と肉体関係を持ち続けたがるのか青葉には不思議だった。
そんなことを考えていると、寝室のドアが派手な音を立てて開く。続いて小走りする足音、そして、僅かな間をおいて玄関ドアを乱暴に開閉する音がした。青葉は動くことが出来ない。
やがて青葉に近づいてくる足音が聞こえてきた。
「青葉さん、…俺、…すごく嬉しい」
青葉が顔を上げると、ほぼ同時に優也が抱きついてきた。風邪をひいているせいか、優也の体温を高く感じる。
「たかが風邪なのに、…なかなか治らなくて。でも…たまには…病気になって…みるもんですね」
優也は青葉の首に顔を埋める。優也は大きめのパーカーを着用し、そしてマスクをつけていた。パーカーは洗いたてなのか、柔軟剤の良い匂いが青葉の鼻腔を刺激する。
マスクをつけていたが、優也の上機嫌さは青葉に伝わっていた。やや掠れた声も高調子で、青葉を抱きしめる腕の力は先ほどと変わらず強い。
しかし、そんな優也とは対照的に青葉の表情は沈んでいた。
「突然、押しかけてしまって、すまなかった。…帰った女性は大丈夫なのか?」
おそらく怒って帰ってしまったであろう女性が青葉にとって気掛かりだった。しかし、優也は気にも留めない。
「そんなこと…どうでもいです。…それより、…何を買ってきて…くれたんですか?」
優也は咳き込みながらも、嬉しそうにスーパーマーケットの袋を覗き込んだ。そんな優也を見ながら、青葉はため息をつく。女性をぞんざいに扱う優也は今に始まったことではないが、どうしても説教じみたことを言ってしまう。
「女性をちゃんと大事にしないと。いつか本当に付き合たい女性が現れた時に…」
「今日はそういう話したくないです」
優也は露骨に不機嫌そうな声を上げ、青葉の言葉を遮る。青葉は圧倒され口を噤んでしまう。"余計なお世話"と言われれば、それまでだ。何も話せない。
優也は再び上機嫌になり、スーパーマーケットの袋の中を物色すると、リンゴを取り出す。
「これ、食べたいです。…皮を剥いて…ください」
「…えっ」
「俺、病人だから。…甘えていいですよね?」
優也は目を細める。しかし青葉は視線を逸らす。
「…すまないが、…その、今まで一度もまともに包丁を握ったことがないんだ。」
優也は目を見開き驚いた様子を見せるが、すぐに目を細める。
「じゃあ、…俺が教えますよ」
優也は嬉しそうに青葉の手を引き、キッチンに向かった。しかし青葉は戸惑う。
「もう横になった方がいい。一人でやってみるから。」
「これくらい…大丈夫ですよ」
優也はこともなげにそう言うと、青葉に包丁とリンゴを手渡し、背中から抱くように立つ。青葉は自然と緊張し、唾を飲み込む。
青葉の両手に優也は両手を重ね、耳元に顔を寄せる。
「親指は…ずっと皮と刃を押さえる感じで…刃は斜めにキープして…ゆっくり押すように…」
青葉は優也の言うよう、辿々しくリンゴを剥き始まる。剥かれていくリンゴの皮はだいぶ波を打ち、何度も途切れてしまうが、それでも少しずつ進めていく。
しばらく青葉の手つきを優也は眺めていたが、問題ないと思ったのか、青葉の体を抱きしめ、肩に頭を乗せた。優也の荒い呼吸が青葉の耳に入ってくる。青葉は心配になり優也を見ると、視線がかち合った。優也は笑顔を見せる。
「…料理するの…初めてなんですよね。青葉さんの…初体験をもらえて…嬉しいなあ」
「そんな子供みたいなことを…。大体、リンゴの皮剥きは料理に入らないだろう」
「たしかに、…そうですね」
優也は嬉しそうに笑う。
青葉もつられて笑ってしまう。
初めて包丁を扱う経験も新鮮だが、久しぶりに優也と触れ合う居心地の良さは否定できなかった。しかし、青葉の理性は、この関係は歪なものだと、そしてこれ以上進めば肉体関係だけだと割り切れなくなると、警告を出し続けていた。
青葉は意識的に視線を戻し、リンゴの皮むきを続ける。
「優也は料理を頻繁にするのか?」
「…今はあんまり。…でも、小さい頃、…嫌でも料理していましたから」
「…小さい頃、か。」
ほとんど過去を語ることがない優也に、過去のことを聞いて良いのか青葉は躊躇う。それでも意を決して話そうとしたが、先に口を開いたのは優也だった。
「青葉さんは…今まで一度も料理したこと無いなんて…"食"にあまり興味ないんですか?」
「…そうなのかも、しれないな。」
唐突に優也は青葉の唇を優しく撫で始め、そして耳元で囁いた。
「俺の唇や舌を食べそうなぐらい、…いっつもキスは大好きなのに。」
青葉は慌てて顔を背け、優也の指から逃れる。反論できなかった。無意識に唇を噛む。
優也はクスクスと笑う。
「…青葉さん、…キスしましょうよ」
青葉は首を横に振る。
「今日は看病しにきたんだ」
まるで自分にも言い聞かせるような口ぶり。青葉は視線を落とし、皮剥きを続けようとした。
しかし、優也は青葉の顎を持ち、強引に振り向かせる。
「そうですよねぇ。…キスしたら…風邪うつるかもしれないし。」
優也はマスクをしたまま、青葉と唇を重ねた。唇を甘噛みする感触はマスクの布越しでも青葉に伝わる。
青葉は慌てて顔を背けた。
「やめないか!」
優也は笑いながら引き下がると、再び青葉の肩に頭を乗せる。青葉はため息をつき、まるで何もなかったかのように皮剥きを再開した。
しかし、青葉の顔はうっすらと赤く、指は震えている。そして、マスク越しに甘噛みされた下唇を無意識に噛んでいた。優也は一瞬驚き、咳き込みながらもクスクスと声に出して笑ってしまう。
青葉は優也に視線を送る。
「剥き方が何か間違っているのか?」
気づきそうにもない青葉が愛おしく、優也は声に出さないように笑い続ける。
「…いえ、何も。…続けてくださいよ」
戸惑った表情のまま、青葉はリンゴへと視線を落とす。
優也はより力を込めて青葉を抱きしめ、青葉の下唇を優しく撫で続けた。青葉は拒否することが出来なかった。
「できたぞ」
時間はかかったものの、リンゴの皮剥きが終わり、青葉は嬉しそうに声を上げる。見た目は歪だったが、リンゴの果肉が露わになっていた。
優也は再び青葉の両手に自分の手を重ねると、リンゴを切り分ける。青葉は自分の意思で両手を動かしていなかったが、優也に手を握りしめられている感触や体温が気持ち良く、つい身を委ねてしまっていた。気づかれないよう、横目で優也の横顔を見てしまう。
やがて優也は器用にリンゴを8等分に切り分けた。
「…あとは…こうやって…芯の硬い部分を切り落とせば…終わりです」
優也は青葉の手に重ねたまま、一切れだけ包丁を入れ、芯の部分を切り落とした。
青葉は頷く。
「あとはもう大丈夫だから。もうベッドで寝ていた方がいい。持っていくよ。」
「…嫌だ」
優也は再び青葉を力強く抱きしめる。
「…このまま…一緒にいたいです」
優也の気持ちに青葉は心が締め付けられるが、ずっと荒い息を吐き続ける優也に同意できなかった。
「随分と苦しいんだろう?寝ている間に勝手に帰ったりしないから。」
優也は何も答えない。
青葉は言葉を続ける。
「…もう薬は飲んだのか?」
「…んー、…昨日」
青葉は深いため息をつく。
「人のことは心配するのに、どうして自分の体は大切にしないんだ。…薬はどこにあるんだ」
「…ベッド」
「だったら、なおさらベッドに戻って薬を飲みなさい」
問い質すように青葉はきつく言う。しかし、優也は青葉を強く抱きしめ笑う。
「青葉さんが…俺のこと心配してくれるの、…すごく嬉しい」
青葉はさらに心を締め付けられるが、自分の気持ちに気づかないふりをするしかなかった。
「別に今始まったことではないだろう。昔から弟子の健康には気を遣っているつもりだ。」
優也の腕を青葉は軽く叩くと、手を重ねた。
「…すぐに行くから」
「…ん」
ようやく納得した優也は腕を解く。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと寝室に向かった。
青葉は安堵の表情を見せると、残り7切れの芯を切り落とした。
青葉が寝室に入ると、薄暗く、そして香水の匂いがする。先ほどまでいた女性がつけていたであろう香水の匂いは甘ったるく、まとわりつくようだった。罪悪感が青葉の中で再び込み上げてくる。しかし、もうどうしようもないと、深呼吸して振り払う。
ベッドサイドのテーブルを見ると、缶ビールや栄養ドリンク、お菓子の空き袋などを押しやるようにして、空になった薬の個包装と、飲みかけのペットボトルやマスクがある。青葉は一安心とばかりに一息つくと、ベッドサイドテーブルにリンゴをのせた皿を置き、ベッド脇に腰掛けた。
「起きられるか?」
「…ん」
毛布にくるまっていた優也は、青葉に視線を投げると、ゆっくりと上半身を起こし始める。その動きが辛そうに見えた青葉は、優也を支え、ヘッドボードを背もたれにするよう起き上がらせた。
「他の果物も持ってこよう」
青葉はベッドから降りようとした。しかし、今まで緩慢な動きを見せていたとは思えないほどの力強さで優也は青葉は強引に自分の腕の中に引き寄せる。突然のことに驚き、そして抵抗する暇もなく、青葉は優也の腕の中にいた。青葉の髪に、優也の熱い吐息がかかる。
「優也!」
「…リンゴ、…食べさせてくださいよ」
「子どもみたいなことを言うんじゃない。…離しなさい。」
「嫌だ」
青葉は優也の腕の中から逃れようともがき、優也の体を押しやるが動じる気配はない。むしろ強く抱きしめられ、2人の間に腕を入れてわずかな隙間を作るだけで精一杯だった。
「優也!」
青葉がきつい視線を送っても優也は無言のまま。荒い息を吐きながら、ずっと薄く笑っている。そして、瞳からは揺るぎない意思を感じさせていた。
いつものように、青葉が折れるしかなかった。
「…分かった。」
青葉の了承する言葉を合図に優也の腕は緩む。
青葉はベッドサイドに手を伸ばすとリンゴ一切れを取り、優也の口元に運ぶ。その青葉の手は微かに震えていた。気づいているのか気づいていないのか、優也は嬉しそうに一口食べる。
「…美味しい」
優也が笑顔を見せると、青葉も安心し、つい笑顔になってしまう。やはり嬉しいものだった。
少しずつ食べ進め、リンゴは最後の一口分だけとなる。青葉は優也の口元にリンゴを差し出した。しかし優也は食べようとしない。不思議そうに青葉が優也に視線と送ると、優也は舌舐めずりすると同時に青葉の手を握りしめた。そしてリンゴと共に青葉の指を口に含んだ。
「優也!」
青葉は反射的に手を引こうとするが、優也の力が強く逃れられない。優也は含み笑いをすると、青葉の諌める声をものともせず、青葉の指に舌を絡ませ、ゆっくりと舐める。舐めながらも優也の視線は青葉の目を捉えて離さない。
青葉は優也の口内を傷つけたくないので指を動かすことができなかった。そして、優也の行為に戸惑いながらも、優也の舌遣いに今まで何度も重ねてきた深い口づけを思い出し、体の芯が熱くなりそうだった。青葉は慌てて目を背ける。
優也はイタズラっぽく笑うと、ようやく青葉の手を解放した。青葉は慌てて手を隠すが、顔を背けたまま、優也の顔を見ることが出来ない。
「もういいだろう!?」
青葉はベッドから降りようとするが、優也は青葉を逃すつもりはなかった。再び強く抱きしめ、青葉の耳元に口を寄せる。
「キッチンで気づいたけど…青葉さん、…シャワー浴びてきてますよね?…なんとなく…良い匂いがする」
図星だった。見透かされた青葉は恥ずかしくなり俯く。何か言い訳しようと思うものの、全てが恥の上塗りになりそうで言葉が続かない。優也は含み笑いをする。
「…本当は…青葉さんが期待していたように…セックスしたいけど。
…今日は風邪で体が重くって…ごめんなさい」
「期待しているわけじゃっ!」
青葉は反射的に顔を上げるが、言葉が見つからず、また俯いてしまう。
優也は荒い息を吐きながらも口元が緩む。
「ただ、…困ったことに…青葉さんがいるから…俺、興奮していて。」
優也は青葉の右手を取ると、優也自身の股間に押し付ける。優也の陰茎はすでに硬く、外に出たいと布を押し上げていた。青葉は反射的に手は引こうとするが、優也は押さえつけ逃さない。指を絡ませ、何度か強引に握りしめさせて感触を覚えさせると、もう逃げようとはしなくなった。青葉は俯いたまま、小刻みに震えている。
優也はさらに口元が緩む。
「俺の性欲…処理…してくれませんか?」
優也は青葉と指を絡ませたまま、形や大きさを嫌でも分からせるようにゆっくりと手を上下させた。青葉は抵抗しない。むしろ、俯いたまま、呼吸が荒くさせ、唾を飲みこんでは喉仏を上下させている。
優也は青葉の左手を取る。
「…ほら。青葉さんがやってくれないなら、女の子呼ばなきゃいけなくなる。」
青葉の左手を優也の陰茎に導く。一瞬の躊躇いの後、青葉自らの意思で、右手の動きの隙間を縫うように、辿々しく布ごしに優也の陰茎をなぞり始めた。優也は目を細める。
優也はゆっくりと青葉の右手を自由にした。すると、まるで"待て"を許されたかのように、青葉は辿々しくも躊躇もせず優也の下着を引き下ろし、股間に顔を埋め舌を這わせた。
優也の背筋はゾクゾクと震え、興奮のあまり笑ってしまう。
「俺、病人だから。今日は丁寧に…お願いしますね」
優也は青葉の髪を優しく撫でると、僅かに青葉の頭が上下に動いた。
陰茎の裏筋をやわやわと指で刺激しつつ、陰嚢を口に含み舌の上で転がす。根元から先端に向かって唇と舌で交互に刺激を与え、舐め上げる。先端を口に含み、舌先で刺激を与えると、また根元からゆっくり舐め上げる。青葉の唾液にまみれて優也の陰茎はそそり立ち、いやらしく光っていた。
優也に教え込まれたことを思い出し、青葉はフェラチオをしていたが、同時に体を重ねてきた様々な過去も思い出し、青葉の体は否応なく熱くなり興奮していた。顔を紅潮させ、物欲しげに腰が自然と揺らめく。
そんな青葉の痴態を見て、優也は満足げな笑みを浮かべると、青葉の背中を優しく撫でる。
「…悪い虫がつかないように…体につけていた"印"を…やめて欲しいと言われた時、…悩んだけど。
…問題なかったみたいですね。」
優也は突然、青葉の背中にきつく爪を立てる。青葉の体が一瞬、震える。
「…これからも俺だけのものってこと…忘れないでくださいね。…そろそろ…咥えてください」
優也に言われるがまま、青葉は陰茎を一気に根本まで咥えるとゆっくりピストンし始めた。青葉の口端から荒い息が漏れ出す。しかし、もっとスピードを上げないと優也が満足しないことは理解していた。少しずつピストンのスピードを早くする。
元々、風邪が原因で呼吸は荒かったが、優也の呼吸はさらに熱を帯び、吐息は荒くなっていった。
「…もう…このまま出しますね」
唐突に優也は青葉の後頭部を掴んで押さえると、腰を小刻みに前後させ、そして達した。
青葉の口内では、喉奥を精液が直撃する。息苦しさで青葉の目に涙が浮かぶ。しばらく我慢していたが、息苦しさのあまり歯を立てそうになり、堪らず顔を上げてしまった。涙を流し、咽せながらも吐き戻さないよう必死に飲み込む。
そんな青葉に対し優也は淡々と言い放つ。
「もう少し、でしたね。…ほら、まだ残っている」
優也は青葉の顎をもつと、強引に優也自身の股間に顔を向けさせる。青葉の視界に精液がダラダラと溢れる陰茎が入った。青葉は覚悟を決めるように唾を飲み込むと、再び股間に顔を埋め、精液を舐め上げる。そして、亀頭に唇をつけると、尿道に残った精液を吸い上げた。
優也は顔を綻ばせ、荒い息がまだ収まらない青葉の髪や頬を優しく撫でた。
「…風邪うつっちゃうかも…しれませんけど…キスします?」
優也は不敵な笑顔を見せ、口を半開きにして舌を出す。青葉が一瞬、身構えた。しかし、その誘惑に抗えるわけがない。優也の肩に手を置くと、物欲しげに口をわずかに開き、自ら近く。
しかし、あと少しで唇が重なるという時、優也は人差し指を青葉の唇に押し当て、動きを止めた。突然のことに意味が分からず、青葉は不満げな顔で優也を見てしまう。
優也は口を開く。
「今日、セックスはできないけど、…気持ち良いこと、…少しでも欲しいですよね。
…青葉さん、…服、脱いじゃいましょうか」
優也は自ら青葉と唇を重ねた。途端、青葉の体は喜びに震え、貪欲に優也の唇を甘噛みし、舌を舐め、優也が望むように舌を絡ませる。頭の芯は快感で蕩け、身体中は甘く痺れるかのように青葉は心地良かった。
青葉は優也との深い口付けで悦楽を貪りながらも、シャツのボタンを一つずつ外していく。しかし、手元が見えず、そして慌てているためか、なかなかうまくいかない。快感の中にも焦燥感が青葉を襲い始めるが、唇を離す気にはなれなかった。1秒でも長く優也と繋がっていたかった。
そんな青葉を追い詰めて楽しむかのように、優也は青葉と舌を絡ませつつも、シャツをたくし上げ、青葉の肌の上を縦横無尽に両手が滑っていた。肌を優しく撫で上げ、時には乳首を刺激する。早く服を脱ぐように、と急かすかのように。青葉の体は細かく震え続けている。
青葉がどうにかボタンを全て外し、シャツの襟元を開き、大きくはだけさせた時。優也は待っていたと言わんばかりに手を出した。青葉のシャツを力任せに肩から下へと一気に下げて脱がせると床に投げ捨てる。
「…次、…下も脱ぎましょうか。」
僅かに唇を離して、優也はそう囁くと、青葉の後頭部に片手を回し、さらに深く舌を差し入れ始めた。まるで喉奥まで舐められているかのようで、青葉の快感はさらに増し、下半身の疼きはより強くなる。もう片方の優也の手は、変わらず青葉の肌を滑り、時に指の腹で乳首を転がし、刺激を与え続けていた。
青葉は快楽に全身を侵されながらも、ガチャガチャと乱暴にベルトを外し、床に投げる。チノパンと下着は共に下ろし、足を前後させながら脱ぐと、床に蹴り落とした。
「ゆう…や…」
深い口付けの息を継ぐ合間、青葉は言いつけを守ったことを伝えようと、優也の名を呼ぶ。青葉の両手は優也の胸に縋り付いていた。
優也は呼応し、青葉の腰を抱き寄せた。臀部をわざと音が立つように叩き、乱暴に揉みしだくとその度にビクビクと腰が震える。いつも通り敏感な体に優也は満足げに含み笑いをする。
優也は青葉の顎を持つとゆっくり引き離した。青葉の口は名残惜しそうにだらしなく開き、呼吸は荒く、顔は紅潮している。優也もまた荒い呼吸が止まらない。ゆっくり青葉の頬を撫でる。
「指、…舐めてください」
優也が右手の人差し指を青葉の口内に差し込むと、青葉は従順に舌を絡ませた。間をおくことなく、優也は中指も差し入れる。青葉は、口端から唾液も零しながらも、指の根元まで咥えて丁寧に舐める。
ふと青葉が視線を上げると、優也と一瞬視線が絡む。2人きりの時にしか見せない、冷たくて、全てを見透かしているかのような優也の瞳。青葉の体は震え、そしてなぜか興奮してしまう。優也の胸に縋り付く指の手に力が入る。
指を舐める青葉を優也は眺めながらも、左手は青葉の臀部を時に優しく撫で、時にきつめに叩くことを繰り返していた。やがて臀部の割れ目に沿うように指を上下させる。そのまま少しずつ指を深く押し入れ、青葉の肛門をゆっくりなぞり始める。青葉の腰の小刻みに震えて止まらない。
優也は面白がるように、時々軽く指で叩いては刺激を与えると、もっと欲しがるように青葉は小さく喉を鳴らす。
青葉はこれから行われることを想像し興奮せずにはいられなかった。ただ、何度、体を重ねても、優也に痴態を見られる羞恥心になかなか慣れることも出来ず、捨てきれもしなかった。優也と視線を合わせたくないため、青葉は瞼をきつく閉じる。
優也はそんな青葉を弄ぶように、青葉の口内で指をピストンさせて反応を楽しむ。青葉は、喉奥を指で刺激され涙ぐむが、必死に舌を絡ませ舐め続ける。
「もう、いいですよ…」
やがて青葉の口内から指を引き抜くと、優也は中指だけをゆっくりと肛門に押し入れた。青葉の体が微かに震える。
そのまま、ゆっくりと何度かピストンさせる。
「だいぶ緩いですね…自分でほぐしました?…あぁ、そうじゃなくて、オナニー?」
青葉は一瞬の間を置いて、首を小さく横に振る。優也は軽く笑いながら、すぐに人差し指も差し込む。ゆっくりピストンさせ、時に内部で指を折り不規則に前立腺を刺激し、快感を与える。
青葉の臀部や足は震え続け、息も荒くなる。気持ち良さで腰を落としてしまいそうだった。たまらず青葉は優也の首に抱きつく。優也が望むまま、全てを受け入れられるよう体勢を維持することで、少しでもより多くの快感を得ようとしていた。
すでに青葉の陰茎はそそり立ち、微かに揺らめいていた。
優也は青葉の臀部を引き上げるように広げると、指を追加した。青葉の肛門は抵抗なく飲み込む。そのまま優也は再び指をピストンさせ始めた。
「今、…何本入っているか…分かります?」
青葉は小さく首を縦に振る。優也は意地悪く青葉の耳元で囁く。
「声に…出してください」
「…3本」
声に出すことで自分の淫乱さを自覚せざるを得ない。無意識に青葉は両手を握りしめた。
優也は指のピストンを早める。
「そう。…すごく緩い。…まだ入りそうですよ」
「…んっ…もぅっ…無理…」
青葉は首を何度も横に振るが、優也は咳き込みながら笑う。
「そうですか?」
優也は指3本を深くピストンし始めた。指を大きく回転させたり、スピードに緩急をつけながらピストンをし、指の根元まで押し入れる。ただ、前立腺を意図的に刺激することがなくなった。快感を感じながらも決定打がないため、青葉はもどかしい。
「ゆう…や!…もう…イキたい!」
羞恥心を押し殺し懇願するが、優也は取り合わない。
「…まだ…楽しみましょうよ」
「…そ…んな…」
青葉は捌け口が見つからないまま快感に悶え続けるしかなかった。優也は追い討ちをかける。
「青葉さんの乳首、舐めたいなぁ」
青葉は驚いて優也を見ると、意地悪く笑い、舌を差し出していた。青葉は優也の意図をすぐに把握し、恥ずかしさのあまり反射的に目をそらす。しかし拒否は出来なかった。
青葉は下半身の快感に腰を震わせながらも、優也の肩に手を置くと膝立ちし、優也の舌に合わせるように自分の胸を差し出す。優也の舌まであと僅か数センチ。これからされることを想像し、緊張し興奮していた。そしてそんな自分が恥ずかしく、青葉は目を伏せた。自然と呼吸が早くなる。
優也はそんな青葉に笑ってしまう。
「青葉さんの乳首、…ほんと、…感じやすいですよね」
優也は青葉の肛門を指で犯しつつも、乳輪を舌先でゆっくりなぞり、唇で乳首を甘噛みする。その度に青葉の体は小さく震える。青葉の反応を楽しみつつ、優也はふいに乳首に歯を立てた。青葉の体は驚き、反射的に体を引いてしまう。青葉は慌てて再び胸を差し出すが、強い刺激があるたびに青葉は反射的に体を引いてしまっていた。
優也は軽くため息をつく。
「仕方ないなあ」
優也は空いている手を青葉の背中に回す。そのまま、青葉の乳首に軽く歯を立て、そして、きつく吸い上げた。体を引くことが出来ないため、強い刺激が青葉を襲い、上擦った声が上がる。
「んぅ…ゆう…やぁ…もぅっ…ゆっ…くり…」
青葉は小刻みに震え続ける。上半身と下半身、それぞれの快感に気持ち良さを感じながらも、自分の体勢が崩れないように青葉は必死だった。優也の肩を掴む手に力が入る。
優也は執拗に乳首を吸い上げ、細かく舌先で刺激を与え、舐め上げる。やがて、乳首は唾液にまみれ、勃起した。その間、青葉はずっと小刻みに体を震えさせながらも、声を押し殺し、刺激に耐えていた。優也は指先で何度か刺激を与えたあとに乳首を摘む。
「青葉さん、…俺が何するか…分かりますよね?」
青葉は荒く息を吐きながら、薄く目を開ける。
「…それ…い…や…」
青葉が言葉を言い終わらないうちに、優也はわざと乱暴に乳首を力強く捻り上げた。途端、青葉は大きく体を震えさせる。
「んあぁっっっ!!!」
青葉はとうとう体勢を崩し、優也の首に抱きついた。青葉は荒い息を吐き、腰がビクビクと震える。
優也の右手は変わらず青葉を執拗に犯しつつも、左手で優しく背筋をなぞる。
「…あぁ、…軽くイッちゃいました?青葉さん、…いやらしいなあ」
優也の笑い声が青葉の耳に届く。羞恥心を感じながらも、優也に縋り続ける以外、もう何も思いつかなかった。理性もどんどん薄れていく。優也は反対側の乳首を弄び始める。
「青葉さん、…反対も…同じことをしてあげますよ。気持ち良いこと…好きでしょ?」
優也の言葉に反応し、青葉は唾を飲み込む。もっと刺激と快楽が欲しくて堪らなかった。ゆっくり体勢を戻すと、優也に反対の胸を差し出す。
しかし、すぐに優也は触れようとしない。優也は笑顔で青葉の手を取ると、既に勃起している青葉の乳首を触らせた。
「こっちは自分で弄ってください…もちろん甘やかしちゃダメですよ」
青葉は一瞬躊躇するが、震える指で自分の乳首を指の腹で転がし、指先で強く摘む。気持ち良さで声が漏れそうになるが俯いて耐える。
優也はそんな青葉の姿にクスクスと笑うと、もう一方の乳首をゆっくりと指先で嬲る。刺激を与えるたびに青葉は小さく喉を鳴らし、反応する。やがて頃合いを見計らい、乳首を口に含む。先ほどと同じように優也が刺激を与えると、青葉の体は再び小刻みに震え続けた。
青葉の指も止まることなく、むしろもっと快感が欲し、無意識に優也の舌先の動きと少しでも似た動きを指先で再現するようになっていた。下半身の刺激も止まらず、青葉の体は快感でどんどん満ちていく。
やがて、優也から優しく、そして乱暴に愛撫された青葉の乳首がそそり立つ。唾液で光る乳首を優也はそっと触れると指で摘む。
「青葉さん、…さっき、…嫌って言っていたけど、…本当は好きでしょ?」
優也は摘む指の力を強弱させながら刺激を与える。青葉は優也が何を考えているか分かった。覚悟を決めるように深呼吸する。
「…好き…だ」
「ですよねぇ」
優也は先ほどとは比べものにならないほど力を込めて捻りあげた。
「っっっ!やあああっっっ!!!」
青葉は体を大きく震わせると再び体勢を崩す。優也の首に抱きつき、口を大きく開いて呼吸を繰り返す。優也はクスクスと笑いながら、押しつぶすように何度も捻りあげた。そのたびに青葉は反射的に上半身を引こうとするが、優也が乳首を強く摘んでいるので逃げられないうえに、乳首を引かれるという新たな刺激が追加されてしまう。
「ゆ…うやっ!だ…めだ…もぅ…やめっ…」
「えー、好きなんでしょ?」
「っ!…好き…だ…が…もぅっ!ダメ…だっ!」
青葉は嫌がる言葉を口にするが、逃げる素振りも反抗する素振りはなかった。優也に抱きつき、大きく開けた口の端からは唾液が漏れ、むしろもっと欲しいと縋っているように見えた。実際、青葉は痛みの先にある快感が気持ち良く、顔を紅潮させていた。優也は咳き込みながらも笑いが止まらない。
「…青葉さん、…ちゃんと言わないと。…ダメっていうのは、…気持ち良すぎるんでしょ?」
「…あっ…んっ…気持ち…良い…」
「だったら、自分の気持ちに…嘘ついちゃダメですよ。
"気持ち良い"は…"ダメ"じゃなくて…"欲しい"んでしょ?」
優也は爪を立てて何度も青葉の乳首を捻りあげる。与え続けられる刺激で、青葉の体はより敏感になり、そして快楽を受け入れることに素直になっていった。青葉は、声を押し殺すことをやめ、甘く上擦った声を上げ始める。
「…っんぅ…もっと…んぁ…欲し…い…」
「そう。…やっと…良い声、…出し始めましたね」
優也は反対の乳首も潰すようにきつく捻りあげ始める。そして青葉の肛門を犯し続けている優也の指の動きはより激しくなっていく。青葉は全身を震わせ快楽に酔いしれていた。
ただ、快楽が蓄積されていく青葉の「吐き出したい」と思いも強くなるばかりだった。無意識に青葉の手は下半身に向かっていた。あと少しで陰茎に触れられそうになった時。
「青葉さん、…手」
優也が見落とすわけがなかった。青葉の手が止まり、自分が何をしようとしていたか自覚する。
「もうっ!んっ…たの…むっ…から!」
「勝手に触っちゃダメですよ。…俺、風邪で辛いのに。…油断も隙もない。
…んー、…ペナルティ、…どうしようかな」
優也は青葉の願いを受け入れるつもりは毛頭なかった。ため息をつき、しばし考えると、青葉の両手を取り、青葉自身の臀部に移動させた。
「青葉さん、…俺が指を入れやすいように…広げてください」
「…っ!」
入れやすさもあったが、青葉の両手を封じることもでき、一石二鳥だった。
「…ほら」
優也は青葉の両手に自分の手を重ねると、力任せに臀部を引き上げるように広げる。青葉自身は直視することは出来ないが、肛門に空気が触れ、嫌でも曝け出していることは分かった。羞恥心が青葉の中に溢れるが、優也の言葉がそう簡単に翻らないことは身を以て知っていた。震える指で力をこめる。
優也は薄く笑うと、再び指をまとめて入れるとピストンし始めた。深く大きく早く抉るように。青葉の肛門は容易く優也の指を根元まで飲み込み、さし抜く時はまるで名残惜しいかのように内壁は優也の指にまとわりつく。
もう一方の優也の手は、先ほどと変わらず、青葉の乳首を弄び、優しく爪で刺激したり、力まかせに捻り上げている。青葉の上擦った声は止まらず、足もガクガクと震え続けていた。
「やぁ…ゆう…っや…もう…あぁ…ゆるし…」
青葉は涙を浮かべ何度も懇願する。優也は軽くため息をつく。
「もう…いいかな」
優也が指を引き抜くと、肛門括約筋は機能を麻痺していた。完全に閉じることはなく、だらしなく口を開けている。青葉の肛門をゆっくり指でなぞって、そのことを確認すると優也は笑う。
「このままだとオムツが必要になっちゃいますね」
優也はそう言い終わらないうちに、再び指を差し入れた。しかも今度は左手の指も追加されていた。肛門は皺がなくなるほど広がりながらも優也の指を飲み込む。
「青葉さん、今、…何本入っているか…分かります?」
「っ…やぁっ…だっ!」
青葉は首を横に振る。優也は意地悪く笑うと、さらに広がるように指を入れたまま左右に開き、指を軽く曲げる。
「それじゃあ、…分かりやすく、…もう1本、…増やしましょうか」
「…っ!い…っやぁ…だ!…4本っ!…入って…いるっ!」
青葉は必死に声を上げる。
優也は指を思いつくまま不規則に動かしながら、含み笑いをする。
「残念。…5本ですよ。…言った通り、まだ入ったでしょ。…あぁでも、…まだまだ広がって入りそう」
「ゆう…やっ!」
青葉は余裕がなかった。優也の言いつけを破り、臀部から両手を離すと、優也の後頭部に両手を回す。そして、口付けをした。"おねだり"だった。
「…これっ…以上…はっ…壊れ…るっ…頼む…か…ら…」
青葉は必死に優也の唇を甘噛みし、舌を舐め、解放を請い続けた。
優也は一瞬驚く。"おねだり"のルールは存在していたが、優也に誘導されない限り、青葉が今まで自ら求めることはなかった。その日初めて青葉自ら行動したことに優也はつい頬が緩む。
「…いいですよ。…俺も風邪でしんどいし。」
優也は内部で指を不規則に動かしつつも、ようやく前立腺を直接、強く刺激する。撫でたり、叩いたり、押したり。途端、青葉は体を反らし、腰はガタガタと震え出す。今まで溜まっていたものが一気に押し寄せてきていた。
「あああっ!!!もうっっっ!!!」
青葉は慌ててベッドサイドテーブルに手を伸ばす。テーブルに置かれていた様々なものに青葉の手は派手にぶつかり、床に落ちる。その中には青葉が皮を剥いたリンゴもあった。しかし余裕がない青葉は気づくこともなく、目的のティッシュペーパーを何枚もまとめて急いで引き抜くと、自分の股間に押し当てる。途端、青葉の体は小刻みに震え、達した。
優也が指を引き抜くと同時に、青葉は荒い息のまま腰を落とし、優也の胸へと倒れこむ。優也は咳き込みながらも笑う。
「…本当はもっと…いじめてあげたかったなぁ。
青葉さんも…まだまだ物足りない…でしょうけど、…次のお楽しみ、ですね。
…代わり、じゃないですけど、…もう一回、キスします?」
青葉はまだ荒い息のまま、ゆっくり上半身を起こす。もっと欲しいと言うように、口を開き、舌を差し出した。
深く長い口付けを楽しみ、青葉の熱情が落ち着いた頃を見計らい、優也は青葉を仰向けに押し倒す。
「…今日、まだ時間ありますよね?」
青葉は伏し目がちに頷く。優也は笑顔を見せると、青葉の胸に寄り添うように横になった。そのまま布団を手繰り寄せ、瞼を閉じる。
今まで寝る時は優也に抱きしめられることばかりだった青葉は、いつもと違うことに戸惑う。見渡すと枕が視界に入り、慌てて手元に引き寄せた。
「優也…寝る前に、頭を上げて欲しい」
「…どうしてです?」
青葉は優也の頭を持ち上げ、枕を押し入れようとする。
「…顔に骨があたって痛いだろう?」
「なんだ、そんなことですか」
優也は枕を取り上げると床に投げ捨てる。
「青葉さんのこと好きだから、…関係ないですよ。
…それに…今日は寒くて…青葉さんの体温が…すごく温かい…」
優也は言い終わらないうちに再び瞼を閉じた。大した間も無く、規則正しい寝息を立て始めた。
反対に青葉は寝ることは出来なかった。まだ昼間ということもあるが、優也の首にそっと触れると、まだ体温は高い。改めてサイドテーブルを見ても、やはり菓子の空袋や栄養ドリンク、缶ビールの空き缶が散乱していることから、まともな食事をとっているとも思えなかった。
…私の身の回りに関しては小言が多いのに。
青葉はため息をつくと、泥のように眠る優也をベッドに残して起きる。ベッドサイドのテーブルに置かれた薬を手に取ると、まだ数日分は残っていた。青葉は安堵の表情を見せる。
青葉は自分の服を拾い集めながら、部屋中に散乱するゴミも簡単に拾い始めた。その中には青葉が皮を剥いたリンゴもある。寂しげに拾うと他のゴミとまとめる。
集めたゴミを見る限り、やはり食生活が偏っていることは青葉にでもすぐに分かった。一度買い物に出かけたかったが、優也の好みがよく分からない。青葉はベッド脇に座り、優也を一度起こすかどうか悩む。
そんな中、サイドテーブルを何気に見ると、まだ残っていたリンゴが目に入った。青葉は思わず手に取る。久しぶりに食べるリンゴは思っている以上に美味しくて青葉の顔が綻ぶ。
そんな時、優也がモゾモゾと体を動かし始めた。青葉は優也にそっと触れる。
「ちょうど良かった。何か栄養のある食べ物を買ってくる。好みとか苦手なものはあるか?」
優也は布団の中から顔を出し青葉を見上げる。質問に答えないまま青葉の手首を掴んだ。
「勝手に帰らないって…言ったじゃないですか」
低く落ち着いているが、強い意志を感じる声。優也は眉間に皺を寄せながら起き上がると、青葉を強引にベッドに引きずりこむ。慌てて青葉は優也の腕を押さえる。
「買い物に行くだけだ。また戻ってくる」
「何も要りません、…どこにも行かないでください」
優也は青葉の手を振り払い、背後から抱きしめる。
「…んー、…でも、喉は乾きました」
青葉はため息をつくとサイドテーブルに置いてあった、飲みかけのペットボトルを手に取り、優也に渡す。優也は一気に飲み干すと床に投げ捨て、青葉の首に顔を埋めた。そのまま優也は動こうとはしない。優也の荒い息遣いだけが室内に静かに流れる。
優也は思い悩むが、このタイミングで切り出した。
「こんな時に悪いが…頼みがあるんだ……こうやって会う回数を減らして欲しい」
優也の体が僅かに震え、抱きしめる力が強くなる。
「嫌です。無理です。ダメです。」
完全拒否、それは想像していたことだった。青葉は意を決して、言葉を続ける。
「ここのところずっと落語の調子がおかしいんだ。
何度高座に上がっても、ボタンを掛け違えているような違和感がとれないし、日増しに膨らむ。
しばらく落語に集中して、次の二人会までにどうにか間に合わせたい。…頼む」
嘘ではない。事実であった。手を抜いているつもりはなかったが、気の緩みからか、精彩を欠いていた。以前、優也を叱り飛ばした手前、不甲斐ない姿を見せることはしたくなった。
青葉を抱きしめる優也の腕の力が強くなる。
「青葉さん、ずるい。」
優也は"落語なんて"と言いたかったが、青葉が落語を大切にし、真摯に取り組んでいることをよく知っていた。だから落語をぞんざいに扱うことは青葉をぞんざいに扱うことと同意義であることは嫌というほど分かっていた。そう簡単には拒否できない。
「…次の二人会まで、だったら。」
「…ありがとう」
青葉は安堵の表情を浮かべる。が、突然、優也は青葉を仰向けにベッドに押し付けた。
「…もしかして、…今日はその話をしに来たんですか?俺の心配しているんじゃなくて」
眉間に深い皺を寄せ、明らかに不安そうな表情を優也は浮かべていた。
青葉は慌てる。
「違う!」
青葉は言葉を続けようとしたが、優也は再び青葉の胸に抱きつき、布団に包まる。
「もういいです」
優也の顔が見えるよう、布団を少し捲ると、まるで拗ねた子供のように、何も聞きたくないと言わんばかりに丸くなっていた。青葉は心苦しく、何か声をかけようと思うが、全てが空々しくなりそうで言葉が出ない。
青葉は戸惑いながらも、辿々しく優也の髪を撫でると、優也の表情が少し和らぐ。
「…ん、…それ、いい。…俺が寝ても…ずっと…続けて…」
やがて優也は眠りに落ちる。優也をベッドに残して買い物に出かけることも出来たが、優也の傷ついた顔が忘れられなかった。
結局、優也が寝付いたあとも、青葉は起き上がることも出来ず、優也の髪に触れ続けていた。
青葉が優也を看病してから約二週間ほど経った。
その日は例年になく激しい雨の日だった。傘を差していたとしても、この雨の中を歩けば、ずぶ濡れになりそうな勢いだった。雲は低く、しばらくは雨が上がる様子もない。雨音は強く、いつまでも自己主張し続ける。
雨で見通しが悪い中、青葉は車を走らせ帰途に着いていた。フロントガラスを強く打ち付ける雨で数メートル先も視界が悪い。そんな雨を見ながら、青葉は優也のことを思い出していた。
10年以上前、雨の中、ずぶ濡れで弟子入りにやってきた優也の若さに一度は断ったが、何も恐れないような、意思の強い目に青葉は気圧された。
今も、あの目は変わらない。いつだって真っ直ぐに見つめてくる。
そして、はっきりと答えを出さないまま、青葉は流され続けていた。
…私は卑怯だな。
優也との関係に思いを巡らせ、青葉は深くため息つく。
家に帰り着き玄関を開けると、台所から夕食を準備する音と美味しそうな匂いが漂ってきた。青葉の頬がつい緩む。
そこに弟子の吉伍が不思議そうな顔をして近寄ってきた。「さっき…」と吉伍が話し始めると、その内容に青葉は驚き、焦る。しかし、そのことを吉伍に気づかれるわけにはいかなかった。平静を装い、稽古場の人払いを言いつけると、足早に真っ直ぐ稽古場へ向かった。
稽古場のドアを開けると、湿気を帯びた空気と雨音だけが外から流れ込む部屋に一人、優也がいた。優也は青葉に微笑みかける。
「おかえりなさい」
青葉は動揺を隠せないまま、稽古場のドアを閉める。
「…どう…して?稽古をつける予定は入れていない。…帰りなさい。」
「"どうして?"その言葉、そのまま青葉さんに返しますよ」
優也は笑顔のままゆっくり立ち上がる。
「会う機会を減らすことには同意しましたけど、"一切会わない"つもりはありませんよ?
どうして全ての予定を白紙にするんですか?」
優也の顔には笑顔が張り付き、声は落ち着いているが、それとは裏腹に立ち振る舞いに威圧感があった。歩み寄る優也に怖気付き、青葉は後ずさりしてしまう。
「…落語に…集中したかったんだ」
青葉は取り繕う。しかし、優也の表情はなんら変わりなく、歩みを止めることはない。後ずさる青葉はやがて壁際に追い詰められていた。
「4時間…いや、3時間でいいです。ホテルに行きましょう。それで我慢します」
優也は青葉の手首を掴み、引く。が、青葉は反発した。優也の手を振りほどくと、首を横に振る。
…このまま優也に流されたら何も変わらない。
青葉は拳を握り、唾を飲み込む。意を決して優也をきつく見る。
「…本来、"約束"は二人会に関わりがある日だけだったはずだ!
それなのに、いつも打ち合わせなどと言って、結局、何も二人会のことは話さないじゃないか。
…今日もそうなんだろう?ホテルに行く義務はないはずだ!」
優也は笑顔を解き、深いため息をつく。しかし、再び笑顔を作ると壁に手をつき、青葉の瞳を覗き込むように顔を寄せる。
「気づいていると思うんですけど、今の俺、だいぶ怒っているんですよね。
全ての予定をキャンセルされるし、我慢して妥協してホテルで良いって言うのに拒否されるし。」
優也は笑顔のまま淡々と話すが、目は全く笑っていない。そして少しずつ優也の顔から笑顔が消えていく。
「確かに最初はそう言いました。
でも、最初から分かっていると思いますけど、俺が二人会に出ているのは青葉さん目当てなんですよ。」
優也の言葉遣いはあくまでも丁寧だったが、激しい憤りを含んでいた。終いにはとうとう苛立たしく声を荒げる。
「今まで適当に理由つけていましたけど。
…そんなに理由が欲しいなら、自分で勝手に考えて、自分で勝手に納得してくださいよ!!!」
青葉の顔に触れそうなほどの近さで優也は壁を力任せに激しく叩く。いつもの明るい表情とは全く違う、怒りに満ちた優也に青葉は驚き、動けずもせず、言葉も出ない。
優也は全身を使って青葉を壁に押し付けると、両手で青葉の顔を持ち上げた。
「とにかく今日は俺の相手してください」
親指を強引に青葉の口内に差し込み口を閉じられないようにすると、優也は自らの舌を差し込む。
「…んぅっ!…ゆうっ…や!」
青葉は顔を背けようと抵抗するが、優也の力は強く、逃げることが出来ない。優也の体を押し退けようにもやはり動じる気配もない。優也の指や舌に歯を立てて傷つける勇気は青葉になく、侵入を許してしまっていた。
しかし、優也が強引に何度も舌を絡ませようとしても、青葉は拒否し、口内で逃げ続けた。青葉は優也との関係性を変えたかった。それに、抵抗を続けれは優也が諦めたことがあったので、可能性はあると信じていた。
が、その日の優也は違った。どんなに青葉が逃げても執拗に追いかけ続けた。口内に差し込んでいる親指の関節を曲げて、さらに青葉の口を無理やり開かせると、舌をさらに深く押入れ、青葉の舌や歯を何度も舐め回しては搦め捕ろうとする。青葉は焦りを感じていた。
…このままだといつものように快楽に流されてしまう
舌を舐められる感触、優也の唾液が流れ込む感触、口内を蹂躙される感触、全てが青葉の快感に直結し響き続けていた。頭の奥が痺れる。
青葉はとうとう堪らず、罪悪感を感じつつも、優也の親指に歯を立てる。これで優也が引き下がると信じて。しかしそれは叶わなかった。
優也は歯を立てられたことを物ともせずに、むしろ親指をさらに深く押し入れた。爪と歯が擦れ合う鈍い音が青葉の口内で響いたかと思うと、親指は奥歯まで到達し、青葉はさらに口を開ける形になっていた。
青葉は驚き、目を見開くと、すぐ目の前の優也と視線が絡む。優也の瞳は青葉を捉えて決して離さない強い眼差しだった。
自分が何者なのか、自分が誰のものなのか、冷徹に教え込む絶対的な支配者のような鋭い瞳。
そんな優也に青葉は鳥肌がたつほど震え、そして青葉の体は昂ぶっていた。優也に魅入られたかのように、青葉は目を逸らすことが出来ない。
抵抗する気力がなくなり、青葉は壁を背にしたまま、ずるずるとへたり込んだ。優也は青葉を一旦解放し、舌舐めずりしながら、へたり込む青葉を見下ろす。
「今日はここでやるしかないですね」
いつもの、明るく人懐っこい優也の声が青葉の頭上から響くと同時にジャケットを脱ぐような布が擦れる音も聞こえる。
青葉は小さく何度も首を横に振ると、這うようにして逃げる。結局は無駄な行為だと分かっていても、それでも青葉に残された理性が突き動かす。
案の定、優也は青葉の身体を捉えると、仰向けにして馬乗りになる。青葉は声をふり絞る。
「もういい加減、私の体なんて飽きただろう!?」
責任転嫁なんて卑怯だとは分かっていたが、青葉は思いつくままにぶつけた。
一瞬、優也の眉間に皺が寄る。
「…まだ、そんなこと言うんですね。」
「…っ!…事実を言っているだけだ!
女性の方が抱き心地がいいだろうし、この前だって、また女優の子と雑誌に…」
優也はわざと大きな音を立てながら床に手をつき、青葉に顔を近づける。優也の顔には笑顔が張り付いていたが、瞳には怒りが灯っていた。
「こんなに何度も"おあずけ"食らって飽きるわけないでしょう。
あの女だって、いつものように、青葉さんの代わりということは分かっているくせに。」
青葉はつい視線を逸らしてしまう。優也は青葉の両手を無理やり引き寄せると、自分の指と絡ませながら床に押し付けた。
「そんなに俺に飽きて欲しいんだったら、毎日、俺のところに来て抱かせてくださいよ。
…まぁそれでも飽きない自信ありますけど。」
優也は意地悪く笑うと、優也自身の股間を青葉の股間に押し付け腰を動かし始める。すでに優也の陰茎は固くなり始めていた。
「俺、もうスイッチ入っちゃったんですよね」
互いにボトムスを穿いていたが、布ごしでも感触は分かる。青葉は顔を赤くし、逃げようともがくが、両手と腰を押さえつけられ逃げようがない。
「…っ!離して…くれっ!」
優也は聞く耳を持たない。青葉の反応を面白がるように、左右に腰を振りながら擦り合わせたり、早く入れたいと言わんばかりに、腰をピストンさせながら擦り合わせる。擦れ合うたびに青葉の全身は快感で小刻みに震え、熱い吐息が漏れ始めた。
優也は薄く笑い、青葉の耳元で囁く。
「やっぱり青葉さんのこと飽きないなぁ。
だって抱けば抱くほど、どんどんエロくなるし、底が見えない。
もっともっといやらしい青葉さんが見たくなるし、俺好みにしたくなりますよ?」
青葉は顔を背ける。何も反論できない。実際、今も優也の陰茎の感触を味わうたびに、今まで体を重ねてきた数々のことを思い出し、興奮していた。
…早く優也が欲しい。繋がりたい。
理性が働く前に、そう本能的に思ってしまうほどだった。体は優也を求めていると嫌でも自覚させられ、青葉の目には涙が滲む。それでも理性を動かし、無駄な足掻きを続ける。
「…来週っ!…にしてくれ!…頼む…から!」
「えー、俺は今、青葉さんが欲しいなあ。…それに青葉さんももう無理でしょ?」
優也はボトムスの上から青葉の陰茎を掴む。刺激され続けた結果、青葉の陰茎も硬くなり、外に出たいと主張していた。わざと乱暴に上下に擦ると、直接的な刺激に青葉の全身が震える。
「…いっ!やだっ!…あぁ!…やめっ…てくれ!」
青葉はたまらず優也の手を解こうとするが、優也の手は力強く、解くことができない。優也の手から逃れることが出来なかった。
優也の手が動くたびに強い快感が青葉を蝕み、嬌声を上げそうになる。青葉は必死に唇を噛んで耐えるが、それだけでもう精一杯だった。青葉の中で快感がどんどん膨れ上がり、もう思考回路が上手く回らなくなっていた。
優也は含み笑いをすると、青葉の陰茎から手を離す。そして、再び優也自身の股間を青葉の股間に押し当て上下に動き始めた。青葉はもう抵抗しなかった。顔を紅潮させ、目を潤ませ、口は薄く開いて熱い吐息を漏らし続ける。
「…青葉さん、…もう少し、ですね」
青葉が堕ちるまで、あともう少し。優也は青葉の頬をそっと撫でると、両手を添えゆっくりと口付けをした。今度は優しく丁寧に。食むように唇を啄ばみ、舌先で唇をなぞる。
優也から与えられる刺激は、先ほどとはまた違う、甘美さがあった。気持ち良さのあまり、青葉の全身が震える。無意識に両手は優也の両腕に縋り付き、もっと欲しいと本能が叫ぶ。もう青葉には優也を受け入れる道しか見えなかった。
…"今日"を早く終わらせるしかない。
そう自分で自分に言い訳しながら、青葉は口を開き、舌を差し出した。同時に青葉の上擦った声も室内に薄く響く。
ようやく従順になった青葉を見て、優也の頬が自然と緩んだ。優しく囁く。
「今日は青葉さんの大好きなキスをたくさんしますから。それで、いいでしょ?」
優也は青葉の髪を優しく撫でると、舌を差し入れ、ゆっくりとねっとりと絡ませて青葉の舌を味わう。青葉も進んで舌を絡ませる。青葉の両手は自然と優也の背中に回り、縋り付いていた。そして、優也の腰の動きに合わせるように、青葉も腰を振り、快楽をより欲し始めた。
この瞬間が優也は好きだった。青葉が身も心も全てを差し出してくるような瞬間。独り占めできる興奮で体が熱くなる。もっとずっと欲しくなる。飽きるわけがない。
「…青葉さん、あっちに行きましょう」
優也は青葉の手を引き、座布団が積まれている窓際に向かう。座布団の山の適当に崩すと、その上で2人は抱き合うように再び口付けをする。舌を舐め合い、舌を絡ませ合う。
優也は優しく口付けをしながらも、シャツをたくし上げ、青葉の肌の上で両手を滑らせていた。背筋を指先でなぞり、脇腹や腹部、胸部を手のひら全体で優しく撫で上げる。再び青葉の中に快感が蓄積されていく。青葉の口端からは甘い吐息が漏れる。
優也の手はゆっくりと青葉の下半身へと降りてくる。ベルトとホックを優也が外し始めると、青葉は躊躇うことなく優也の首に両手を回し、優也から唇を離さないまま進んで膝立ちした。優也は優しく青葉の臀部や大腿部を一度撫でると、ボトムスと下着をまとめて引き下ろす。解放された青葉の陰茎はそそり立ち、揺らめいていた。優也がそっと先端に触れると、青葉は上擦った声を上げる。優也は自然と笑みがこぼれる。
「青葉さん、服脱いで待っててください」
優也がカバンからコンドームを手に戻ってくると、青葉は全裸で仰向けになり、早く一つになりたいと言っているかのように、自ら両膝を抱えていた。
その姿が浅ましく卑猥で、優也は興奮するとともに、加虐心に火がついてしまう。
「青葉さん、淫乱ですね。こんないやらしい体、他の人が見たらなんて言うか」
青葉の体が僅かに揺れるが、体勢を崩さない。羞恥心に慣れることは出来なかったが、それでも青葉の中では快楽が優っていた。青葉は室外の気配を伺いながら声を出す。
「…優也、…早く」
優也は腰を下ろし、青葉の腰を引き寄せると、自身の大腿部にのせるように抱える。青葉の腰はせがむように僅かに揺れ続けていた。
しかし、優也は青葉の臀部や大腿部をくすぐる様に撫で、肝心なところには一切触れない。ただ、撫で心地を楽しみ続ける。
青葉は堪らず声を上げる。
「優也…頼むから…早く入れて…欲しい」
「…んー、まだ慣らしてないしなー。」
「…もうっ…入れても…大丈夫だから…早く…」
焦燥感に駆り立てられている青葉は懇願し続ける。
優也は薄く笑うと、自らコンドームをつけ、待ち望むように蠢く肛門に先をあてる。青葉も優也に合わせるかのように大きく息を吐き、唾を飲み込み、力を抜く。しかし、優也は自らの陰茎を入れることなく、ゆっくりとピストンし始めた。
すぐに終わるだろうと青葉は信じていたが、終わる兆しは見えない。入り口だけを刺激され、入るようで入らないもどかしさで気が狂いそうになる。
「…優也…どうして…」
「これも気持ち良いでしょ?」
「…頼むから…早く…」
青葉は優也に哀願するが、優也ははぐらかし、焦らし続ける。声が外に漏れないよう青葉は小声で話していたが、余裕がなくなり、声量は段々と大きくなっていった。
「なんでも…するからっ!早くっ!欲しい!」
目を潤ませ、そそり立つ陰茎と腰を揺らしながら男を誘う様は、卑猥さを際立たせていた。
優也は含み笑いながら、青葉の臀部を左右に押し広げる。
「青葉さん、本当、淫乱。俺だけの秘密にしなきゃいけないですね。
誰にもこの体は触らせちゃダメですよ」
「分かったから!早く!」
青葉は何度も首を縦に振る。優也は満足げな笑みを浮かべると、ようやく、ゆっくりと挿入した。青葉は大きく背を反らし、全身を震わせ、上擦った声を上げる。
青葉を覆うような体勢でゆっくり優也が腰を動かし始めると、もっと欲しがるかのように、両手は青葉の腕に縋りつき、両足は青葉の腰にしがみつく。
「優也ぁ…いい…はぁ…気持ち…んぅっ…良い…」
青葉の口端からは唾液が漏れ、嬌声が薄く響き始める。
早々に痴態を見せる青葉に優也は呆れつつも、愛おしくて仕方ない。青葉の肌を撫で上げると、優也の体は小刻みに震える。
「この前は指だけだったから、物足りなかったですよね。
俺のことが待ち遠しいのに無理に我慢して、こんなに敏感になっちゃって…。」
快楽に溺れる青葉は喘ぐばかりで返答することはない。青葉の唇を優也は優しく撫で、そして口付けを落とした。青葉の体が震えて喜ぶ。青葉は恍惚な表情を浮かべ、抱きつく両手の指にはさらに力が入り、両足の指は何かを求めるかのようにもがいていた。
その時、廊下を歩く足音が響いてきた。足音の軽さから、おそらく青葉の妻。途端、一気に現実に引き戻された青葉は表情を固くし、視線が泳ぎ始める。すかさず優也は優しく抱きしめた。
「大丈夫ですよ。女将さん、この部屋に入ってきたことないでしょ。」
青葉は小さく頷く。
優也は青葉が安心するよう、腰をつきながらも深く口付けをすると、青葉は喉を鳴らし呼応した。
しかし、優也にとって想定外のことが起きた。足音は通り過ぎるかと思っていたが、隣の部屋へと入っていく。そのまま、電話をしているような話し声が薄く響いてくる。
「…青葉さん。…隣の部屋は物置でしたよね?女将さんの部屋にでも変わりました?」
青葉は優也に抱きしめられたまま小さく頷く。優也は一瞬、眉間にしわを寄せる。
「そう、ですか」
隣の部屋が物置ではなくなったことも、思いのほか隣室の音が響くことも優也は知らなかった。一瞬思い悩むが、だからといって途中で止めるつもりは毛頭ない。
ゆっくり優也が腰を動かし続けると、青葉は声が出ないように自分の指を噛み締めながら薄く喘ぎ続ける。優也が首筋や胸を舐め、口付けを落とすたびに青葉の体は敏感に震える。少しずつ青葉は再び高みに向かっていた。
ただ、優也は違った。優也の耳に薄く響く、青葉の妻の声に苛立ちを募らせていた。苛立ちを飲み込むこともできず、捌け口を探す。優也は青葉の耳元で囁いた。
「女将さん、…さっき肉じゃがを作っていましたよ」
突然のことに青葉は驚く。快楽に浸りたいのに、再び現実に引き戻され、困惑する。青葉は頭の芯が冷えていくようだった。
「ゆう…や…何…」
「肉じゃがは、青葉さんの好物でしたよね。女将さんに愛されてますねぇ。」
優也は腰の動きを強く、そして速くする。青葉の体を強烈な快感を襲うが、同時に背徳感も溢れ出した。薄く響いてくる妻の声も青葉の心を痛める。
「っやだ!…もうっ、それ以上!…言わないで…くれっ!」
優也との関係が、妻に対して裏切り行為であることは青葉は十分分かっていた。しかも一回り以上歳下の弟子、しかも男に、夫が抱かれているという事実は妻を残酷に傷つける以外の何物でもないということも分かっていた。しかし、青葉は今まで考えることから逃げ、自分で自分を誤魔化し続けていた。
その現実を嫌でも思い知らされ、心が掻き乱され、青葉の瞳には涙が滲む。
そして、そのことを分かっているのに、優也は言葉を続けることをやめない。
「青葉さんの好きな、ナスの煮浸しも今日あるのかなぁ。
女将さん、青葉さんのために料理の練習したんですよね」
「優也ぁ!…た…のむ!…頼むから!…もう…もう聞きたく…ない!」
青葉はボロボロに泣いていた。下半身から生まれる快感で顔は高揚し、口は半開きだったが、罪悪感で思考はまとまらず、目の焦点はあっていなかった。
優也は青葉の顔を撫で、涙を拭き取り、耳元で優しく囁く。
「ごめんなさい。
俺は今日やっと久しぶりに会えたのに、女将さんは毎日青葉さんと会えるでしょう。
…嫉妬しました。」
優也は腰の動きを止めることなく、青葉の髪や頬を撫で、許しを請うように優也は唇を重ねる。
「もっとたくさんキスするから。許してください、青葉さん」
快感に抗えない青葉は抵抗せず受け入れる。むしろ進んで求めてしまっていた。青葉はもう何も考えたくなかった。
再び少しずつ喘ぎ始めた青葉の瞳を優也は真っ直ぐ捉える。笑顔は消えていた。
「でも、誰よりも青葉さんのことを考えて分かって愛しているのは俺ですから。覚えていてくださいよ?」
ごまかしを許さない優也の瞳に、青葉は喘ぎながらも頷くしかなかった。優也は再び笑顔になる。
「良かった。そのこと、身をもって分かってくださいね」
優也は上半身を起こすと、青葉の両足をさらに広げ、腰を引き寄せる。そのままより深くピストンし始めた。深く抉るように。優也の激しく打ち付ける音、2人の押し殺した荒い息遣いが室内に静かに響く。
脳天まで重く響くような快楽に青葉を再びどんどん追い詰められる。背を反らし、クッションになっている座布団を握りしめながら喘ぎ出す。
そのまま快楽の波に飲み込まれたかったが、隣の部屋には妻がいることを忘れることは出来なかった。羞恥心と背徳心が入り乱れ、自分の指を噛み、声を必死に押し殺す。
優也は、いつものように、そんな青葉を愛おしく思いながらも、加虐心は煽られてしまう。青葉の耳元で意地悪く囁く。
「指を噛んでたら、青葉さんの大好きなキスできませんよ?」
「ゆう…や…」
青葉は顔を紅潮させながらも眉間に皺を寄せる。指を噛むことなく声をおし殺せる自信がなかった。しかし、それでも優也と口付けをしたかった。
そんな、どこまでも快楽を求めてしまう自分に絶望し、青葉の瞳には涙が滲む。
青葉は一度深呼吸をした。指を噛むことをやめ、必死に声を押し殺しながらも口を開き、優也に縋りつく。唇も指も震えている。
「ゆ…うや…キス…したい…」
優也は笑顔を見せた。唇を重ね、青葉の舌を舐めると、青葉の全身は震え、より一層きつく優也に抱きついた。口端から絶え間なく嬌声が漏れ、部屋に響く。
そのまま、隣室からの音が耳に入らなくなるほど、夢中で互いの体を求め、快楽を貪り合う。互いの鼓動や呼吸、五感、何もかも一つになっているのではないかと錯覚するような、甘美な時が流れる。
しかし突然、隣室のドアが開く音が響き、再度現実に引き戻される。青葉は狼狽えた表情を見せるが、優也は変わらず、むしろ意地悪な笑顔を見せた。前立腺に当たるように意識ながら、優也は腰の動きを加速させる。青葉は焦り、声を抑えて懇願する
「ゆう…やぁ…ゆっ…くり…動い…て…」
「っ…バレ…ませんよっ」
優也は荒い息のまま、強引に青葉と唇を重ねると、舌を絡めとる。そのまま青葉を快楽で追い詰めていく。青葉は室外に声が漏れないよう、眉間に皺を寄せ、声を抑えようとするが、あえなく嬌声が絶え間なく漏れ始めた。
やがて廊下を歩く足音がどんどん大きくなり、足音が稽古場の前にさしかかろうとした時。優也は青葉の陰茎の先端を意図的に強く刺激した。
「んっっっーーー!!!」
突然の強い快感に、青葉は体を刎ねあげるかのように優也の腕の中で体を大きく反らした。腰はガクガクと大きく震え、足はつま先まで震える。それでも優也の背中に爪を立て、優也から唇を離すことはなかった。舌を絡ませたまま果てた。
優也は目を細めて笑う。
「いつもに比べて興奮して、そして気持ち良かったでしょ?」
青葉は涙を流しながら、小さく頷いた。
稽古場内のことは気づかれることなく、足音が遠ざかっていく。
優也の腰の動きは止まらず、優也自身の絶頂へと向かっていた。
優也は青葉の手をとると軽く口づけし、微笑みながら青葉に視線を送る。そのまま、掌を重ね、指を絡め、押さえつけた。優也の息は変わらず熱を帯び、荒い。
その中、青葉は優也の指に気づいた。
「…優也…指は…大丈夫か?」
歯を立て、噛んでしまったことを青葉は気にしていた。優也は荒い息を吐きながら笑う。
「飼い犬に…噛まれたって…本気で怒る…飼い主います?」
青葉は戸惑いながらも、優也から目を離すことも、その言葉を否定することもできない。
優也は青葉の頬を撫でる。
「冗談…ですよ。…じゃあ、…舐めてもらおうかな」
優也の親指が再び、青葉の口内に差し込まれた。青葉は丁寧に、労わるように舌を絡める。優也は笑った。
やがて青葉の手を握りしめる力も強くなってくる。優也の荒い息も大きくなる。唐突に青葉の口内から親指を抜くと、優也は青葉を強く抱きしめた。青葉の首に顔を埋める。
「青葉さん、ずっと愛してますから」
優也も青葉の中で絶頂を迎えた。
互いの熱情が収まるまで、余韻を楽しむかのように2人は唇を重ねる。言葉はいらなかった。ただ離れがたかった。
熱情が収まる頃、ようやく優也は顔を上げる。唇が離れ、物足りなさそうな表情を見せる青葉のことを笑いつつも優しく頬を撫でる。
「今度、もっと気持ち良いことをしますから。」
どんなことをされるか分からなかったが、青葉は無意識に期待していた。唾を飲み込み、そして頷いた。
結局、2人の距離も関係も何も変わらない。いつものままだった。
青葉は身支度を整えると、壁を背もたれにぼんやりと外を眺める。雨の降る音、水たまりで遊ぶ子供たちの声が響いてくる。
気配がして見上げると、優也が立っていた。
「もう少し時間あります?」
青葉は小さく頷く。優也は笑顔を見せる。
「少し、ここで寝ていってもですか?最近寝られなくて」
優也は腰を下ろすと、ゆっくりと青葉に抱きついた。
青葉も躊躇いがちに優也の背中に手を回す。
「…青葉さん、頭を撫でてくださいよ。この前の、すごく気持ちよくて、忘れられないんです」
満面の笑顔を見せる優也に青葉は嫌だと言えなかった。青葉の肩に頭を預ける優也の髪を辿々しいながらも優しく撫でる。嬉しいのか、優也の抱きしめる力が強くなった。
優也の規則的な呼吸が聞こえ始め、そのまま眠りに入るかと思った、その時。
「あ!そうだ!」
優也は突然声を上げ、頭を起こす。ギリギリまで顔を近寄せ、青葉の瞳を捉える。変わらず優也は笑顔のままだ。
「青葉さんが何考えているから分からないですけど、俺は青葉さんから離れませんからね」
青葉の返答も聞かず、優也は再び青葉の肩に頭を預けた。
青葉は息が止まるほど驚く。自分の考えが見透かされ、とどめを刺されたようだった。そして、出口が見えないような、陰鬱とした気分になる。
青葉は震える手で再び優也の髪を撫でる。
やがて優也の規則的な寝息と雨音だけが室内に満たされる。青葉は再び優也の弟子入りの日を思い出していた。
…あの日、弟子入りを認めなければ、また違ったのだろうか。
後戻りもできないのに、そんな"たられば"なことが頭に浮かび、そして答えも出ないまま消えていった。
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