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第七話
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村を離れてから数日が経うとしていたが、グレイ達は未だに広大な森の中を歩き続けていた。
これといった目的地は定まっておらず、人里を離れるように森の中を彷徨っている。
遭遇した魔物は全て殺し、食料にしたり武器の試作をしたりしていた。
もちろん中には強力な魔物もいたが修行の一環として戦うようにしていた。
その際、怪我人がでたことから治癒魔法の必要性を見出し、各々使えるように練習しているが今のところ使えるのはグレイのみである。
魔法に関してはプライドの高いアリスがリスのように頬を膨らまし、嫉妬の形相でこちらを見ていたが昼飯の肉を一つやると機嫌が直ったようだった。
だが何故自分に治癒魔法が使えるようになったかはよく分かっていない。単に治癒魔法との相性が良かっただけなのかもしれないし、光魔法が使えるからかもしれない。
後者の可能性は低いと考えられる。というのも、治癒魔法は数は少ないが割と普及している魔法なのだ。これが光魔法による恩恵ならば治癒魔法は伝説化されていてもおかしくない魔法なのだが、現実そうではないのでこの可能性は排除されるものとして考えてもいいだろう。
となると、残された前者が当てはまるのかもしれないが断定はできない。
自分で言うのもなんだが、正直自分でも自分のことが分からないのだ。
自分の出生、見聞きしたどの種族にも当てはまらない外見、そしていつの間にか黒く染まっていた翼。
後ろを振り向くとルーク、サタン、アリスの3人が何やら揉めているが、レイスもいるので特に気にせずもっと手前を見る。
そこには漆黒の翼があった。
皆が言うには村を出た時には既にこうなっていたらしい。
原因は不明だが、恐らく家族の死による精神の乱れから来たものではないかと推測される。
しかし、この現象は両方の翼ではなく、片方だけで起こっているのだ。
なぜ片方だけなのかも今の段階では推測の域を脱することが出来ない。
自分のことなのに何も分からないもどかしさと、今後の方針が明確に定まらない焦りから来るモヤモヤしたものを吐き出すように、ため息をついた。
「どうしたの?グレイ」
ノアがグレイの方を見上げる形で心配そうに問う。
「ああ、いや、気にしないでくれ。ちょっと考え事してたんだ」
「何考えてたか分かんないけど、あまり一人で抱え込まないでね!ノアもいるんだから!」
その言葉を聞いてグレイは一つの方針が頭に思い浮かんだ。
「……ありがとう、悪いな心配かけて。もう大丈夫だ」
「へへっ」
そう言い、ノアの頭を撫でてやるとくすぐったそうにするが抵抗なく受け入れている。とても同い年には見えない。このメンバーの中ではノアは間違いなく癒しキャラだろう。あの怪力とのギャップにかなり驚かされるが…。
「これからどうする?」
ノアのさらさらした長い金髪の感触を楽しんでいると、アイギスから声がかかった。
「そうですね、人族から距離をとったことですし、そろそろある程度の方針を定めましょう……ね?」
未だに揉めている3人にレイスが暗にやめるように伝えると渋々大人しくなったが、交わす目線には火花が散り続けている。
なぜ揉めているのかと問うと、どうやら今日の昼飯のおかずを賭けてじゃんけんをしていたらしいが、そこでサタンの不正疑惑が浮上したことがきっかけでどんどん話が広がり、最後にはじゃんけんとは全く関係ないことで言い争っていたらしい。
あまりにもくだらなかったので、さすがのノアも呆れていた。
結局、賭け自体を破棄させ、昼飯を増やすことで事態は収拾した。
「さて、今後の方針だがとりあえず拠点を作ろうと思う」
皆の反応を伺いながら話す。
「俺もそれでいいと思う」
「私もそれでいいと思います」
「賛成ー」
「俺もー」
「ノアもー」
「僕もそれでいいが、どこに作るつもりだ?」
「ジャグラインの森の…出来れば水場の近くにするつもりだ」
一同が同時に目を見開く。
「ジャグラインの森ですって!?」
「おいおい、それはちょっと無謀なんじゃないのか?」
「いくらなんでも危険すぎると思いますが…」
皆が驚くのも無理はない。ジャグラインの森は邪神の影響が色濃く残った地であるため、通常の魔物をはるかに凌駕する力を持っているのだ。それは通常のⅮランク下位の魔物がジャグラインの森ではCランク上位の魔物に匹敵するほどだ。そのため、ジャグラインの森に入る者は大陸の中でも限られてくる。その限られた者たちでも帰ってこないなんてことは普通にある。
それがどれだけ危険かを理解しながらもなおグレイは提案し続ける。
「俺たちは強くならなければならない。そうだろ?」
皆が頷くのを見て続ける。
「ならば俺たちは死ぬ気で努力しないと、俺たちよりも強かった大人たちを殺した人族への復讐なんて永遠に夢物語で終わってしまう。いいや、努力するだけではダメだ、限界を…課せられたリミッターをぶち壊すんだ!そのための覚悟は既に終えているはずだ!俺たちは仲間だ、きっとどんなことがあっても俺たちなら乗り越えられると信じている。俺は皆の意思を尊重する。よく考えてくれ」
「くくくっ、おもしれぇ!俺はいくぜ!殺して殺してもっともっと強くなってやらぁ!」
「そうだな…俺は既に覚悟は出来ているんだ。俺も行くぞ」
「ふふ、確かにその通りですね。分かりました、私も行きます」
「ノアも行くよ!」
「私たちは仲間…乗り越え……大丈夫……。……決めたわ!私も行く!!」
「これで行かないなんて言えるわけないだろう。僕も行くよ」
思ったよりも早く決まったことに若干驚いたが、嬉しくもあり思わず笑みが顔に浮かんだ。
決意をした皆の顔が頼もしく、本当にどんな困難でも乗り越えられると感じられる。
「……よし!!それじゃあ日が暮れる前にジャグラインの森に向かうぞ!それからの方針はそこで決めよう」
「おう!!」
そしてグレイ達は再び歩き出した
これといった目的地は定まっておらず、人里を離れるように森の中を彷徨っている。
遭遇した魔物は全て殺し、食料にしたり武器の試作をしたりしていた。
もちろん中には強力な魔物もいたが修行の一環として戦うようにしていた。
その際、怪我人がでたことから治癒魔法の必要性を見出し、各々使えるように練習しているが今のところ使えるのはグレイのみである。
魔法に関してはプライドの高いアリスがリスのように頬を膨らまし、嫉妬の形相でこちらを見ていたが昼飯の肉を一つやると機嫌が直ったようだった。
だが何故自分に治癒魔法が使えるようになったかはよく分かっていない。単に治癒魔法との相性が良かっただけなのかもしれないし、光魔法が使えるからかもしれない。
後者の可能性は低いと考えられる。というのも、治癒魔法は数は少ないが割と普及している魔法なのだ。これが光魔法による恩恵ならば治癒魔法は伝説化されていてもおかしくない魔法なのだが、現実そうではないのでこの可能性は排除されるものとして考えてもいいだろう。
となると、残された前者が当てはまるのかもしれないが断定はできない。
自分で言うのもなんだが、正直自分でも自分のことが分からないのだ。
自分の出生、見聞きしたどの種族にも当てはまらない外見、そしていつの間にか黒く染まっていた翼。
後ろを振り向くとルーク、サタン、アリスの3人が何やら揉めているが、レイスもいるので特に気にせずもっと手前を見る。
そこには漆黒の翼があった。
皆が言うには村を出た時には既にこうなっていたらしい。
原因は不明だが、恐らく家族の死による精神の乱れから来たものではないかと推測される。
しかし、この現象は両方の翼ではなく、片方だけで起こっているのだ。
なぜ片方だけなのかも今の段階では推測の域を脱することが出来ない。
自分のことなのに何も分からないもどかしさと、今後の方針が明確に定まらない焦りから来るモヤモヤしたものを吐き出すように、ため息をついた。
「どうしたの?グレイ」
ノアがグレイの方を見上げる形で心配そうに問う。
「ああ、いや、気にしないでくれ。ちょっと考え事してたんだ」
「何考えてたか分かんないけど、あまり一人で抱え込まないでね!ノアもいるんだから!」
その言葉を聞いてグレイは一つの方針が頭に思い浮かんだ。
「……ありがとう、悪いな心配かけて。もう大丈夫だ」
「へへっ」
そう言い、ノアの頭を撫でてやるとくすぐったそうにするが抵抗なく受け入れている。とても同い年には見えない。このメンバーの中ではノアは間違いなく癒しキャラだろう。あの怪力とのギャップにかなり驚かされるが…。
「これからどうする?」
ノアのさらさらした長い金髪の感触を楽しんでいると、アイギスから声がかかった。
「そうですね、人族から距離をとったことですし、そろそろある程度の方針を定めましょう……ね?」
未だに揉めている3人にレイスが暗にやめるように伝えると渋々大人しくなったが、交わす目線には火花が散り続けている。
なぜ揉めているのかと問うと、どうやら今日の昼飯のおかずを賭けてじゃんけんをしていたらしいが、そこでサタンの不正疑惑が浮上したことがきっかけでどんどん話が広がり、最後にはじゃんけんとは全く関係ないことで言い争っていたらしい。
あまりにもくだらなかったので、さすがのノアも呆れていた。
結局、賭け自体を破棄させ、昼飯を増やすことで事態は収拾した。
「さて、今後の方針だがとりあえず拠点を作ろうと思う」
皆の反応を伺いながら話す。
「俺もそれでいいと思う」
「私もそれでいいと思います」
「賛成ー」
「俺もー」
「ノアもー」
「僕もそれでいいが、どこに作るつもりだ?」
「ジャグラインの森の…出来れば水場の近くにするつもりだ」
一同が同時に目を見開く。
「ジャグラインの森ですって!?」
「おいおい、それはちょっと無謀なんじゃないのか?」
「いくらなんでも危険すぎると思いますが…」
皆が驚くのも無理はない。ジャグラインの森は邪神の影響が色濃く残った地であるため、通常の魔物をはるかに凌駕する力を持っているのだ。それは通常のⅮランク下位の魔物がジャグラインの森ではCランク上位の魔物に匹敵するほどだ。そのため、ジャグラインの森に入る者は大陸の中でも限られてくる。その限られた者たちでも帰ってこないなんてことは普通にある。
それがどれだけ危険かを理解しながらもなおグレイは提案し続ける。
「俺たちは強くならなければならない。そうだろ?」
皆が頷くのを見て続ける。
「ならば俺たちは死ぬ気で努力しないと、俺たちよりも強かった大人たちを殺した人族への復讐なんて永遠に夢物語で終わってしまう。いいや、努力するだけではダメだ、限界を…課せられたリミッターをぶち壊すんだ!そのための覚悟は既に終えているはずだ!俺たちは仲間だ、きっとどんなことがあっても俺たちなら乗り越えられると信じている。俺は皆の意思を尊重する。よく考えてくれ」
「くくくっ、おもしれぇ!俺はいくぜ!殺して殺してもっともっと強くなってやらぁ!」
「そうだな…俺は既に覚悟は出来ているんだ。俺も行くぞ」
「ふふ、確かにその通りですね。分かりました、私も行きます」
「ノアも行くよ!」
「私たちは仲間…乗り越え……大丈夫……。……決めたわ!私も行く!!」
「これで行かないなんて言えるわけないだろう。僕も行くよ」
思ったよりも早く決まったことに若干驚いたが、嬉しくもあり思わず笑みが顔に浮かんだ。
決意をした皆の顔が頼もしく、本当にどんな困難でも乗り越えられると感じられる。
「……よし!!それじゃあ日が暮れる前にジャグラインの森に向かうぞ!それからの方針はそこで決めよう」
「おう!!」
そしてグレイ達は再び歩き出した
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