もうこれ以上、許さない

よつば猫

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予断を許さない5

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 だけど数日後。
催促するかのように、大量の新じゃがを渡される。

 いっぱいもらったから1人じゃ食べきれない、といった理由で。
あたし的にもすっごく助かるおすそ分けだったけど……

「ありがとう。
でも肉じゃがはあげないから」

「ええっケチ~。
あ、コロッケでもいいよ?」

 やっぱり賄賂かい!

「じゃあいらない。
他の人にあげなよ」

「わ~ごめんっ、冗談だって!」



 結局、ありがたくもらったものの……
その夜。


『久しぶり。
元気してた?お姉ちゃん』
妹の珠和みわから電話がかかる。

「まぁぼちぼちかな…
珠和は元気?」

『うん、順調。
それよりぼちぼちって…
相変わらず、菊川さんの事引きずってるの?』

 ああああ~!なんてタイムリーな名前をっ。
まさに今その渦中にいるなんて言えない……

「引きずってないよっ。
うん、もう大丈夫。大丈夫」

『それ言い聞かせてるだけじゃん。
いいかげん忘れなよ、お姉ちゃんは悪くないんだから』

 そう、珠和は……
あの時ただ一人、そう言ってくれた味方だった。

 中学の頃は……
親の愛も期待も注目も、独り占めしてた珠和が羨ましくて。
つい八つ当たりして、あんまり仲良くなかったけど。

 実は正義感の強い珠和も、親の態度を不満に思ってたらしく。
こんな最低な姉なのに、味方してくれたり。
親に文句を言ってくれたりして、いつしか何でも相談し合う仲になっていた。

 というのも、珠和は珠和で親の期待に応えようと無理をしていたからで。
いい子を演じるのが疲れた珠和は、その反動から今は東京で演劇の勉強をしていた。

『まぁ散々悪者にされてあんな辛い思いしたら、なかなか忘れられないとは思うけどさぁ』

「それより珠和、なんか用事があったんじゃないの?」
と話をそらす。

『あぁ用事っていうか……
お姉ちゃん、今年のGWも帰らなかったんだって?
お盆とお正月は親戚が煩いから帰りたくないのも分かるけど、GWくらいは顔見せてあげなよ。
私みたいに、せめて年に1回は帰らないと、さすがに心配してるよ?』

「してないよ。
あたしの心配なんか……」
今までも、これからも。

『そんな事ないって!
今日用事があってお母さんに電話したらね?
ちゃんと食べてるか心配って、お姉ちゃんにも新じゃが一箱送ったらしいよ?』

「っ、はいっ!?」
このタイミングでなぜじゃがいもをー!

「いや困るっ。
新じゃがもらったばっかだもんっ」

『そうなんだっ?
でもせっかく送ってくれたんだし……
日持ちするからなんとかなるって』



 ならないよ……
いくら日持ちするからって、こんなにじゃがいもばっか食べれない。

 次の日。
届いたじゃがいもと風人からもらったじゃがいもを前に、途方に暮れる。

 とりあえずお母さんにお礼のメールを送ると。
ごめん、みんなにおすそ分けします!
心の中で謝罪して。
寮の仲間に配ったあと、お世話になってるマスターのもとに向かった。


 ところが。
「ごめん!気持ちはすっごく嬉しんだけど……
野菜は親父が、店に出せない傷ものとかを大量にくれるからさぁ」

「そっか!そうだよねぇ……」

「誉にあげたら?
あいつ、普通に料理するし」

「そーなんだっ?」

 確かに、部屋に行った時そういう痕跡は目にする。

「ありがとっ、連絡してみる」

 さっそくLINEで訊いてみると……
すぐに電話がかかってきた。

『ありがとっ。
俺じゃがいも好きだから、すっごく嬉しんだけど……』

 え、またこのパターン?

『料理しないからさ。
それでなんか作ってくれない?』

「えっ、マスターから料理するって聞いたけど」

 すると、しばし無言が返される。

「……誉?」

『あぁごめん。
前はしてたけど、今は忙しくて。
作るどころか、食うのもまともに出来てない感じ?』

「そーなのっ?
ダメじゃん!ちゃんと食べなきゃ」

『じゃあ月奈が作ってよ。
材料費もちゃんと払うから』

「ムリだよっ。
あたしのは人に食べさせられるレベルじゃないもんっ」

『いいよ、月奈が作ってくれるなら何でも嬉しいし』

 だからセフレにそんな甘い事言わないでよっ。
って、そうだ!

「でもセフレの域を超えてるしっ」

『……そうだよな。
俺なんか所詮、諌に言われて声かける程度の存在だもんな』

「っ、いやそういう、わけじゃ……」
ヤバい、状況見透かされてるっ。

『だから栄養取れてなくても、それで体調崩しても、月奈には全然関係ないよな』

「っ~~わかった!作るよっ」
そんなふうに言われたら作るしかない。

「そのかわり、後悔しても知らないからねっ?
あと、材料費とかはいらないから」

 割り切ったやり取りにするためには、受け取った方がいいけど……
むしろお金払わなきゃいけないレベルだし!


 そうして後日。
誉の家でキッチンを借りて、栄養がたくさん取れそうな肉じゃがを作ってると……
やたらと視線を感じまくる。

「もお、やりにくいって!
そんな見ないでよっ」

「ごめんごめん。
なんかこういうのいいなって」

「だったら彼女作りなよ」

 途端、切なげな顔をして黙り込む誉。
そんなに誰とも付き合いたくないの?
まぁあたしもそうだけどさ……


 でも肉じゃがが出来上がると、打って変わってハイテンションになる。

「美味そ!
しかもすごい具沢山だしっ。
ていうか、人に食べさせられない的な事言ってたけど……
もしかして月奈の手料理、俺が初めて?」

「うん、そうだね」

「マジでっ!?
ヤバい、なんか感動なんだけど」

「うん、すぐにそんな気持ちも吹っ飛ぶよ」
その時を思って、逃げ出したくなる。


 だけど予想に反して。

「うまっ!
いやこれ、めちゃくちゃ美味いじゃん」
と感激する誉。

 いやさすがにそこまでは、絶対ない。

「そんな気を使わなくていいよ」

「使ってないって。
ほんとに美味《うま》いし、むしろお嫁さんにもらいたいくらいなんだけど」

「っ、はあっ!?」
胸が思い切り掴まれる。

「この程度でそう思うなら、だれでもお嫁さんになれるよ」

「なれないよ。
だから、月奈もらってい?」

 だめっ、本気にしちゃダメ!
大騒ぎする心臓を、必死に落ち着かせる。

「……もしかして誉、味覚音痴?」

 あたしを見つめてた誉が、心なしかガクッと揺れる。

「いや、それはない」
「あるって、1回調べてもらった方がいいよ」

 そうやって、その話題はなんとか流したものの……

もうほんとに、そういう反応に困る事やめて欲しい。
心臓に悪い事やめて欲しい。
予断を許さないのはこっちの方かと、ため息が出た。

 そして……
もしあたしが「いいよ」って答えてたら、どうしてた?
頭の中には、まだその話題がこびりついてた。


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