溺愛シェーカー

よつば猫

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シンデレラ3

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 だけど京太くんのまっすぐな想いに、嘘つくのは失礼だしつきたくなくて。
あたしはコクリと頷いた。

「……だよな。
いや最初は翔くんの事が好きなのかと思ったんだけど……
なんかだんだん、白濱さんに惹かれてるなって」

 うわ~、図星すぎて恥ずかしすぎるからそれ以上言わないでー。

「そんでいつの間にか、入り込む隙もないくらい仲良くなってて……
だからビンゴ大会の時は落ち込んだなぁ。
2人ともすげぇ息ピッタリで、信頼し合ってて、めちゃくちゃ楽しそうで……
俺なんか全然相手にならないなって」

 それでそのあと元気なかったんだ……

「なのに粋は、俺なんか好きじゃないくせに優しいし。
マグロが好きだった事とかも、ちゃんと覚えてくれてたし。
俺、どうしても諦め切れなくてさっ……」

 あたしたちはどうしてあの頃、こんなふうに歩み寄れなかったんだろう。
いやあたしのせいなんだけどっ……
切なそうな京太くんに、あたしまで遣る瀬なくなる。

「だけど白濱さんが来なくなって、粋はどことなくテンション低いし。
今日はあからさまに元気ないからさ」

 うそ、頑張っていつも通りに振舞ってたつもりなのに……
そんなあからさまだった?
いやでもみんなは気にもしてない感じだったし……
これがさっきから図星を突きまくってる元彼眼力か。

「だから今度は俺が元気づけたくて、バカな発言とかして盛り上げようとしたんだけど……
ごめん、全然力不足で」

 それであんな突拍子もない発言をっ?
危ないヤツ扱いされてまで……

「ううん、みんなにいじられて気が紛れたりしたよ?
ありがとう」

 京太くんこそ、こんなあたしに優しすぎだよ。

「そっか、少しでも気が紛れたんならよかった。
けど、何があったんだ?
原因は白濱さんだろ?」

 うっ、またしても恐ろしいほど図星だし。
そんな優しくされると泣けてくるじゃん。

「いや、まぁ……
もう会えなくなっちゃったから」

「会えなく?
あぁ、この前12月号を持って来た日で最後だったからか。
けどそれなら逆に、何の気兼ねもなく告れるんじゃないか?
もうクライアントじゃなくなったんだし。
ってそれは難しいか……
粋は自分の気持ち、言わないからなぁ」

 うう、その節はすみません……

「それに、もう誰とも付き合う気はないって言ってたよな。
でもあいつから告ってきたらどうするんだ?」

「いやそんな事あるわけないからっ」
てゆうか、あいつになってるし……

「いやあるだろ。
それでも、両思いでも付き合わないのか?」

 なにその思い込み……
だけど、もしそんなミラクルがもう1度起きるなら……
今度こそ悠世くんの側にいたいと思う。

 こんなあたしには、恋愛する資格なんてないと思ってきたけど。
悠世くんと一緒にいられるなら、頑張りたいと思う。
もう傷付けないように、なんだって頑張ろうと思う。

 そう思ったら気持ちが込み上げてきて……
涙ぐんだあたしを、京太くんが優しくポンポンと撫でた。

「それが答えだよな。
俺じゃダメって、事だよな……」

「ごめっ……」

「謝るなよ。
もともとは俺の自業自得なんだし。
粋にはいつだって、笑顔でいてほしいからさ」

 そんな事言われたら逆に泣けてきて……
涙ながらに「ありがとう」って伝えると。

「大丈夫だって、粋なら今度こそ大丈夫だよ」

 そんな京太くんの優しさと、どうにもならない現状に……
しばらく泣き続けてしまった。



 そして12月も下旬に入り。
店内は今日も、忘年会のお客様でくっそ賑わってた。

「すみませーん、そろそろビンゴ大会を始めたいんすけど~」

「ああはいっ、ご用意してますよっ」

 あたしは相変わらず、切ない思いを抱えながらも。
京太くんの気持ちをムダにしないためにも、元気に頑張っていた。

 ちなみにビンゴ大会とゆうのは……
悠世くんが周年祭の小道具を有効活用するために、2本立ての忘年会プランに追加した特典で。
ビンゴセットやトランプ・ワルひげ危機一発など、忘年会盛り上げグッズを無料で貸し出します!といったもの。

 それは予想以上に大好評で……
忘年会を当店うちでする決め手にもなってるようで、嬉しい反面。
ビンゴビンゴって、あの楽しかった悠世くんとのビンゴ大会を思い出させないで~。
と、いっそう切なさを煽られる。

 そんな切なさ誘う悠世くんの痕跡は、いろんな所に溢れてて……
ほらまたこんな場面でも。

「ね、このアボカドサーモン追加しないっ?」
「あ、私ももっと食べたい!
なんかこーゆーヘルシーな飲み会なら毎月したいねっ」

 そう盛り上がってるのは、あたしが提案した「幹事さん高評価プラン」のお客様たち。

 そのプランは飲み放のみとゆうシンプルな内容なんだけど……
料理はサラダをメインにしたヘルシーメニューにしたいとか、好きなものを好きなだけ食べたいとか、みんなのニーズに合わせて高評価をもらっちゃおう!
といった具体案を盛り込んだ内容で、悠世くんが売り込んでネーミングしてくれたから。
「幹事さんお得プラン」とともに人気を博して、こんなふうに喜びの声を耳にする。

 そうやって悠世くんの痕跡だけは残ってるのに、肝心の本人はもういなくて……
それはまるでアルコールの入ってないカクテルみたいに、心がひどく物足りない。
そこでふと、そんな話題が出たノンアルカクテルのシンデレラが浮かぶ。

 今思えば、シンデレラは悠世くんの方かもしれない。
ガラスの靴とゆう痕跡だけ残して、いなくなったくせに。
いつまでも王子あたしの心を掴んで離さない。

 ダメだ、会えなくても忘れられる気がしない。
むしろどんどん募って、会いたくて会いたくて……

「あっ、いらっしゃいませ~」

 他のスタッフの声かけを耳にするたび、ガラス扉に人影を捉えるたび。
来るわけないのに、悠世くんじゃないかって。
期待が膨らんで、瞬時に握り潰される。

 あぁもう辛い、ほんと辛い。
めっちゃ会いたいし、声聞きたいし……
間違えたフリして電話してみようか?
いやわざとらしいし、しつこいって余計重く思われるよね……

 それなら!と。
あたしは毎週日曜、あのフリースペースの2階にある本屋に通う事にした。
そこなら前に偶然会ってるから、また会っても不自然じゃない。


 そうして今年最後の日曜日、さっそくその本屋がある複合施設を訪れると。
いきなりエントランスで、会いたくてたまらなかったその人とばったり出くわす。

 うそ会えた!
胸が破裂しそうなくらい膨らんだ瞬間。
隣にすずちゃんさんの姿を捉えて、激しく握り潰される。

 あぁ、そーゆう事……
いやそーだよねっ。
うわなにやってんだろあたし!
泣きそうになったあたしは、ペコリと会釈だけしてすぐにその場を通り過ぎた。

 休みの日に一緒にいるなんて、もう付き合ってるって事だよね?
重いのが苦手でも、トラウマが軽くなった今ならすずちゃんさんとは向き合えるって事だよね?

 あたしなんか相手にもされないってわかってるし、前から邪魔者だってわかってるけどっ……
だからって辛くないわけがない!
ぶわっと涙が崩れ落ちる。
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