溺愛シェーカー

よつば猫

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マタドール2

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 そんな思いで迎えた、次の打ち合わせ。

「はい出来たよ~。
いつもより余計に盛っております」
と、撮影用の料理を並べる副店。

 前回、既存のコースメニューを忘年会用に練り直したあたしたちは……
店長にゴーサインをもらうと。
さっそくそのサンプルを副店に作ってもらって、カメラマンさんに来てもらってた。

「うわ、めちゃくちゃ美味そう!
盛り付けも細部までこだわってて凄いですっ」

「おっ、さすが白濱ちゃん。
みんな凡人だから褒めてくれないんだけど、やっぱ気付いちゃった?
後で一緒につまもうね~」

「わーい楽しみっ」

「いや誰も粋ちゃんに食べていいとか言ってないから」

「そんな~、副店の料理大好きなのにっ」

「上手いな~、じゃあこの端っこだけね」

「ひどっ」

 そんなやり取りに吹き出して、楽しそうに笑う悠世くん。
その笑顔はこれからも見られるんだろうか……
そう思っただけで、ズキリと胸が痛んで切なくなる。

 それから撮影を終えて、カメラマンさんを見送ると。
あたしと悠世くんは絶品サンプルをつまみながら、残りの打ち合わせに移った。

 そう、最後の企画は時期的に当然忘年会プランで……
悠世くんが用意してくれた資料を参考に、あたしが提案した「幹事さん高評価プラン」と。
悠世くんが提案した「幹事さんお得プラン」の、2本立てでいく事に決まってた。

「まずお得プランの方だけど、このサンプルのコストどうなった?」

「それなんだけど、見事500円下げれたよっ」

「よかった、じゃあ幹事無料の条件人数下げれそう?」

「うんっ、これで集客の幅が広がるねっ」

「んっ、あと追加でさ」

 こんなふうに一緒に打ち合わせするのも最後なワケで……
ヤバい、そう思ったら泣けてくるっ。

「……どした?」

「なんでもないっ、ちょっと目にゴミがっ?
てゆうか心配なんかしないでよっ」
そんな優しい声で心配されたら、もっと切なくなるじゃん!
とは言えなくて。

「そう、心配されるような身分じゃないんだしっ」

「はっ?なんだよそれ……
もしかしてまだ昔の事気にしてんのか?」

「え、そりゃ気にするよっ。
あたしだって、ずっと引きずってたし……」

 その事がなければ、悠世くんへのハードルも少しは下がってたかもしれないのに。
っていやいやいやいや、身の程知らずも甚だしいし!
こんな性格だから、恋愛する資格がないのは変わんないからっ。

 でも、たとえ付き合えなくても相手にされなくても……
もっと一緒にいたい。
ただ会いたい。
なのに。

ー「クライアントさんのお店を利用すれば、一石二鳥かなって」ー
クライアントじゃなくなったら、きっともうご飯を食べに来てくれる事もなくなっちゃう。

「ね、クライアントの契約って、業績次第で延長になったりするのかな?」

「や普通は、このあとの数字見るために一旦終了するけど……」

「だよねっ」
そんな望み通りにはいかないよね。

 うわ~んどーしようっ。
悠世くんと会えなくなるなんて……
そんなの嫌だ!


そして、そんな気持ちはあたしだけじゃなく……
数日後。

「いらっしゃいませ~」
そう声かけた先には……
なんと、すずちゃんさんの姿!

 ええ~、縁切ったんじゃなかったのっ?
と思いきや。
悠世くんをチラリと映すと、声かける事なくカウンターに1人で座った。

 だけど、あたしの視線を辿った悠世くんは……

「すずっ!
なんでまたっ……
何しに来たんだよっ」

「……別に飲みに来ただけだし。
私がどこでどう飲もうと自由でしょ?」

「そーだけどっ……
そんな事してなんになるんだよっ」

「なんにもならないよっ!
無理なんでしょ!?わかってるよ!
でも好きなのっ……
好きで好きで会いたくて……
なのにもう会えなくて、苦しくてっ。
せめて一方的に会うぐらいいーじゃん!
話しかけないし何も望まないからっ、せめて同じ空間くらい居させてよっ」

 途中から涙ながらに訴える姿は、悩ましいほど麗しくて。
痛々しいほど切なくて。
その気持ちに共感して、あたしまで泣きそうになる。

 そして、さすがにそれは悠世くんの心にも突き刺さったようで……
何も言えずに、切なげな表情を浮かべてた。

 それでも以前の悠世くんなら、重いとしか思わなかったかもしれないけど。
トラウマが落ち着いたって言ってた今なら、そんなすずちゃんさんを受け入れられるんじゃ?
そう不安になった矢先。

「わかった。
じゃあ他で会える場所を作るから、ここには来ないでほしい。
ここは仕事先だから」

「ほんとに!?
会ってくれるのっ?」
すずちゃんさんはそう声を弾ませて。
あたしの胸はザックリと切りつけられる。

 うそ、他で会うんだ?
あたしはもう会えなくなるのに、すずちゃんさんは会えるんだっ?
嫌だ会って欲しくない。
他のコと会って欲しくないっ。
あたしが会いたいのにっ……
これからもずっと会いたいのに!

 なのに、あたしはいつも心の中で叫ぶだけで……
どーしてすずちゃんさんみたいに口に出せないのっ!?
代わりに涙が滲み出てきて……
あぁも仕事中なのに!
好きになるほど、涙腺が貧弱になる。

 すずちゃんさんは「悠世ありがとう」って、大人しく帰っていって。
その隙にあたしは、必死に涙を抑え込んだけど。

「……粋?
え、なんで泣くんだよっ」
俯きがちに作業して隠してたのに、あっさり涙目に気付かれる。

「違っ、自分が不甲斐なくてっ……」

「不甲斐ない?
いや粋は悪くないしっ……
つか俺のせいだし、俺が勝手に守りたいだけだからっ」

 守りたい?
涙の理由を勘違いされてる事より、その言葉に反応して思い出す。
ー「松本さんに嫌がらせとかされたくなかったからだろ」ー
だから他で会うのっ?

「だったらここで会ってよ!
あたしなら(嫌がらせとか)全然気にしないからっ」

 そう、他で2人っきりで会われるよりよっぽどマシ!
すると悠世くんは切なげに眉をひそめてぼそりと呟く。

「(俺とすずが目の前で会っても)気にしないって……
少しは気にしろよ」

「え、なんてっ?」

「や、とにかく。
あいつの気持ちはすげぇわかるから、拒めなかった自分のせいだし。
これは俺とすずの問題だから巻き込みたくないし、他で会うよ」

 すずちゃんさんの気持ちはそんなにわかってあげて、拒めないくせに。
俺とすずの問題だからって、あたしの要望はバッサリ拒むんだ?
そうだよね……
あたしなんか邪魔だよね。

 あたしがトラウマのきっかけを作らなかったら……
悠世くんはなんの問題もなく、すずちゃんさんと幸せな恋愛をしてたかもしれないもんねっ。
そう思って再び涙が溢れ出す。

「いや泣くなよっ。
粋は悪くないんだしっ、こっちは大丈夫だから!」

「そーやって甘やかさないでよっ。
どんなにかばってくれたって、昔っからあたしが悪いに決まってんじゃん!」

「なんで昔が出てくんだよっ」

 そこで、今日は翔くんが休みだったからよかったものの。

「ちょっと何事!?
なんで粋泣かしてんのっ?」
今度はマイマイの誤解を招く羽目に。

「違うの!悠世くんはかばってくれただけでっ」

「あぁ、なんか修羅場っぽかったもんね。
まぁ白濱さん、かばってくれたのは有難いけど、あんまこの子を巻き込まないであげてね?」

 どうやらマイマイは、さっきのすずちゃんさんとトラブったと思ったようで……
「すいません」と頭を下げた悠世くんに、「モテる男はツライね~」と声かけて、勘違いしたまま去っていった。

「またしてもごめんっ」

「そう思うなら償えよ。
俺、粋が……
いつもの粋が、すげぇ好きだから。
償って今まで通り、色々気にしないで呑気でいろよ」

 はいい!?今なんとっ……
なんか一言余計な気もするけど、好きって……
すげぇ好きって!
恋愛の好きじゃないとわかっていても、いきなり襲って来た暴れ牛に思いっきり胸を打ち抜かれる。

「……わかった、もう色々気にしない」
悠世くんが望むなら……
辛くても笑うし、もう泣かないように頑張るよ。

「そんで、今まで通り楽しくしてる」
そう、悠世くんとの残り少ない時間だから。
どうせなら楽しく過ごしたいし、悠世くんも楽しくさせたい。
もっともっと笑顔にさせたい。

「でもいつも呑気はひどっ」

「いや可愛いじゃんっ」

 ぐっは!まだ暴れるかっ。
しかもさっそく笑顔付きでっ……
この楽しい時間が終わる前に、胸の寿命が終わりそうだよっ。
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