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ジャックダニエルのトワイスアップ2
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そうして京太くんと別れると。
仕事までまだ少し時間があったあたしは、近くの複合施設にある本屋に寄ることにした。
吹き抜けの広々したエントランスホールから本屋のある2階に向かって、左端にあるエスカレーターを上ってると……
右端にある階段下のフリースペースで、見覚えるのある姿を捉える。
え、悠世くん!?
思わずガシッと、そっち側のベルトにしがみつく。
何してるんだろ?
PCいじってるし、テーブルには資料っぽいのがたくさんあるから仕事かな?
いつも仕事溜まってるとは言ってるけど、日曜なのに頑張るなぁ。
やり手と言われてるだけあって実際忙しんだろうし、陰ではこーゆう努力を重ねてるんだろうなぁ。
そーゆう姿に弱いあたしは当然。
あぁ好きだなぁ……
めっちゃ好き。
そう思ったところで、パッとこっちを向いた悠世くん。
うわあ!
心の声が聞かれた気がして、とっさに顔をグルリと背けた。
ってなにやってんの超不自然じゃん!
これじゃ意識してんのバレバレだし、絶対変に思われてるって。
いやここはニアミスで気付かなかった事にするか、それとも……
と頭を悩ませながら2階のフロアを歩いてると。
突然目の前を遮って、通せんぼみたいに横の壁をドンする手。
ビクッとその人に顔を向けると。
「いつまで拗ねてんだよ」
息を切らす悠世くん!
階段から追っかけて来てくれたんだっ?
うわー、うわー!
と感激しつつも。
てゆうか拗ねてて顔を背けたと思ったんだっ?
そしてあたしは、そーゆう事にしとけばいいのに。
「別に拗ねてないですよー。
白濱さんの仕事の邪魔しちゃ悪いと思って」
今日は調子よくタメ語な悠世くんに、つい当てつけてしまう。
「いや思いっきり拗ねてんじゃん!
つかあの時は、すずがヤキモチ妬かないように敬語にしたってゆーか……
松本さんに嫌がらせとかされたくなかったからだろ?」
え、それって……
あたしを守るためにっ?
うそ嬉しい!
って、この前のアクシデントを見たら誰でもそう思うか……
それより「すず」って呼び捨てと、相変わらず「松本さん」の差!
「つか今日って、元彼とデートじゃなかったっけ?」
え、京太くんとの会話聞こえてたんだ。
「別にデートじゃありませーん。
白濱さんこそ、この前はすずちゃんさんをお持ち帰りでデレまくってたんじゃないっすかー?」
「はっ?どっからそんな発想になるんだよ。
つか……
拗ね過ぎだろっ」
くはっと笑う悠世くん。
しまった調子に乗りすぎた……
てゆうか笑う事っ?
お前ごときがこの俺様に拗ねるとかウケるんだけど!って感じっすか。
でもその笑顔は無邪気で可愛くて、なんだかとっても嬉しそうで……
笑顔が見れればって言ってた、京太くんの気持ちがわかると思った。
あたしも、好きな人が笑ってくれるならピエロでいーや。
「拗ねるもん!
この際、すずちゃんさんがいつ来てもいいように敬語に戻りまーす」
「……拗ねんなよ」
今度は優しい眼差しが向けられる。
「あいつならもう来ないから」
「え、なんでっ?」
「ん、この前一緒に帰った時さ。
いい機会だと思ってはっきり断ったってゆうか、縁切ったから」
「そーなのぉ!?」
「うん、だから機嫌直せよ」
うわ……
それじゃまるで、あたしのために縁切ってくれたみたいじゃん!
いやそんなわけないし、喜ぶのはすずちゃんさんに申し訳ないけど……
どうしよう、嬉しくて胸がぎゅうって痛い。
もう直す直すそっこー機嫌直しまくる!
「あ、本屋行くんだろ?
邪魔してごめん」
「ううんあたしこそ、仕事してたのにごめんねっ?
今から打ち合わせ?」
「いやこんな普段着でしないだろ。
家すぐ裏だからさ。
行き詰まった時とか気分転換にここ利用してるんだ」
「そーなんだ」
てことは、おうちはあの単身賃貸マンションだな~。
って、このストーカー粋ちゃんめ!
なんにしても、今日は会えてよかったと。
そのあと本屋で本も見ずに、悠世くんとの事を思い返して……
仕事中、また会いたくなる。
明日も写真撮影で会えるのに、早く会いたくて待ちきれない。
ヤバい……
もう惚れ戻し薬があっても効かないくらい、気持ちの進行が早いんすけど!
この恋愛インフル白濱型は、そのウイルスまでもがかなりのやり手で……
どんどん猛威をふるっていった。
♢
「では第6回、粋ちゃんのウイスキー講座を始めますっ」
「はい先生。
でもその前に、10月に入ったのに打ち合わせしなくていーのか?」
京太くんがチラリと隣の悠世くんに目を向ける。
「うん今日は。
周年祭の事は主に社員ミーティングで決めるから、あたしたちが決める事は少ないんだっ。
ねっ?悠世くん」
「……まぁ」
おっとなんだか不機嫌どーしよう……
「えーと今日からは、アイラ系を攻めてみたいと思います」
とりあえず京太くんのドリンク提供だけ済まそうと、話をすすめる。
とそこで、今日はホールの副店が講座を乗っ取る。
「アイラ系ってのはさ、ウイスキーの聖地アイラ島で作られた個性的なウイスキーなんだけど、まずはこのボウモアからいっちゃおうか」
「も~、なんで言っちゃうんですかっ?」
「いーじゃん言わせてよ。
俺監修だし、なんだか随分長く厨房に引きこもってた気がするからさ」
「はは、確かにそんな気も。
じゃあ京太くんっ、今日は特別講師の副店から色々教わってね?」
そんであたしは悠世くんと!
話そうと思った矢先。
「ひっさしぶりぃ!」
いらっしゃいませを掻き消して元気よく現れた……
「赤尾さんっ!」
「おー!赤ちゃんおかえり~」
「いや~やっと帰ってきたよ。
てか新井は?」
「それが、店長は今日休みなんです」
「嘘だろ~、びっくりさせたかったのに」
赤尾さんは店長の友人で、ここの常連さんだ。
半年前から長期出張してたんだけど、ようやく帰って来たようだ。
さっそく赤尾さんお決まりのセットを用意すると。
「じゃあ粋ちゃん続きよろしく」
ウイスキー講座から赤尾さんのお土産に乗り換えた副店。
こら~、乗っ取っといて勝手だぞー。
「どお京太くん。
ボウモアでもけっこー強烈でしょ?」
「うん、でも慣れるとこの臭さとかが癖になるって言ってた」
「みたいだね」と相槌を打ちながら。
早く悠世くんと話したくて、そっちをチラ見したあたしは……
そのつまんなそうな視線にバチっと捕まって、胸が弾ける。
「ゆ、悠世くんも飲んでみるっ?」
この前ウイスキー講座に鉢合わせた時もつまんなそうにしてたから、一緒に学びたいのかも!
仕事までまだ少し時間があったあたしは、近くの複合施設にある本屋に寄ることにした。
吹き抜けの広々したエントランスホールから本屋のある2階に向かって、左端にあるエスカレーターを上ってると……
右端にある階段下のフリースペースで、見覚えるのある姿を捉える。
え、悠世くん!?
思わずガシッと、そっち側のベルトにしがみつく。
何してるんだろ?
PCいじってるし、テーブルには資料っぽいのがたくさんあるから仕事かな?
いつも仕事溜まってるとは言ってるけど、日曜なのに頑張るなぁ。
やり手と言われてるだけあって実際忙しんだろうし、陰ではこーゆう努力を重ねてるんだろうなぁ。
そーゆう姿に弱いあたしは当然。
あぁ好きだなぁ……
めっちゃ好き。
そう思ったところで、パッとこっちを向いた悠世くん。
うわあ!
心の声が聞かれた気がして、とっさに顔をグルリと背けた。
ってなにやってんの超不自然じゃん!
これじゃ意識してんのバレバレだし、絶対変に思われてるって。
いやここはニアミスで気付かなかった事にするか、それとも……
と頭を悩ませながら2階のフロアを歩いてると。
突然目の前を遮って、通せんぼみたいに横の壁をドンする手。
ビクッとその人に顔を向けると。
「いつまで拗ねてんだよ」
息を切らす悠世くん!
階段から追っかけて来てくれたんだっ?
うわー、うわー!
と感激しつつも。
てゆうか拗ねてて顔を背けたと思ったんだっ?
そしてあたしは、そーゆう事にしとけばいいのに。
「別に拗ねてないですよー。
白濱さんの仕事の邪魔しちゃ悪いと思って」
今日は調子よくタメ語な悠世くんに、つい当てつけてしまう。
「いや思いっきり拗ねてんじゃん!
つかあの時は、すずがヤキモチ妬かないように敬語にしたってゆーか……
松本さんに嫌がらせとかされたくなかったからだろ?」
え、それって……
あたしを守るためにっ?
うそ嬉しい!
って、この前のアクシデントを見たら誰でもそう思うか……
それより「すず」って呼び捨てと、相変わらず「松本さん」の差!
「つか今日って、元彼とデートじゃなかったっけ?」
え、京太くんとの会話聞こえてたんだ。
「別にデートじゃありませーん。
白濱さんこそ、この前はすずちゃんさんをお持ち帰りでデレまくってたんじゃないっすかー?」
「はっ?どっからそんな発想になるんだよ。
つか……
拗ね過ぎだろっ」
くはっと笑う悠世くん。
しまった調子に乗りすぎた……
てゆうか笑う事っ?
お前ごときがこの俺様に拗ねるとかウケるんだけど!って感じっすか。
でもその笑顔は無邪気で可愛くて、なんだかとっても嬉しそうで……
笑顔が見れればって言ってた、京太くんの気持ちがわかると思った。
あたしも、好きな人が笑ってくれるならピエロでいーや。
「拗ねるもん!
この際、すずちゃんさんがいつ来てもいいように敬語に戻りまーす」
「……拗ねんなよ」
今度は優しい眼差しが向けられる。
「あいつならもう来ないから」
「え、なんでっ?」
「ん、この前一緒に帰った時さ。
いい機会だと思ってはっきり断ったってゆうか、縁切ったから」
「そーなのぉ!?」
「うん、だから機嫌直せよ」
うわ……
それじゃまるで、あたしのために縁切ってくれたみたいじゃん!
いやそんなわけないし、喜ぶのはすずちゃんさんに申し訳ないけど……
どうしよう、嬉しくて胸がぎゅうって痛い。
もう直す直すそっこー機嫌直しまくる!
「あ、本屋行くんだろ?
邪魔してごめん」
「ううんあたしこそ、仕事してたのにごめんねっ?
今から打ち合わせ?」
「いやこんな普段着でしないだろ。
家すぐ裏だからさ。
行き詰まった時とか気分転換にここ利用してるんだ」
「そーなんだ」
てことは、おうちはあの単身賃貸マンションだな~。
って、このストーカー粋ちゃんめ!
なんにしても、今日は会えてよかったと。
そのあと本屋で本も見ずに、悠世くんとの事を思い返して……
仕事中、また会いたくなる。
明日も写真撮影で会えるのに、早く会いたくて待ちきれない。
ヤバい……
もう惚れ戻し薬があっても効かないくらい、気持ちの進行が早いんすけど!
この恋愛インフル白濱型は、そのウイルスまでもがかなりのやり手で……
どんどん猛威をふるっていった。
♢
「では第6回、粋ちゃんのウイスキー講座を始めますっ」
「はい先生。
でもその前に、10月に入ったのに打ち合わせしなくていーのか?」
京太くんがチラリと隣の悠世くんに目を向ける。
「うん今日は。
周年祭の事は主に社員ミーティングで決めるから、あたしたちが決める事は少ないんだっ。
ねっ?悠世くん」
「……まぁ」
おっとなんだか不機嫌どーしよう……
「えーと今日からは、アイラ系を攻めてみたいと思います」
とりあえず京太くんのドリンク提供だけ済まそうと、話をすすめる。
とそこで、今日はホールの副店が講座を乗っ取る。
「アイラ系ってのはさ、ウイスキーの聖地アイラ島で作られた個性的なウイスキーなんだけど、まずはこのボウモアからいっちゃおうか」
「も~、なんで言っちゃうんですかっ?」
「いーじゃん言わせてよ。
俺監修だし、なんだか随分長く厨房に引きこもってた気がするからさ」
「はは、確かにそんな気も。
じゃあ京太くんっ、今日は特別講師の副店から色々教わってね?」
そんであたしは悠世くんと!
話そうと思った矢先。
「ひっさしぶりぃ!」
いらっしゃいませを掻き消して元気よく現れた……
「赤尾さんっ!」
「おー!赤ちゃんおかえり~」
「いや~やっと帰ってきたよ。
てか新井は?」
「それが、店長は今日休みなんです」
「嘘だろ~、びっくりさせたかったのに」
赤尾さんは店長の友人で、ここの常連さんだ。
半年前から長期出張してたんだけど、ようやく帰って来たようだ。
さっそく赤尾さんお決まりのセットを用意すると。
「じゃあ粋ちゃん続きよろしく」
ウイスキー講座から赤尾さんのお土産に乗り換えた副店。
こら~、乗っ取っといて勝手だぞー。
「どお京太くん。
ボウモアでもけっこー強烈でしょ?」
「うん、でも慣れるとこの臭さとかが癖になるって言ってた」
「みたいだね」と相槌を打ちながら。
早く悠世くんと話したくて、そっちをチラ見したあたしは……
そのつまんなそうな視線にバチっと捕まって、胸が弾ける。
「ゆ、悠世くんも飲んでみるっ?」
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