溺愛シェーカー

よつば猫

文字の大きさ
上 下
12 / 51

アメリカンレモネード3

しおりを挟む
「も~白濱さんっ、あまりにぶっ飛んだ発想で驚いたじゃないですかっ」
片付けの最中さなか、一刻も早く疑惑を晴らす。

「そうですか?
僕にはそう見えたんですけど、ないですか?」
不敵な笑みを浮かべる白濱さん。

 こやつ、完全に見抜いてやがる!
今まで誰にも見破られなかったのにっ……

「ないですないですっ。
そもそもあたし恋愛に興味ないですし、職場恋愛なんて以ての外だしっ」
誤魔化しながらも一句浮かぶ。

恐ろしや、さすがやり手の洞察力。
by松芭蕉、じゃなくて!

「とにかく、変な妄想やめてくださいよ~」

「すみません、似合ってると思ったんで。
それに、プライベートな話題で絆も深めたかったし」

 いきなり深めすぎじゃーい!
しかも全っ然深めたいよーに見えないんすけどっ。

 ん?似合ってる?
さっきあたしも言ったような……
もしやこれは反撃じゃ?
そうだ、あたしを黙らすための目には目をの反撃だっ。
なんて恐ろしい男め~。

「では本題に入ります」
「了解です」

そこはすちゃっと切り替える。

「僕の案としては、さっきも言った通り8月は夏バテの時期なんで。
夏の疲れを吹き飛ばせといったテーマで、アサイー商品を展開してみてはどうかと思います」
カウンターにその資料が並べられた。

「アサイーは栄養価と美容効果がとても高く、女性にすごく人気ですし。
ここで飲んでる時も、お客さんからアサイーを求める声が上がってました」

 おお、さすがアンテナを張り巡らせてらっしゃる。

「もちろん、仕事帰りにリフレッシュと掲げて平日限定で考えてますが……
どうですか?」

 そこに通りがかったマイマイが、資料を目にして食い付いてきた。

「あっ、アサイーボウル!
え、それいい超いい、アタシも大っ好き。
次の企画ですかっ?」

「に、提案してるところです」

「い~と思います。めっちゃ大賛成です」
グッと親指を立てる姐さんに。

ありがとうございますと白濱さんは、塩っけのカケラもない温かな笑顔を返した。

 なんだその笑顔っ。
賀来さんや店長とかともフレンドリーに接してるし……
この男、あたしにだけ冷たい気がして来た。
だけど。

「では松本さんと相談してから、再度検討したいと思います」

 え、そこはあたしを立ててくれるんだ?
まぁ担当だから当たり前なんだろうけど……
なんか嬉しいっ。

「あたしもめっちゃいいと思います!
もうワンってお手しちゃうくらい大賛成ですっ」

 フリ付きで支持すると、白濱さんは一瞬面喰らった様子を見せて。

「そーゆうのは要らないんで、内容を詰めましょう」
クールに流しやがったー。

「平日にやってくるアサイー屋台といった形で打ち出そうと思ってますが、どうですか?
参考までに考えてきたメニューです」

「おお、仕事が早い」

「あとアサイーカクテルですが、ノンアルのものは特に美容と健康を重視した組み合わせでお願いします。
ただ、どれもビジュアル的にはあまり綺麗じゃなかったり、似たような色になるかと思うんで、デコレーションには工夫が必要かもしれません」

「なるほど」

 確かに紫系ばっかじゃ心踊んないなー。
どんよりだよ、逆に疲れちゃう。
そこでふと。
この前マイマイとの話題にのぼった、同じく紫系の赤ワインを使ったカクテルが思い浮かぶ。

「あ、アメレモっ。
白濱さん、2層にするのはどーですかっ?」

「2層?」

「はいっ。比重の違いを利用して重いのと軽いのが混ざり合わないようにすると、2層に出来るんですっ」

「なんか、良さそうですね。
あとでそのアメレモ?作ってもらっていいですか?」

「もちろんですっ」
てゆーか、アメレモ?って可愛いんですけどっ。

 その時、お客様が来店して……

「あ、いらっしゃいまっ」
その不吉な姿に石化する。

「……どうかしましたか?」

「ええっ?
やっ、喉が詰まって?」
怪訝に伺う白濱さんを誤魔化しながらも。

 だから元彼あんたはいらっしゃらないで~!
しかも、ヤツが座った辺りのカウンターから視線をめっさ感じる……
こっち見るなー。

「……あの、聞いてますか?」

「えっ?
えーとすいません、なんでしたっけ?」

「アサイーボウルについてです」

「あ~、了解ですっ。
もう大丈夫なんで続けてください」

 京太くん今入ったお客様のチャーム用意してたから聞けなかったよ~。
とゆう仕事出来ない子を装って、その場を取り繕ってみたけど。
京太くんの対応にあたってくれたマイマイが、そのチャームを取りに来て……

「ねぇ粋、今来たお客さんめっちゃあんたの事見てるけど……
もしかして彼が例の元カレ?」

 いや無駄に鋭いっす姐さーん!

「え~とまぁ、そぉかな~」

 翔くんたちに顔バレしてるし……
隠したくても、ヤツが自ら暴露するに違いない。

「よかったじゃん!アタシに任せてっ」

 待って姐さんよくないのー!
どうしよう、任せてって何する気っ?
とっさに視線を向けると、京太くんとバチっと目が合って。
うわあ!だからこっち見ないでー。

 するとそんなあたしに、白濱さんから最もな一言。

「松本さん、2度目です。
今日は打ち合わせ出来る状態じゃないようなんで、また来ます」

「わ~!帰らないで白濱さんっ。
帰らないで打ち合わせのフリしてもらえませんっ?」
焦って思わずとんでもないお願いをしてしまう。

「はあっ?」

「いやすいません、ほんっとすみませんけど……
ダメですかっ?」
だって今帰られたら必然的に京太くんの前に行かなきゃだもんっ。

「……元彼が来てるんですよね?
さっきからすごい気にしてるくせに、いんですか?」

「はいちょっと……
いろいろと黒歴史でして」

「黒歴史って……」
呆れ顔でそう呟いて、盛大なため息を吐き捨てる白濱さん。

 はい、そんな超くだらない理由じゃダメですよね?
接客業失格ですよね……

「わかりました。いいですよ」

「え、マジっすか!?」
うそ優しい白濱さん!
もう神、大好きっ。

「ついでに、そんな嫌なら言ってあげましょうか?」

「え、なんて……」

「松本さんは今、ここに好きな人がいるんで関わらない方がいいですよって」

 どわ~!ここでまた翔くんの事を持ち出して来やがったー。
意地悪だっ、やっぱこの人悪魔の方だっ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...