悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫

文字の大きさ
上 下
122 / 123

告白2

しおりを挟む
 そしてぐっと、ぐううと、狂おしい気持ちで包み込みながら……

「ほんとに……
本当、なのか?」
信じられない思いで、うわ言のように呟いた。

「はいっ、本当です。
これまでずっと、伝える訳にはいかなかった……
でもずっと、伝えたかった!」
そう言ってヴィオラは、ちゃんと謝りたかった事も口にした。

「それと……
あんなにもたくさんのブルーローズを、傷だらけになりながら摘み取ってくださったのに、捨ててしまってごめんなさいっ。
とても忙しい中で、あれほど素敵な舞踏会を開いてくださったのに、酷い仕打ちをしてごめんなさいっ。
公務もずっと肩代わりしてくださってたのに、何度も妨害して、倒れるまで追い詰めてしまってごめんなさいっ。
他にもたくさん、酷い事を言ったり、酷い事をしてごめんなさいっ……」

「お前は何も悪くない!
そうさせたのは俺だし、本心じゃないと分かっているっ。
むしろ俺の方こそ……
ラピズとの仲を引き裂いてすまなかった。
毎日好物を差し入れてくれたのに、ずっと拒絶してすまなかった。
好きな女が出来たと嘘をついて、切り捨ててすまなかった!」

 そこでヴィオラは、聞き捨てならない台詞に反応する。

「っ、嘘だったのですかっ!?」

「すまないっ。
お前が心置きなくラピズとやり直せるように、計らったつもりだったんだが……
お前の気持ちを気付けずに、逆に傷付けてしまって本当にすまないっ」

「いえっ!
気持ちをいたのですから、気付かなくて当然ですっ」

 それはラピズを守るために、詳しい事は話せないヴィオラの……
専用庭園での発言は偽りだという、精いっぱいの弁明だった。

「それより私のために、サイフォス様まで悪役をさせてしまって……
その事の方が心苦しいです」

「まったくお前はっ、俺のせいでこんな事になったというのに……
……だが、許してくれるなら。
もう一度、俺の妃になってくれないか?」

 突然のプロポーズに、今度はヴィオラの心臓が止まるも。

「えっ……
そんな事が、許されるのですかっ?」
と恐る恐る聞き返す。

 そう、一般の再婚と違って。
国を司る立場の者が、くっついたり離れたりするのはイメージが良くない上に。
ヴィオラの印象も悪妃として最悪だったため、多くの者が反対するに違いないからだ。

 しかし。

「誰にも文句は言わせない。
俺はそれだけの事をやって来たし、必ず守ると約束する。
だから今度こそ、俺と生涯一緒に生きてくれ」

 真っ直ぐな目で、願うように告げるサイフォスに。
ヴィオラは再び涙で溢れ返る。

 一緒に生きられる未来など絶対に無いと、とうに諦めていたため。
この上なく幸せな例えようもない奇跡に、ただただ言葉を無くしていた。

 その様子を見かねて、サイフォスが「不安か?」と尋ねると。
ヴィオラは首を横に振り、懸命に声にした。

「サイフォス様と一緒なら、何があっても平気です。
なので私の方こそ、ずっと一緒にいさせてくださいっ……」
そう答えるや否や。

 会話で離れてしまった身体を、再びきつくきつく抱き締めるサイフォス。

「ありがとうっ……」
そして奇跡を噛み締めるように、頬を擦りつけると……

 もう我慢出来ないといったふうに、愛しくて堪らない唇を自分のものにした。

 ヴィオラは心臓が壊れそうになりながら、身体が溶け落ちそうになりながらも……
互いに、渇望するように欲し合い。
2人して悶えるほど甘いキスに、深く深く溺れ続けたのだった。






 それから、ひと月ほどの間。
サイフォスは、再婚の準備を万全に整えると……
ヴィオラを正式に、王太子妃として迎え入れた。

 その際ヴィオラは、ウォルター卿をはじめ宮中全ての者に、かつての振る舞いを心から謝罪した。

 それでもウォルター卿は、人はそんなに容易く変わらないと。
どうせすぐに化けの皮が剥がれると、ヴィオラを信用出来ずにいた。

 とはいえ。
離婚後、酷く辛そうにしていたサイフォスが、驚くほど幸せそうにしているため。
今度こそ上手くいってほしいと願ってもいた。

 ちなみに、離婚と再婚における表向きの理由は……
政略婚の複雑な事情によりすれ違いが生じ、相手を思うが故に別れたものの。
互いになくてはならない存在だと思い知り、誤解が解けて復縁に至ったとしていた。

 そんな中、ラピズは……
ヴィオラをもう一度振り向かせようと、立ち直りかけていたのだが。
復縁にショックを受け、再び絶望に突き落とされていた。
だがこれで、諦めざるを得なくなり。
それが新たな一歩になるに違いなかった。

 また、フラワベルも……
復縁にショックを受け、どうにか別れさせようと企んでいたが。
サイフォスから、王太子妃への接近禁止を命じられたため。
もう嫌がらせが出来なくなったのだった。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

処理中です...