悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫

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告白1

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 魔法で馬を操っていた先程とは違い、サイフォスの操縦で帰路につくも。
ヴィオラはキャビンの中で……
まだ帰りたくないと、このまま離れたくないと、焦燥感に苛まれていた。

 すると市街地に入って少しした頃。
馬車が止められて、何かあったのかと心配していると……
サイフォスがキャビンに乗り込んできた。

「どうされたのですかっ?」

「御者を雇った。
お前と色々、話したいと思って……」

 その言動に、嬉しくて堪らなくなるヴィオラ。

「……っはい、私もです」

 しかしお互い、どこから話せば良いのかと、言葉に詰まる。

 そこでヴィオラは、ふと思い出した事を切り出した。

「そういえば、聞きそびれていた事が……
どうしてファラが、私だと気付いたのですかっ?」

「ああ、その事か……
いくら姿や声を変えようとも、動作や仕草・姿勢や話し方などに、本人のクセや特徴が顕れるからだ」

「それは、そうでしょうが……
でもそんな不確かな事で、確信に至りますか?」

「もちろん最初は、似ていると思っただけだ。
だが目で追う内に、そうとしか考えられなくなって……
確信を得るために、専用書庫の掃除を頼んだんだ」

 そうすれば、他の者の目を気にせず観察出来るからだ。

「えっ……
では他の判断材料は、ないという事ですか?」

「……そうだ」

「そんな馬鹿な!
いくらなんでも軽率すぎますっ」

「軽率ではない。
絶対的な自信があった」

「自信?
根拠ではなく自信ですかっ?」

 ニケの件であれほど根拠や状況証拠を並べていた人の、真逆の行動に呆気に取られるヴィオラ。
しかし次の瞬間。

「ああそうだ!
お前の事を見分けられない訳がないだろうっ」

 その言葉に、ドクンと心臓を打ち付けられる。

「……どうして、そう言い切れるんですか?
だって私が王宮に居たのは、半年もありません。
しかもその半年の中で、一緒に過ごした時間はほんの僅かですっ。
それなのにどうしてっ……」

 そうヴィオラは、長年親密に過ごして来たラピズですら。
自己流という特殊な太刀筋や、惚れ込んでいた剣さばきでしか見分けられなかったからだ。
しかもヴィオラの他に、ラピズだと気付いた者も1人もいなかったのだ。

 さらには、ファラと化した際も……
シュトラント家の管理業務を行うために、ヴィオラの使いとして訪れたが、誰にも気付かれなかったのだ。

 となると。
いくら似ていると思っても、確信に至るのは至難の業で……
それを少ない接触で見極めたうえに、絶対的な自信を持つなど、考えられないからだ。

「……たとえ僅かでも、お前の事なら見つけてみせる。
それほど……」
と言いかけて、一瞬躊躇うサイフォス。

 しかし……
もう板挟みで苦しめる状況でないのなら。
復讐目的でないのなら。
そしてニケに特別な感情がないのなら。
これ以上、気持ちを抑え込む必要はないと。
なにより、もう抑え切れないと。
覚悟を決める。

「それほどお前を……
その一挙手一投足さえも、そのひと片鱗でさえも、その全てを愛しているからだ」

 その瞬間、ヴィオラはぶわりと涙が堰を切り。
胸が壊れそうなほど、きつくきつく締め付けられて。
なおも、ぎゅううと締め付けられて……
息も出来ないくらい涙に溺れる。

 サイフォスは、それが何を意味する涙が分からず。
「すまないっ、勝手な事を言っているのは分かっているっ……」
そう焦ったところで。

「……好きですっ」
ヴィオラはようやく口にする事が出来る、その気持ちを解き放った。

 その途端、心臓が止まって耳を疑うサイフォス。

 そしてヴィオラはさらに……
サイフォスの命を守るために、そしてラピズに罪を犯させないために、告げるわけにはいかなかったその気持ちを。
散々傷付けて見限られた分際で、告げる資格すらなかったその気持ちを。
そしてラピズのように、心変わりをした相手に自分の感情を押し付けて苦しめたくなかったため、告げる事が出来なかったその気持ちを。
もう我慢する必要はないのだと。
ちゃんと伝えなければと。
思いの丈を溢れさせた。

「もうずっと、ずっと前から大好きですっ。
たとえ何があろうとも、決して変わらないほど……
側に居られない人生など、何の意味もないくらいっ……
私もサイフォス様を、心から愛しています」

 その涙ながらの告白に。
今度はサイフォスが、壊れそうなほど胸を締め付けられて……
刹那、ガバリと突き動かされるように抱き締めた。
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