112 / 123
逃亡1
しおりを挟む
手筈通り、国王や周りの者に猛烈な眠気を起こさせて……
ニケが治療をやってのけると。
ヴィオラは、ソファにもたれ掛かっているサイフォスに歩み寄り。
跪いて、その寝顔を切なげに見つめた。
ーーサイフォス様……
今度こそ本当に、お別れです。
最後まで一度も、想いを告げる事は叶わなかったけれど……
愛しています。
ずっと永遠に、愛しています。
そう思って、ヴィオラはぐわりと涙が込み上げる。
しかしニケの手前、ぎゅっと唇を噛んでそれを堪えた。
ーーどうかこれからは、お身体を大事になさってください。
そして今度こそ、良妃を迎えて幸せになってください。
書き置きの手紙は、自室の机に置いており……
国王が持ち直した事で、サイフォスの状況も落ち着くと判断したため。
元の生活に戻るようにという心遣いを、有り難く頂戴するといった旨を記し。
直接申し出なかった理由として……
侍女を続けさせて欲しいと頼んだばかりなので、面目が立たず合わせる顔がないといった内容を綴り。
謝罪と感謝の言葉で締めくくっていた。
「……離れ難いのは分かるけど、そろそろ行くよ?」
ヴィオラの様子に胸を痛めながらも、そう急かすニケ。
というのも。
大勢や広範囲に、一斉に魔法をかけたり。
今回のように、難易度の高い治療魔法までかけるとなると……
剣術士でいうところの体力にあたる、魔法体力が激減し、回復するまで魔法が思うように使えなくなるため。
眠らせる時間を短めにして、逃亡分を確保していたからだ。
ヴィオラは名残惜しい気持ちを振り切って、コクリと頷くと。
2人はすぐさま、ニケが魔法で用意した馬車に乗り込んだ。
ところが、車内はひたすら無言が続き。
重い空気に、居た堪れなくなくなったニケは……
「……僕が言うのもなんだけどさ。
あんたって尽く、可哀想な運命だよね」
と切り出した。
「……どうして?」
「いつも邪魔ばかりされてるからだよ。
ラピズとの恋仲を、王太子に引き裂かれて。
王太子と上手くいきかけたら、今度はラピズに邪魔されて。
最後はこの僕に、一縷の望みまで奪われたんだからさ」
するとヴィオラは、今までの事を思い返すようにして……
切なげに微笑みながら、首を横に振った。
「私が可哀想なわけじゃないわ。
ラピズとの事は、ラピズの方が辛かっただろうし。
サイフォス様との事も、傷付けて苦しめたのは私の方だし。
ニケとの事も……
あなたが伴侶なら、嫌じゃないと思ってるから」
思わぬ言葉に、胸が潰れそうなほど鷲掴まれるニケ。
「っ、よく言うよっ!
ずっとどんよりしてたクセにっ」
「それはっ、サイフォス様と離れるのが辛いからで……
その気持ちを知ってる人の前で、平気なフリをしたって意味ないでしょう?」
さらには、ニケの気持ちを知った事で、どう接すればいいのか戸惑っていたからでもあった。
「それは、そうだろうけど……
僕の事、好きでもないクセに」
「確かに、恋愛のそれとは違うわ。
でもあなたという人間が大好きだし、心から大事に思ってるから……」
こんな酷い選択をさせた自分を恨むどころか、そんな優しい言葉をかけられて。
思わず泣きそうになったニケは、慌ててそれを誤魔化した。
「どこの世界に!人生奪った男を大事に思う奴がいるんだよっ。
そんな気遣い要らないからっ」
「ううん、気遣ってるわけじゃなくて本心よ?
私ね……」
そう言ってヴィオラは、しみじみと続きを口にした。
「悪妃になんて、ならなきゃよかったって。
これまで数え切れないくらい、後悔してきたけど。
でもその延長線上で、1つだけいい事もあったの。
それは、ニケと出会えた事」
ドクンと心臓を打たれて、目を見張るニケ。
「今までそんなふうに、容赦なく遠慮なく接してくれる人なんていなかったもの」
当然ながら、相手が敵視している場合や、ラピズのように激昂していた場合は別として。
王太子妃や貴族令嬢に、はたまた愛する女性に、そんな態度を取れる者などいなかったのだ。
ニケが治療をやってのけると。
ヴィオラは、ソファにもたれ掛かっているサイフォスに歩み寄り。
跪いて、その寝顔を切なげに見つめた。
ーーサイフォス様……
今度こそ本当に、お別れです。
最後まで一度も、想いを告げる事は叶わなかったけれど……
愛しています。
ずっと永遠に、愛しています。
そう思って、ヴィオラはぐわりと涙が込み上げる。
しかしニケの手前、ぎゅっと唇を噛んでそれを堪えた。
ーーどうかこれからは、お身体を大事になさってください。
そして今度こそ、良妃を迎えて幸せになってください。
書き置きの手紙は、自室の机に置いており……
国王が持ち直した事で、サイフォスの状況も落ち着くと判断したため。
元の生活に戻るようにという心遣いを、有り難く頂戴するといった旨を記し。
直接申し出なかった理由として……
侍女を続けさせて欲しいと頼んだばかりなので、面目が立たず合わせる顔がないといった内容を綴り。
謝罪と感謝の言葉で締めくくっていた。
「……離れ難いのは分かるけど、そろそろ行くよ?」
ヴィオラの様子に胸を痛めながらも、そう急かすニケ。
というのも。
大勢や広範囲に、一斉に魔法をかけたり。
今回のように、難易度の高い治療魔法までかけるとなると……
剣術士でいうところの体力にあたる、魔法体力が激減し、回復するまで魔法が思うように使えなくなるため。
眠らせる時間を短めにして、逃亡分を確保していたからだ。
ヴィオラは名残惜しい気持ちを振り切って、コクリと頷くと。
2人はすぐさま、ニケが魔法で用意した馬車に乗り込んだ。
ところが、車内はひたすら無言が続き。
重い空気に、居た堪れなくなくなったニケは……
「……僕が言うのもなんだけどさ。
あんたって尽く、可哀想な運命だよね」
と切り出した。
「……どうして?」
「いつも邪魔ばかりされてるからだよ。
ラピズとの恋仲を、王太子に引き裂かれて。
王太子と上手くいきかけたら、今度はラピズに邪魔されて。
最後はこの僕に、一縷の望みまで奪われたんだからさ」
するとヴィオラは、今までの事を思い返すようにして……
切なげに微笑みながら、首を横に振った。
「私が可哀想なわけじゃないわ。
ラピズとの事は、ラピズの方が辛かっただろうし。
サイフォス様との事も、傷付けて苦しめたのは私の方だし。
ニケとの事も……
あなたが伴侶なら、嫌じゃないと思ってるから」
思わぬ言葉に、胸が潰れそうなほど鷲掴まれるニケ。
「っ、よく言うよっ!
ずっとどんよりしてたクセにっ」
「それはっ、サイフォス様と離れるのが辛いからで……
その気持ちを知ってる人の前で、平気なフリをしたって意味ないでしょう?」
さらには、ニケの気持ちを知った事で、どう接すればいいのか戸惑っていたからでもあった。
「それは、そうだろうけど……
僕の事、好きでもないクセに」
「確かに、恋愛のそれとは違うわ。
でもあなたという人間が大好きだし、心から大事に思ってるから……」
こんな酷い選択をさせた自分を恨むどころか、そんな優しい言葉をかけられて。
思わず泣きそうになったニケは、慌ててそれを誤魔化した。
「どこの世界に!人生奪った男を大事に思う奴がいるんだよっ。
そんな気遣い要らないからっ」
「ううん、気遣ってるわけじゃなくて本心よ?
私ね……」
そう言ってヴィオラは、しみじみと続きを口にした。
「悪妃になんて、ならなきゃよかったって。
これまで数え切れないくらい、後悔してきたけど。
でもその延長線上で、1つだけいい事もあったの。
それは、ニケと出会えた事」
ドクンと心臓を打たれて、目を見張るニケ。
「今までそんなふうに、容赦なく遠慮なく接してくれる人なんていなかったもの」
当然ながら、相手が敵視している場合や、ラピズのように激昂していた場合は別として。
王太子妃や貴族令嬢に、はたまた愛する女性に、そんな態度を取れる者などいなかったのだ。
20
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる