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忘れてくれと言われたからには、その話題に触れるわけにはいかず。
かといって、忘れられるはずもなく……
どうして誰も代わりになれないのか。
好きな女が出来たと別れを切り出しておきながら、なぜその女性を妃に迎える気がないのか。
王太子の立場を顧みず、世継ぎすら放棄してまで、生涯一人に拘る理由は何なのか。
そんな事で、ヴィオラの頭はいっぱいになっていた。
一方サイフォスも、気まずい思いを抱えており……
その後行われたスケジュール開示では、互いに余所余所しい態度になってしまい。
そんな2人を目にしたウォルター卿は、特別な関係はなさそうだと、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。
しかしニケは、ヴィオラの様子にすぐ気付き。
「……どしたの?
上手く辞めれなかった?
それとも他に、何かあった?」
報告会で、会うなりそう心配する。
「っ、さすがね。
一目で気付くなんて……」
ーーそりゃあ、好きな女の事だからね。
そう思いながらも。
「ま、一応友人だからね」
と答えるニケ。
「で、何があったの?」
「うん、でもその前に。
ニケの目的の件で報告があるの」
「いやあんたの話を先にしなよ。
これでも一応心配してるし、どうせ僕は不毛だから、いくらでも聞いてあげるよ」
「え、不毛って?」
「何でもない、こっちの話。
いいからさっさと話しなよ」
「……ありがとう」
そうしてヴィオラは、主なやり取りと今の心境を打ち明けた。
ただしサイフォスの尊厳を守るため、添い寝の事はありえない用命と伝えていた。
ニケは切ない思いで、じっと耳を傾け……
「僕の考えは、3つかな」
と、それを切り出した。
「まず1つ目は、好きな女には振られたんじゃないかって事。
それでもう恋なんてしないってヤケになってるとか?」
「……それは、ないと思うわ。
スケジュールには、モエとの打ち合わせが沢山あって。
ウォルター卿から、この大変な状況下でモエ殿に時間を使いすぎではありませんか?って。
そんなに打ち合わせる事がありますかって、追及されてたもの。
ウォルター卿が知らないとなると、仕事の話ではなさそうだし。
振られたなら、そんなにベッタリしないでしょう?」
「……なるほどね。
じゃあ2つ目だけど……
あんたとの結婚生活がトラウマになって、もう妃を娶るのはウンザリだ!って思ってるとか」
「それはっ、大いにあり得るかも……」
と青ざめるヴィオラ。
そして、それに違いないと。
どうして気が付かなかったのだろうと。
引いては、なんて事をしてしまったのだろう!と、激しく自己嫌悪に陥る。
するとニケは、はぁぁと深い溜め息を吐いて続けた。
「いや落ち込む前に3つ目を聞きなよ。
言いたくないけど、僕的に最有力候補だから」
「あっ、ごめんなさい。
教えて?」
「3つ目は……
裏切られたショックで、他の女に目を向けたけど。
やっぱりあんたの事が忘れられなくて、誰も代わりになれないって気付いたからとか」
確かにヴィオラも、当初は言葉通りに解釈して、そういった意味で捉えてしまったものの。
よくよく考えてみれば、その可能性は極めて低いと思い。
さらにはニケの2つ目の考察によって、完全に打ち砕かれたのだった。
「……それは、一番ないと思うわ。
散々苦しめたられたから許せない、って気持ちで忘れられないならあり得るけど。
そんな悪妃を、未練的な気持ちで忘れられないわけないじゃない」
「そうかな。
そんな悪妃を、ひたすら愛してくれた人なんだろ?
だったら可能性は充分あるし……
知ってた?
あんたの専用庭園、今でもずっと整備され続けてるって。
この先王太子妃を娶る気もないくせにさ」
その言葉に、ヴィオラの心はドクンと揺さぶられる。
「……そう、なの?」
「ん……
それにさ?
あれこれ悩んだところで、真意は本人にしか分かんないんだから。
無駄に落ち込まないで、元気出しなよ」
「ニケ……
うん、ありがとうっ……」
あれこれ真剣に考えて、これほど親身なって励ましてくれるその人に、ヴィオラはじわりと涙ぐむ。
一方ニケは、自虐的な発言に胸を痛めるも……
ヴィオラが元気になるならいいかと思い。
これくらいは許して欲しいと思いながら、そっとその頭を撫でたのだった。
「もぅ、もっと泣けてくるじゃないっ」
「ははっ。
まぁこの貸しも高く付くけどね」
「ふふっ、借りすぎてとても返せそうにないけど……
手始めに、さっき言いかけた件の報告をするわね?」
「ああ、僕の目的の?
つまり、大魔導師と関わる日が分かったんだ?」
「ええ、もうすぐ王宮にいらっしゃる事になってるわ」
と、ヴィオラはその日時を説明した。
「それで私は、接待役をさせてもらうつもりだから。
詳しい事がわかったら、随時報告するわね?」
そう、好きなようにやらせてもらえるようになったため、そういった要望も通るに違いなかったのだ。
しかしニケは……
「じゃあその分、貸しから引いとくよ」
そう愛想笑いを浮かべたあと、密かに不安の表情を覗かせたのだった。
かといって、忘れられるはずもなく……
どうして誰も代わりになれないのか。
好きな女が出来たと別れを切り出しておきながら、なぜその女性を妃に迎える気がないのか。
王太子の立場を顧みず、世継ぎすら放棄してまで、生涯一人に拘る理由は何なのか。
そんな事で、ヴィオラの頭はいっぱいになっていた。
一方サイフォスも、気まずい思いを抱えており……
その後行われたスケジュール開示では、互いに余所余所しい態度になってしまい。
そんな2人を目にしたウォルター卿は、特別な関係はなさそうだと、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。
しかしニケは、ヴィオラの様子にすぐ気付き。
「……どしたの?
上手く辞めれなかった?
それとも他に、何かあった?」
報告会で、会うなりそう心配する。
「っ、さすがね。
一目で気付くなんて……」
ーーそりゃあ、好きな女の事だからね。
そう思いながらも。
「ま、一応友人だからね」
と答えるニケ。
「で、何があったの?」
「うん、でもその前に。
ニケの目的の件で報告があるの」
「いやあんたの話を先にしなよ。
これでも一応心配してるし、どうせ僕は不毛だから、いくらでも聞いてあげるよ」
「え、不毛って?」
「何でもない、こっちの話。
いいからさっさと話しなよ」
「……ありがとう」
そうしてヴィオラは、主なやり取りと今の心境を打ち明けた。
ただしサイフォスの尊厳を守るため、添い寝の事はありえない用命と伝えていた。
ニケは切ない思いで、じっと耳を傾け……
「僕の考えは、3つかな」
と、それを切り出した。
「まず1つ目は、好きな女には振られたんじゃないかって事。
それでもう恋なんてしないってヤケになってるとか?」
「……それは、ないと思うわ。
スケジュールには、モエとの打ち合わせが沢山あって。
ウォルター卿から、この大変な状況下でモエ殿に時間を使いすぎではありませんか?って。
そんなに打ち合わせる事がありますかって、追及されてたもの。
ウォルター卿が知らないとなると、仕事の話ではなさそうだし。
振られたなら、そんなにベッタリしないでしょう?」
「……なるほどね。
じゃあ2つ目だけど……
あんたとの結婚生活がトラウマになって、もう妃を娶るのはウンザリだ!って思ってるとか」
「それはっ、大いにあり得るかも……」
と青ざめるヴィオラ。
そして、それに違いないと。
どうして気が付かなかったのだろうと。
引いては、なんて事をしてしまったのだろう!と、激しく自己嫌悪に陥る。
するとニケは、はぁぁと深い溜め息を吐いて続けた。
「いや落ち込む前に3つ目を聞きなよ。
言いたくないけど、僕的に最有力候補だから」
「あっ、ごめんなさい。
教えて?」
「3つ目は……
裏切られたショックで、他の女に目を向けたけど。
やっぱりあんたの事が忘れられなくて、誰も代わりになれないって気付いたからとか」
確かにヴィオラも、当初は言葉通りに解釈して、そういった意味で捉えてしまったものの。
よくよく考えてみれば、その可能性は極めて低いと思い。
さらにはニケの2つ目の考察によって、完全に打ち砕かれたのだった。
「……それは、一番ないと思うわ。
散々苦しめたられたから許せない、って気持ちで忘れられないならあり得るけど。
そんな悪妃を、未練的な気持ちで忘れられないわけないじゃない」
「そうかな。
そんな悪妃を、ひたすら愛してくれた人なんだろ?
だったら可能性は充分あるし……
知ってた?
あんたの専用庭園、今でもずっと整備され続けてるって。
この先王太子妃を娶る気もないくせにさ」
その言葉に、ヴィオラの心はドクンと揺さぶられる。
「……そう、なの?」
「ん……
それにさ?
あれこれ悩んだところで、真意は本人にしか分かんないんだから。
無駄に落ち込まないで、元気出しなよ」
「ニケ……
うん、ありがとうっ……」
あれこれ真剣に考えて、これほど親身なって励ましてくれるその人に、ヴィオラはじわりと涙ぐむ。
一方ニケは、自虐的な発言に胸を痛めるも……
ヴィオラが元気になるならいいかと思い。
これくらいは許して欲しいと思いながら、そっとその頭を撫でたのだった。
「もぅ、もっと泣けてくるじゃないっ」
「ははっ。
まぁこの貸しも高く付くけどね」
「ふふっ、借りすぎてとても返せそうにないけど……
手始めに、さっき言いかけた件の報告をするわね?」
「ああ、僕の目的の?
つまり、大魔導師と関わる日が分かったんだ?」
「ええ、もうすぐ王宮にいらっしゃる事になってるわ」
と、ヴィオラはその日時を説明した。
「それで私は、接待役をさせてもらうつもりだから。
詳しい事がわかったら、随時報告するわね?」
そう、好きなようにやらせてもらえるようになったため、そういった要望も通るに違いなかったのだ。
しかしニケは……
「じゃあその分、貸しから引いとくよ」
そう愛想笑いを浮かべたあと、密かに不安の表情を覗かせたのだった。
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