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食事1

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 2人に美味しく飲んでもらえた事は良かったものの、肝心の効果がなければ意味はなく。
翌朝ヴィオラは、さっそくそれを伺った。

「殿下、昨夜は早めにご就寝出来ましたか?」

「ああ、おかげでぐっすり眠れた。
ありがとう」

「ほんとですかっ?」
そんなに効果があるのかと驚くも。

 実際寝つきに関しては、サイフォスの努力によるものが大きく。
ファラの気持ちや労力を無駄しないよう、必死に心を鎮めて眠ろうとしたからだった。
とはいえハーブミルクティーのおかげで、いつもより安眠出来ており。
目覚めの良さから、それを確信したというわけだった。

「嘘を言って何になる。
だからこれからも、負担にならない範囲で作ってくれないか?」

「もちろんですっ。
むしろ微塵も負担になりませんので、毎日ご用意させてください」

「そう無理をするな」

「無理などしておりませんっ」

「いや、この短期間でここまで完璧にサポートするのは大変だったはずだ。
とても有能な侍女だと感銘を受けている。
だから、これ以上頑張る必要はない」

「いいえっ、私としては物足りないくらいです。
有能な侍女だと思ってくださるのなら、もっと業務を任せてくださいっ」

 するとサイフォスは、んっ?と何かを思い返す素振りを見せた後。
ふっと笑みをこぼした。

「本当にお前は……
今まで不当な扱いを受けた分、しばらく骨休めすればいいものを」

「えっ、どうしてそれを……」

ーーやっぱり私の正体に勘づいて、探ってたのっ?
そう焦ると。

 サイフォスも「それはっ……」と、一瞬戸惑いを覗かせた。

「……お前を侍女にと考えて以来、図書室で見かけなくなったから、どうしているのか調べたんだ。
……気を悪くしたか?」

「いえっ、わざわざありがとうございます」
そういう事かと、安心するヴィオラ。

「ですが私としては……
そのような状況から助けていただいたも同然ですので、恩返しさせていただけなければ心苦しいです。
なのでどうか、新たな業務をお任せくださいっ」

「まったく……」
と、溜息をつくサイフォス。

「……わかった。
そこまで言うならやってもらおう。
その代わり、異論は一切認めない。
それでもいいか?」

「はいっ!
何なりとお申し付けくださいっ」
いよいよちゃんと力になれると意気込むも。

 あり得ない業務に耳を疑う。

「……えっ?
今何と……」

「聞こえなかったのか?
これからは、一緒に食事をとってくれ」

「っ、待ってください!
意味が分かりませんっ……
なぜそれが業務になるのですかっ?」

「俺にとって、何かと好都合だからだ。
一人で食べるのは味気ないし、忙しいとつい疎かになってしまう。
だが一緒に食べる相手がいれば、そんな事にはならないうえに。
その相手が側仕えの者なら、予定も合わせやすいし気も使わなくて済む。
健全な食生活にさせる、立派な業務だろう?」

「それはっ、そうかもしれませんが……
ですが私ではあまりに分不相応ですし、変な噂もされかねませんっ」

 そう、フラワベルに誤解されては厄介な上に。
自分のせいで、2人に不快な思いをさせたくなかったからだ。

「異論は認めないと言ったはずだ。
それに食事中は、口堅い給仕しか入らせないから問題ない。
それとこの業務が出来ない限り、新たに業務を任せる気はない」

「そんなっ……」

 しかしそう言われては、断るわけにはいかず。
尚且つヴィオラにとっては、夢のように嬉しい内容のため。

「……わかりました。
僭越ながら、ご一緒させていただきます」
と引き受けたのだった。

 しかし当然ながら、朝食はサイフォスの分しか用意されておらず。
その日の昼食は、王族の会合で摂る事になっているため。
最初の食事は夕食からとなった。


 そうして。
建前とは裏腹に、ドキドキと胸を高鳴らせながら……
ずいぶんと久しぶりになる、サイフォスとの食事を迎えると。
今度は目を疑うヴィオラ。

「待ってください……
私までこんな豪華なものを、いただくわけにはいきませんっ」

 そうそれは、侍女用のメニューではなく。
王太子と同じものが並べられていたのだ。

「食事をともにしながら内容に差があれば、俺が食べにくいだろう」

「そうかもしれませんがっ……
だとしても品が多過ぎです!こんなに食べ切れませんっ」

「全て食べる必要はない。
好きなものを好きなだけ食べてくれ。
それと、異論は認めないと言っただろう。
何度言わせれば気が済むんだ?」

「っ、申し訳ございません……
では有り難く、頂戴いたします」
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