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侍女1

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 そうしてヴィオラは、侍従の案内でサイフォスの部屋を訪れると。
離婚を言い渡された、あの時の事が甦り。

ーーああまたここで、終わりを告げられるのね……
と、胸が苦しくなる。

 ところが、思わぬ命令を下されて耳を疑う。

「今からお前は、俺の専属侍女として働いてもらう」

「…………えっ?」

「当然部屋も、こっちの侍女部屋に移動してもらう」

「っ、待ってくださいっ」
あり得ない展開に、混乱するヴィオラ。

「何か問題があるのか?」

「っいえ、問題は、ありませんっ。
ですがなぜ下女の、しかも半人前の私を、そのような大役に抜擢してくださったのですかっ?」

「お前の仕事ぶりを評価したからだ。
確かにお前は、他の者より作業スピードは遅い。
だがその分、誰よりも丁寧で、誰よりも熱心に働いていた。
しかもただ掃除するだけでなく、利用者の事を考えた心配りも完璧だった。
だから下女より、この役目の方が相応しいと思ったからだ」

ーー気付いて、くださったんだ……
一生懸命頑張って来た事が認められ、ぐわりと泣きそうになるヴィオラ。

「……身に余る、光栄に存じます。
この大役恥じぬよう、今まで以上に頑張りますっ……」
必死に涙を堪えるも、その声は震えてしまい。

「……ああ、頼む。
だがそんなに気負う必要はない。
むしろ今までより負担は軽いはずだ。
業務の説明と移動の手伝い等は、さっきの侍従に任せてあるが。
困り事や要望があれば、気軽に言ってくれ」
サイフォスは、そう優しく声掛けた。

ーーああ、これでやっと……
ようやくサイフォス様の力になれる。
これまでの道のりを思うと、喜びもひとしおで。

ーーしかも、こんなにお側に居られるなんて……
願ってもない奇跡に、心を震わせていた。



 それから早速、移動に取り掛かるも。
使い回しである下女の服等は洗って返すため、持っていく物はほとんどなく。
ヴィオラは使っていた部屋の掃除だけして、新しい部屋に案内してもらった。

 そして用意されていた侍女の服に着替え、業務の説明を受けると……

「それだけですかっ?」
あまりに簡単な内容に、面食らう。

 それはまずサイフォスのルーティンを把握し、必要な物を準備したり補助したりといった内容で……

ーーこれじゃ負担が軽くなるどころか、ほとんど負担にならないし、大して力にもなれないじゃない!

「廃止されていた役職なので、今の段階ではそれだけとの事ですが……
今後はファラさん次第かと」

 そう、サイフォスは身近に女性を置かず。
侍女的な業務も侍従に任せていたのだ。

 というのも、かつて侍女を置いていた際。
サイフォスを巡って侍女同士が嫉妬し合ったり、それが元でトラブルを起こしたり。
誰もが見初めてもらおうと、躍起になっていたからだ。

「……わかりました。
では詳しい作業内容を教えてください」
自分次第なら頑張るしかないと、意気込むヴィオラ。

 しかし実際の業務は明日からとの事で。
その日は作業内容等を頭に叩き込み……
逸る気持ちで、報告会を迎えたのだった。




「はあっ!?専属侍女にっ?
……なんであんたが?」

「それがね、私の仕事ぶりを評価してくださったらしいの」

「はっ?
あんたみたいなノロマで鈍臭い下女を?
どう考えてもおかしいだろ」

「……ねぇちょっと、ひどすぎない?」
冗談まじりに苦笑うヴィオラ。

「いや仮に、どんなに優れた下女だとしても。
ここは王宮だよ?
他より優れた下働きが集まってるはずだし、あんた以上に優良な熟練者だって、いくらでも居るはずなのに。
それを差し置いて、こんな突然、王太子自ら抜擢すると思う?
そんな暇じゃないよねえ?」

「……確かに、そうよね」

 その時は驚きと喜びで考えが及ばなかったが……
冷静に判断してみれば、その通りだと得心する。
しかも廃止していた役職を、わざわざ復活させておきながら。
大した業務がないとなると、どう考えても不自然だからだ。

「じゃあどうして……」

「やっぱり身バレしてんじゃない?
それか、その証拠を掴むためとか」

「でもそれなら逆に、遠ざけるはずよっ?
私かもしれない存在を、側に置くはずがないし。
証拠を掴むために、こんな表立った事をするとは思えないっ」

 そう、表立った状況で偽装潜入が判明すれば、体面的に重い刑にするしかなく。
あれほど守ってくれたサイフォスが、潜入理由も判明してない段階で、わざわざそれを狙うとは思えなかったのだ。

「じゃあ潜入の目的を探りたいとか?
側に置いた方が調べやすいし」

「それだと、偽装潜入はバレてる事になるじゃない」

「……なんでバレたんだろ」

「ええっ!バレてる前提っ?」

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