悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫

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相談2

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「……申し訳ないけれど。
その件で私が力になれる事は、何もないわ。
ただ、わかっていると思うけれど。
あなたが魔術士を目指すのであれば、洗礼時に会えるわよ?」

 しかし、すでに魔烙印を得ているニケが、それを得るための洗礼を受けるわけにはいかず……

「……そう、ですよね。
色々と無理を言って、すみませんでした。
それと改めて、不躾な相談に応じてくださって、本当にありがとうございました」

「いいえ、力になれなくてごめんなさい。
相談に応じたのも、ファラの優しさに心を動かされたからにすぎないわ。
いい仲間を持ったわね」

ーーそれでこんなに、すんなり実現したんだ……

 ニケは自分のためにヴィオラが、陰ながら尽力してくれたのだと悟り。
胸が締め付けられるような、熱くなるような、味わった事のない感覚を感じていた。

 というのも。
その美貌から、何かしてもらう事は多かったが……
相手が自分に好意を抱いている、という下心によるものだったり。
見返りやアピール目的等で、陰ながら行われた試しがなかったからだ。


 そんなニケの心情など、露知らず……

「ニケごめんなさい。
相談した内容の事で、深刻に困っていたのに……
笑ったりして、本当にごめんなさい」
その部屋に入るなり、そう頭を下げるヴィオラ。

「は?
まさかあれ、本気にしたの?」

「えっ……
本当の話じゃなかったの?」

「いや、嘘に決まってるし。
凄腕魔術士の僕が、襲われるのを回避出来ないと思ったワケ?」

「あ……
確かに、そうよね。
なんだ、良かったぁ」
ニケがそんな目に遭ってなくて良かったと、ホッと胸を撫で下ろす。

「でもどうして、そんな嘘を吐いてまで……
それどころか、伝説魔法だって使えるくせに。
あんなに大魔導師様に会いたがってたの?」

「……別に。
王宮魔術士には会えたから、次は大魔導師を目的にしようかなって」

「それだけっ?
そのために、あんな身バレしそうな事まで話したのっ?」

「ま、いざとなったら記憶を消せばいいだけだし」

「……ニケってほんとにすごいわね」
改めてそう思うと同時。
やはり天才魔術士の血を受け継いでいるのだろうと、いっそう確信を強める。

「ねぇ、本当は……
モエの推測通りなんでしょう?」

「……何の事?」

「……ううん、何でもないわ」

 思わず訊いてしまったものの。
見当がついているはずなのに、シラを切られたため。
答えたくないのだろうと、話を流すヴィオラ。

「じゃあ、また明日ね」

「あっ」
帰ろうするヴィオラに、引き留めの声を上げるニケ。

「なに?」

「いや、その……
一応、お礼言っとく」
プイと顔を背けて、照れくさそうに感謝を告げるニケに。

 ヴィオラは一瞬面食らったあと、胸が無性にくすぐったくなる。

「ううん、大した事はしてないわ。
むしろ私の方が、ニケには本当に感謝してる。
いつもありがとう」

「っ……
まっ、確かに。
あんた鈍臭いし、どっか抜けてるし。
僕がいなきゃ、もっと大変だっただろうね。
だから……
乗り掛かった船だし、当分面倒見てあげるよ」

「っ、ほんとにっ?
ニケってやっぱり、本当に優しい人ね」

「別にっ、ただの気まぐれだし」

「だとしても、すごく心強いわ。
ありがとう、ニケ」

「ああもっ、分かったって!しつこいな。
っとにかく、これからは僕を頼っていいから」

「じゃあ、お言葉に甘えて」
ヴィオラはクスクスと笑みをこぼしながら……

 ニケの優しさと、戯れ合うようなやり取りに元気をもらい。
浮かない気持ちも癒されたのだった。



 それにより、挫けずに頑張ろう!と。
翌日から意気込みを新たに、仕事に打ち込んでいたヴィオラだったが……

「そこの者」
突然目の前に現れたサイフォスに、そう声掛けられ。

 驚きと喜びで、心臓が大きく跳ね上がったのも束の間。

「この場を最後に、この仕事から外れてもらう」

ーーえっ……
嘘でしょ、そんな!

 やはり、見極めテストは不合格だったのか……
恐れていた解雇通告らしき事を下されてしまう。

「っ、待ってくださいっ!」

「下女長にはもう、話をつけてある」

「そんなっ……
理由を教えてください!」

「話は後だ。
この持ち場が終わったら、待たせてある侍従に付いてこい」

「っっ……
わかり、ましたっ」
ヴィオラは今にも泣いてしまいそうな気持ちと、例えようもないほどの焦燥感に苛まれながら。
なんとかその一言を絞り出したのだった。


 そして嫌がらせをしていた下女たちから、いい気味と言わんばかりの笑い声が洩れる中。
それでもとにかく、出来る限りを尽くそうと。
残りの仕事を精いっぱい頑張ったのだった。


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