悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫

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見極め2

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「ふぅん……
だからって、交渉の余地があるって本気で思ってるの?
僕は闇魔術士だよ?
下手したらその逆鱗に触れて、有無を言わさず抹殺されてたかもしれないよ?」

「そこまで逆鱗に触れる事じゃないと思ったの。
だって、それほど素性を隠したいのなら……
口外禁止を、もっと厳しく取り締まってるはずだもの」

 そう、ニケと直接約束を交わしてないヴィオラが、口外して抹殺されるくらいなら。
約束を交わした者には、口も滑らせられないほど厳しい処分が言い渡されているはずで。
となればラピズがヴィオラの詮索を、容易く肯定出来るはずがないのだ。

「それに……
足がかりになるその珍しい髪色も、堂々と晒してるはずがないでしょう?」

「へぇ、意外と賢いんだね。
その通りだよ。
実は口外禁止を、そこまで重要視してない。
そもそも取引が終わると同時に、僕の事を忘れる魔法をかけてるし。
口外された情報で、僕の事を探す奴が現れても。
都合が悪けりゃ、そいつの記憶から僕の情報を消すまでだし。
こうやって僕の方から出向かなきゃ、僕には会えないからね」

「そう、なのね……
そんな事も出来るのね。
でもそれならどうして、私のやり口に釣られたフリをしたの?」

「見極めテスト、みたいなもんだよ。
相手の状況も想定出来ないバカなのか。
逆鱗に触れても、自分の力でどうにかなると思ってる傲慢な奴なのか。
自分の目的のためなら、仲間も裏切る奴なのか。とか色々ね」

 そう言われて。
ラピズがそのテストに合格したと言っていたのを、思い出すヴィオラ。

「じゃあ私は、そのテストに合格したの?」

「どうかなぁ。
確信犯だし、その交渉次第かな?」

「あなたの要望を、何でも1つ聞くわ。
もちろん、私に可能な事で。
そして私以外の者には、悪影響を及ぼさない事なら」

「僕みたいな天才魔術士に、そんな交渉する?
自分の力で、大抵の事は叶えられるのに」

「そうよね……
じゃあ逆に、どうすれば願いを聞いてもらえる?」

「そうだなぁ……
じゃあまずは、その願いを詳しく聞かせてもらおっか」

「……わかったわ。
私の願いはラピズと同じく、伝説魔法で別人にして欲しいって事なの」

 そう言ってヴィオラは、その理由やこれまでの事を洗いざらい打ち明けた。
見極めようとしている相手に下手に隠し事をすれば、見抜かれて断られると思ったからだ。


「……なるほどね。
言いたい事は解ったけど……
はっきり言って。
そんなくだらない自己満足のために、命かけるんだ?って感じだね」

「自己満足でしかないのは、百も承知よ。
周りから見れば、くだらない理由だって事も。
でもそんな大げさに、命をかけてるわけじゃないわ。
私は代価ではなく、対価でお願いするつもりだし」

「そういう事じゃなくてさぁ。
擬装潜入がバレたら、今度こそ処刑されるよ?
ラピズがそうならなかったのは、王太子様も責任を感じてたからで。
その恩情を踏み躙って同じ事を繰り返せば、王族を侮ってるも同然だからね。
酌量の余地すらないよ」

「今度こそバレないように気をつけるわ。
それに……
例えバレたとしても、覚悟の上です。
さっきは、命をかけてるワケじゃないって言ったけど。
ほんの僅かでも、サイフォス様の力になれる可能性があるのなら……
この命など、惜しくはないわ」

 そう思えるのは……
離婚して塞ぎ込んでいた際に、サイフォスがいない人生など何の意味もないと、気付かされたからだった。

「仮に、全てが無駄に終わったとしても。
出来る限りを尽くしたいの」

ーーサイフォス様が、そうしてくださったよに……

~「だが出来る事を尽くさずに、諦めたくない。
たとえ全てが無駄に終わろうとも。
ヴィオラのためならどんな時でも、何だってやってあげたいんだ」~
ヴィオラの頭の中には、その言葉が響いていた。

「……ふぅん。
そこまで言うならさ、対価じゃなくて代価を使いなよ。
命すら惜しくないなら、出来るよね?」

「そうすれば、願いを聞いてくれるの?」

「んん~、もう1つ。
僕も一緒に潜入させてくれるなら、引き受けるよ」

「あなたも一緒にっ?」

「うん。
潜入の伝手があるんだよね?
まさか、それもなくてここに来たワケじゃないだろ」

「……ええ、あるわ」

 そう、ラピズの伝手は剣術大会だったが……
ヴィオラの伝手はリモネの紹介だった。

 というのも。
王太子妃の侍女長であった立場や、その時の働きぶりやその人柄から人望が厚く。
リモネの頼みならと、力になってくれる者が
いるからだ。
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