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王太子の心情1

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 視察を終えてからのサイフォスは、ヴィオラの事が頭から離れず。
出会った日の事を思い返しては……
掃除も、そのご褒美の時間も、ボール蹴りも、どれもこの上なく楽しかったと。
あれほど楽しい日は他にないと、思いを馳せていた。

 そしてその度に、ヴィオラへの想いを募らせ……
ついには、もう限界だと。
これが好きという気持ちなのだと、自覚に至り。
あの時身を挺して守ってくれたヴィオラを、今度は自分が生涯をかけて守りたいと。
俺が必ず幸せにしてみせると、求婚に向けて奔走したのだった。


 それゆえ結婚式では、やっとこの日を迎えられたと。
嬉しすぎてニヤけずにはいられない顔を、必死に引き締めていたため。
いつも以上に冷淡で素っ気ない、態度と表情になってしまったという訳だった。

 そのうえ初夜では……

「何の御用でしょう?」

 思わぬ言葉で、そう冷たく出迎るヴィオラに面食らって。
尚且つ、今まで厳しい物言いしかしてこなかったため。

「初夜だというのに、愚問だな」
咄嗟にそう答えてしまい。

ーーなんて言い方をしてるんだ!
と、内心焦る羽目になっていた。

 さらには……

「愛してもない男に抱かれるなんて、考えただけで吐き気がします。
まずは、私を惚れさせるのが先ではありませんか?」

 その言葉で、今更のように現状を気付かされたのだった。

 そう、求婚を受け入れてくれたからといって、惚れてくれた訳ではないのだと。
そもそもヴィオラからすれば、好きになる要素どころか、面識すらない相手でしかないのだと。

 しかもそんな相手と知らない内に関わっていて、挙句一目惚れされたとなれば、気持ち悪く感じるに違いないと。

 それなのに……
初めての恋と結婚出来る事に浮かれすぎて、そんな当たり前な事も考えず。
その気になっていた自分が、あまりにも恥ずかしくて。
ヴィオラに申し訳なくて、いたたまれなくて、早々に立ち去ったのだった。


 とはいえ、それなら惚れてもらうしかないと。
サイフォスはひたすら頑張り続けた。
たとえどれだけ傷付いても、諦める気など微塵もなかった。

 何しろ、悍ましいと思っている相手を振り向かせるのだから。
一筋縄ではいかないに決まっていると思っていたからだ。

 何より。
自らの強い意思で、揺るぎない想いで。
生涯守り抜くと、必ず幸せにすると決めたのだから。
途中で投げ出す訳がなかった。

 またその、やってみなければ分からないという、不屈の精神も手伝って。
何があろうとも、全うするつもりでいたのだ。

 そしてその原動力となっていたものは、ヴィオラの笑顔で……
サイフォスは、出会った日の愛らしい癒しの笑顔が、ずっと忘れられず。
また見たいと。
ひいてはヴィオラを、笑顔になるような気持ちにさせたいと思っており。
そのためならいくらでも頑張れたのだった。

 とはいえ、実際は……
笑顔にさせるどころか、悪妃と評される行いばかりさせてしまい。
本当は誰よりも心優しい妃が、どんどん悪く思われていく事に、酷く心を痛めていた。





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