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出会い1

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 その頃、王宮では……

「ううっ、寒い日の床拭きは堪えるわね」

「そうね。
でもこれより冷たい水で、王太子妃だった人が床拭きしてたんだもの。
泣き言は言ってられないわ」

「ちょっと!
廃妃の話をしたら処刑されるわよっ?」

「いけないっ、つい……
でもどうして、その話をそこまで禁じてるのかしら?」

「さぁね。
微塵も思い出したくない、黒歴史だからじゃない?
とにかく、この話はやめましょう?」

 王妃部屋の下女たちが、そんなやり取りをしているように……
ヴィオラの話は御法度とされ、バレれば処刑される事になっていた。

 そしてその憶測も、あながち間違いではなく……
サイフォスはヴィオラの事を思い出さないように、あれこれと立ち回っていた。

 というのも離婚の一件で、サイフォスも酷く心を痛めていたからだ。

 そう、ヴィオラの推測通り。
離婚の原因は、専用庭園での説得内容を聞かれたからだが……
聞いていたのは第三者ではなく、なんとサイフォス本人だったのだ。

 先述の通り専用庭園は、ヴィオラの許可がなければ誰も立ち入れない。
だからこそ、そこでラピズを説得したのだが……
その庭園を用意した、サイフォスは例外に違いなく。
実は「俺も、今日は予定がある」と言っていた、サイフォスの予定とは……
専用庭園にパビリオンを増設するための、打ち合わせだったのだ。

 そして打ち合わせを終え、浮上した改善点に思考を巡らせていたわけだが……
ヴィオラにはサプライズをしようと、秘密裏に事を進めていたため。
突然の本人の来訪に、咄嗟に身を潜めてしまったのだった。

 しかし。
~「殿下はそうやって、いつも私の周りをコソコソと嗅ぎ回っているのですか?」
「必要とあらば。
だがプライベートな事には介入してない」
「だとしても、不愉快極まりないです。
はっきり言って、気持ち悪いです!」~

 そのやり取り以来。
そういったヴィオラを不快にさせるような行為を控えていたサイフォスは、すぐさま立ち去ろうとしたのだが……
朝方の、ランド・スピアーズの凄まじい殺気や。
それ見て青ざめていたヴィオラを、怪訝に思っていたため。
思わず、その足を止めてしまったのだ。

 そして耳に飛び込んできた、護衛騎士としてあるまじき発言に耳を疑い。
続いたやり取りに、こいつらまさか!と浮気を疑ってすぐ。

「決して殿下を好きになったわけじゃない!」
愛する人のその言葉に、ズクリと胸を貫かれたのだった。

 それから、2人が結婚前からの関係だとわかる内容や、離婚に漕ぎつけるために悪妃に扮していた事などが判明し。
サイフォスはさらに胸を、矢継ぎ早に突き刺され……

「シュトラント家の立場を挽回しなきゃいけないのっ。
そのために、好きでもない人に抱かれるしかなかったの!」
その言葉にトドメを刺され、心を激しく抉られていたのだ。

 その上。

「私たちが一緒に生きられる未来は、もうないの」と、辛そうに告げる涙声を耳にして……
恋仲を引き裂いて、ヴィオラを苦しめていたのは自分だったのだと。
どんなに愛していても、ヴィオラにとって邪魔な存在でしかないのだと。
目頭が激痛を帯びるほど熱くなり、完膚なきまでに打ちのめされたのだった。



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