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その後4

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「……そうだな。
確かに今となっては、そんな事しなくて良かったと思ってるよ。
だからって!
愛し合った恋人を、家族も同然だったこの俺を、騙して平気だったのかっ!?」

「平気なわけないじゃない!
だけど、騙した事は本当にごめんなさいっ……」

 深々と頭を下げるヴィオラに、何も言えなくなるラピズ。

 しかし、暫しの沈黙の後。
その胸の内が、痛切に吐露される。

「俺だって同じだよ……
ヴィオラが他の男と結婚したって、一緒に生きられる未来がなくたって、ヴィオラへの愛は一生変わらない。
けどヴィオラは、本当に変わらないって言えるのかっ?」

「どういう、事?」

「殿下が再婚しても愛してるって、それがどんなに辛いかわかんないだろっ。
俺は身をもって体験してるからよく分かる。
けどそれを、分かってもないくせに言い切れないだろ!」

 そう言われて、ヴィオラはハッとさせられる。

「……確かに、そうね。
けど私の心にはもう、サイフォス様しかいないのっ。
逆にラピズなら、このどうしようもない気持ちも分かるでしょうっ?」

「……っ分かるよ。
分かるけどっ……
じゃあ俺たちが過ごした、これまでの長い時間はなんだったんだよっ!」

 そう言ってポロリと涙を流すラピズに、ヴィオラは胸を抉られて。

「っっ、ごめんなさい……」
途轍もない罪悪感に苛まれると同時。

 その長い時間が、脳裏に呼び起こされていく……

 母を亡くして悲しんでいたヴィオラに、「これからは僕が守るから」と言って、騎士になる事を誓ってくれた事。
そのためにくる日もくる日も厳しい鍛錬に耐え、必死に頑張ってくれた事。
その姿がとても素敵で、いつも励まされていた事。
どんな時でも安心して信頼出来る、拠り所になってくれていた事。
そして、戯れ合って笑い合っていた日々の事。

 そんなこれまでの事が、次々と駆け巡り……

ーーなのに私が、別れた後とはいえ心変わりしてしまったからっ……

 申し訳なくて堪らない気持ちと、様々な思いが込み上げて。
ヴィオラも涙が、次から次へと溢れ出す。

「……ラピズには本当に、感謝してもしきれないと思ってる。
だから私に出来る事なら、なんだってしてあげたいと思ってるし。
これからもずっと、愛してる。
だけどごめんなさいっ……
もう一緒に生きる事は、どうしても出来ないのっ」

 身を切る思いで、涙ながらに訴えると。
ラピズはもう、ううっと泣き崩れる事しか出来ず……

 そうして2人の関係は、本当の意味で終わりを迎えたのだった。



 それによりヴィオラは、サイフォスとの関わりも終わりにするしかないと。
つまりは思い付いた償いも、伝説魔法による詐称潜入も、諦めざるを得ないという結論に至っていた。

 というのも……
ラピズをこれ以上傷付けたくなくて、ニケの居場所を尋ねる事が出来なかっため。
実行が不可能に近かった事もさることながら。

 たとえ居場所を教わったとしても……
償いや守りたい気持ちも、会いたさやそばに居たい気持ちも、結局はラピズ同様に独りよがりでしかないと気付かされたからだ。

 さらには、サイフォスの今の恋人に失礼である上に。
~「殿下が再婚しても愛してるって、それがどんなに辛いかわかんないだろっ」~
その言葉通り。
2人の仲睦まじい姿を見続けるのは、とても耐えられそうにないと気付かされたからでもあった。

 そうやってヴィオラは、浅はかな自分を自粛しつつも。
サイフォスを想い慕う気持ちだけは、終わりにするどころか募るばかりで……
今にも心が、破裂してしまいそうだった。



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